「取り扱っているモノを知りたい?」
宿から出たウインを2人は呼び止めていた。
「はい。あなたはこの村に出入りする唯一の商人と聞いています。
普段からどんなものを取り扱っているんですか?」
その言葉に嘘はなく、わざわざこんな場所に来る理由を知りたかったのだ。
あわせてあわよくば今より頻度を高くしてもらおうという腹である。
「ふむ……」
ウインは仮面で隠れているため表情はわからないが、
少し考えてから首を振った。
「恐らく期待には応えられない。
私はルートが決まっているから」
そう言って荷台に置かれたいくつか箱を開ける。
一つ目の箱にはなんだかわからない小物がいっぱい詰まっている。
よくよく見れば一つ一つがルーンの刻まれたアイテムであり、
用途は不明だが何やら特殊な品ばかりであるようだった。
なるほど、確かに優秀なマイスターにしか取り扱えなさそうなものばかりである。
……しかしこんな場所まで来るほどのことかと言われると、難しいところだが。
「……このアクセサリみたいなのはなんだ?」
アーデルハイドが二つ目の箱から取り出したのは
不思議な模様の刻まれた木製のペンダント。
随分と細やかな装飾が彫られており、非常に美しいモノだった。
「知らない?
これはミラリアでだけ作られている、エルフにとってお守りのようなもの」
よくよく見ると、ペンダントは淡い光を放っていた。
ハツカは「あっ」と声を上げる。
「もしかして……世界樹の枝を使ってるんですか」
その問いにウインは頷く。
それが果たしてどのような効果を持つかはわからないが、
縁起モノという意味では価値はあるだろう。
「私は王都とミラリアの間をずっと行き来している。
それ以外のルートは通らないから、あまり君たちの力にはなれないだろう」
王都。
突然にこんな村では馴染みのない単語が出てきた。
そもそもここから王都まで大体1か月と少しはかかるはず。
つまりは3か月に1回という頻度は、寄り道を全然せずに
常に王都とミラリアとの間を移動しているということになる。
「もしかして、この村は王都と関係があるってのか」
「そう。それに私は厳密に言うと商人ではない。
確かに途中の街々で物品の売り買いをして商いをしているが、
主な役割としてはこのミラリアと王都を繋ぐことなのだから」
ハツカとアーデルハイドは顔を見合わせる。
まさかこんな辺境の地で、そんな話を聞かされるとは思いもしなかったからだ。
ホノカが眠そうにあくびをする。
そんなホノカの頭をよしよしと撫でた。
「別にそう難しい話でもない。
エルフと人間の間に『約』が結ばれてから20年と少し。
エルフも少しではあるけれど人里に降りた……その一つがこの村だということ」
「……あまり繋がっている話のようには思えません。
確かにこの村にはエルフが多いですが、何故あえてこんな場所に」
ハツカの疑問にウインは彼女たちが出てきた宿……その向こうに視線を向ける。
「世界樹を植えるのに、ここが一番適した場所だった。それだけのこと。
この大地には7つの世界樹が存在している。
その中でもミラリアの世界樹は最も若く、そして唯一の平地に存在する世界樹」
「世界樹……」
「そう、そしてこの世界樹はとても人に近しい。それが理由」
いまいち、この仮面のエルフの言っていることは意味が伝わりにくい。
恐らくハツカたちと常識と知識のベースが違いすぎるためだ。
少なくとも今は聞いてもきちんと理解もできないだろう。
人に近しい世界樹、というのが何を意味するのだろうか。
ウインの相棒である獣……ホノカがひょいっと軽い身のこなしで荷台に乗り込む。
大きな体であるにも関わらず木箱の間に器用に寝そべった。
無言ではあるが、どうやら早く行こうと言っているようだった。
ウインは相方に頷き、馬車の御者台に乗る。
「この村は求められていること……それ以上に対して無頓着。
だから20年以上も変化がなかった。
けれど他の村にないものが多くあるのは間違いない。
だから、まずは他の街と繋いでみるといいと思う。
動き出した時は必ず縁を繋ぎ円を描いていくのだから」
馬車は動き出す。ウインは手を振り、
「そうそう、アデラには行ってみた?
まだなら一度行ってみるといい。
君たちなら、きっと面白い出会いを見つけるだろう」
予想ではなく断言。
仮面のエルフには何が見えているのだろうか。
戸惑う二人をよそに、それ以上は言葉を続けず平然と立ち去って行った。
荷台から一度ホノカがひょこっと顔を出して2人をじっと見た後、また顔を引っ込めた。
一応はホノカなりの挨拶のつもりらしい。
「……なんか、変な人でしたね」
「エルフってのは何考えるかわっかんねぇな」
率直な感想がそれだった。
見送った二人は宿屋の中に戻り、壁に貼られた地図の前に向かう。
「で、アデラってそもそもどこだよ?」
「えーと……ありました。西の方ですね。ここから2日くらいの距離にあります」
「はあ? 西だぁ? そっちにあるのは海じゃねぇのか」
ハツカがミラリアを指でさして、左へすっと動かす。
平地で繋がっているため行くのは問題がないが、
ミラリアから西ということは更に大陸の隅ということになる。
アーデルハイドの言う通り、少し行けば海に当たってしまうくらいの位置だ。
「ここよりはでかい町にみえなくもないが、なんつーか微妙な位置だな」
「そう、ですね。なんとも言い辛い場所です」
アーデルハイドが肩を竦める。
森に囲まれているミラリアに比べ、周辺の町からはアクセスは良いだろうが、
用事もなければあえて行こうとも思わない場所だった。
「いえ、ここは行くべきだよ!」
そんな二人に声をかけたのはリンデ。
左手を腰に当て、右手をぴんと立てる。
「そして白小麦を買ってきて! あと海の幸もね!」
そういえばピザの良い小麦があるとウインが言っていたのを思い出す。
「うーん、確かに一度くらいは見に行くのもいいかもしれません」
「おいおい、無駄足になるかもしれねぇぞ、こんなとこ」
とはいえ、ミラリアにいたところで依頼があるわけでもなく、
結局はどこかへ稼ぎに行かなければならないのだが。
「では、私は一人で行きます。アーデルハイドは寝ていればいいです」
「いかねーとは言ってねぇだろ、ったく」
決まりだった。
なんだかんだてアーデルハイドもウインの言っていた言葉が気になっていたのだ。
2人は支度を整えて、すぐに出発したのだった。
書いてる方も、読んでる方も刺激の薄い説明パートです。
ないと困るけれど、でも別段見せ場があるわけでもない、そんな場面でした。