世界樹の裾〰彼女が始めた街作りの物語〰   作:テオ_ドラ

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18.「アーデルハイド=アイゾンウェルという冒険者にこれ以上相応しい言葉はないだろ?」

「リミッターが壊れていたんだよ。

 だから過剰な出力が常に槍へ負担を与えていたんだ」

 

ラエルは調整の終わった魔槍をカウンターに置く。

 

「何らかの理由でリミッターを外して使用、そしてその時に壊れたんだろうな。

 アーデルハイドが使うよりも、もう随分前のことだとは思う。

 ルーンをきちんと全部刻みなおしたから、

 無理をさせなければオーバーヒートすることもない、はずだ」

 

先月に応急処置をしていたとはいえ、

かなりガタのきていた槍を全て分解してルーンを刻みなおしたのだ。

ゴーレムとはまた違った意味での難しい作業だった。

アーデルハイドは「ほうっ」と言いながら槍を手に取る。

 

「なら、こいつは100%に戻ったってことだな?」

 

満足そうに頷く彼女だったが、マイスターは首を振る。

 

「いや、70%ってとこかな。

 アーティファクトの核とルーン回路は俺も修復できるけど、

 外装と仙骨の歪みは手に負えない」

 

ラエルは紙を広げる。

そこに書き記されていたのはアイゾンウェルの魔槍の構成。

矛先の中心に赤いコアがあり、それが青白い骨格となる柄の回路と繋がっている。

そしてそれらを覆うように金属の外装が支えている。

 

「銀色の外装はミスリルだから、優秀な鍛冶師に一から作り直してもらえばいい。

 けれど、仙骨はちょっと難しいな」

 

「仙骨ってのはこの骨格みたいなやつのことか?」

 

「ああ。竜の骨が使われている。

 それも並の竜じゃない、玄竜クラスのやつだ」

 

――竜。

それは生態系の頂点に立つとされる存在。

上位の存在ともなれば神の遣いともされ崇められているものもいる。

竜は非常に多彩な種類がおり、人が勝手にではあるがある程度の「格」を決めていた。

種類、個体にもよって基準はマチマチだが、

下から地竜、牙竜、騎竜、玄竜、王竜、帝竜、神竜。

玄竜以降は人の手に負える存在ではない。

大体のイメージとして王竜は厄災、帝竜は神の遣い、神竜に至ってはほぼ架空の存在である。

ちなみに以前にアーデルハイドが戦っていた翼竜ケートスは牙竜だ。

 

「ンだよ、玄竜なんて見たこともねぇぞ。どこで狩ればいいんだ」

 

「知らないよ。

 でもそれだけこの槍は貴重なモノってことだと思えばいい」

 

玄竜の骨ほどの強固な素材でなけば出力に耐えられない。

それほどの出力を誇るアーティファクトはまさに一級品といえよう。

 

「そういえば、あいつのゴーレムには名前がついたらしいな」

 

「ああ、ゴーレムの中にいる『子』の名前が書かれていたから。

 かなり綺麗な形を維持していて、あれは奇跡みたいなもんだよ」

 

ラエルがゴーレムを気に入っていることは言葉の節々から窺えた。

彼の態度が、魔槍の時と反応がかなり違う。

それがアーデルハイドにとっては面白くない……明確にはできない感情が芽生える。

 

(アタシの槍だってすげぇモンなんだろうが。

だっていうのになんでそんなに態度が違うんだ)

 

その感情がなんなのか、今の彼女にはまだ理解ができていなかった。

 

「なら、アタシの槍にお前が名前をつけてくれ」

 

だから気が付けば、そんなことを彼女は言っていた。

 

「アイゾンウェルの魔槍っていうのじゃあダメなのか?」

 

「ダメだっての。

 そもそもよく考えてみたら、名前ってわけじゃねぇ。

 あいつのは『エーデライズのゴーレム』って呼ばれているようなモンだろうが」

 

