THE NOT SIGNALS −Segregated world− 作:穏詠 桜太
「あ――――圏外だって?」
斎賀は携帯が繋がらないことに恐れを感じた。しかし、少し落ち着いて考えてみると、
ここは山の中だ。繋がらないことだってあるということを思い出す。以前から旅行で山に行くとき、
父親が携帯が繋がらないことに苛立っていたことがあった。確かにそうかもしれない。
この事を照らし合わせると、辻褄が合ってきた。そうしたら彼の緊迫した気分は落ち着いていった。
「落ち着こう、上田。多分繋がらないのは今のうちだと」
声を震えながらそう、胸を撫で下ろそうとさせるも、上田は助からないということに恐怖を覚えていた。
顔色が薄くなっている。今は精神が不安定な状態でいる。
斎賀はいつの間にか木にもたれかかっている彼を抱え、森を進んだ。
――――彼らが出会った場所からある程度離れていったくらいの場所で、進展があった。
数分経つと、あれまで木々が生い茂って、太陽の光が木漏れ日になっていたが、徐々に
太陽の光を遮る障害物が減っていった。朝の光は、さっきよりも光の量が多くなり始めていた。
ポキポキ、メキメキと小枝が二人によって踏み折られていく音も少しずつなくなった。
それからどんどん木々が目に入ることが少なくなり、二人は中央が野原の緑の草以外、
何もないところへとたどり着いた。今まで暗所に籠ってたせいで、瞳が慣れておらず、
彼らにとっては眩いものだ。しかし朝に起きる時と比べれば、すぐに朝の光に慣れるのは難しい。
今日に限っては、お互い慣れるのが比較的早かった。普通ならよく親に起こされて色々と促されるよう
準備などをするが、今回の場合ではそれは例外だった――――。
「――――すぅ............はぁ......」
上田は、斎賀に抱擁されながら野原にたどり着くと、深呼吸を一度した。
そうしたら、不安定な状態から抜け出すことはできた。
「大丈夫か?落ち着いた?」
「大丈夫――――」
「もう一度、かけるか――――」
そう言って、もう一度同じように「119」と掛けなおした。だが――――結果は同じで、
変わりはしなかった。彼らは一度助からないという絶望感に陥っていたが、
半ば立ち直ろうと少し提案した。まわりを見渡すと、何もない野原が見えた。
上田は、この景色に何かを思い浮かべたように、「んっ...」と何かをひらめいたかのような表情で、
目を見開いた。
「昇、こっちについてきて。木の棒を集めるから手伝って欲しい」
上田はさっきの道に戻り、歩んだ道の側にあった朽ちた樹木に立ち止まってから座り込んだ。そしたら、
地面に落ちている、およそ腕一本程の長さの枝を集め始めた。樹木のまわりを行き来しながら、
片手で集めた枝をもう片方の腕で抱えてその場から離れて、彼の行動に目を向けていた斎賀の
所へと向かい、
「多分これだと足りない。もう少し長いやつとか、そういうやつを持ってきて。あれに使うからさ」
「待ってくれ。何に使うって」
「あとで」
何に使うかをすぐ伝えず、上田は斎賀の質問を保留して、来た道を戻っていった。
斎賀は、彼に言われた『もう少し長いやつ』を探しに行きに、彼が枝を集めていた場所から少し
遠い所から探しに行った――――
元々、その場所から見える程度の遠さで十分だったが、どうしてもそこは理想の枝が見つからないので、
もっと遠くの場所から探すことになった。彼自身もあまり遠すぎると道にはぐれ、
上田に余計な心配をかけると躊躇していたが、最終的に森を抜けた道の側にある大きな樹木で
枝を集めることにした。これなら野原への道にすぐ入れて、まっすぐ行けばいいので、
迷う可能性はないだろう。
――――それから15分くらい経過した。ここ一帯の森林でもある程度大きいというのに、地面に
落ちている枝は多くみられなかった。斎賀は「足りないが、これといった所か」と一言つぶやいて、
10本くらいはあるであろう身の丈より少し短い枝を、両手で抱えて、野原につながる道に
向かおうとした時、彼の視界の隅に違和感のある黒い影が映った――――。
黒い影の方に振り向くと、やはりそれはいた。全身が覆いかぶさるほどのローブを身に包んでおり、
誰から見れば、見事に大きな影が出来上がっている。木漏れ日からわずかに見える光に頼って、
影であまり見えないが、顔が見えた。しかし、足から頭まで覆いかぶさっているものだから、
その表情は見ることができない。お互い初めて、はたまた偶然的にあってしまったため、
一直線に目を合わせているが、石像のように動けない。
なにせ真っ黒なローブの人間と思わしきものが目の前にいるものだから、こんな格好で
出歩いているのは斎賀にとっては不自然なものだ。
――――すると、その影は斎賀の方へと歩み寄り、胸から首に――――顔を近づけて鼻を鳴らした。
「く...ろふく......だぁ――――」
十分なほどに匂いを嗅がされた後、堪能したのか一歩彼のもとを離れて笑いを堪えるように言った。
その『くろふく』が何を示しているのかは当然わかってる。みんなそれを着ているのだから――――。
■■■■
「遅かったじゃん。見失ってから帰ってくるまで17分30秒ほど。そこまで時間かかったっていうわけ?」
「あのさ、気分損ねたかもしれないから、そこは悪い。枝は見つけたのはいいけど、ちと
帰りになんか変態じみた奴いたわ」
「どういう奴さ」
さっそく帰りに上田にお叱りの言葉をかまされた。探し出すのにどれくらいかかったと思ったのだろうか。
これだから上田のような隠れせっかちは嫌いだ。だが、問題は枝を拾い集めた時間だけではない。
あの影が本当に言いたい問題だ。薄汚い体験をしたならこの思い出をぶちまけてやりたいものだ。
「......えっと、黒いコートを着ているやつだ。帰りに目が合って、そしたら俺の方に近寄ってきたんだ。
そしたらめちゃくちゃに匂いを嗅がされてさ、『くろふく』だとか言ってきた。やなかんじ」
「――――とんだ変態に会ったか......昇、こういうのは無視するか逃げたほうがいいかもしれない。
関わらない方がいい」
斎賀の口からの情報から異常性を感じ、上田は警鐘を鳴らした。
その後、それぞれ持ってきた大小異なる木の枝で野原めいっぱいに『SOS』の文字を
斎賀ははじめ、理解しないまま上田の指示に従っただけだったが、木の枝で並んだ『S』の文字が見えてきた
所でようやく彼の目的が理解出来た。
「サバイバル番組とか、ドキュメンタリーで見たことある。無人島についたら、これを作るって――――」
「......ふーん」
「これなら空から見ているとならば助かるかもしれないからな。これだけでも助かる確率はぐんと上がる」
「だけど待つのにも時間がかかると思う。その間、ここで休んでいこう。これから体力
を溜め説いた後から少しでも楽になるからさ」
「じゃあ俺先に寝とくわ。ヘリの音が目覚まし代わりになるだろうしね」
上田は先に野原に寝転がって、目を閉じた。それと共に斎賀も便乗して同じように寝転がり、目を閉じた――――。
――――彼らはその真理を一体化させ、一つになろうとしている。
――――彼らはその真理を偶像化させ、新たな器を探している。
――――彼らはその真理を調和させ、団結せんとする。
――――それを確立することで、また、その真理は蘇るのだ。