「……お前、こいつは家っていうか」
ミラリアに着き、アーデルハイドが飽きれたような声を上げる。
「宿でも始めんのか、お前」
そこにあったのは一軒家というには明らかに大きい建屋。
まだ建設中ではあるが、
2階建でぱっと見ただけで広さは四方50メータはある。
「別に私がするわけではありません。
私が使うのは1室だけです」
荷台を家の横につけると作業していた大工のザックとが駆けつけてきた。
「おかえり。随分と荷物を積んできたな」
「ええ、後で奥に締まってください。
倉庫はもう出来てるんですよね?」
「ああ、むしろ倉庫とあんたの部屋しかまだ形になってないけどな」
「あの、もう2か月経ってますよ。ちょっと遅くありませんか」
「なら費用を倍出してくれ。職人を今の倍用意すっから」
どうやら2か月前から作業をしているらしい。
周囲を見ると5人ほど携わっているようだった。
「お、おかえり。ハツカさん」
その中には村人であるボーガンも混じっている。
彼もお駄賃をもらえるならと手伝いをしているのだ。
元々ガタイがいいのでこういった作業であれば向いているのだろう。
そこが彼が気づいたようにアーデルハイドの視線を向ける。
「ああ、彼女は知り合いの冒険者です。
別に村に用事があるわけではないからすぐに帰ります」
視線で尋ねると、彼女は肩を竦めた。
「ああ、なんか拍子抜けだ。
何にもなさそうな村だ、もう興味もないし帰るぜ」
「そうですか」
何もないと言われてちょっと隣でボーガンが落ち込んでいた。
ハツカはゴーレムを操作して隣の建物に移動していく。
本当に帰ろうとしていたアーデルハイドだが、ゴーレムの向かう先を見て眉をひそめた。
(なんだあの工房は。まるでルーンパドじゃねぇか)
ゴーレムのうるさい足音に紛れて彼女もついていく。
当然ハツカは気づきもしないで
巨体でも入れるガレージから彼女は工房に入った。
(……こいつぁ、驚いたな)
そしてアーデルハイドは驚愕した。
ケーレンハイトに勝るとも劣らないルーンパドに。
ハツカよりも冒険者として古株のアーデルハイドは
当然ながらルーンパドに対する知識も多い。
だからこそこんな田舎には場違いの工房の異様さをより感じていた。
「ラエル、お土産です。あなたが好みそうなガラクタを持ってきましたよ」
「おっ、なんだいなんだい。
ハツカがガラクタって言った時には結構お宝が混じってるからな」
「……もしかして、私が見る目ないって言ってますか」
「価値はわからなくても掘り出し物をよく見つけてくれるって褒めてるんだけど」
「それを馬鹿にしているっていうんです」
ハツカを出迎えたのは若いマイスターだ。
2人のやりとりを聞いてアーデルハイドは
「おいおい、やっぱり男じゃねえか」とからかおうとしたが、
次の彼女たちの会話を聞いて言葉を止めた。
「ゴーレムの調子はどうだ?
オーバーホールしてから2か月経ったけどさ」
「後で軽く診てもらえますか?
ちょっと無理に力込めすぎたかもしれません」
(あいつがゴーレムをメンテナンスしただと!?)
