世界樹の裾〰彼女が始めた街作りの物語〰   作:テオ_ドラ

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32.「いや、先に兄上のところへ寄りたい」

「出迎えご苦労さん」

 

御者台の男がそう村人たちに言い、脇に置いてあった儀礼服を羽織る。

その儀礼服は王国騎士団の中での近衛騎士のモノ。

そして襟元に縫い付けられた紋章は水色……緑の領主よりも上だ。

全身の至るところに古傷があり、彼がお飾りの騎士でないことは一目でわかる。

 

「姫殿下、つきやしたぜ」

 

彼が馬車を止めて、後ろに声をかける。

客車の扉が開き出てきたのはエルフの女性だった。

黒色の長い髪と、すらりとした長身。

幾重にも重なった複雑な緑色のローブをまとっており、

何らかのルーンが発動しているのか淡く明転していた。

彼女はゆっくりと上品な仕草で馬車を降り、

左手を胸に当て、右手を中にいる人物に手を差し出す。

静かな笑みと穏やかな表情はまるで子を慈しむ母のよう。

 

「キルシェ=エメラルドライン……」

 

ハツカは呟く。

それが聖女のような厳かな空気をまとう女性の名前だ。

ローブに縫い付けれた紋章の色は最上位の騎士である紫、

そう彼女こそが王国最強のドールマスター。

三体の無慈悲なる天使のドールを使役し、その力は王竜すらも圧倒するという。

 

「……」

 

彼女に手を引かれて出てきたのは一人の少女。

ハツカと同じくらいのエルフだ。

こんな寒い季節だというのに、

肩を出した純白の美しいドレスを身に纏っている。

彼女はゆっくりと地面と降り立ち、周囲を見回す。

 

「ほう……」

 

少し離れたところに立つハツカとアーデルハイドを見て声を上げる。

 

「ウインから聞いてはいたが、本当に冒険者が居着いたのだな」

 

凛とした声。

ハツカのどこか背伸びした声や、アーデルハイドの不遜な声とも違う、

人の上に立つことを意識した威厳のある声だった。

 

「出迎えはもうよい。みな、寒いのだから戻れ」

 

その言葉に村人たちは立ち上がり、急ぎ足で立ち去って行った。

大半が屋敷に向かっていくところを見ると、

王女を迎える準備にしにいったようだ。

一体屋敷にどんな身分の者が来るのかと思っていたが、

滞在するのが王族であるならばこの村人たちの雰囲気も納得できる。

何故この村に、という疑問は残るが。

 

「これは……ちょっと想像してなかったぜ」

 

さしものアーデルハイドも驚いていた。

 

――セレスティ=イルガード。

 

王国……このインガード王国の第一王女である。

透き通るような緑色の髪と、王家の証である黄金の瞳。

まるで芸術品のように均整のとれた顔立ちは母譲りだという。

まだ幼さを残しているが、堂々とした立ち振る舞いはまさに王族というべきものだった。

 

「セレスティ様、またお美しくなられましたな」

 

ひざまずいて残っていた領主の言葉に、王女は小さくため息をつく。

 

「テルト。わざわざ顔を出さなくて良いといつも言っているだろう」

 

「お言葉ですがセレスティ様。貴方様を出迎えることだけが私の唯一の仕事なのです」

 

「恥ずかしいことを堂々と口にするな。

 領主であるお前の仕事は領を治めることだろう。

 ウインからも相変わらず何もしていないと聞いている」

 

「ははは、耳が痛いですな」

 

彼は立ち上がり、緊張感のない顔で苦笑いをする。

 

「では、私の仕事も終わりましたゆえ、これでお暇させて頂きます」

 

本当に顔を見せるためだけに来たらしい。。

そう思ったが、よくよく見ると馬車から彼のお付きの騎士が何やら荷物を村人に運ばせていた。

恐らく滞在中の姫のために物資を持ってきたのだろう。

だらしのない領主は軽くなった馬車で村から出て行った。

一日も滞在すらしないのはさすがにどうかと思うが。

 

「姫殿下、早く屋敷へ。この寒さはお体に障ります」

 

近衛騎士の隣にいつの間にかもう一人立っていた。

その女性の儀礼服は男の者と同じ近衛騎士の者だが、とにかく存在感が希薄だ。

全身を覆うような栗色の毛が顔も隠しており、まるで幽霊のような印象を与える。

どうやら護衛は全員で三人らしい。

王女を護るにしては少ないように見えるが、恐らくは十分なのだろう。

 

「いや、先に兄上のところへ寄りたい」

 

そう言って女性に「来るのはリゼッタだけでいい」と告げる。

 

(兄……?)

 

ハツカとアーデルハイドは声には出さないが、同じことを思っていた。

第一王女である彼女には2人の弟と1人の妹がいるが、兄はいないはずだ。

王都と縁のない2人であってもロイヤルファミリーの構成くらいは知っている。

 

「御意」

 

ゆらりゆらりしている存在感の薄い女性が頷く。

 

「では私はセーラのところへ行ってきますね」

 

キルシェはそう言って村長の家に向かっていった。

 

「んあ……あー、肩凝ったぜ」

 

残ったのは近衛騎士の男とハツカたち。

男は伸びをした後、肩をぐるぐると回していた。

 

「嬢ちゃんたちよ、聞いたんだがこのミラリアに宿を作ったんだって?

 王都からずっと御者台に座ってたから疲れいてよ、早速飲みてぇんだが」

 

「はあ……あそこにありますけど」

 

ハツカが指をさすと、男は首を振った。

 

「いやいや、察してくれよ。奢るから一緒に飲もうって誘ってんだ」

 

近衛騎士がたまたまその場に居合わせた冒険者を

飲みに誘うなんて察しろという方が無理だろう。

 

「へえ、騎士様は随分と気前がいいじゃねぇか」

 

水色の騎士というのは相当な身分なのだが、

アーデルハイドはまるで気にせずいつも通りの不遜な口調だった。

プライドの高い者であればそれだけで不敬だと怒りそうなものなのに、

男は気さくな様子で「任せろ任せろ」と笑う。

 

「一人で飲む酒ほど味気ねぇものはないからな。

 嬢ちゃん2人がいくら飲み食いしたところで問題ないぜ」

 

そう言ってから今更気づいたように

 

「グレンガだ。姫殿下の護衛を務める筋肉担当だよ」

 

筋肉を見せつけるように名乗った。

 

「ああ、2人のことは知ってるから名乗らなくていいぜ。

 このミラリアに居着いた物好きな冒険者のことは聞いているからな」

 

ハツカは自分たちのことを、一体誰がどのように伝えているのか気になった。

 

(あの仮面のエルフ、ですか)

 

王都から行き来しているというのは商人のウインしか思い浮かばない。

あの独特な雰囲気を持つエルフが何を伝えているのか。

 

「おーし、早速飲もうぜ!

 前々からミラリアにはまともな酒がなくて不満だったんだ!」

 

「おいおい、期待すんなよ。高い酒とか置いてねぇよ」

 

ハツカの何とも言えない感情など、

グレンガとアーデルハイドはまるでお構いなしに意気揚々とウグイス亭に歩いていく。

ハツカはため息をつき、2人の後に続いた。

 




なんとも地味なシーン。
そして出番は終わり、再登場の予定すらない領主さようなら。
普段どこに構えているかすら設定ございません。

そして今更王国王国と言いつつ 明記がなかったこの物語の舞台の王国の名前を書きました。ぶっちゃけると今日考えました。国名考えるの忘れていて今日まで至りました。
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