終わった噺の祈るひと   作:唯のかえる

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第2話

 仮面をかぶった怪しい男。

 オーロベルディを名乗った男が楽しそうに酒を飲んでいる。

 プレイアはその前に縮こまって座っていた。

 これはアクロニア平原にある学校に行く前日。プレイアが妙な夢を見た気がした日の事だ。この日は普段と違ったことがいくつか起こった。夢もそうだし、そして今の状況もそうだ。

 

「なんでこんなところに……」

「こんなところで悪かったなぁガキ。ほら、テメーはジュースでも飲んでな」

 

 ジロリと、視線を向けてくるのは青い傭兵服に身を包んだ大男。この酒場の主だ。

 

「ひえっ! ……あ、ありがとうございます」

「オイ待てい、小僧の分は頼んでないじゃァないか。てか支払い俺様になるよな?」

「なんか話すんだろ? テメーだけ飲んでるのは可哀そうだろ」

「ハハハ! それもそうだな! それに俺様は今気分が最高に良い、おごってやるぜ小僧」

「は、はい……」

 

 どうしてこうなったんだろう。

 途方に暮れながら、プレイアはここに()()()()()()様子を思い出すのだった。

 

 

 ◇

 

 

「今日は討伐クエスト受けたけど、上手くいかなかったな……」

 

 フィリップの酒屋さんで珍しく討伐クエストをなんとなく受けたプレイア。胸のうちに妙な焦りをもっていたので勢いで踏み出したのだ。

 結果は惨敗。

 いや、惨敗というより不戦勝というべきか。

 プレイアが受けたのはプルル討伐。ゲームで言うところの、初心者が一番最初に倒すだろう雑魚モンスターと言ったところだろう。それを数体倒すだけのクエストだったのだが……。

 

「あの不思議そうにこちらを見る目で近寄られるとなにも出来なかったなぁ」

 

 青いゼリーのような丸を二つ合わせた体を持つソイツはぽてぽてと跳ねるように近づいてきて『どしたのー?』といわんばかりにつぶらな瞳でこちらを見つめてくるのだ。ヴッ! っと変な声をあげて下がると周辺の数匹も『なんだなんだー?』と集まって視線の暴力にさらされる始末。

 プレイアはたじたじになって撤退してしまった。

 こんなんじゃだめだよなぁどうしようかなぁ、と考えながらダウンタウンを散策しているのだった。

 

「うーん、逆に恐ろしい顔で襲い掛かってくるモンスターだったらどうなんだろう」

 

 逆に恐ろしいモンスターだったら自分は立ち向かえるのだろうか。プレイアはなんとなくそう思って想像する。真っ先に思い浮かぶのは二足歩行のモンスター。キラービーの巣穴の道中にはゲームだと一匹だけベアと呼ばれる強い次のマップのモンスターが配置されていたし、一番に思い付いたのだろう。昔のアニメPVでエミル君にものすごい速度で襲い掛かっていたのを思い出してしまった。あんな速度で襲ってくるんだろうか……。

 ブルリと足がすくんでしまった。

 

「はぁ、だめだめだなぁ。何とかしないと……って、ここどこだっけ」

 

 ダメみたいだ。がっくりと頭を落として落ち込んだ。

 そして今いる場所が普段歩かないダウンタウンの歓楽街部分にいることに気が付いた。昼だからまだ少ないが、店先で飲んだくれている大人とかの姿もちらほら見える。

 朝からダウンタウンの喧騒に何故か安心感を覚える。

 ふと脳裏によぎるのは、シンとした静寂に包まれるダウンタウンの姿。ゾワッと鳥肌がたった。なんだか、人の多い所に行くと安心するので考え事をしながら人の多い所に行っていた様子だ。

 

「やっぱり今日は変だ。なんでだろう、胸が妙にざわつく」 

「おい小僧。人の前に立って何をぶつぶつ喋っているのだ」

「えっ?」

「ようやく俺様に気がついたか」

「あ、わっ」

「見たところ、冒険始めたばかりだろうガキンチョ~。まだまだこの場所は早いんじゃァないか?」

 

