ガンランスの話をしよう。   作:はせがわ

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千の言葉より残酷な“ガンランス“という説得力。

 

 

「 この村からっ、出ていけぇぇえええーーーーーっっっ!!!! 」

 

 その日、とある小さな村の広場に、杖をついたヨボヨボの老人の怒声が響き渡った。

 

「あぁ! まさか我が一族から“ガンランサー“が出てしまうとはっ!

 もう貴様はっ、この村の人間ではなぁぁあああーーいッッ!!」

 

 頭はハゲ上がり「まさに村長!」といった風貌の老人が、目の前の少女に言い放つ。怒りで顔面を真っ赤に染めて。

 

「……オイ聞いたか? ガンランサーだってよ……」

 

「なんて事なの……。

 まさかガンランサーがこの村に居るなんて……」

 

「あぁ忌まわしい……。

 見るのも憚られますわガンランサーなんて……。汚らわしいですわ……」

 

 怒声を上げる村長と、身体を竦ませて立ち尽くしている娘。そんな二人の周りを村人たちがヒソヒソしながら取り囲む。

 あぁおぞましい、おぞましいと、皆一様に嫌悪の目を向けて。

 

「ガンランサーはゴミじゃ! ろくでなしじゃ! 人間のクズじゃ!!

 もうガンランスを見ただけで吐き気がするっ! このうんこ娘が!」

 

「そうだそうだ! ガンランサーはクズだ! まったくその通りだ!」

 

「出て行けガンランサー! アホの金メダル!! アホの三階級制覇!!」

 

「「「 出て行け! 出て行け! 」」」

 

 ガンランスは悪! ガンランスは敵! ノーモアガンランス!!

 そんな村長に呼応するかのように、どんどん村人たちの声も加わっていく。

 まるでこの世の悪の全てが、ガンランスのせいであるかのように。

 ガンランスこそが悪の根源であると、そう言うかのようにして。

 

「立ち去るがよい、うんこウーマン! 忌まわしきガンランサーよ!!

 二度とこの村の門をくぐるでないぞッッ!!!!」

 

 杖をビシッとカッコよく突きつけ、村長が少女にそう通告する。

 石を投げ、少女に心無い罵声を浴びせる村人たち。

 優しくて、暖かくて、大好きだった人たち……。

 

「 うっ………うわぁぁぁあああーーーーんっっ!!!! 」

 

 少女が走り去っていく。涙と鼻水をそこら中にまき散らし、顔をグシャグシャにしながら。

 

「 うえぇぇええん!! うえぇぇぇえええーーーんっっ!!!! 」

 

 

 その日、生まれ故郷を追い出され、ひとりの少女が孤独な旅路へと出る。

 泣きながら走るその背には、一本のアイアンガンランスが背負われていた――――

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

「あの……ぼくも狩りにつれていってくれませんか?」

 

 時は流れ、ここはハンターたちの賑わう集会場の酒場。

 今、その背に大きな大きな狩猟笛を担いだ幼い少年が、ひとり酒場の席で佇んでいた女性に声をかけた。

 

「ぼく、今日はじめて集会所にきたんです。

 まだハンターになったばっかりで、右も左もわからなくて」

 

 少年はモジモジと恥ずかしそうに話しかける。

 くねくねと身体を揺らす度、背中に背負われた狩猟笛の先がメトロノームのように揺れている。

 少年の容姿はとても幼く、年頃もまだ10歳かそこらだ。

 その身長も背負っている獲物の半分ほどしかなく、傍目から見ればもう少年が喋っているのではなく、その背にあるランポスバルーンが話しかけて来てるのではないかと思えるほど。

 

「だから、狩りの事おしえてもらえたら、うれしいなって。

 ……えっとあの、おねぇさん……?」

 

 もし立ち話をしていたのならば、その身長差のせいで少年に気が付かず、本当にランポスが喋っているのかと勘違いしたかもしれない。

 だが現在その女性は席についており、その目線はちょうど少年を捉える事の出来る高さのハズだ。

 しかし、その女性は少年に声を返す事は無かった。

 それどころか、少年に話しかけられた途端に、キョロキョロと後ろを見渡し始めた。

 まるで「え、私の後ろに誰かいるのかな? まさか守護霊が見える人なのかな?」といった具合に。

 まさか自分に話しかけているなど、夢にも思っていないような様子。

 

「おねぇさんっ、おねぇさんにです! ハロー! 

 ぼくは今おねぇさんに語りかけてるんですっ。おはようございます!」

 

「 !?!? 」

 

 ビックリして〈ピョーン!〉と座ったまま飛び上がる女の人。さすがハンター、無駄に高い身体能力。

 女の人はオロオロと辺りをみまわし、今この場には霊長類人科人間の雌にあたる存在が自分しかいない事を急いで確認。

 そして驚愕の表情を持って、少年の顔を見つめる。

 

「……………ごっ」

 

「ご?」

 

 目を見開き、少年を見つめ続ける女性の人。なにやら「ごごごご」と地鳴りの声帯模写でもしているかのように呟く。手もなんかワチャワチャと動いている。

 

「……ごきげん麗しゅう、プリティ」

 

 そして、やっと絞り出した言葉がこれである。

 

「あぁ、すまない。

 えっと……、もしかして君は、私に話しかけて来てくれたのか?

