世界樹の裾〰彼女が始めた街作りの物語〰   作:テオ_ドラ

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21.「帰りましょう」

突進するミヅチに対して前に出たのはハツカの駆るゴーレム。

 

 

 

「ミリア!」

 

 

 

ミヅチは頭から愚直に突っ込む。

 

それをゴーレムの全力で振りぬかれた腕が迎え撃った。

 

 

 

バンッ!

 

 

 

いくらミヅチが大きいとはいえ構成されているのは水。

 

圧縮されているわけでもない水が岩を貫けるはずもない。

 

ゴーレムの腕がミヅチの頭を貫通し、

 

まるで木の実が破裂するようにミヅチの頭が炸裂する。

 

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 

力比べに勝ったとはいえゴーレムに激しい衝撃がかかる。

 

ハツカは振り落とされないようにしっかり掴み、

 

ゴーレムは倒れないように踏ん張る。

 

弾けた水のせいで視界が遮られているが、

 

これでアーティファクトを潰せば勝ち……

 

 

 

「避けろ!」

 

 

 

アーデルハイドの叫び。

 

ゴーレムは反射的に後ろへ飛んでいた。

 

勢いが余りたたらを踏むが、なんとか転倒は防ぐ。

 

 

 

バシャンッ!

 

 

 

先ほどまでゴーレムのいた場所を四方から水が襲い掛かっていた。

 

その水は飛び散ったはずの水だった。

 

あのままその場にいたら水に取り込まれていただろう。

 

一度ゴーレムは態勢を整えるために後ろに下がる。

 

 

 

「……どうでしたか?」

 

 

 

「コアが後ろにさっと逃げやがった。

 

 どうやらあいつは水の中を自在に動くらしい。

 

 湖まで逃げられて籠城されたらお手上げだ」

 

 

 

冷静に観察していたアーデルハイドが舌打ちをする。

 

 

 

「あなたの魔槍で吹き飛ばせそうですか?」

 

 

 

「わからねぇよ。

 

 グロリオサの火力なら多分、吹き飛ばせる。

 

 けどはっきりとは言えねえがコアの周辺だけ水の層が厚いように見えた」

 

 

 

決してアーデルハイドは魔槍を出し惜しみしているわけではなかった。

 

魔槍の破壊力をもってすれば獣を防ぐ術もなく焼き尽くすのは造作もない。

 

だが、今回のようなアーティファクト相手においてはそう簡単にはいかない。

 

むしろ安易に切り札を使い、それで仕留め損ねれば対応してくる可能性がある。

 

そう、人や獣にとっては「火球」は脅威ではあるが、

 

高度な技術を要していた「過去」の遺物にとっては対抗策があるかもしれないのだ。

 

雷を放つもの、不可視の攻撃を放つもの……

 

そんなものが「当たり前」として存在していた時代は確かにあるのだから。

 

だからこそ彼女は冷静に機を窺う。

 

 

 

「正直、私は相性が悪いようです」

 

 

 

魔槍に対してゴーレムは見た目通りの物理攻撃のみの戦い方。

 

単純な力押し比べとなるため、小細工は必要がない。

 

こうして相手を測るにはうってつけといえる。

 

だがさすがのゴーレムも形がない相手は不得手だった。

 

 

 

「アーデルハイド。あなたに任せます」

 

 

 

そう言ってハツカは前へ出る。

 

作戦を立てるなんて真似はできない。

 

そもそも2人は共に戦うのはこれが初めてなのだ。

 

狙って連携などできるはずもない……。

 

――ならば

 

 

 

「ククク……そうだな、このアーデルハイド様がなんとかしてやるから安心しな!」

 

 

 

お互いにやれることをするだけだ。

 

 

 

「これなら、どうですか!」

 

 

 

ゴーレムが地面に落ちていた人の頭ほどの石を拾い上げ、

 

思い切りコアへ目がけて投げつける。

 

ミヅチはそこまで俊敏な動きができるようではないようだ、

 

避けることは諦めて、コアだけしゅっと移動する。

 

石は目標を捉えることなく体を貫通してそのまま向こう側で飛んでいった。

 

 

 

ドゥンッ!

 

 

 

その間にゴーレムは近づき横殴りに体を叩きつける。

 

水が弾け飛び、コアより先にあった先端部分が四散した。

 

散った水がゴーレムを襲うが、走りながら攻撃するゴーレムには当たらない。

 

 

 

(アーティファクトから離れた水は、数瞬の後には支配下から離れる)

 

 

 

どうやら支配下から外れると数秒後に力を行使できなくなるようである。

 

だから離れた瞬間に、敵対反応がある場所にしか攻撃できないのだろう。

 

アーティファクトにゴーレムの動きを先読みをすることもできないようだ。

 

 

 

「……ッ!」

 

 

 

ハツカは止まることなく拳を叩きつけていく。

 

だがミヅチも黙ってやられているほど大人しくない。

 

頭を思い切り振り回してぶつけてくる。

 

単なる水とはいえ塊をぶつけられるのだ、

 

ゴーレムに衝撃に吹き飛びそうになった。

 

 

 

「ミリア!」

 

 

 

ハツカは歯を食いしばってゴーレムを止めることなく動かす。

 

横からの衝撃に対して全て踏ん張るのではなく、力の方向に跳びダメージを少しでも減らす。

 

足を止めてしまえばすぐに水に取り込まれるだろう。

 

水の中でもゴーレムは稼働できるだろうが、肩に乗るハツカはそうもいかない。

 

呼吸を必要とするハツカは数分もしないうちに溺死だ。

 

 

 

(せめてゴーグルでもつけておけば良かったです)

 

 

 

飛び散る水にほとんど視界は塞がっている。

 

だが相手は巨大な水の塊。

 

どこにいるかは感覚でわかるし、でたらめに攻撃しても大体は当たる。

 

対するミヅチもゴーレムを脅威と感じ、執拗に攻撃をしかけていく。

 

お互いが退くことなくぶつけ合いを続け、

 

体をどんどん飛び散らしていくミヅチを押しているかのように思えたが……

 

 

 

ガクンッ!

