世界樹の裾〰彼女が始めた街作りの物語〰   作:テオ_ドラ

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23.「もう、私の物語は始まっているんです」

ハツカが目を覚ましたのは夜中だった。

誰かが運んでくれたのだろう、自室の部屋のベッドで寝ていた。

窓から外を見ると綺麗な満月。

月の位置からまだ日が昇るまでには時間があるとわかる。

物音一つない静かな夜……早々に潰れたせいか今はもう酔いも抜けてしまっていた。

 

「……」

 

なんとなく、外に出たいと思った。

部屋の中ですら寒いというのに、

どうしてわざわざ外に行こうと思ったのかは自分もわからない。

厚手の上着を羽織って部屋から出る。

一階はもう綺麗に片付けられており、宴会の残り香が漂っていた。

ここで騒いでいたのがまるで嘘のように、薄暗い室内は寂しい感じがした。

玄関から外へ出る。

 

「寒いです……」

 

当たり前だ。

風は吹いてはいないが、体の芯から冷えていく感じがする。

やはり部屋に戻ろうかと思った時、視界の隅に世界樹が見えた。

 

「えっ……」

 

自分が見た光景に息をのむ。

見間違えと思い、隣に立つ世界樹へと近づいて行った。

 

「……光っている」

 

ハツカは下から世界樹を見上げる。

輝いている、というほどではない。

けれど幹が、枝が、生い茂る葉が……全て淡く光っている。

淡い緑の光……目の錯覚ではなく確かに光を放っていた。

 

「マナが巡っているんだ」

 

背中から声をかけられる。

驚いてハツカが振り返るとそこにいたのはラエルだった。

 

「こんな夜更けに出てきたら風邪をひくぞ」

 

「私は少し夜風を浴びにきただけです。

 それをいうならラエルもどうしてこんな時間に」

 

「俺も似たようなものだよ。」

 

苦笑しながら「素直に寝ておけばよかった」と寒そうにしていた。

 

 

「マナが巡っているというのはどういうことですか」

 

「えーとだな、世界樹が大地から汲み上げたマナが溢れて空に還っているんだよ」

 

ラエルはハツカの隣に並び、同じように木を見上げる。

彼は眩しそうに目を細めて話を続けた。

 

「全ての生命がマナによって生まれる。

 そしてその命は失われれば大地に還る……。

 世界樹は大地に還った命をマナを浄化して、またマナとして空へ戻すんだ」

 

「空へ戻す……?」

 

不思議そうに問い返したハツカにラエルは頷く。

この淡い輝きがマナなのだという。

それが本当なのかどうかはハツカにはわからないが、

けれどとても綺麗な光だと素直に思った。

命の輝く、というのはこういうことをいうのだろうか。

 

「世界樹があるから、命は生まれ変わる。

 そうして世界は綺麗に保たれているんだってさ。

 まあ、俺も村長から教えてもらっただけなんだけど」

 

もしそれが本当だとしたら、

どうしてこの村にそんな世界樹があるのだろうか。

 

「それにしても、こんなにマナがはっきり見えるのは初めてだ」

 

「そうなんですか?」

 

彼は頷く。

 

「村長ならきちんとした理由がわかるんだろうけど」

 

そう言ってから言葉を続ける。

 

「もしかしたら、きっと今日が『楽しかった』から光っているのかもな」

 

「楽しい……?」

 

「ああ、こんなに村のみんなと騒いだのは初めてだよ。

 なにせずっと変化がない村だからさ。

 何も変わらない、そんな毎日が続くと思っていた」

 

その口調はどこか寂しそうに聞こえた。。

気を見上げるラエルの横顔が、

普段よりもずっと大人びていて、そして悲しそうだった。

思えば彼は工房にずっと一人だ。家族がいるという話も聞いていない。

この村はどこの家も「家族」で暮らしており、

彼のように一人で暮らしているのは他に村長くらいしかいないのではないだろうか。

 

(一人、か……)

 

ハツカは想う。

 

――彼も自分と同じように、孤独に膝を抱えて生きてきたんじゃないかって。

 

そう考えてしまうと、彼のことが他人事ではないように感じてしまった。

 

 

「それなら……」

 

自分でも今抱いている感情のことがよくわかっていない。

けれど、彼に何か言葉を返してあげたいということだけは強く思った。

ハツカは踏み出して世界樹に近づき、大きく両手を広げる。

 

「これからここはもっと楽しくなります。

 だって私がこのミラリアを変えていくんですから」

 

まだたった16歳の少女。

小柄な彼女が両手を広げても、抱き抱えられる世界はほんの少し。

世界はどこまでも大きく、広すぎる世界にとって彼女はちっぽけな存在だ。

彼女一人が何かをしたところで、世界は変わらないかもしれない。

けれど、ここから始めると決めたのだ。

まだあやふやで、どうしたいかさえもはっきりとしていない『未来』。

だからこそ、ハツカ=エーデライズは思い描く。

自分だけにしかできない、世界の形を。

 

「ラエル。

 あなたは私とミリアを支えてください。

 そうすれば、私があなたの世界だって変えてみせます」

 

言葉だけでは何も変わらない。

でも言葉にしなければ何も変えていけない。

だから彼女は言葉を紡ぐ。

これから、目に映る世界を変えていくために。

 

「もう、私の物語は始まっているんです」

 

彼女の宣言を祝福するように、世界樹が淡く光りを放つ。

 

「ハツカ=エーデライズはここにいる。

 ミラリアで私とミリアはあなたに出会った時に、物語が始まったんです」

 

後に王国で最も有名な冒険者として名を馳せるハツカ=エーデライズ。

そんな彼女について吟遊詩人たちが語り出す時は、

必ずこの言葉から謡い始めるという。

 

――その物語は世界樹の裾から始まった

 




めっちゃこのタイトル言い辛いし微妙!
決めセリフにするにも使い辛いし締まらない!
そしてゴーレムのミリアと村のミラリアが1文字違いなだけで紛らわしい!

という後悔と共に連載が続いていきます。
物語はきちんと計画と決めセリフを考えてから連載しましょう。
本来の設定ではラエルが主人公で、アトリエシリーズチックに
工房を中心として街作りをしていく予定でしたが気づけばこうなってました。
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