世界樹の裾〰彼女が始めた街作りの物語〰   作:テオ_ドラ

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27.「ギルド名は『エーデンウェル』」

結局、アデラについたのは翌日だった。

獣の処理やら、初めての道なのでゆっくり移動したから時間がかかったのである。

一応は交代で見張りを立て仮眠をとったが、先日の戦闘での疲労も残っていた。

 

「ねみぃな。今日は一日、泊っていくか」

 

「あなたはさっきまで荷台でぐうぐう寝ていたじゃないですか」

 

「ンだよ。夜はお前の方が多く寝させてやっただろうが」

 

アデラは一応は港町だった。

そこまで大きい町ではないが、それでもミラリアよりは当然人は多い。

ハツカたちが町に入るとみなが一斉に振り返る。

それもそのはず、初めてゴーレムを見れば誰だって驚く。

 

「とりあえず冒険者協会のありそうな酒場でもいくか?」

 

「うーん、先に後ろの荷物を売りさばいてしまいたいんですけど」

 

なにせ初めての町だ。

どこに何があるかわからない。

 

「どうせ価値もわからねぇんだ、協会で引き取ってもらおうぜ」

 

「そうしますか」

 

本当に高く売りたいなら商人に直接売るのが一番いい。

だが交渉事は手間であるし、

そもそも売りたいものの価値自体がわからない時はぼられる可能性が高い。

それに引き換え協会であるならば手数料はとられるが、

きちんと相場に近い金額で引き取ってくれるのだ。

よそ者が直接行うよりも、町の顔である協会に売買してもらう方が面倒は少ない。

通行人に道を尋ねて協会のある酒場に到着する。

酒場は入口からは遠くない場所だった。

ゴーレムの足音に驚いて出てきたのは年老いた男性。

ひょろりとした体に、長く伸びた白い顎髭がもやしを連想させた。

 

「これはまた……珍客がきおったわい」

 

「後ろの荷台のモノ、引き取ってくれませんか?」

 

どうやら協会の人間らしい。

すぐに頷き、荷台を覗き込む。

 

「おぉ……これまた、派手に暴れてきたの」

 

彼はダブルアイリザーから獲ったものをしげしげと眺める。

 

「もしかしてお前さんたち、ミラリアから森を通って来たのか?」

 

「ああ、ついでにこいつらを狩ってきたんだよ」

 

「豪快じゃのぉ……まあ、中に入りなされ」

 

2人が入ると、中には数人の冒険者がいるだけだった。

デクと名乗った老人はカウンターに入る。

ハツカとアーデルハイドはその前に座った。

 

「ケム! 外の荷台の査定をしてくれんか!」

 

「はいっ!」

 

その声に奥から出てきたのは少年だった。

どうやら隻眼らしく眼帯をつけている。

まだ10歳くらいではないだろうか、

けれど利発そうな雰囲気をしている。

持ち込み物の査定はその町の協会の信頼に関わる重要な役割なのだが、

それを任せてもらっているということは確かな目を持っているということだ。

 

「初めて来たんですが、港があるということは船の出入りが多いんですが?」

 

「いいや、冬の時期は海が荒れるんで交易船も来なんでな。

 この時期は漁師の上げた海産物くらいしかモノはないの」

 

他のテーブルで飲んでいる冒険者を指さし、

 

「あやつらは常連でな。この時期の仕事は商人の護衛くらいなもんさ」

 

彼らは護衛を専門としているらしい。

 

「もう3か月もして海が穏やかな時期になれば町も賑わう。

 その時にお前さんたちが買ってくれたダブルアイリザーのモノも売れるの」

 

デクが出してくれたのは深い青色をした飲み物。

 

「海が近いから海産物だけかと思われとるが、ベリーも特産品でな」

 

べリベットという名前で、青いベリーを砂糖と酒で漬けたものらしい。

一口舐めてみると、少々きつい味だが飲み応えはありそうだ。

 

「ここには白小麦もあると聞いたんですが」

 

忘れないうちに目的の一つである小麦について尋ねる。

 

「ほう、また珍しいものを知っておるな。

 まあ、パンにしてもうまくないが栽培が楽で細々と非常用に作ってはおるよ。

 パンにはもっぱら隣町から仕入れたモノを使うからの」

 

「後で価格を教えてくれよ。場合によってはがっつり買ってやるぜ」

 

アーデルハイドの言葉に首を傾げる。

 

「お前さんたち、あの小麦を買いにきたのか?

 随分と変わっておる。どこの誰が欲しがってるじゃ?」

 

探っているというよりは、純粋に好奇心から尋ねてきているのだろう。

 

「ミラリアにある宿の店主がピザを作るのに使いたいそうです。

 私たちはそこを拠点としている冒険者です」

 

隠す必要もないので正直に明かす。

 

「ミラリアに? ほう、あそこは宿すらないと聞いておったが……」

 

そこで彼女たちを見て気づいたように声をあげる。

 

「お前さんたち、もしかしてケーレンハイトにいたっていう

 ドールマスターとアイゾンウェルの魔槍か?」

 

「なんだ、アタシたちのことを知っているのか?」

 

「いや、名前だけじゃよ。お前さんたちは有名だからな。

 そうか、ゴーレム使いの冒険者なんぞそうそうおるわけないわな。

 お前さんたちが街から出て行った、ということくらいしかワシも知らなんだ。

 まさかこんなところにいるとはの」

 

冒険者の情報は協会内である程度は共有されている。

知名度の高い冒険者である二人のことだから、知っていても不思議ではなかった。

 

