ギルド元宮に入って、ギルド内を案内するガイドの女性にソードマンになりたいと聞くとギルド元宮の中にある説明を主に行うらしい部屋へと案内をされる。そこで、紋章に対しての説明が入る。一生モノ、二度と変更の利かない類のものだ、と。
君の志望するソードマンは剣を主に使い、戦闘を得意とする職業紋章である、と。
大体ゲームで知っているような内容。
刻む覚悟も出来てる。承知の上です。と説明をしてくれる担当者に頷いて返す。
「それじゃ適正検査をしますね」
「……? てきせい?」
なんでも、人間にはそれぞれの職業に対する適性があるらしく、紋章に対しての才能のようなものがあるらしい。
初めて知ったが、望む職業になれないので妥協して別な職業になる人たちも多いそうだ。
ゲームにはなかったことだ。
いや、『君はコレになりたいだろうけど、残念だね! 適性がそのキャラにはないよ!』とかMMORPGにありえない要素だから当然なのだが。
ここで初めて焦った。いや、当然のように焦った。
「もし、適性がなかったらどうなるんですか……?」
「残念ですけど他の職業紋章を探してもらうことになりますね」
あれだけタイニーに相談してソードマンになれなかったらどうしようと、変な汗が浮かんできたものだ。
「はい、ソードマンにも適性がありますね。なれますよー」
軽い感じで適性の有無が告げられ。
「はい、では紋章を刻みます。最後の確認ですが本当にこの職業でよいのですか? 良かったらこの書類にサインをお願いしますー」
職業紋章を刻むことへの誓約書を書かされ。*1
「ソードマンの紋章ですね? 本当にソードマンで良いですね?」
しつこいくらい確認を取られ。
「はい、直接お腹にさわりますねー。はい、ソードマン刻みました。あなたはソードマンになりました」
「ん?」
あっけなく、プレイアはソードマンになった。
「……え? もうソードマンになってます?」
「なってますよー。適性が高いのか、あっけなく終わりましたね。実感がないかもしれませんがなってますねー」
「とくにこう……光ったりとか? 衝撃が走ったりとか」
「しませんねぇ。ソードマンの紋章もしっかり刻めたのでソードマンギルドでギルド員登録と説明を受けましょうか。では、案内をお願いします。……はい、次の方どうぞー」
ぱちぱちと、プレイアは目を瞬く。
ソードマンギルドはこちらですねー。と最初に案内をしてくれた案内嬢が流れるように連れて行ってくれた。
「ソードマンギルドの一員として頑張ってくれよな! 戦闘系の仕事で割がいいのはここで受けられるぞー!」
と、ギルドのシステムについて簡単に説明を受け。
「じゃ、お疲れ! ここでソードマン専用のクエストもぜひ受けてくれよな!」
「あ、はい」
そんなこんなでギルド元宮の外に出ていた。
昼過ぎだったのに、日が軽く傾いたくらい。
するするする──、と終わってしまって全然実感がない。
入るまでに悶々と悩んでいた時間のほうが長かったくらいだ。
「あれ、俺ってソードマンになれたのか……?」
ぶっちゃけ何かが変わったわけじゃない。
ただただ、書類にサインをしてお腹を医者に触られただけだった。
「???」
なんか、釈然としないプレイアだった。
◇
ギルド元宮の外、家に帰るには少し早い時間。
帰ってもいいが、特にやることもなく眠ることになるだろう。
それはそれで、タイニーに会えるから別によいのだが……。
せっかくソードマンになったのだ、何かしたいと思う。
さて、これからどうしようか。
そう思って顎に手を当てる。
うーん、ソードマンになった実感でも手に入れに行こうかな。
「とりあえず、平原の木にでもスキルを試してみよう、か?」
ふと、顔に影が差す。
何だろうと思って、空を見上げると。
「小さな箒が、空を飛んでる……。ファンタジーだなぁ」
小篭を柄の部分に下げた箒が宙に浮いていた。自身の腕位なサイズのソレはふわふわとゆっくり移動をしている。ゲームでも、空飛ぶ箒で移動しているなんて光景はよく見ていたのでそこまで驚かないプレイア。
ゲーム内では、空飛ぶ傘に乗って移動したりブランコに乗ったりして移動しているまであるので妙な耐性が付いているのだ。
「なんだろって、わっ!? なになに!?」
宙に浮かんでいた小さな箒が突然、プレイアの近くに急降下してくる。
というか、纏わりついてくる。
やたらと、プレイアの顔の前に小篭を持ってくるのでもしかして自分に用があるのだろうかと手を伸ばす。
小篭の中身は、封蝋のされた特別感のある手紙。
宛名はプレイアへ。となっている。
「俺に……?」
小さい箒が犬のようにぶんぶんと穂先を振って、ぐるぐるとプレイアの周りをまわる。
なんだか、早く読んでくれと催促されている気がするので破かないように慎重に開ける。
『紋章記念の茶会への招待状。ぜひぜひ、そのまま箒へお乗りくださいな。 レミアより』
「わぁー! 素敵な紹介状だ……!」
読んだ瞬間、小さかった箒がPON! とコミカルな音と煙を立てて大きな箒に変身した。
そして、穂先をフリフリしながら地面と平行に伏せる。
それはまるで、乗れと言わんばかりの姿勢。
「……本当? 乗れるの!?」
驚くプレイアに、こくんと器用に柄の方で頷く箒。
ドキドキしながら、箒に跨る。すると、ゆっくりと浮かび上がってくる。
太ももで落ちないようにしっかりと挟み込み、柄を握りしめる。
ふわっ! と急な浮遊感。
重力が突然体から消えていったような感覚に陥る。
その時には地面から足が離れて、ゆっくりと空を飛んでいく。
「ファンタジーだこれえええ!!!」
生まれて初めて空を飛んだ。
なんというか、ものすっごく素敵な体験だったと心の中のアルバムに刻み込むのだった。