世界樹の裾〰彼女が始めた街作りの物語〰   作:テオ_ドラ

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4幕:エーデンウェル
24.「本当に人間というのは面白い」


「はい、お待ちどうさま」

 

ハツカとアーデルハイドの前に置かれたのはピザ。

大皿いっぱいに乗っているのは

分厚いチーズの層にキノコと乾燥させた魚を惜しみなくトッピングしたもの。

香ばしい香りが広がり、それだけで食欲をそそる。

 

「……ちょっと焦げてますね」

 

だが、窯の火力が高すぎたのか生地は一部焦げてしまい、

トッピングもところどころ熱で破裂していた。

味は問題ないとは思うが、少し見栄えはよろしくない。

 

「うーん、もう少し調整が必要かしら」

 

エプロンをつけたリンデが顎に手を当て考える。

ピザを焼き上げたのは厨房の壁にめり込むように設置された石窯。

ハツカが狩ってきたザイネンホースの骨を中に使ったものである。

骨にルーンを刻み込むことで窯の一定の温度を保つ効果が得られるのだ。

窯にしては少々特殊な構造をしており、

横にあるレバーを調整することで温度が調整できるという優れモノである。

素材を集めることと高い精度のルーンが必要ということもあり、

大きな街でも中々見かけることができないタイプの調理器具だ。

しかし性能は非常に高く使いこなせれば料理の幅は大きく広がる。

ザイネンホースの足骨を使うことでしか耐久性をクリアできないため、

この窯はホースキルンスと呼ばれ料理人にとっては一つの憧れだった。

 

「しっかし大したこだわりだな。こんなもん、高かっただろうによ」

 

「ふふん。これがこの宿の一番の目玉ですから」

 

目玉も何も、むしろ窯以外にまともな調理器具がまだないのだが。

力の入れどころを間違えている、と言われても仕方がない。

 

「でもこれで、あのクッソまずいパンを食べなくてもよくなるな」

 

「ええ、しかも私たちのためだけに焼いてくれるパンだなんて贅沢の極みです」

 

ちょっと分不相応ともいえる器具だが、彼女たちは非常に満足していた。

若い少女が揃って石窯にうんうんと唸るというのも、

いかにも自由人である冒険者らしいといえばらしい。

 

「しばらくは色々試してみるから、我慢してね」

 

「リンデの来る前の食事に比べれば断然に良いので、これからも楽しみにしてます」

 

まだまだ街中に比べれば至らないところばかりだが、

こうして直接話して要望を言えるのは嬉しいものである。

 

「やれやれ……村の食事がどうしてそこまで不満なのかしら」

 

2人がピザを食べているところへ村長がやってきた。

 

「味が薄いです」

 

「毎日同じでレパートリーがないんだよ」

 

不満しかない冒険者たちは揃って口にする。

村長は隣のテーブルに座るが、不安定にがたついていることに顔をしかめた。

 

「先にこのあたりをなんとかした方が良いと思うのだけれども」

 

それは村人が宴会の時に置いていったテーブルであり、

ハツカたちが使っているものとデザインも全然違うためにちぐはぐであった。

他に2つほどまた別のモノもあり、統一感は皆無である。

 

「村長、ごめんなさいね。

 まだお客さんと言える人が全然いないから、テーブルを揃えても余っちゃうのよね」

 

リンデの言い分は正しい。

彼女が来てからまだ3日。

もっぱら使用しているのは住人であるハツカとアーデルハイドだけだ。

宴会の時にはたくさんいたが、基本的にたまにボーガンやユナ、物珍しさに村人が数人来る程度。

 

「それは仕方ないわ。みんなはそんなにお金を持ってるわけでもないから」

 

村長は「何か果物を」と頼んで、懐から硬貨を取り出しリンデに渡す。

その様子にハツカは前々から思っていたことを尋ねる。

 

「逆にどうしてお金を持っているんですか?

 村の中で売買がされている様子もありませんし、

 そもそも外から人も来ることが全然ないように思えますけれど」

 

そう、お金があっても使い道がないのだ。

だというのに村人たちはある程度の貯蓄を持っているように見受けられる。

 

「あら、ミラリアにだって商人は来るのよ。

 その時に少しではあるけれど金銭のやり取りはあるわ」

 

村長はリンデから受け取った乾燥ランナを小さくちぎって食べる。

そして玄関の方を視線へ向けた。

 

「今日は久々にその商人が来る日だから、あなたたちにも紹介しようかと思ったの」

 

その言葉にアーデルハイドはニヤリと笑う。

 

「こんな辺境にわざわざ来るなんて酔狂なやつなんだろうな」

 

「確か……ラエルの工房と取引があるんでしたか」

 

ハツカは以前にマイスターから聞いた話を思い返す。

頻度は三か月に一回程度。

嗜好品や衣類、日用品の他にはルーンパドへの修理依頼、だったか。

 

ガラガラ……

 

そこへ聞こえてきたのは車輪が地面を転がる音。

この音は街では馴染みはあるが、この村では珍しい馬車のものだろう。

近づいてきた音が止まる。どうおらウグイス亭の前に停まったらしい。

 

「こんにちわ」

 

入ってきた人物を見て、ハツカとアーデルハイドは食事の手を止めた。

あまりに想像からかけ離れていた訪問客に、言葉が出なかったのだ。

 

「セーラ。家にいないと思ったら、こんなところに」

 

「私の狭い部屋よりも、ここの方がゆっくりできるでしょう?」

 