「何故あんな村に、とは尋ねはせんが、

 二人はギルドを組んで活動をしているのか?」

 

「いえ、成り行きで一緒にいるだけで無所属です」

 

そこへ査定をしていた少年ケムが戻ってくる。

 

「じいちゃん! これでどう?」

 

明細を見てデクは「ふむ……」と頷く。

 

「皮はザックに需要がある。あと4000ラピス乗せておけ」

 

「はいっ!」

 

彼はさっと訂正をして、リストをハツカに手渡した。

 

「これでどうですか!」

 

さて、どんな価格になったのか。

アーデルハイドが横から覗き込み、「ひゅー」と口笛を吹く。

 

「2万7000ラピスですか。正直に言うと想像以上に高値で驚きました」

 

「なんじゃ、知らずに持ってきたのか。

 ダブルアイリザーの皮は保温性に優れておる。

 それに目玉は珍味でな。

 酢でつけて熟成させたものは他国で重宝されているらしい」

 

あの気持ち悪いモノは食べることができるらしい。

狩った2人からするととても口にする気も起きないが。

 

「なあ、マスター。

 こことミラリアの行き来してくれるような商人はいねぇか?」

 

冒険者協会は町で一番情報が集まる場所であることが多く、

どうやらアデラもそうであるらしい。

このマスターであれば色々と知恵を借りられると考えたのだ。

 

「ふむ……」

 

マスターは考える仕草をする。

 

「ミラリアには今、何があるんじゃ?」

 

「私たち二人と、宿があるだけです」

 

「なら商人より先にまずは冒険者協会が必要じゃな」

 

そう断言した。

 

「協会を……? アタシたちしか冒険者がいねーのにか?」

 

「協会はお前さんたち冒険者たちのためだけにあるわけではないからの。

 その土地の窓口みたいなもんじゃよ。

 依頼を管理するということは町の者と深く関わり合いが必要であるし、

 こうしてお前さんたちのようによそモンを見極める役割もある」

 

マスターはベルベットのおかわりを注いでくれる。

 

「そこに何が必要か、何を求められているか。

 組合があれば必然的にわかってくるもんじゃ。相談役に近い」

 

「へえ……そういうものなのですね」

 

「そして、お前さんたちはギルドを組むといい。

 村の代表となるギルドがあれば、他の町からも依頼をかけやすい」

 

「ギルド、ですか」

 

ハツカはアーデルハイドの顔を見る。彼女はニヤリと笑った。

正直に言うと、彼女とあまりギルドを組みたくはなかった。

今のなあなあの状態であれば、それこそいつでも関係を切れるからだ。

 

(とはいえ、ギルドを組むメリットは確かに大事です)

 

そんなハツカの葛藤をアーデルハイドは勿論わかっていた。

実は彼女も同様だったからである。

しかし、アーデルハイドという冒険者はそんな些細なことよりも、面白いことを望む。

 

「いいじゃねぇか。お前が先に始めたことだ、ギルド名は決めさせてやるよ」

 

そして無茶ふりをしてきた。

ハツカは頭を抱える。今までギルド名など考えもしなかった。

しかし今、ここで決めてしまった方がいい。

あまりずるずると長引かせると余計にぐだつきそうだと思ったからだ。

 

「どんな名前でも構いませんか?」

 

「ああ、文句は言うけどな」

 

気楽そうにニヤリと笑う。

ハツカは安直ではあるが、思いついた名前を口にした。

 

「ギルド名は『エーデンウェル』」

 

「うわ、だっせぇ」

 

「もう決めました。これでいきます」

 

ハツカ=エーデライズとアーデルハイド=アイゾンウェルが所属するギルド。

2人の姓を混ぜただけのものだ。

 

「決まりじゃな。ケム!」

 

「はい?」

 

突然名前を呼ばれた少年にきょとんとして返事をする。

そんな彼にマスターはいきなりそれを告げた。

 

「ミラリアで冒険者協会を開業してくるんじゃ。

 お前はまだ歳は若い子供だが、ワシより優秀でもう一人前だ」

 

「ええっ!?」

 

突然のことに驚きを隠せない。

 

「いいんですか?」

 

「構わんよ、誰かの下にいるより自分で始めた方が見えることもある。

 それに冒険者協会を1から立て上げれる経験なんぞ、貴重な体験じゃぞ」

 

老人は「ワシも親から継いだだけじゃからな」と言って笑う。

 

「ケム、失敗しても帰ってくればいいんじゃよ。

 別にミラリアには元々なかったんじゃから、誰も困りはせんよ」

 

「でも……」

 

気楽に言われるが、ここで頷くことは重大な決断だ。

答えあぐねる少年に、アーデルハイドは声をかける。

 

「いいから来いよ」

 

「えっ」

 

「退屈はさせねぇよ。それとも自信がないのか、ちっせぇやつだな」

 

ハツカは深くため息をつく。

アーデルハイドは例え相手が小さな子供であっても対等に扱う。

それはある意味で美徳ともいえるし、配慮がないともいえる。

 

「……やるさ! じいちゃん、俺、行ってくる!」

 

少年はそう叫んだ。

後先を考えない決断ができるというのは、若者の特権だ。

 

「ふう……」

 

ハツカは息を吐いてから、

 

「マスター、一晩泊まります」

 

そう言ってからグラスを掲げる。

 

「新しい出会いに、もう一杯ください」

 

考えても仕方がない。

今日はとりあえず飲もうと決めた。

 




物語の性質上、新キャラがどんどん出てきますが、
いつも名前は脊髄反射で決めています。

名前はいつでも募集中。
もう名付けるのが手間です
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