THE NOT SIGNALS −Segregated world−   作:穏詠 桜太

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構想に3年近くかかった(現在進行形)幻想入り小説です。
主に人間ドラマを重点に描写していますので、バトルとかの要素は希薄です。

【注意事項】
・こんなタイトルでもれっきとした東方Projectの二次創作です。
・一部のシーンに暴力的、差別的なシーンや発言が含まれます。
・この世界設定の8割が独自設定で含まれています。
・スペルカード、弾幕ごっこ等の原作の要素は含まれていません。
・原作の雰囲気が壊れるのが嫌な方はブラウザバックをしてください。

上記の注意事項を理解した上でお楽しみください。

質問やご感想などもコメント欄でお待ちしております。


#0 月も見えぬ丑の刻

――目が覚めた。

 

その第一に網膜に刻まれた風景は、今は自分がいた場所すべてが、

いや――そのすべてが消し去られたとも言ってもかなわない。地を見れば

瓦礫が、山を見れば褐色が、天を見れば鬱憤な感情を促す負を生む雲が――

 

与えられたのは喪失だった。

 

今まで家族と過ごし、その15年間を過ごした家が消え――

今まで友人と過ごし、その9年間を過ごした場が消え――

今まで過ごしてきた、村が――

記憶にあったはずのものすべてが濃霧の中に溶ける。

虚無(そら)と黒い雨で。幼き頃のあの日だった。

歩くことすら酷く重荷で、虫の音ほどもない息が限界であった。

 

「――あっ」

 

また瓦礫に足をすくわれた。

と誰もいないこの地で――確かにそう聞こえた気がしてきたのも、

黒い雨でずぶぬれになったが、この時の阿須羽にはどうでもよかったのだ。

 

「――向日葵、大丈夫かな...」

 

暗い霧の中から少女の声が聞こえる。

そこら辺を見ても向日葵の花弁――声主はいなかった。

 

 

 

彼女は――枯れた向日葵を握りしめている。

 

彼女は――古い大幣を握りしめている。

 

彼女は――壊れた人形を抱いていた。

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

「あの~お客様・・・」

 

物が叩かれる音が聞こえてくることで阿須羽は覚醒した。どうやらさっきまで

見ていたのは――幻だったようだ。しかし、あの夢はとても現実なものだった。

「彼女」は確か最後に・・・

 

「長時間お店に入らず駐車場に長居されますと他のお客様に迷惑がかかりますよ。

それに、ずっと窓を開けっぱなしにしてる。これじゃあ、あなたが寝ている間に

 盗人が来ちゃうし。あなた自身を守るために、注意してますからね」

 

気が付けば車内にいた。モニターに映る時刻はちょうど5時を示している。

最期に起きた時間は2時間前ほどか否か――

しかし、申し訳ながらに起きたばっかりだ。後ろの二人も熟睡してる。

二人の気分も損ねないよう慎重に店員の旨をもう一度聞くことにした。

なんにせよ、聞いていなかっただけである。

 

「あ~なんの話か長いからもいちど」

「ですからここに長居しているのは迷惑で――」

「「うるせぇ!ビールぶっかけたられてぇのか!?」」

 

後ろで熟睡していたはずの二人が目を覚ました。片手には泡もとっくに溶けた

缶ビールを今そこに向けて発射体制に備えているところだ。

とっさな自己紹介になるが、後ろで怒号を散らした『真崎 功』『森谷 啓之』

の二人は阿須羽と同じ大学の講義で知り合った仲だ。片方の啓之は高校から

知り合い、弓道部の打ち上げで啓之が友人である功を紹介して今に至っている。

しかし、少しでも泥酔すると、今さっきのように手の焼ける世話になるのだ。

 

「おい、いきなり起きてそれはないぞ!」

「俺を一文無しと呼びてぇのか!?」

缶ビールを持つ功は伸ばした手に掴まれながら、じたばたする。

ながらに何故彼らにそれを買い与えたのが頭になかった。

 

――小1時間経過して、二人を治めて目的地へと向かう。

落ち着かせたところでやっと阿須羽は思い出した。

 

 

