終わった噺の祈るひと   作:唯のかえる

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第5話

 

 モニターを見ていた。

 

 エアコンの良く効いた部屋。パソコンの唸る音。

 映るのはゲームの画面。

 

 エミルクロニクルオンライン。

 そういう名前のMMORPG。

 

 自分の作成した女の子のキャラが、プルルに囲まれて倒れている。ポップアップしてきた『セーブポイントに戻ります』の文字。下に刻まれるのは強制的にセーブポイントへと戻される30分の制限時間。 

 

「あちゃ~、まとめて狩るのはまだ無理か」

 

 このゲームは始めたばかり。

 チュートリアルが終わって、すぐに向かったのがこの東アクロニア平原だった。

 近くにいた青色のモンスター。

 プルルにちょっかいをかけまくって平原を走り回った。

 結果、集団でボコボコにされる。大したことない雑魚敵だったが、数が増えれば当然処理が間に合うわけもない。

 操作していたキャラクリしてこの世界に生まれたばかりのうちの子はHPを全損。

 ゲームオーバー……とはならないのがオンラインゲームである。

 

「このゲームはデスペナがないのが救いだなー」

 

 まあいいや。そう思って、セーブポイントに戻るをクリック。

 

「ん、あれ。なんだフリーズした? 動かないな」

 

 画面が固まった。うんともすんとも言わず、こてんと首をかしげる。

 どうしたんだろうと、回線とかを調べ始めた俺の背中をトントンと誰かが叩いた。

 

「ん?」

 

 後ろを振り返る。

 目に入るのは、自分の部屋。

 そして。

 部屋になかったはずの、魔法使いを模したクマの人形が星のステッキを両手を掲げるように振りかぶる姿!

 

『えーいっ☆』

「うわらばっ」

 

 ゴギンッ! 人体から出してはいけない音を出して、意識が吹き飛ばされる。

 

『まったくぅ、ダメだよプレイアーさん。……ちゃんと真剣に遊んでよね、じゃないと大変なことになっちゃうよ?』

 

 視界が眩む中、そんな声を聴いた気がした。

 

『でも、そうやって楽しんでるの。ボクは大好きだよ』

 

 

 ◇

 

 

「たわば!?」

「「わっ!?」」

 

 消毒液の匂い。

 かっ! と目を開いてプレイアは跳ね起きた。

 白い清潔そうなカーテンが風に揺らめく様子。知らない部屋。

 どうやらベッドに寝かされていたようだ。

 頭と首に謎の鈍痛を感じて、プレイアは顔を顰める。

 

 そうだった。僕は大量のプルルに負けて気を失ったんだった。

 戦闘は数だよ。ゲームでもそうだっただろ。

 思い出すエンドコンテンツの奈落ダンジョンで引きつられる強力なモンスターたち。

 蟻と卵がわんさかわんさか。

 ……いや、それをプルルと比べるのはちょっとアレか。

 そこまで考えてから思う。……ところで、ここはどこだろう。

 そんな風に思考を走らせていたプレイアに声がかかる。

 

「ねえ、大丈夫ー?」

 

 プレイアの顔を心配そうに見ながら、ベッド近くの椅子に座っていた二人がいた。

 一人は青髪の少年。もう一人は金髪の少女。

 

「お前東アクロニア平原でプルルにやられてたんだぞ」

「私たちが運んであげたの! 一応保健室の先生に見てもらってひどい怪我とかはないみたいだけど、痛むところとかはない?」

 

 プレイアに声をかけたのは、プレイアを見つけるまで喧嘩をしていた少年少女だった。

 そんなことはつゆ知らず、プレイアはプルルにやられたという事実に恥ずかしげに髪を掻きながら答えた。

 

「少し頭と首が痛むけど平気、だと思う。運んでくれてありがとう、ええっと」

 

 助けてくれたこの子達の名前は……、と考えるプレイア。

 察したように青髪の少年がニッカリと笑う。

 

「そっか、痛み続けるようなら後で保健室の先生にヒールかけてもらうといいよ。んで、俺の名前はジョニー!」

「私、フレイズって言うの! あなたのお名前は?」

 

 ジョニーとフレイズ。そう名乗った少年少女。

 プレイアはしっかりとその名前を脳裏に刻んで、頭をかきながら改めてお礼を言った。

 

「ジョニー、フレイズ、助けてくれてありがとう! 俺はプレイアって言うんだ。ねぇ、今何時? 俺は午前中の内に東アクロニア平原の冒険者育成学校に行かないといけないんだけど」

 

 窓の外を見ると、少し陽が高くなっている。と言ってもまだ朝の範疇だと思うので、今から向かっても全然間に合うだろう。

 プレイアの言葉に、ジョニーとフレイズはお互いに顔を見合わせる。

 

