終わった噺の祈るひと   作:唯のかえる

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第4話

 まだ陽が昇るより前の時間。

 プレイアは暗い時間に目を覚まして、出かける準備をしていた。

 ぴちゃん、とシンクに水滴の落ちる音。

 ベッドの近くに少し大きなタイニー人形が置かれ、戸締りをしっかりとした部屋。

 忘れ物がないか、リスト化したものを脳内で確認。

 

「よし、行ってきまーす」

 

 誰もいない部屋だが、残されるタイニー人形に一声かける。

 再度、忘れ物がないか確認。大丈夫、頷いて玄関の鍵を閉めた。

 プレイアは今日から、フィリップさんに紹介状をもらった東アクロニア平原にある冒険者育成用の学校へと学びに行く始まりの日だった。その始まりの前にやっておきたいことがある。だから、こんなに早起きをして家を出るのだ。

 

 アクロポリスの朝は、薄暗くても活気にあふれている。

 ダウンタウンの朝市の人ごみを抜ける。一応、紹介をしてくれたフィリップさんに挨拶をするためにフィリップの酒屋さんへと向かうのだ。しかし、朝早くとはいえクエストを受けるための冒険者たちが列をなしてクエストカウンターに並んでいる。忙しそうに店員メイドたちが駆け回って、それでも笑顔で働いていた。

 さすがに挨拶だけのためにあの行列に並ぶと時間がかかるし迷惑だろうなと思い、外から眺めて店に向けてぺこりと挨拶だけする。その様子に目ざとく気が付いた店員メイドとフィリップが人差し指を自身のおでこから相手の胸に向けて指を差すアクロニア特有の挨拶『君に憑依☆』をしてくれる。

 わぁ、とプレイアは目を輝かせて同じような仕草を返してから、再び冒険者学校のほうへと歩きだした。

 

 ダウンタウンを抜け、アクロポリスとアクロニア平原をつなぐ場所『アクロニア東稼働橋』へとたどり着く。朝早いせいか、やはりここも冒険者や商人たちのドラゴ*1を使った馬車……竜車? がたくさん並んでいる。露天商が朝早いのに客引きをしていて、食品系の屋台なんかも並んでいた。

 おいしそうな匂いに釣られながらも、人にぶつからないように稼働橋を抜けていく。

 

 人ごみを抜けた。 

 ザァ。と風が吹き抜ける。

 ゆっくりと朝日が奥に見える山脈から優しい日差しで世界を照らし始める。

 アクロニア平原の緑草が風の波で揺れている。

 この緑海を冒険者たちは己の足で駆け出してくのだ。

 

 ここを見るたびに、プレイアは息を詰まらせる。

 全てのはじまりの、この世界に降り立ったあの時だってそう。

 少しこの世界で過ごした今だってそう。

 朝日の照らすこの世界に、一歩足を踏み出す。

 

「冒険の、始まりだ!」

 

 ワクワクを胸に含みながら新しい冒険の気配へと駆け出していくのだった。

 

 駆け出してしばらく、人のいないアクロニア平原の中でプレイアは立ち止まり、大きく深呼吸をする。目の前には、不思議そうにプレイアを見つめる青いゼリーのような玉を二つくっつけた様なモンスター『プルル』。

 朝早く出かけた理由はこいつと戦うことだ。

 しばらく見つめ合って、プレイアは胸に手を当てて昨日のオーロベルディのアドバイスをしっかり思い出す。

 

「えっと、震えるなら名乗りを上げろ。竦んだなら目的を叫べだっけ……」

 

 キッと覚悟を決めて、腰につけた棍棒を勢いよく抜き放つ。

 そして、プルルに突き付けて大声で名乗った。

 

「えと、名前、俺はプレイア。冒険者プレイア! 目的、目的……えっと、とにかくモンスターと戦えるようになる!!」

「!? プッ!」

 

 急な大声にプルルは一瞬驚いたように身をすくめるが、向こうも戦う覚悟をした表情でキリリと顔を引き締めた。

 

 いざ、戦わん! そんな空気が流れた瞬間。

 

 横の草むらから、同じようにキリッとした戦う覚悟を決めた表情のプルルが三匹追加で飛び出してきた。……棍棒を構えてないほうの手で額を抑え、プレイアは一度棍棒を仕舞って平手をプルル達に向けた。

 

「ちょっとまって」

「ぷるぅ?」

「いや、うん。大声出したもんね。いっぱい出てきてもおかしくないよね。でもちょっとまってね」

「ぷゅ……」

 

 プルル達は少し戸惑った様子だったが、お互いの顔を見合わせ待ってくれているようだ。

 プレイアは考えた。

 仕舞った棍棒を少し眺め、ブロウで一体ずつ倒すブロウダンスというゲーム知識利用技ならいけるか……? ブロウの火力が高くなるから剣じゃなくて棍棒持ってるわけだし……。

 とにかくやってみる! プレイアは再び覚悟を決めた。

 

「よし、おっけい! いくぞ!!」

「「「「プ!」」」」

 

 再び棍棒を抜き放って腰だめに構える。プルル達もやる気だ! 

