ミラリアの酒場にはちょっとした人だかりができていた。
一つのテーブルを囲み、みながああでもないこうでもないと言っている。
「うーん……!」
その中心にいるのはアデラから来たケム。
彼は難しい顔で唸りながら書類の山に向かっていた。
「ここの文字、間違ってるよー」
隣に座ったユナが指摘する。
「ユナ、あまり急かしてはいけないよ。慌てると余計に間違えるからね」
反対側に座っているのは白髪交じりの男性。
落ち着いた物腰に柔和な表情からいかにも「良い人」そうな感じを受ける。
彼はユナとボーガンの父親であり、キミカという。
テキパキと書類をカテゴリ分けをしながら整理しつつ、
一生懸命と書類を作成しているケムを助けていた。
「さっそく可愛がられているじゃねぇか」
少し離れたところで、持ち帰ったベルベットをあおりながらアーデルハイドは笑う。
ハツカは同じくアデラで購入した干物を食べていた。
彼女にとって海の幸というのは今まで縁がなかったが、
このゲソという名のよくわからない生き物の足は実に美味だと思う。
「案外、協会の開設って手間なんですね」
ケムが今取り掛かっているのは協会を新たに立ち上げる申請書類。
領主に提出して認可をもらって初めて運営ができる。
アデラの協会からの推薦もあるため申請は通るだろうが、
しかしながら提出書類が減るわけでもない。
人口から村の経済状況、年間計画と冒険者管理の規律作成……
一日や二日で作成できる量ではなかった。
村のことについては村人に聞かねばわからないので適当に声をかけたのだが、
物珍しさからか色々と集まってきて、今の状況となったのである。
「しかし……随分と手馴れていますね」
ハツカの言葉が聞こえたのか、ユナは胸を張った。
「当たり前だよー。うちの父さんは昔は王都で書記官をしていたんだからー。
書類作業が元々の本業、得意中の得意なのー」
「……書記官?」
問い返すとキミカがユナにデコピンをした。
「こら、余計なことはを言うんじゃないよ。
そんな昔の話は、今は関係ないからね」
「はいー」
アーデルハイドがハツカに小声で尋ねる。
「書記官ってなんだ?」
「自信はありませんが……王都執政官直属の役職にそんな名前があったような気がします」
「……もしかして、えらいさんってことか?」
「恐らく、ですが」
ミラリアが王都に何らかの関わりがあるとは感じていたが……。
前々からハツカが思っていたことがある。
この村に住む住人は妙に「育ちが良い」ということ。
普通、辺境の村では全体で数えるほどしか文字を読める人がいない。
だがミラリアに限ってはハツカの知りうる限りでは、識字率が100%だ。
それにこの酒場で食事をしている村人たちの食べ方が非常に綺麗だ。
正直に言うと村人に比べてしまえばハツカとアーデルハイドの食べ方は汚い。
細かいところを上げればキリがないのだが、前々から違和感があった。
(もしかして……ここに住む人間はみな王都の出身ということですか?)
村が出来て20年、ボーガンやユナのような若者はここで生まれ育ったと聞くが、
その親たちはそもそもどこから来たのか。
また半数もいるエルフも、何故わざわざ里から出てここにいるのか。
「はい、お集まりのみなさん!
新しくなった名物ピザが焼けたよ!」
物思いに耽っていたハツカは、元気の良いリンデの声を思考を打ち切る。
「「おおー」」
酒場に感嘆の声が上がる。
リンデが意気揚々と持ってきたのは焼き立てのピザ。
窯の調整を繰り返した結果か、見事に焼きあがっている。
以前のものよりも生地がパリッとしているのは見ただけでわかった。
「さあ、みんな座って座って!
ちゃんと全員分あるからね!」
後ろからボーガンがえっちらおっちら運んでくる。
「はい、お二人ともどうぞ」
ハツカとアーデルハイドの前にも熱々の一枚が置かれる。
「これは……真ん中で具が分かれてるんですね」
「へえ、こいつは面白いじゃねぇか。1枚で2回楽しめるってか」
左半分は前回と同じキノコと川魚のトッピング。
右半分はアデラから持ってきたイカやタコが豪快に乗っていた。
足がたくさんチーズからはみ出ていて、正直見栄えはよくないが……
「これは……美味しい、です」
食べてしまえば、大事なのは味だけ。
ハツカは熱いのを苦労しながら食べる。
「名付けて、森の村ミラリアの奥ゆかしいキノコと川魚が出会った
港の村アデラが誇る大いなる海の恵みの雄大さを感じられるハーフ&ハーフピザよ!」
「語呂が悪いし、いい加減もう少しまともなネーミングはできねぇのかよ」
しかし2種類のトッピングが混在したものは面白いと思う。
これがどんどん増えて、クォーターピザになれば飽きずに楽しめるのではないだろうか。
また生地も色んなものを使っていければ、それだけバリエーションも豊かになるに違いない。
ある意味で、村が発展していく様が形になったものともいえる。
別にリンデが意識をしているわけではないが、このピザというのが栄養素が高い。
食べすぎれば勿論太るが、普段から質素な食事をしている村人にとっては良い刺激になるのであった。
王国では鉄板で焼く肉や、適当に食材を炒めた料理が一般的なことに大して、
このピザをメインに押し出し名物とするのは、
というのはゆくゆくを考えればあながち的外れな謳い文句ではないのかもしれない。
「ハツカ」
アーデルハイドがベリー酒をあおりながら上機嫌に笑う。
「こういうのも、悪くねぇな」
村を自分たちで盛り上げていく……そう決めたはいいが、
正直に言って2人にとって具体的なイメージがあったわけではない。
「そうですね。悪くありません」
けれど、こうして一つずつ形になっていくのが見えるというのは、
想像していたよりもずっとワクワクするということに気付かされる。
「次は、何をしましょうか」
ハツカはこれからのことに思いをはせたのだった。
ピザハ〇トとかド〇ノビザのチラシを見ながら書いたわけではありません。
あークォーターピッツァ食べたいなー。
というかこの話、既に章ごとに起承転ピザのワンパターンなルーチンに陥っているのでは……
あと少しだけ4章は続きますが、5章になってやっと、
ハツカとアーデルハイドから遅れて、三人目にして最後のヒロインが登場の予定です。
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