()()()()()()目の前に黄色いフードを被って仮面をつけた怪しい男が目の前に立っていた。

 仮面の奥から金色に光る眼が不気味にこちらを見ている。

 

「ご、ごめんなさい。すぐはなれま「まァ早いは言いすぎか! よぉし小僧俺様が案内してやろう! ハハハ、喜べ今の俺様は気分がいい!」うわ、酒臭いっ!?」

 

 ガシッ! と肩を掴まれ、怪しげな男に脇に抱え込まれる。その瞬間強烈な酒気に包まれる。この人めちゃくちゃ酔ってるのか!? プレイアはそんな人間に連れていかれそうになっている事実に今気がついた。

 

「うわぁ! 離してください!」

「そうかそうか、そんなにおしゃべりしてほしいか! よーし俺様がだーい好きな店に連れて行って武勇伝を聞かせてやろうじゃァないか!」

「違うぅ!! 話すじゃなくて、離すだってば、この酔っ払い何とかして!! 誰かー!!」

「酔っ払いィ? ぜんっぜんっ、俺様酔ってなァーい! ガハハ、俺様の名前はオーロベルディ! 偉大なるオベさんと敬意をもって呼ぶが良い!」

 

 大声で名乗りまで上げ、人攫いと言うにはあまりに堂々とした姿勢。周囲の眼もああ、酔っ払いの強い冒険者につかまったかわいそうな新米冒険者なんだなぁと周囲の人間は絡まれたくなさそうに目をそらして哀れんでいる。

 ハーッハッハ!! 高笑いを繰り返しながらオーロベルディと名乗った男は千鳥足でプレイアを小脇に抱えながら人気の少ない路地に連れ込んでいく。プレイアはがむしゃらに暴れるが、まるで鋼で拘束されているような気分を味わう。この酔っぱらった様子の男、足取りはフラフラしているのに全然拘束をほどけないのだ。

 そして、人気のない道でプレイアは突然オーロベルディに抱えているのとは逆側の手で口を掴まれ喋れないようにされる。プレイアはようやくここで本格的に危機を感じる。

 だが、そこからは暴れる暇も力もなかった。

 

「ハハハ……ここならいいか。うるせぇから寝てろ」

「むぐー!!! グッ……」

「安心しておけ。俺様は悪い奴じゃァない。着いたら起こしてやるよハハハ……」

 

 唐突に酔いがさめた様をみせる邪悪そうな笑みを浮かべたオーロベルディに、プレイアはドスンと顎に膝を叩きつけられたのだ。目の前にチカチカと星が回る感覚。ゲーム内でのスタンと言うバッドステータスを受けたプレイアは、抵抗も出来ずに意識を失った。

 

 

 ◇

 

 

 暗転していたプレイアの口の中にドロリと何かが流れ込んでくる。

 強烈な苦みと鼻を突き抜けてくる強烈な臭気にプレイアは打ち上げられた魚のようにビクンと体を跳ね起こした。

 

「うっげぇ、まっ、まっず!!」

 

 喉を抑えて、舌を全開に出して口に入ってきた異物を外に吐き出す。

 それは緑色の液体だった。そして、目の前にはニヤニヤ笑いのオーロベルディ。

 

「よし小僧、気がついたな」

「なにを、のませたんですか……ゲホッ」

「なーに、どんな状態異常も解決する体に良い飲み物さ」

「これがまるち、こんでぃしょん……? マズすぎない……?」

 

 マルチコンディション。ゲームでどんな状態異常も一瞬で回復させるアイテム。気絶回復一発、ゲームで愛用していた薬のまずさに戦慄するプレイア。あまりの衝撃に、攫われたことがポロリと一瞬だけだが吹き飛ぶほどだ。

 

「もっとやばいのもあるぞ。リザレクションポーションとかマズすぎて確実に意識回復するからなァ!」

 

 でも体にはいいんだよなー。不思議不思議ハハハ! バンバンと吐くためにうつぶせになったプレイアの背中が叩かれる。

 ここでようやく涙目になりながら、周囲を見回す。連れてこられかたはともかく、どうやら本当に酒場に運ばれてきたようだ。

 周囲には、オーロベルディに負けず劣らずな怪しい格好をした人たちがたくさんいた。

 黒サングラスに黒いスーツをビシッと決めた、とても堅気には見えない男。手には銀のジュラルミンケースを持って立っている。……ゲームで言うところの闇の運び屋と呼ばれるキャラの格好だ。