なんとも強引な話ではあるが、一度そう感じてしまってはもう収まりがつかない。

 

「アタシの槍は生まれ変わったんだ、お前のお陰でな。

 ならアタシのレイストであるお前が名付け親になるってのは変じゃあないだろ」

 

その言葉にラエルは眉を潜めて「レイストになった覚えはない」と言ってから少し考える。

紅蓮を放つ銀の長槍。

そのイメージに相応しい名前は……

 

「――グロリオサ」

 

「……なんだそれは?」

 

「花の名前だよ。

 俺も本でしか見たことはないけれど、もう少し暖かい地域に自生してるらしい」

 

「らしいって、おいおい。

 大体アタシに花の名前の槍なんて、似合わないだろうさ」

 

肩を竦めるアーデルハイド。

けれどラエルは言う。

 

「そうか? 鎧を脱いでお淑やかにしていれば似合うと思うけどさ」

 

そして、その名前を名付けた理由を告げる。

 

「花言葉は『栄光』と『勇敢』」

 

花言葉というのはエルフたちが花や植物に一つ一つ意味を込める習慣から生まれたもの。

銀の鎧を身にまとう凛々しく若き女冒険者が持つ長槍に、マイスターは名を捧げる。

 

「アーデルハイド=アイゾンウェルという冒険者にこれ以上相応しい言葉はないだろ?」

 

言い切る彼の言葉に、彼女は笑う。

 

「ククク……ああ、その通りだな」

 

つくづくこのラエルという男は自分を楽しませてくれる。

彼に武器を……自分の体の一部ともいえる槍を預けて本当に良かった。

こんなにも心が躍ることは彼と出会わなければなかっただろう。

 

「今日からこいつの名前はグロリオサ。

 アーデルハイド様が持つ、最高の槍だ!」

 

彼女はラエルに向かい、

 

「アーディ」

 

「……?」

 

「アタシの愛称だよ。

 死んだ母がつけてくれた愛称だ。お前にはそう呼んでほしい」

 

「……わかったよ、アーディ」

 

特に断る理由もないため、ラエルはそう返した。

そのことにアーデルハイドは満足そうに頷き告げた。

 

「改めて言う、アタシはお前が欲しい。アタシのモンになってくれよ」

 

まるで食事に誘うかのようにあっさりとした口調。

言葉だけとればプロポーズともいえるモノだろう。

が、彼女がそんな色気のある意味で言っているわけではないのは顔を見ればわかる。

ラエルは呆れたように首を振る。

 

「……なんでそうなる。他を当たってくれ」

 

その態度にますます愉快そうにするアーデルハイドは

なおを言葉を続けようとしたが

 

「いつまで時間かけているんですか」

 

「なっ!」

 

ぬっと突然出てきた大きな手が彼女を掴み上げる。

 

「ハツカ! テメェ、何しやがる!」

 

「槍を受け取りにきただけでしょう?

 いい加減、出発させてください」

 

さしものアーデルハイドも巨人に掴まれては身動きができない。

怒るアーデルハイドをゴーレムの肩に乗るハツカは不機嫌そうに睨む。

彼女はリュックを背負い冒険支度をきちんと終えていた。

もう出発するだけだったのに、中々出てこないアーデルハイドに業を煮やしていた。

 

「それとラエル。

 あなたはもう少しデリカシーってものを覚えてください」

 

「デリカシーってな……どういう意味だよ」

 

ハツカはそれには答えず、のっしのっしと工房から出ていく。

 

「はなせ! いいからはなせっての、ぶっ殺すぞ!」

 

「そういう言葉は自力で脱出してから言ってください」

 

頼もしい冒険者たちが出発するのをラエルは手を振って見送った。




主人公でもありヒロインはハツカです。

今のところ影薄いですけど、ハツカがメインの物語です。

ここ、テストに出るので覚えておいてください。
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