ゴーレムクラスのアーティファクトの難解さを理解しているアーデルハイドには信じられなかった。
もしそれが本当だとすれば……
(拠点を移すには十分すぎる理由だな)
立地から想像はつくがここへアーティファクトを持ち込む冒険者などそういないだろう。
つまり実質、ハツカ=エーデライズの専属工房であると考えても的外れではないはずだ。
一流の冒険者でもそんなVIPな待遇はありえない。
「おい、その話は本当なのか」
アーデルハイドは自分でも気が付かないうちに足を踏み出していた。
「……どちら様?」
ラエルの訝しむ視線に彼女は胸を張って応える。
「アーデルハイド=アイゾンウェル様だよ。
そこにいるハツカ=エーデライズより上の冒険者だ」
「……いきなり現れてなんて自己紹介をしているんですか。
それに私はあなたより下だなんて言われる筋合いもないのですけれど」
呆れた口調のハツカだったが、アーデルハイドはそういう性分で今更である。
ラエルは少しの間、彼女……いや、性格に背負う魔槍をじっと見つめていたが
「そうだな、大した冒険者じゃなさそうだ」
その言葉にアーデルハイドは一瞬、何を言われたかわからなかったが
「……ンだと?」
そしてすぐに女子供であれば視線だけで殺せるであろう視線で睨んだ。
「その槍、随分と手荒に使ってるじゃないか。
そんな使い方している冒険者が優れているわけないだろ」
だがそんな視線などどこ吹く風か、彼はあっけらかんと告げた。
「はぁ、てめぇになんでそんなことがわかるんだよ?」
「わかるもなにも、そんな状態の槍を平然と見せびらかしていることの神経を疑うぞ」
隣で話を聞いているハツカもあまりのラエルの言葉に耳を疑った。
まだ短い付き合いではあるが、ここまで突き放した彼の口調は初めてだったからだ。
ルーンいじりが好きの子供みたいなやつ、という認識から大きく外れている。
アーデルハイドが沸点を超え、槍でクソ生意気なマイスターを殴ってやろうと思ったが、
「お前にこいつが扱えるってのか?」
背負った槍を手に持ち替え、突き出す。
彼が「ゴーレムをメンテナンスできる」という前提がもし正しいのであれば、
それはマイスターにしか見えない視点でモノを告げているのではないか。
今までアーデルハイドに対してここまで上からの態度をとったものは一人たりともいない。
初めての経験に、アーデルハイドは怒りと同時に戸惑っていたのだ。
「修理は無理だな」
「はんっ、口だけか」
「そりぁ外装と骨格が歪んでるからな。ここはルーンパドであって鍛冶屋じゃないんだよ」
その言葉にハツカがオウム返しで尋ねる。
「……歪んでいるんですか?」
「ああ。ハツカのゴーレムみたいに大事に使ってないからな。
ルーンを調整すれば多少は誤魔化せるだろうけど、もっと根本的な修理が必要だ」
アーデルハイドは考える。
これは正しい意見か、あるいは自分をいなすためのフェイクか。
「なら、その多少ってので構わねぇから、やってみてくれよ」
彼女は矛先を向けていた槍を回し、柄を渡す。
その言葉に露骨に嫌な顔をしたが、
「……ふぅ、ハツカの知り合いっていうならやってもいい。
作業時間は……今から2日はいるな」
彼は槍を受け取った。
「ハツカ! お前のとこの寝床借りるぜ!」
そう言ってドシドシと不機嫌そうな足音を立てながら出て行った。
片手で頭を抑えながらハツカは言葉を絞り出す。
「……もっと他に言葉はなかったんですか」
「あるわけがないだろ。
こんな酷いモン見せられて怒らないマイスターなんていないぞ」
「ラエルはもっと、他の街のことを知った方がいいです」
ハツカは「アイゾンウェルの魔槍」が
大都市ケーレンハイトの名立たるマイスターたちが調整していることを知っている。
彼に悪気があるわけではないだろうが、それにしても言い方というものがある。
(でも……)
彼でもあんな表情を浮かべるのだと思い返す。
ルーンに対して真面目なマイスターかと思っていたが、
自分が想像していた以上に想いが強いようだ。
そして今更ではあるが、そんなマイスターが自分のゴーレムをことを
褒めてくれたことが少し誇らしかった。
こういうファンタジーモノで建築物を建てるのに、実際どれくらいの日数がかかるんだろうか。
あと建築中で何故か倉庫と2階の1室だけできてる不自然は作り方は購入者の強い希望ということで