世界樹の裾〰彼女が始めた街作りの物語〰   作:テオ_ドラ

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35.「私は面白くない」

ミラリアの唯一の祭事であるといっても、

実は王女が村から帰る前日に村にしては豪勢な宴会を催すだけである。

悠久のヴィーテクスの整備は季節関係なく不定期だ。

年に1回の時もあれば3回ある時もあった。

他の街のように別段に豊穣を祝うわけでもないし、

何かの記念日というわけでもないのである。

 

「随分と馴染んでいるな、あの二人の冒険者は」

 

悠久のヴィーテクスを扱えるのは王妃とその子たちだけ。

ゆえに整備の最中に彼女も多少は調整を手伝うことはあるのだが、

基本的には普段はすることはない。

工程によってラエル以外が工房に立ち入れない時もあるので構ってもらえず、

セレスティがこうして屋敷で退屈していることの方が実は多いのだ。

 

「そうね。あっという間にこの村の中心になってしまっているわ」

 

村長であるセーラ=アルラスターはお茶を口にしながら頷く。

彼女たちがいるのは屋敷のサロンである。

広い場所というわけでなくむしろ狭いくらいだが、2人でお茶をするには十分だ。

磨りガラス越しに入る陽光が淡く部屋を照らしており、

森の中の屋敷には物音一つない静謐な空間が心地よい。

派手な調度品などはないが、それでも家具や彼女たちが持つカップ等も

非常に丁寧に仕上げられた高価なものだといいうことは疎い者でも一目でわかるだろう。

 

「どうかしら、新しいお茶なのだけれども」

 

人前では一応は王女に対して敬うように振舞うが、

こうして一対一の時は王女に対してもいつもの口調だった。

14人の古き者……村長もその一人であり、

友人の娘であるセレスティは彼女にとっても子のような存在。

エルフは長寿であるがゆえに中々に新しい子が生まれないため、

血の繋がった親でなくとも子供は特別に大切にする種族なのである。

 

「……初めて飲む味だ。変わった味がするが、美味しい」

 

飲みなれない味にセレスティは少し驚く。

いつも村長が用意してくれるお茶っ葉は

わざわざエルフの里から取り寄せたモノである。

しかしこれは初めて飲む味のお茶であった。

いつも同じお茶しか用意しない村長にしては非常に珍しい。

 

「彼女たちが別の街から買ってきたのよ。

 自分たち用に買ったそうなのだけれども、

 期待するものとは違ったからと私にくれたの」

 

村長は「酒と勘違いしてお茶っ葉を買ってきたって言うのよ」と笑う。

その表情にセレスティは少し目を丸くした。

 

「セーラは、人間が嫌いだと母上からは聞いていたが」

 

「ええ、今でも正直あまり好きではない。

 でも彼女たちは、とても面白いわ。

 今ならあなたの父が私に言った言葉も少しわかる気がするの」

 

父、というのは国王のことだ。

 

「父上は、あなたに何と言ったのだ?」

 

「今でも覚えているわ。

 彼は私にこう言ったの。『知りもしない相手をどうして嫌いになれるのか』ってね」

 

彼女は懐かしそうに目を細める。

 

「言われた時の私は、人間をことはそれなりに知っているつもりではあったし、

 あなたが生まれてからも同じだったわ。

 人間なんてみんな自分勝手で浅はかでつまらない者だって」

 

空になったセレスティのカップにお茶を注いでくれる。

 

「ハツカ=エーデライズとアーデルハイド=アイゾンウェル。

 彼女たちなりに色々考えて行動しているつもりではあるみたいだけれど、

 私からすればとても場当たり的で、

 まるで山の天気のようにクルクルと感情が変わって忙しなくて落ち着かないわ」

 

「……セーラは人間に関わらず、そういうタイプの者は嫌いだと思っていた」

 

「私もそう思っていたわ。行動を起こすなら熟慮を持ってすべしってね。

 だからそんな私では彼女たちが何を考えているか全然わからないわ。

 けど私が思いもしなかったことを突然に思いついて、

 いつもいられない様子ですぐに飛び出していくのよ。

 それがなんだかおかしくて、最近は次は何をしてくれるのか楽しみなっているわ」

 

