世界樹の裾〰彼女が始めた街作りの物語〰   作:テオ_ドラ

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14.「このアーデルハイド=アイゾンウェル様は今、最っ高にハイだからな!」

冒険者はそれぞれ自身のクラスを明言している。

それは自己申告でしかないが、「大体そういう役割ができる」と周知させる意味合いが強い。

「ファイター」であれば近接武器を持ち最前線に立つことをメインとする。

パーティの必需クラスではあるが、

とはいえファイターばかりになると戦闘の際に役回りがブッキングしてしまう。

他に遠距離武器を持つ「アーチャー」や、探索や採取の得意とする「スカウト」等々……。

目的によってクラスの組み合わせが最も重要なことは言うまでもないだろう。

依頼を受ける際もそうであるし、パーティに誘ってもらうためにも重要な「自己主張」といえる。

つまり一言でその冒険者を表す言葉が「クラス」なのだ。

 

「そらよっ!」

 

アーデルハイドの振るう槍が飛びかかってきた狼を薙ぎ払う。

その大振りな一撃が同時に2匹を吹き飛ばす。

しかしその影から更に一匹が身をかがめて彼女を狙っていた。

初めから仲間を囮にして仕留める作戦なのである。

群れを組んで人を襲ってくる獣は総じて賢い。

ただ力押しだけでは武器を使う人間には敵わないと理解しているのだ。

 

「見え見えだな!」

 

だが、その程度の「浅知恵」で遅れをとるアーデルハイドではない。

振りぬいた槍をその勢いをつけたまま回転させ矛先を地面に突き刺す。

そして槍を中心に生まれた遠心力で自身の体を回転させ、

飛び出そうとしていた一匹に回し蹴りをくらわす。

鉄を仕込んだ足先の一撃に甲高い鳴き声をあげて狼は転がっていった。

 

「っと!」

 

勢いを殺さないまま華麗に着地をして槍を引き抜き再び構える。

自身より大きな槍を自在に操る体術は見事と言わざるを得ない。

 

――ではアーデルハイドのクラスは何なのか。

 

単純に考えるなら槍を持っているからファイターだろう。

近接職として十分に戦えることは一人で狼の群れを圧倒している時点で十分に証明している。

けれど彼女はファイターとは名乗っていなかった。

 

「逝っちまいな!」

 

彼女の持つ「アイゾンウェルの魔槍」が力を解放される。

矛先から生まれた轟炎が力強く射ち出された。

それは群れを立て直そうと集まっていた狼たちをひとまとめに吹き飛ばすほどの破壊力。

衝撃と轟音が森に響き渡り、鳥たちが一斉に飛び立ち逃げ惑う。

 

――ソーサラー。

 

それこそが彼女が名乗るクラス。

槍を持ち、軽鎧を身にまとい颯爽と戦う彼女の姿から「魔法使い」という言葉は連想し辛い。

だが彼女の二つ名とにもなっている魔槍がアーデルハイド=アイゾンウェルの真骨頂。

強力無比の炎が最大の武器であり彼女の象徴……だからこそ彼女はソーサラーを名乗るのだ。

ウウゥ……

怒りに震えるうなり声が先から聞こえてくる。

散っていた狼をひとまとめにして吹き飛ばしたはずだったが、

どうやら打ち漏らしがあったようだ。

2匹、3匹……計5匹の生き残りが草むらから姿を現す。

アーデルハイドは舌打ちをする。今ので戦いが終わらなかったのは痛い。

魔槍の最大の弱点は「連発できないこと」であった。

あまりの熱量を放つがためにオーバーヒートしてしまうのである。

傍若無人な彼女がわざわざ煩わしい人間関係を我慢してまで

パーティを組むことが多い理由はこのためだった。

槍で近接戦することが苦手というわけではないが、

それでも重たい長槍を振り回し続けるのは体力を使うし隙も大きい。

 

(クソ……しかも威力が下がってるじゃねえか)

 

火球が普段の火力の8割くらいになっていると感じる。

ただ10割の全力で放っていたとしても範囲外にいる残りを打ち漏らしていただろう。

しかし威力が下がっているという事実は彼女を不快にさせた。

元々オーバーキルでしかなかった高火力が少々下がろうとも実際には問題ではないのだが。

 

「口だけのやつに触らせたのは失敗だったな!」

 

だが熱量を持つ矛先は相対するものにとっては脅威だ。

熱を放つ切っ先は掠るだけで焼け致命傷を負わすことができる。

トドメに使うか、あるいは「保険」としての機能だと彼女自身は考えているが、

やはり火球を放つ本来の用途とはその力は比べるまでもない。

 

「……?」

 

そこで彼女は違和感を覚える。

もうかれこれ8年以上の付き合いになる槍の状態のことは持つ手の感覚だけでわかる。

すぐにそれがなんなのかを理解した。

普段は持ち主すら熱を我慢して持たなければならないというのに、

今はそこまでの熱量を感じないのだ。

 

(どういうことだ……?)

 

熱を射ち出せば、その分だけ矛先が熱くなるのは当然の原理。

だが先ほど、確かに火球を射出したはず……

その彼女が戸惑っている隙を見逃す狼たちではなかった。

2匹が素早く飛び出してくる。

俊敏な獣たちとの戦いに置いてはそれは致命的なミス。

 

「クソがっ!」

 

反射的に矛先を突き出す。

一匹だけでも仕留めて、最悪はもう一匹に腕を噛まれることを覚悟した。

 

ブォオッ!

 

彼女は驚きのあまり目を見開いていた。

連射はできない一撃必殺だったはずの火球が、再度発動したのである。

矛先から生まれた轟炎が狼二匹を消し炭へと変えた。

その様子に獲ったと確信していたはずの残りの3匹が硬直して仲間の死骸を呆然と見つめる。

 

「クク……」

 

本人も意図しなかった2発目の「切り札」。

槍から伝わってくる感覚は連発したというのに「まだいける」というもの。

 

「ククク……ははははははは!!」

 

アーデルハイドは我知らず笑っていた。

普段よりも、ずっとずっと見る者に対して恐怖を与える威圧的な笑み。

口が吊り上がり、目は楽しくて楽しくて仕方がないと言っている。

 

「ははは、最高だよ! 最高だ!」

 

そう、今までは何を置いても最優先に考えなければいけなかった「リードタイム」。

それがこうも簡単にも解消されてしまったのである。

一撃しか放てないからこその一撃必殺。

その大前提があっさりと覆ってしまったのだ。

 

「最っ高だぜ、マイスター! こんなにも気持ちが良いのは初めてだ!」

 

もはや狼が何匹残っていようが関係ない。

戦い方などもはやどうでもいいのだ、ただ力押しをするだけで良い。

それは戦いではなく、蹂躙。

 

「逃げるなよ、雑魚ども」

 

彼女は悠々と歩みだす。

 

「このアーデルハイド=アイゾンウェル様は今、最っ高にハイだからな!」

 

獰猛な笑みを浮かべる人と、後退りする狼たち。

もはやどちらが獣かわからない。

 

「ククク……たまんねえな!」

 

彼女は槍を手に、獣たちを駆逐した。

 




完全にラリッた人です。



クラスは自己申告なので何を名乗ってもいいですが、

意味不明なクラスを名乗っても相手にされないので大体がみんなルールに沿ってます。

ドールマスターも個人差ありすぎてパーティに誘ってもらえないのもこれが理由です。

あと雇うのに総じてドールは維持費が高い。
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