世界樹の裾〰彼女が始めた街作りの物語〰   作:テオ_ドラ

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39.「私は私のやり方でミラリアに居場所を作る」

木々をなぎ倒す破壊の音が森の中に響き渡る。

まるで土砂崩れでも起こしているかのように引っ切り無しに続く轟音は、

聞く者たちに本能的な恐怖を感じさせるだろう。

それは獣や鳥たちにとっても同じで、みなが我先にと逃げ出す。

そんな中、彼女たちも同様に逃げていた。

 

「ったく、なんでこんなことになりやがった!」

 

槍を肩に担いだアーデルハイドが悪態をつきながら駆ける。

 

「決まっているでしょう!?

 あなたが余計なことをしたからです!」

 

少し離れた位置をハツカの乗るゴーレムも走っていた。

 

「ガァァァァァァァァァァ!」

 

彼女たちを追いかけるのは、一角の竜だ。

体長は5メータほどで薄緑色の鱗に覆われた短い四足で歩くタイプ。

あまり走るのが得意な竜ではないが、

それでも全速力で獲物を追いかければ結構な速度である。

 

ドォン……ドォン……!

 

竜、というにはずんぐりしたフォルム。

その何より特徴的なのはその額についた長い角だ。

体長と同じほどもある長く鋭い形をしており、

それをぶんぶんと振り回している。

切れ味が高いわけではないが非常に強固なため、

竜のパワーも相まって周囲を薙ぎ払いながら進んでくる。

その竜の名はサンチェリス。騎竜の中でも獰猛と恐れられる種だ。

 

「ちっ、くらいやがれ!」

 

少し距離を稼いだアーデルハイドが振り返り、

魔槍の先端から強力な火球を放つ。

並の獣であれば一撃で黒こげにする攻撃だが……

 

「オォォォォォ!」

 

雄たけびを上げる竜の全身を焼くも、

それでもなりふり構わずに突っ込んできた。

ダメージは確実に与えている……

だが怒り狂う竜はその程度で怯んだりはしなかった。

鱗から煙を吹いているというのに、それでもその勢いは衰えない。

 

「クッソが!」

 

直接突き刺して火を叩きこめば倒せるかもしれないが、

あの角の猛攻をかいくぐって一撃を与えるのはあまりにもリスキー。

今まで戦った牙竜とは騎竜はレベルが違うのだ。

騎竜を狩るつもりであれば、

それこそ事前に入念な罠を仕掛け大人数のパーティで挑む必要がある。

それほどまでに強力であり、今までも多くの冒険者たちが命を散らしてきた。

いくらハツカとアーデルハイドの戦闘力が高いとはいえ、

こうして遭遇戦ともなれば撤退するしかない。

 

「まずいです……」

 

ハツカはゴーレムを駆る自身の集中力が切れてきていることを自覚していた。

また並走するアーデルハイドの疲労も顔に色濃く出ている。

このままただ逃げるだけでは、

無尽蔵の体力を持つ竜に追いつかれていつかはお終いがきてしまう。

倒すにしろ逃げるにしろ有効な手段が思いつかない……。

差し違える覚悟で戦えれば勝てるかもしれないが、

どうしてこのような何でもない場面でそのような戦いに挑む必要があるだろう。

 

「けれど体力があるうちに、という考えもありますが」

 

だがその時、彼女の知る獣が現れた。

 

「……えっ?」

 

ハツカとアーデルハイドが走る先から

逆に向かってきたのは狼のような獣。

淡いピンク色の毛並みを優雅になびかせて駆けてくる。

 

「あいつは、確かウインとかいうやつの……?」

 

2人と獣はすれ違う。

一瞬だけ、視線が交差した。

 

「待ってください、危険です!」

 

獣に言葉が通じるかわからないがハツカは叫ぶ。

だが獣……ホノカはむしろ加速して暴れまわる竜へと突っ込んだ。

 

「……」

 

迫る獣を視認した竜は、雄たけびを上げながら角を振り回す。

横薙ぎの一閃は当たれば即死……だがトンッと軽く跳び上がりホノカは上に避ける。

だがサンチェリスは力任せにすぐ切り返して狙ってきた。

空中に跳ぶホノカに避ける術はない、そのはずだったが

 

ひょいっ。

 

獣は空中を蹴り、ひらりひらりと華麗に舞いながら避けていく。

まるで見えない壁を蹴るように跳ぶ様は明らかに物理法則を無視している。

その不思議な動きにさしもの竜も混乱しているようだった。

獣が舞った場所には淡い残像が残っていく。

竜の周囲を跳びまわり、その残像たちはゆっくりと敵に迫っていった。

 

「……!?」

 

竜からすれば1匹しかいなかったはずの獣が、

どんどんと増殖していくように見えるのだろう。

先ほどまでの暴れまわっていた様子から一転して、右往左往を始めた。

足を止めてしまうサンチェス。

そして残像が竜に触れる。

 

ドゥンッ!

 

轟音が森に響き渡る。

いかなる力が発動したのか、竜の鱗の合間から爆発が起こった。

そしてその爆発は1回ではない。

 

ドゥンッ!ドゥンッ!

