アデラから戻ってきて数日が経ったある日、
「メンテナンスを先にしたい、ですか」
ハツカがラエルに呼ばれて工房に行くと
数か月に1回予定の定期メンテナンスについてそう言われた。
「ああ、実は来月の2週間はうちの工房は使えなくなるんだ。
だからその前に、整備を済ませてしまいたいってことなんだけど」
奥を見るとアーデルハイドの槍が置かれていた。
どうやら魔槍は先にメンテナンスに入るらしい。
通りで朝から彼女が酒を飲んでだらだらしていたわけである。
いや、結構普段から飲んではいるのだが……
「珍しいですね。ラエルもどこかへ出かけて不在にするということです?」
「いや、そういうことじゃない。
定期的な大仕事があるんだ、この工房で。
だからその間は別の仕事ができないんだよ。
それが来月に決まったんだ」
「大仕事……ゴーレム以上の仕事、ということですよね」
彼は少し誇らしげに頷く。
「そうだ。王国、いやこの大陸でもその仕事ができるのは2か所しかない。
そのうちの一つが、ここ、ミラリアのルーンパドなんだよ」
ハツカは工房を見回して気づく。
普段はごちゃごちゃ色んなものが散乱している工房だが、
よくよく見ると整理が進んでいる。
「どんな仕事か、聞いても?」
「あー……当日の前には多分、村長から説明があるとは思う」
そう言ってから、うーんと少し考えてこう答えた。
「数あるアーティファクトの中でも、エルフたちが『秘宝』と呼ぶ代物。
元々はここのルーンパドはそれを調整するためだけに建てられたんだ」
「秘宝? そんな大層なもの、私は聞いたことがありませんね……」
「いや、多分それを見たときはわかるはずだ。
王国で最も有名なアーティファクトの一つなのだから」
その話が本当ならば、この工房の設備が充実しているわけも理解はできる。
しかし、何故そんなアーティファクトをわざわざミラリアまで持ってくるのだろうか。
「もしかして、この工房だけでなくミラリア自体がそれに関わっているのです?」
「そういうこと。だから、村を上げての『祭事』なんだ。
それが来月行われるということだ」
今まで、あえて聞かないようにしてきた。
「いずれわかる」と言われてきたことではあるが、
それがやっとわかる時が来たということなのだろう。
「結構、人も来るから物々しいこと雰囲気になるかもしれない。
おっかない人もいるからなぁ」
「アーデルハイドとどっちが物騒ですか?」
「いや、アーディのようなタイプではないよ。
けど、怒らせるとアーディよりもヤバい人はいる……それも複数人」
「……今はあえては尋ねません」
金髪爆薬の異名を持つ彼女以上。
なんとなく予感はある……王都の絡みではないのかと。
ケーレンハイトを主な活動拠点としていたハツカも、
何度か王都へは足を運んだことがある。
王国の中心というだけあり、やはり色々と規格外といえた。
逆に言うと王都にでもいかないない限り、
アーデルハイドより物騒な人間などそうそういないだろう。
「ま、そんなわけだからさ。
アーデルハイドのグロリオサの調整が終わったらミリアを調整させて欲しい」
「わかりました。魔槍の整備にはどれくらいかかりますか」
「念のため3日かな。今回は入念にしておきたい」
ハツカは頷く。
3日あるのであれば、一度アデラに行くのも悪くない。
ミリアをメンテナンスに出してしまえば、
ドールマスターのハツカに出来ることないので今のうちに用事は済ましておきたい。
「秘宝……それほど希少なアーティファクト」
ハツカは呟く。
来月に行われる祭事で見ることができるのだろうか。
それがどんなものなのか、彼女には想像もできなかった。
ちなみにこの時、アーデルハイドは派手にくしゃみをしていたという。
繋ぎの部分で短いです。
手抜ではないんです、仕方のないことなんです。