 気合を入れて、スキルのブロウを発動しようとプレイアは力強く叫んだ。

 

「ウォオオオッ! ハァアアア……! ……チャァアア!! ちょっとまって」

 

 プルル達はなんやなんや!? と戦々恐々としながらプレイアをにじりにじりと取り囲む。

 再び、プレイアは武器を仕舞って両手を上げて、もう一度停戦のアピールをした。

 

「俺ってスキルの使い方知らない。あと、ブロウって序盤スキルだけどレベル上げないと覚えなかった気がしてきた」

「?」

 

 具体的には、ソードマンのJOBレベル10で覚えられるスキルである。

 あれ、つまり詰んでない? いや、大丈夫。ブロウがなくても、ソードマンは転職した際に『居合い1』というスキルが覚えられるのだ。それを使えば大丈夫。いや、そもそもスキルの使い方分からないのだった。

 

 仮に使えるとしよう。話が進まないからね。

 プレイアは腰の棍棒を見た。

 そして、スキル『居合い1』の発生ダメージに依存するものが武器の斬属性ということを思い出す。

 ……つるつるしてて、とても物が斬れるフォルムに見えないなー棍棒って。

 

 いつの間にか周囲を取り囲んでいた、プルル達に目を走らせる。

 ブロウを発動しようとして、大声を出したせいかさらに三匹ほど増えている。

 集まったプルル七匹、みんなやる気満々だった。

 無理ゲーじゃね? プレイアは頷いた。

 にこやかに手を振りながら後退。

 

「あ、朝早くから大声出して、ごめんねー……うおおおお!! 待った、待って! さっきまで待ってくれたじゃん!!」

 

 プルル達は珍しく自分たちが勝てそうだなと思いながら、及び腰になったプレイアに襲い掛かり始める。

 冷や汗まみれのプレイアは覚悟を決め、三度目の棍棒を抜き放ち、オーロベルディの教えを思い出しながら立ち向かうのだった。

 

「俺は冒険者プレイア! プルルなんかに、負けない!!!」

「プーッ!!」

 

 ぽこぽこぽこっ! 激しい戦闘の音。

 そしてその音は、割と早めに消えるのだった。

 

 

 ◇

 

 

 同刻、東アクロニア平原にて。

 

「はぁはぁ、ジョニー……。足が動かないぃ……」

「フレイズ! もうちょっとで学校だぞー! がんばれがんばれ諦めるな!」

「もう無理だよぉ……! 動けないぃ」

 

 朝日が昇るころ。

 東アクロニア平原を二人の少年と少女が歩いていた。

 ジョニーと呼ばれた青髪おでこの少年が、金髪ロングボブので疲労困憊そうな少女であるフレイズを全力で応援している。

 ウッドスタッフと言う木の棒に魔力を封じた単純な杖に全体重を預けて、フレイズはへこたれていた。

 

「もう、無理ぃ……。学校にもまともにたどり着けない私は()()しかないんだよぅ」

「はいはい。卒業試験は自分の足で頑張るって言ってたのは誰だった?」

「うぅ~、私だけどぉ!」

 

 二人はこの東アクロニア平原にある冒険者育成学校の生徒だ。一般的に登校するには少し早い時間だが、このフレイズという少女は通常の数倍登校に時間がかかるためにこんなに朝早くから移動を開始している。

 

「がんばれー! 休憩できるように朝早く登校してるんだから」

「もう、だめー、休憩……」

「はい、本日3度目の休憩開始だな」

「ぬーぬーぬぅ…」

 

 体力なさ過ぎて涙目になりながら、ぺしょったフレイズがぬーんと突っ伏したように草原を転がる。それを仕方がないなぁといった苦笑いでジョニーは見つめて同じように隣に座り込んだ。早朝の少し冷たい風が二人を穏やかになでる。

 少し無言の時間。しばらくゴロゴロと寝転がって息の整ったフレイズが口を開いた。

 

「……ごめんねジョニー、体力なくて」

「しょうがないって。ちゃんと体力作りも頑張ってるし、これからこれから」

「私が体力無いせいで、勧誘失敗しちゃってるし」

「勧誘失敗の一番の理由は紋章の無いノービスである俺のせいだ。フレイズが気にすることじゃない」

 

 二人で顔を見合わせてハァとため息をつく。

 ジョニーとフレイズは自分たちと一緒にキラービーの巣へと言ってくれる冒険者を募集していた。だが、二人が抱える事情が要因で募集勧誘はうまくいっていないのだった。

 片や普通であれば30分もかからない登校に2時間ほどかけないといけない体力弱者のフレイズ。

 片や冒険者に確実に必要だと言われている紋章を身に宿せなかった冒険自体が困難なジョニー。

 

「問題はあと2週間でコイツの期限もきれちまうのがなぁ」

 