村長は「このお茶を買ってきたみたいにね」と自分の分のおかわりを注ぐ。

もう何百年と生きているはずの彼女にしては珍しく、

子供がわくわくしているような表情だった。

 

「私は面白くない」

 

だがセレスティは少しむすっとした様子で呟く。

 

「あら、それはラエルを取られたみたいだから?」

 

からかうような口調に、彼女は素直に頷いた。

 

「そうだ。兄上は私と話していても突然にあの二人の話を始めたりするのだ。

 私がどれだけ会うのを楽しみにしているか、知っているはずなのに」

 

王都……それに王室は彼女にとっては息苦しい場所である。

父と母、それに弟や妹のことは大好きではある。

しかしそれでもやはり「第一王女」である彼女に求められる「想い」に、ずっと応え続けるのは辛い。

そんな彼女にとっていつも変わらず対等な立場で接してくれる幼馴染との時間は、

他では替えることのできないかけがえのない大切な一時なのだ。

 

「そうね、ラエルも少し変わったかしら。

 ここ最近は冒険者たちが持ち帰ってくるモノや

 土産話を楽しみにしているらしいわよ」

 

「……兄上は、ずるい」

 

村長はその様子を微笑ましそうに見つめていた。

普段の彼女はこうもストレートに感情を見せることがない。

セレスティはまだ15歳ではあるが、年齢よりも落ち着いている。

王国で初のハーフエルフであり第一王女という立場に立つ彼女のことを、

同じように理解してあげられる者などこの世界にはいないのだから。

常に視線を意識して、両親や国民に応えようと背伸びを続ける様は立派ではあるが、

それは無理をしているようにも見えてしまう。

エルフたちはだからこそ過保護に彼女と接してしまうのだが、

それが正しいかどうかいつも悩んでいた。

長き時を生きてきたエルフたちにとっても、初めての経験なのだから。

だが、今の彼女の姿はどうだ。

本心を隠すことなく幼馴染や冒険者たちに嫉妬する様は、

まさしく年相応なものではないか。

 

(私が想像した以上に、彼女たちの存在は人を動かしていく)

 

そもそもミラリアの役割を考えれば、

冒険者たちの定住は止めるべきだったのかもしれない。

だが彼女にしては本当に珍しく「気まぐれ」で許可した。

それが連なり巡り廻り、今、こうして愛しき姫君にも変化を与えている。

こんなことになろうとは、誰が想像できただろうか。

 

コンコン……

 

ノックの音に2人は扉に視線を向ける。

 

「姫殿下に来客が来ております」

 

扉の向こうから聞こえてきたのは護衛のリゼッタだった。

 

「あら、誰が来たのかしら。用件は聞いてるの?」

 

村長が尋ねると、近衛騎士は少し躊躇しているようだった。

 

「アーデルハイドという冒険者です。

 用件は……」

 

寡黙で実直な彼女が言葉を言い淀むのはとても珍しい。

長い付き合いであるセレスティにとってもそんなリゼッタは初めてだった。

 

(さて、魔槍を振り回す騒がしい冒険者が果たして姫様に何の用なのかしらね)

 

村長にとっては彼女が何をしにきたのか、まるで想像がつかなかい。

権力にごまを擦るタイプでもないだろう……では一体何を言いに来たというのか。

 

「それが」

 

リゼッタが告げた用件は、セレスティと村長をポカンさせるには十分だった。

 

「――姫殿下を釣りに誘いに来た、とのことです」

 

 




こんなことになろうとは、誰が想像できただろうか。
⇒作者も最近考えた話の流れなので たんなる思いつきです

設定上、今の季節は雪は積もってないけれどクソ寒い真冬、
そんな時に少し離れた湖まで釣りにわざわざ誘いにくるアーデルハイドは明らかに間違ってます。

ありがたいことに、もうすぐユニークアクセスが1000にいきます。
なんだかんだで連載も止まらず続いてるものです、はい
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