 

次々と迫る残像が触れるたびに、竜は内部が炸裂していく。

強固な鱗に覆われた体も、その内側は普通の獣と同じ。

成すすべもなく、竜は断末魔の叫びをあげ血を噴き出しながら絶命した。

 

ストッ。

 

軽い足音を立てて、何事もなかったのようにホノカは着地する。

ただの獣ではないとは思いっていたが……想像以上に謎の存在だ。

 

「お疲れ様、ホノカ」

 

そんな獣を労う声。

ホノカが走ってきた方向から聞こえてきた。

この獣がいるということは、その相棒も当然いるわけだ。

 

「助かりました、ウイン」

 

馬車をゴトゴト鳴らしながら、仮面のエルフが現れた。

相変わらず淡々とした口調のため、感情が見えない。

 

「お礼はホノカに言ってほしい。

 この子が君たちの匂いを気づいて助けに行ったから」

 

ホノカが軽やかな足取りでウインのもとに行く。

ちょこんと行儀よく座り、早く早くと視線で何かを催促していた。

 

「はい、2人を助けてくれたご褒美」

 

ウインは懐から出したサイコロ上の黄色の塊を上げていた。

 

「そいつはなんだ?」

 

「チーズ。ミラリアで食べてからホノカがはまってね。

 こうして何かある度にねだるようになった」

 

ウインが投げホノカは華麗に空中でパクッとキャッチしていた。

 

「そういえば、ミラリアで姫君と話したって?」

 

チーズを上げながら、世間話をするように軽く話しかけてくる。

 

「ええ、確かに話しましたが。

 彼女と王都で会ったのですか?」

 

「何を話したのかまでは聞いてない。

 けれど、君たちは一躍に時の人になってるかな」

 

ハツカとアーデルハイドは顔を見合す。

話の流れがまるで読めなかった。

確かに2人ともそれぞれ、王女とは会話をしている。

だがそんなに面白い話をした覚えはない……

 

「……まさか、悪い方ですか」

 

むしろ、相手の立場を考えずに色々好き勝手言ってしまった気がする。

 

「おいおい、ンなわけねぇって。

 アタシたちが不都合なことを言ったんなら

 傍にいた近衛騎士が先に黙ってなかっただろうよ」

 

アーデルハイドが肩を竦めて笑う。

だが、ウインは首を振った。

 

「当たり。一部の騎士たちが随分と怒っていた」

 

「え……」

 

何故そんなことになったのか。

いや、王女がどう伝えたかにもよるが……

アーデルハイドの言う通りそれならその時に騎士たちから文句を言われたはずだ。

 

「まだあまり公にはしていないけれど、

 セレスティ第一王女は王位継承権を放棄なさった」

 

脈絡がなさすぎる突然の報告。

事実だとすれば、かなりの大ごとだ。

公にしてないとはいえ、関係者はかなり慌てているだろう。

 

「あの、私たちがそのことに関与しただなんて誤解はまさかないですよね?」

 

不穏な流れに、恐る恐るハツカは尋ねる。

まるで心当たりはないが……

 

「お前たちが言ったのだ。私の好きなようにしろと」

 

その声はウインの乗る馬車の荷台から聞こえてきた。

何度か聞いたことがあるその声は……

 

「なんだ、冒険者というのは自分が言った言葉も覚えていないのか?

 私はあれだけ好き放題言われて、非常に腹が立ったことを忘れたくても忘れない」

 

豪華なドレス姿ではなくウインと似たような旅装束を身に纏った少女がそこに立っていた。

セレスティ=イルガード。

まさに話題にしていたイルガード王国の第一王女様だ。

ミラリアから少し離れたこんな場所で偶然出会う相手ではない。

 

「おいおい……ムカついたからってわざわざこんなところにまで殴りにきたのか」

 

「勘違いするな。

 腹立たしかったのは確かだが、別にお前たちにどうこうするつもりなどない。

 たまたまここを通りかかったところを、ホノカが助けただけだ」

 

よしよしとホノカの頭を撫でてあげる。

獣は気持ちよさそうな顔をしてペタンと地面にお座りをしていた。

 

「それで、王女様はどうしてここに?」

 

尋ねるハツカに王女は笑い、

 

「そんなこと、決まっている」

 

胸に手を当てて言葉を告げた。

 

「私も兄上がいるミラリアに住むことにしたのだ」

 

突然の言葉にハツカとアーデルハイドがぽかんとする。

その様子に王女は満足そうに頷いた。

 

「私は私のやり方でミラリアに居場所を作る」

 

その言葉を告げた彼女の声は、今までできっと一番に生き生きとしていただろう。

 

 

――世界樹の裾にある村、ミラリアで紡がれる物語。

その舞台の中心で活躍する主役たちはこうして揃った。

けれどまだ物語は始まったばかり。

ハツカ=エーデライズ。

アーデルハイド=アイゾンウェル。

そしてセレスティ=イルガード。

今語ったのは彼女たち三人が描いていく物語の序章でしかない。

 

これから村には様々な想いを抱えた人々が集まる。

誰もがその先に、光を求めて。

ミラリアという場所で、人々は生きていく。

 

この先に待っているのは、暖かな日差しのような物語。




第一章「彼女が始めた街作りの物語」はこれでおしまいです。
大体、単行本にすればちょうど1冊にあたる文章量となります。

2章からはギルドの新しい仲間の話だとか、
村に住み着いた姫様の話だとかの予定ではありますが、
とりあえずひとますばキリがついたので休憩します。
1章終了時点での登場人物紹介は書こうと思いますが、
物語はの続きはまたおいおいということで。

もし最初から読み、ここまで読み終えてくれた方がいれば、
気軽に感想など書いてもらえれば、次回以降の更新の励みになったりします。

転生だったり、チートな能力であったり、
ハーレム的な話でもないし、凄く特徴ある人物もいない地味な話ではありますが、
読んでいて安心できる話を書いていけたらなと思ってます。
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