あの夢で見た幼き日に見た、壊された『居場所』――。

誰かに、いや正しくは――誘われたのだ。

 

 

今は―――――そこに。

 

 

「おい、山奥に入ってなんする気だ?」

「肝試しだよ。」

「肝試しだって?ふつう夏にやるものだよなぁ?」

「別にいいだろ?勝手だし」

 

これが最後の会話になるかもしれなかった。ここ数年の間でも、周辺で軽い土砂崩れが

何回か起きているからだ。そんな命の保証がつかないことを、

友人に付きまとわせるわけにはいかない。だから阿須羽は嘘をついたのである。

――阿須羽の考えはこうだ。

 

その1―――例の山奥に途中まで二人を連れ、目的地が近くなったところで

二人と別れる。しかし、どう撒けばいいのかが問題だ。思いつかない。

 

その2―――何かが追ってきていると言い訳をし、先を急ぐ。しかし彼らは

そう『何か』に対し信憑性を持つのか?

 

その3―――彼らが車から降りた際、携帯した拳銃で二人を殺害する――。

ありえない、確かに二人は山奥に入った地点で用済みだ。しかしそれだけで

わざわざ殺める需要はないだろう。

 

提案が煮つまらない中、目的地にたどり着いた。

 

阿須羽は助手席に置いてあるショルダーバッグから静々と拳銃を取り出し、

ばらまかれていた弾丸を掴み、ポケットに入れる。弾は確認する余裕がない。

彼らはすでに車外にいる。さて、どう始末するのか――

 

 

瞬間、頭痛と耳鳴りが同時に襲われた。それは一瞬に過ぎない。しかし、彼の底から何かが

這いあがる感覚が痺れるように伝わってきた。

そしてどこかから声が

 

 

阿須羽は3発の鉛玉を詰める。

この引き金を指に入れれば――――確実に。

 

「アスのやつ、俺を置いて5分たったぞ」

「そうせっかちせぇへ―――」

 

乾いた銃声が、耳を刺激した瞬間

 

彼に一発頭に撃ち込んだのだ―――。

 

即死だった。

 

「!?――功!」

 

啓之が倒れる功をかばう瞬間。

 

背中に残り2発―――。

 

 

 

答えは3だ。

 

 

■■■■

 

 

月がいつもと比べて大きかった。まるで手に届きそうなくらいに大きかった。

それと比較して、2人の亡骸はとても小さく見える。

彼らをこの場に入れようとも足枷になるばかりであったことを理解する。

しかし、何故殺したのかは自覚はしなかった。

 

目的はただ一つ―――自分の『居場所』を探すためである。

 

そこは『角惣村』という地図からすでに消えた村である。

『阿須羽』の故郷である。幼き日々、あの姿を見たかったのである。

彼はその荒廃した村を踏み入れた。

 

「........っ」

 

木の葉のせせらぎが耳をくすぐる。目の前には錆で色が映えないバリケードが一直線に並んでいる。

あの災いから永き年月が経とうとし、人々からも忘れ去られ、それを語る者もただ一人―――。

あの孤独を、彼―――阿須羽 誠は内心想う。

夜明けまでは、まだ遠い。

あの日から長く閉ざされ、形を留めない家屋。深緑が蔓延するこの場に男が一人。

『彼女』に誘われたのには、目的があった。

 

 

――そこから左に、『居場所』へと続く門が開く。

 

 

見えなき声に導きを示され、『彼女』の思うがままのように動く。

阿須羽はその声に否定はしなかった。まして、肯定などしなかった。

声には聞きなじみがある。だが正体がつかめない。

彼は『彼女』の言う通りに左へとその門と呼ばれる場所へと向かう。

門と呼ばれる場所へとたどり着いた。その奥は半分に埋もれた石だった。

その石はまるで小心者が原石を刻んだかのようなダイアモンドのような形をしており、

ほどけたしめ縄に縛られている。

『彼女』は彼に対し訊いた。

 

 

――それは『要石』。それに触れることであなたの『居場所』への門が開く。

 

手を触れる。冷たい感触だった。彼が経験したそれは――この世界では最後となった。

 

 


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