 ほかには、紙袋を被った男と女の姿。

 二人とも背中に翼が生えているのでタイタニアだとわかる。

 和服を着た男のほうはキセルを紙袋の下に無理やり通して煙を吸っているようだ。紙袋の眼の部分に空いた穴からからモクモクと煙が上がっている。女のほうはまるで滝のように緑色の髪の毛が紙袋の下からあふれ出している。怪しさが貞子よりひどいとプレイアは思った。

 ほかにもガラの悪いごろつき達が、酒の入ったグラス等を傾けながら猥雑に笑い合っている。時折、場にそぐわないプレイアの事が気になるのか、ちらちらと視線がこちらに飛んでくるのを感じる。

 そして最後に、キュキュッとグラスを拭きながら憤怒の形相でこちらを見つめる青い傭兵服を着た大男。その後ろには背の丈ほどの大剣が抜き身で置かれていた。カウンターの中にいることから、この酒場の主であることが見て取れる。

 

「新顔テメェ……。そのガキの吐いた場所綺麗にしねぇと分かってんだろうな?」

「俺様の名前はオーロベルディ。気軽にオベと呼んでくれよ、今後お世話になるんだからなァ。……拭くもんあるかァ?」

 

 チッ、と舌打ちと共に汚い雑巾が飛んでくる。バッチィバッチィと言いながらオーロベルディはプレイアにさらに渡してくる。自分の吐いたものくらい片付けろって事だろう。正直、逆らったら何をされるか分からないので従っておく。……拭きながら出口らしき場所を探すのも忘れない。

 

「ひゅー、流石は何でも屋じゃァないか。言えば出てくるってな」

「おちょくりならやめときな。俺の気分次第で出禁だぞ」

「何でも屋の、おやじ……?」

 

 小声でつぶやく。ジロリと視線が飛んでくるので思わず体をすくめる。

 何でも屋のおやじは、特殊なワープポータルのない家の場所から繋がるところにいる商人系NPCだ。コマンド系の特殊なアイテムや、アップタウンには入れなかった頃最終的に視野に入れていたアクロポリスの通行許可証の偽装などをしてくれるNPC。ゲームじゃここまでの威圧感とかはなかったんだけどな……。とプレイアは冷や汗をかいた。

 

「しかも、訳ありっぽいガキを抱えてくるしよぉ」

「いや、別に訳ありじゃァないぜ! 俺様の武勇伝を聞かせるのにつれてきたのさ」

「アァ? じゃあ普通に連れてくりゃ良いだろう?」

「ハハハ、俺様を試そうったってそうはいかないぜおやじ。ここは内緒のはずだろ」

「チッ。誰に聞いてここを知った」

「物知りな男に聞いたのさ。それともこの場で俺様謹製なおいしいカレーでも作ってやろうか?」

「……」

 

 しばらくの沈黙。

 うるさかった酒場の空気も変わり、チャキやらカチャなどの武器に手を添えるような音が響いている。

 

「……よし。いいぞてめーら、こいつは正確な筋から聞いてこの場にいる」

 

 いつの間にか静かにしていたゴロツキ達が、ひらひらと手を振って何でも屋のおやじに頷き返した。そして、再び飲み物なんかを呷ったりして、楽しそうにおしゃべりを再開し始めた。

 ゴクリ、とプレイアは息をのむ。

 もしかして、今の状況かなりやばかったんじゃと。オーロベルディのほうを見ると、気にせずに酒やつまみなんかを頼んでいる。

 

 そして、冒頭に戻る。

 

「さて、小僧。お待ちかねのお話の時間だ」

「一体、何の用なんですか……?」

「なに、俺様から一つだけお願いがあるだけさ」

 

 こんな場所に連れてきて、プレイアが敵わないと分からせておいてからのお願い。邪悪な笑みを浮かべながら酒を呷り、オーロベルディは言った。

 でもそのお願いは。

 

「──冒険者を今すぐ辞めろ」

 

 絶対に聞けないお願いだった。

 

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