今更だが村長の名前はセーラというらしい。

言葉を交わす二人に、ハツカは恐る恐る尋ねる。

 

「村長、えーと、こちらの方は……?」

 

すると入ってきた人物は胸に手を当てて、ゆっくりと会釈をした。

 

「失礼、私の名前はウイン=ディライトという。

 定期的に村に寄らせてもらっている商人」

 

ハスキーな声で淡々と名乗る。

落ち着いた声色で、それだけでは男性か女性かわからない。

肩まで伸ばした空色の髪は少しウェーブがかっており、

村長ほどではないが華奢な体格であることは尖った耳からエルフであろうことはわかる。

まるで司祭のような美しい刺繍のなされた青いローブを纏い、

無駄のない美しい歩き方を見れば、商人などと言われても誰も信じられないだろう。

しかしそんなことより目に引くのが「仮面」である。

装飾もされていない仮面で顔の半分を隠しているのだ。

元々エルフは中性的な姿をしているため、顔を隠されてしまうと性別はわからない。

 

「ミラリアに宿が建ったと聞いた時は半信半疑だったけれど、

 これは立派なものだ」

 

「あっ、ありがとう……」

 

リンデも戸惑いながら頭を下げる。

ウインと名乗った商人は村長と同じテーブルに座る。

 

「彼女たちと同じものはいける?」

 

「えっと、うん。焼き上がりに少し時間がかかるけど」

 

「構わない」

 

リンデは逃げるように慌てて厨房に入っていった。

 

「ウイン、あなたそんな味の濃そうなものが食べられるの?」

 

「セーラ。今ではこれが普通。

 もうエルフだからといって菜食しかしない方が珍しい」

 

ウインの方は淡々とした口調のためわかり辛いが、

村長の態度を見ていると二人は親しい間柄らしい。

 

トットットッ……

 

そこに聞こえてきたのは軽快な足音。

インパクトに戸惑って言葉も出せないハツカとアーデルハイドも

ここにきてやっと落ち着いてきたが

更に続いて入ってきた存在に更に驚くこととなる。

 

「あら、ホノカも興味があるのかしら」

 

村長が声をかけた相手。

その存在は無言のまま軽快な足音を立てて座るウインの横に並ぶ。

 

「なあ、そいつは……なんだ」

 

アーデルハイドが尋ねると村長は「初めてだと戸惑うのも無理ないわね」と頷き、

 

「この子の名前はホノカ。ウインの相棒よ」

 

そう簡単に説明した。

しかし、それだけで到底わかるものではない。

ホノカと呼ばれているのは四足の獣。

大型犬と同じくらいのサイズであり、全身は淡いピンク色の毛並みで覆われていた。

狼、というには知性的な顔立ちをしている。

少なくとも冒険者たちですら初めて見る存在だ。

人の言葉を理解しているのか、

ちらっとハツカとアーデルハイドの方を見てからすんっと鼻を鳴らして応えた。

ウインの隣に行儀よく床に座り、控える。

 

「ホノカもピザを食べる?」

 

尋ねるウインにホノカは頷く。

そこへちょうどピザを焼き上げたリンデが皿を持ってくる。

 

「お待ちどうさま。ミラリア新名物となるピザね」

 

「へえ。料理名は?」

 

新名物というのはリンデが勝手に今考えただけのものだ。

けれどウインは興味が引かれたらしく料理について尋ねる。

 

「ホースキルンス窯でじっくり焼き上げる

 たっぷりチーズを使いマストゥルとオーギョで仕上げたピザのランナ添え、よ!」

 

マストゥルというのは使われているキノコの名前で、

オーギョはミヅチのいた湖でとれる川魚のことだ。

あまり他の地域では収穫量も多くないため、

ミラリアの近辺で豊富に揃えられる食材でまとめているので名物と名乗ることはまあできなくはないが。

 

「なげぇよ」

 

「しかも言い辛いです」

 

ハツカとアーデルハイドは一蹴する。

 

「こういうのは名乗ったモノ勝ちなんだから。

 名前だって立派な料理の一部よ」

 

不満そうな声などどこ吹く風か、胸を張ってリンデは言う。

 

「本当に人間というのは面白い」

 

そんな様子にウインは淡々とした口調のままではあるが、どこか楽しそうに言う。

 

「彼女たちは、少し変わっていると思うけれどね」

 

セーラは肩を竦めた。

リンデは「冷めないうちに食べて」と勧める。

 

「……なるほど、美味しい」

 

ゆっくりと味わうように食べながら頷く。

 

「けれどミラリアのパンと同じ小麦か。ピザに使うなら違う品種の方がいい」

 

ウインは物欲しげそうに見つめるホノカにもピザを一切れ渡す。。

獣がピザを食べられるのだろうかと思ったが、一口でパクリと食べる。

熱々だったため少しはふはふしていたが、それでも美味しそうに食べていた。

 

「テルト領にあるアデラという街。

 そこの白小麦の方が相性がいい」

 

「白小麦かー。私、使ったことないんだよね」

 

リンデはちらっちらっと、冒険者たちに横目で視線を向ける。

買って来いと露骨に視線が訴えかけていた。

 

「……」

 

だがハツカとアーデルハイドは違うことを考えていた。

まだこの村には宿しかなく、足りないものがあまりに多すぎる。

それを補う方法……その知恵をこの商人が持っていると考えたのだった。




勝手に知り合いのキャラ名を使ってます。
性格は大分に違いますけれど。
窯とくればピザ。ピザとくれば窯。
チーズは保存がきくので違う街から運んできております。
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