 

 

 

「……えっ!」

 

 

 

ゴーレムの足が突如止まる。

 

慌ててハツカが下を見ると足が凍っていた。

 

正面ばかり向いて戦っていたため、

 

足元から忍び寄っている水に気づかなかった。

 

薄い水の層がゴーレムの足を覆ったところで一気に凍り付かせたのだ。

 

 

 

「ラエル!

 

 凍らせる能力、残ってるじゃないですか!」

 

 

 

ここにはいないマイスターに悪態をつく。

 

彼女がはっと見上げると、上から押しつぶさんとばかりにミヅチの頭が落ちて来た。

 

ハツカが思わず腕で頭を庇い、目をつむるが……

 

 

 

「グロリオサ、焼き尽くせ!」

 

 

 

轟音が響き渡り、

 

まるで苦しむようにミヅチが首を上げる。

 

 

 

「アーデルハイド!」

 

 

 

「はっ、これでいいんだろ!」

 

 

 

キャンフロストは自身と接する水を支配下に置く。

 

水源と繋がっていればこんなところまで伸びてくることができるが、

 

逆にいえば自身の体にできるのは繋がっている水だけ。

 

 

 

「おらおらおら、燃え尽きちまいな!」

 

 

 

つまり湖から長々と伸びている「体」から

 

アーティファクトを切り離せば良い。

 

無防備になっていた胴体にアーデルハイドが火球を発生させて槍をぶち込んだのだ。

 

ゴーレムに注意を向けていたミヅチは、

 

回り込んでいたアーデルハイドの存在に気づけなかった。

 

激しい蒸気を放ち5メータの範囲の水が蒸発する。

 

もう出し惜しみは必要ない、アーデルハイドは火球で切り離されたミヅチの体を炙っていく。

 

 

 

「ハツカ、美味しいところはくれてやる!」

 

 

 

「言われなくても!」

 

 

 

戸惑ったように動きを止めてしまったミヅチ。

 

ゴーレムはミヅチに体ごと突っ込んだ。

 

まだ相手には十分な体積が残っている。

 

今、この瞬間を逃せばアーティファクトは何をしてくるかわからない。

 

未知の機能を発動されたら目も当てられない……決めるのは今しかない!

 

ゴーレムは完全に水の中に取り込まれてしまうが……

 

 

 

(……見つけた!)

 

 

 

ハツカは水の中で懸命に操作し、

 

 

 

ガシッ!

 

 

 

ゴーレムの腕がアーティファクトを掴む。

 

抵抗するように周囲から水の圧か途端に強くなる。

 

呼吸もできない中、意識が飛びそうになるが

 

 

 

ピシッ!

 

 

 

亀裂の入る音。

 

それはアーティファクトから放たれていた。

 

そして

 

 

 

「……ぷはっ!」

 

 

 

形を持っていた水がアーティファクトの支配から離れ、

 

 

 

――ざあぁぁぁぁ……

 

 

 

重力に引かれて地面に流れ落ちた。

 

水の勢いにハツカはゴーレムを踏ん張らせてなんとかこけないようにする。

 

時間にすればほんの数秒だろう、

 

けれどハツカにとってこれほど苦しい時間はなかった。

 

呼吸はできないうえ、ゴーレムにしがみつきながら操作しなければいけなかったのだから。

 

意のままに操れるとはいえ、元々が非常に神経を使う。

 

全力疾走を終えたような虚脱感にハツカは深い深い息をついた。

 

彼女の疲労を体現するように、ゴーレムも肩膝をついて座り込んだ。

 

周囲には大きな水たまりができている。

 

 

 

「やれやれ……こいつあ大物だったな」

 

 

 

少し離れた場所に槍を地面に突き刺し、

 

流されないようにしがみついていたアーデルハイドがぼやく。

 

 

 

「……寒い、です」

 

 

 

季節はまだ冬……戦いの熱が過ぎた今、

 

冷たい湖の水にさらされたハツカは思い出したように寒さに体を振るわせた。

 

アーデルハイドも同様に水浸しでくしゃみをした。

 

 

 

「……最悪だぜ。とりあえず焚火にするか」

 

 

 

ハツカはゴーレムが握りしめたアーティファクトを掲げる。

 

もう光り輝いてもおらず、ヒビの入った球体は沈黙していた。

 

たったこれだけの大きさのものがあのミヅチを成していたのだ。

 

自分たちも恩恵に預かっているとはいえ、

 

アーティファクトというのはつくづく危険なものだと改めて思う。

 

 

 

「これで、クエスト達成です」

 

 

 

ハツカの言葉にアーデルハイドはニヤリを笑う。

 

 

 

「初クエストにしちゃ、楽しめたぜ」

 

 

 

彼女はそこで周囲を指差した。

 

 

 

「それに、今日の晩飯にも困らねぇな」

 

 

 

「……なるほど、確かにこれはご馳走になりそうですね」

 

 

 

ぴちぴちと飛び跳ねているのは多くの川魚たち。

 

ミヅチの体で泳いでいた魚たちが取り残されたのだ。

 

 

 

「帰りましょう」

 

 

 

「ああ、ミラリアにな」

 

 

 

ゴーレムがゆっくりと手を伸ばす。

 

アーデルハイドはその指先に槍の矛先をこつんと当てた。

 

 




これで小説家になろう連載に追いつきました。
以降は数日に1回の更新になります。
私が頑張れば……
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