「まだ八時だけど……」

「その冒険者育成学校、ここだよ? もしかして、入学するの!?」

 

 どうやら、ジョニーとフレイズの話によるとここが来るはずだった冒険者育成学校のようだ。

 プレイアは花開くような笑みを浮かべてガッツポーズ。

 

「わあ、すごい偶然! うん、そうなんだよね。色々と冒険するのに必要な知識が足りてないんだ。だから、ここで……勉強を…………」

「……どうしたの?」

 

 説明をしていたプレイアの言葉が尻すぼみになっていく。

 気がついた。

 

 プレイアが目を見開いた。

 その目は目の前の首を傾げた少女に釘付けだった。

 

 なぜなら。

 

「……ごめん、もう一回名前を聞いてもいいかな? フレイズ……って言った? もしかして、フォースマスター……じゃなくて、ウィザード系ジョブのフレイズ??」

「そう、だけど?」

 

 ゲームで聞いたことのある名前だったから。

 ゲームの進行度によっては、絶対に知っていないといけないキャラクター。

 ゲーム内で唯一のレベルという概念をカンストさせたと表現し、さらにその先の強さを、冒険を求めた少女の名だから。

 

「――フレイズぅ!?」

「「げっ……!」」

 

 目ん玉ひん剥くくらいびっくりした様子のプレイア。

 その様子を見たジョニーとフレイズの顔が残念そうに歪む。

 

 彼女たち、いや彼女は現時点では体力のない冒険者としては欠陥を持っていると、噂されていたから。

 

 だから、いつもの蔑みの視線を受けると思って身をすくめる二人は――。

 

「さ、サインください! えっと、紙! 紙あったかな……? あ、服! 服でいいや! お願い、サインください!」

「…………へ?」

 

 ゴソゴソと慌てた様子で自分のポーチを漁って目的の物が見つからなかったプレイアが自分の着ている服を差し出す様子に、脳がついていかない様子で固まった。

 プレイアはそんな二人に構わず、ズイズイとアウターを広げながらキラキラと目を輝かせながら迫る。

 

「ちょ、そこに書いたら他の人が見たときに、フレイズの服と勘違いしちまうぞ!?」

「あ、そういえばそうかも……」

 

 おバカになってしまったプレイア絶賛暴走中である。

 しかし。

 

「それに、私落ちこぼれって言われてるんだよ? からかうのもいい加減にしてよ」

「フレイズ……はそんなことねぇって。大丈夫だって……な?」

 

 ぎゅっと自身の手を強く握りしめてフレイズは俯いた。プレイアに揶揄われたと思ってしまったのだ。

 所在なさげにジョニーがアワアワと手を胸の前で彷徨わせる。そして、プレイアに向かって助けたのに揶揄うなんてと怒り出そうとするが……。

 その言葉に今度はプレイアがギョッとしていた。

 その様子を見てジョニーは混乱して言葉を発せずに経過を見届ける。

 

「おち、こぼれ? フレイズが? あのデュアルジョブイベントのフレイズが?」

 

 プレイアニは見覚えがあった。

 確かにゲームで見た姿だ。

 来ている服装は違うけれど、不思議と自分の中でこの子はあのフレイズだと確信がある。

 

「嘘だ……。もしかしてバタフライ……」

 

 プレイアの瞳孔が開き、汗がだくだくと漏れる。

 いやな予感。自身がここにきてしまったからこそ、ゲームとずれてしまったのではないかという不安。

 フレイズについてゲームで知っていることは、無限回廊というダンジョンで起こるデュアルジョブのイベントNPCというものしかない。

 しかし。

 

 その上で言うが、その彼女が落ちこぼれなんていう評価を持っているとはプレイアは決して思えないのだ。

 理由は二つ。

 一つ目、彼女と出会うデュアルジョブイベントは、三次職110レベルカンスト50レベルカンストという、エミルクロニクルオンラインというゲームでの到達点。

 強いていうならばエンドコンテンツの入り口だったからだ。

 二つ目、彼女は本来一つしか身に宿せないデュアルジョブを『転換の書』というアイテムとシステムを作り出し、複数(エンドコンテンツとして全てのジョブ)を見に宿せるアイテムを作成して見せたのだから。

 

 そこまで思考が加速したプレイアは。

 息が苦しくなり、視界が明滅する。

 あ、やばい。と思っても止められるものではなく。

 

「――ぁ」

 

 過呼吸。

 混乱とストレスの臨界点に陥ったのか、恐ろしく苦しげな様子で再び。

 

「きゅう……」

「え、ちょ!?」

「なになに!?」

 

 ぐるんと白目をむいてベッドにひっくり返るように、プレイアは倒れ伏す。

 慌てた様子で、ジョニーとフレイズは再び保健室の先生を呼ぶために奔走するのであった。




今年何も書いてないって思ってECOがしたくなって……つい。
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