ハッピーバースデー花陽!

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小泉花陽生誕祭2019

「花陽、お誕生日おめでと」

「う、うん。ありがとう、真姫ちゃん」

西木野家の玄関で、花陽は述べられた祝辞に若干戸惑いながら礼を返した。

「悪かったわね、こんな時間に急に呼び出して」

「それは気にしてないんだけど……本当にどうしたの?」

時刻は午前九時過ぎ。極端に早い時間という訳でもないが、待ち合わせに適した時間かと問われればそうではないだろう。

「とりあえず上がって」

「う、うん、お邪魔します」

ちなみに“一人で”と念を押されたので、幼馴染のにゃんこには何も伝えていない。

花陽は靴を脱ぐと、下駄箱から自分用のスリッパを取り出し履き替える。

こうしてここに来るのも何回目だろうか。生徒手帳を届けに初めて訪れた頃が、もう何年も昔のようだ。

「何それ、まだ一年も経ってないわよ。一人だけおばあちゃんになる気?」

真姫は呆れたような笑顔を見せると、自室へ案内する。

「さ、入って」

「うん」

促されて部屋へ入った花陽は、中の様子を見て思わず足を止めた。

「な、何これ⁉︎」

部屋の中には、大小様々な箱が積まれていた。その数、軽く二桁。

「真姫ちゃん、これ、どうしたの……?」

「プレゼントよ。あなたへの」

なんの気もなしに放たれた言葉に、花陽は呆然と山積みの箱を眺める。

ラッピングはされていないので中身が丸わかりなのだが、それ故にそれぞれ一つ一つの価値も分かってしまう。

花陽は一番手前に置かれていた小さな箱を、若干震える手で持ち上げる。

「こ、これ、ブランド物の化粧水だよね……? 雑誌とかでよく見る……凄く高いって……」

「そうね」

「あ、こっちのコート、この前ファッション雑誌で見たのと同じ……?」

「そうよ」

「こ、これは見るからに高そうな腕時計……」

「高いわよ」

総額を脳内で計算し混乱する花陽に対し、真姫は至って冷静。

「さ、好きなの選んで。幾つでもいいから」

「ええぇっ⁉︎ そ、そんな無理だよぉ〜!」

「どうしてよ」

「だ、だってこんな高価な物……使った事ないし……」

「じゃあちょうどいい機会じゃないの。ほら、早く選びなさいよ。選ばなかったのは私が使うから」

急かしてくる真姫。

「……何だか、真姫ちゃんっぽくないね」

「ヴェ……」

「…………?」

あまり深い意味はなく呟いた言葉だったのだが、真姫は一瞬見るからに狼狽する。

「な、何が変なのよ。いつもの私でしょ」

「うーん、確かに真姫ちゃんちはお金持ちだしμ'sの活動もそこに助けられた事もあるけど……。今の真姫ちゃんは、お金で全部解決する人じゃないと思ったんだけどなぁ」

「うっ……。べ、別にいつもの私よ! 何も変わらないわよ!」

腕を組んでそっぽを向く真姫。

分かりやすいなぁ、と花陽は少し苦笑い。

「……私の取り柄なんて、これくらいしかないじゃない」

「真姫ちゃん?」

少し俯いた真姫の目元は見えない。

「……私だけが花陽にできる事なんて、これくらいしか無かったのよ!」

吐き捨てるような、大声。

「花陽に喜んで欲しくて、私だけが贈れるプレゼントは何かって考えて、でも全然思いつかなくて! だって仕方ないじゃない! 分からないんだもの!」

「真姫ちゃん……」

「っ…………ごめん」

ハッと我に返った真姫は、俯いて謝罪。モゴモゴと口元を動かす。

「……今まで、友達らしい友達なんていなかったのよ……」

真姫が黙ると、部屋には静寂が訪れる。

突然の大声に呆気に取られていた花陽は、

「──あーあ〜あ〜あーあ〜〜〜」

目を閉じて、発声練習のように声を出す。

「花陽……?」

少し潤んだ瞳。その目を、花陽は優しく見つめ返す。

「私がμ'sに入りたくて、でも勇気を出せないでいた時、真姫ちゃんこうやって励ましてくれたよね」

凄く嬉しかった。

花陽は優しく微笑む。

「私、真姫ちゃんの曲好きだな」

「え……?」

「真姫ちゃんが作る曲。真姫ちゃんが歌う曲。私、それを聴くのが大好きなの」

「…………」

「さっき真姫ちゃんは『自分には何も取り柄なんて無い』って言ってたけど、そんな事ないよ」

ゆっくり歩み寄ると、花陽は真姫の手を両手で包み込む。

「μ'sの曲を作ってくれてるのは真姫ちゃんだし、私はμ'sの曲が大好き。それに──」

花陽は、背後のプレゼントの山に視線を送る。

「このプレゼントだって、私の為に一所懸命考えて用意してくれたんでしょ? その気持ちだけでとっても嬉しい」

「花陽……」

「真姫ちゃんは、真姫ちゃんにしか無い大切な想いを持ってるんだよ。だから、あんまり悲しい事言わないで? ね?」

数秒固まった真姫は、大きく息を吐いた。

「……ありがと、花陽。気持ちが楽になった」

「それなら良かった〜」

ほわん、と笑った花陽。すると真姫は、

「……ねぇ、ちょっといい?」

躊躇いがちに声をかける。

「……その、実は花陽の為に作曲をしたの」

「えっ⁉︎ そうだったの⁉︎」

「で、でも結局纏まらなくて、完成できなくて……それで混乱して慌てて、こんな事に……」

チラリと山積みの箱に目をやる真姫。その光景を想像できてしまい、花陽は再び苦笑。

「それで……もし良かったら、聴いてくれない? 未完成だけど……」

遠慮がちな真姫の提案に、

「聴くっ!」

花陽は即答した。

パッと明るくなる真姫の表情。

「えへへ、真姫ちゃんの曲、楽しみだなぁ」

「未完成だし、そんな期待しないでよ?」

ピアノへと向かいながら、真姫も楽しそうな笑顔を作る。

「気持ちを贈るプレゼント、か……」

「? 真姫ちゃん、何か言った?」

「おめでとうって言ったのよ。花陽、お誕生日おめでとう。あなたと出会えて良かったわ」

鍵盤に手を触れる真姫。そして奏でられるメロディーは、とても未完成とは思えないほど滑らかなものだった。

「うんっ、私もだよ! 真姫ちゃん」


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