 ジョニーが腰のポーチからペラペラの紙きれを取り出す。

『卒業認定試験許可証(仮)』と書かれたそれは彼らとって大切な希望。そして、何よりも大きな試練となっていた。なんせ、パーティメンバーが3人以上でないとその権利を使用できないのだから、人数を集めきれていない二人にとって大きな壁だ。

 

「俺たち、有名だからなー」

「ええ、悪い意味でね……」

 

 残念なことに、二人とパーティーを組んでくれるような奇特な子供たちは現れてくれなかった。同情的にみられることはあっても、ハンデを一緒に共有してくれることなると全然いないのだった。

 

「…………。ま、お前は大丈夫だって!」

「むむむー、最悪この卒業試験無視しても冒険者にはなれるわよね……」

「フレイズ、それはダメだ。外で信用が得られなくなる」

「それは、そうだけど……」

 

 気楽にフレイズが気負わずに行った台詞をジョニーは即座に否定した。

 この学校を出たという経歴が、冒険者にとってとても重要なものを生むことをしっかりと習っているからだ。

 冒険者は、本当に誰でも成れる。その職を名乗れる。

 だが、冒険者の信頼を生むのはその人が歩んできた軌跡のみ。

 ギルド元宮のバックアップのある冒険者育成学校を出るという事は、アクロニア世界では最低ラインの他人への信用を生む要素となっているのだ。

 ジョニーはため息をつきながら、ペラペラな希望の紙をポーチへとしまう。

 そして、少し歯切れが悪そうにフレイズへと切り出した。

 

「でも……、この許可証の期限が切れたら、俺諦めるわ!」

 

 先ほどとは全然違う言葉。驚いたようにフレイズが立ち上がる。

 

「え、でもジョニー。冒険者になるの夢でしょ!?」

「いや、この学校を卒業するの、あきらめる」

「??? さっきと言ってることが逆じゃない?」

「バカ、俺は職業紋章が一生手に入らないけど、お前は体力つければ他のパーティーに入れるだろ」

 

 実際、紋章手に入れてからここ数週間で少しずつ体力出来てきてるしなー。と後頭部をガシガシと掻きながらへらへらと笑いながらジョニーは言った。それを見ながらフルフルと体を震わせたフレイズが顔を真っ赤にして声を荒らげた。

 

「……ばっかじゃないの!? 一緒に頑張ろうって約束したじゃん!」

「うお、バカってお前」

「ジョニーの馬鹿! アホ、バカ、えっとバカ!! 先に行くからね、まってるもん!」

 

 フレイズがジョニーを置いて、学校に駆けていく。見えなくなる手前でべしゃッと転んだりするがジョニーを振り返らずに走り去っていった。

 

「アイツ、結構体力ついてきてんじゃん。あーあ、紋章っていいなぁー」

 

 ハァ……。とジョニーは大きくため息をついてゴロンと草原に身を投げ出した。

 前まで、思いっきり走ってもノロノロとした動きでしか動けていなかったフレイズを思い出す。スペルユーザー系の職業紋章ですら、コレなのだ。ファイター系の紋章などどれほどの効果を発揮するのだろうか。

 先ほどまで気にならなかった、朝露でじっとり湿気った草原を妙に不快に感じた。

 恨めし気に、自分の手のひらを見つめる。

 だがその眼に諦めの色はなく、決意に溢れている。

 冒険者になろうと決めた目的を思い出すように呟く。

 

「でも俺は最高の冒険者になって、絶対に『天まで続く塔』を見つけるんだ」

「……! ……!!」

「ん?」

 

 なにか聞こえる。

 ジョニーはそう思い、立ち上がって周囲を見回した。

 先ほど走り去ったフレイズが、涙目になって両手をジョニーに向けながらドタドタと戻ってきていた。

 

「じょ、ジョニー!! 大変!! そこで、たくさんのプルルにボコボコのボコでぼろ雑巾みたいにされてる男の子がいるのー!!」

「……え?」

「嘘みたいだけど、プルルにメタメタにされて地面に倒れてて、プルル達がその人の上で勝鬨上げてるの!!」

「??? え、プルルの勝鬨!? 見る見る! どこどこ!?」

「はやく! こっちこっち! 終わっちゃう!」

「うおおお、そんなの見たことないぜ! うっひゃー! 朝早く来てよかったなフレイズ!」

「ただもう走れないから背負ってよー!」

「よっしゃ! まかせな!」

 

 まだ未熟な冒険者だが、世にも不思議なプルルの勝鬨を見るために先ほどの劣等感など吹き飛ばしてジョニーは立ち上がる。そして息も絶え絶えのフレイズを背負って丘の向こうへと駆け出した。

 

 それがプルル達の下で白目を剥いてぶっ倒れている少年、プレイアとの初めての出会い。

 フレイズとジョニー。そしてプレイア。

 三人にとって、とてもとても大切な物語はこうして始まりを告げるのだった。

 

*1
翼のない二足歩行の地を走り、背中に人を乗せられるドラゴン




このペースだと今年に1章書き上げられるのだろうか……。
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