 他でもない、この私に? 私には見えない類のモノにではなく?」

 

「はい、おねぇさんに。

 おねぇさんの背後のナニカを見る能力は、ぼくにはないです」

 

「そ、そうか。ならばプリテ……いや少年よ、いったい私に何用だろうか?

 あ、私などが一席とはいえ、

 限りある貴重な酒場のイスを占領するのは拙かっただろうか?

 私みたいなモンはイスなどという大層な物を使わず、

 豚やイモムシのように地べたを這っているのがお似合いだという……」

 

 なにやらメチャクチャな事を言い、即座に立ち上がって席を譲ろうとする女の人。ショタっ子の少年は一生懸命それを阻止する。

「わー!」なんていいながら、ちいさな身体を目一杯つかって。

 

「そうか、ありがとう少年。

 てっきり私には、イスに座る権利など無かったのかとばかり……。

 これからも更に精進し、頭を低くして生きていこうと思う」

 

 この子はなんと心優しい少年なのだろうか。私に声をかけてくれたばかりか、私の存在を承認してくれているではないか。君は私にとっての光だ。

 乙女がキラキラと目を輝かせるも、はやくも心が折れそうになっている少年。

 というか、何故このおねぇさんはそんな卑屈な事を?

 この少年から見ても目の前のおねぇさんは、それはもう凄く綺麗な人だったのだ。

 

 キラキラと輝く、ブロンドの長い髪――――

 この上なく優しく、柔らかい微笑み――――

 胸元の空いた白いドレス。豊かで女性らしい身体。清楚な雰囲気――――

 

 どこをどうみても、彼女がそんな言動をする理由がわからない。

 その背中には今も、立派なハンターである証として“ガンランス“だってあるじゃないか。

 

「あっ、すまない少年。 失礼をした」

 

 そう言って彼女は、どこからか取り出したブルファンゴフェイクをスポッと被る。

 唐突ではあるが、“怪奇! ブタ人間!“の誕生である。

 

「人と会う時は、出来るだけこれを被っていようと決めていたのに……。

 ひとりでいた為につい油断をしてしまった。どうか許しておくれ」

 

「……えっと、どうしてブルファンゴの被り物なんかを……?」

 

「いやなに。

 私のようなモンは、常にブタのマスクでも被っているべきなのだ。

 本来ならばこれは男性用のフルフェイスverなのだが、

 私は気合の入ったブタなので、特別な許可を得てこれを装備している。

 どうだ? どこからどう見ても、いっぱしのブタ女だろう?」

 

 ブヒブヒ、ブヒブヒ。

 これに関してはちょっと自信があるのだとばかりに、満足そうにブヒブヒ頷いている女の人。ブルファンゴのフェイスが上下にブンブン揺れる。

 というか、少年はブタ女という単語を初めて聞いた。

 

「このマスクを被っている時だけは、自分が自分らしくいられる気がする。

 まるで母親の胸に抱かれているかのような、この安心感……。

 私の前世はきっとブタだったのではないだろうか? 君はどう思うブヒ?」

 

「分かりません。おねぇさんとはさっき会ったばかりです。

 その語尾やめてください」

 

 少年は、言うべき事は言うタイプのショタっ子であった。

 

 

………………………………………………

 

 

「えっと、ぼく狩りに出かけるのは、今日が初めてで。

 だからおねぇさんに、狩りの事を色々おしえてもらえたら、うれしいなって」

 

 その後、すったもんだあった後、ようやく少年は要件を切り出せた。

 彼女の破天荒な言動に心を折られそうになるも、少年はとても付き合いの良い子であったのだ。

 辛抱強く、彼女の話を聞く事に成功していた。

 

「そうか。君は私を狩りへと誘ってくれていたのだな。

 ……って、え!? 私をっ?!」

 

 もうそろそろ、このおねぇさんとの付き合い方が何と無しに分かってきた少年である。

「ですです♪」と、まるで幼子に言い聞かせるようにして、優しく対話していく。

 

「ま……まさか私を狩りに誘う人間が、いようとは……」

 

 それは、呟くような小さな声だった。

 聞き取る事が出来ず、「はてな?」と首を傾げる男の子。

 

「そうか、私とか! 私と狩りに行きたいと言うのだな君は!!

 …………もし差支えなければ教えて貰いたいのだが、

 君の前世は、もしや天使か何かだったりしないだろうか?

 私、恐らく前世はブタだったりするのだけれど、

 後で問題になったりはしないだろうか」

 

 いや、哀れな私に降臨なされたリアル天使さまという可能性も……。しかしブタである私に……?

 ウムムと唸り続けるおねぇさんを、少年は辛抱強くお待ち申し上げた。

 

「とりあえずは、君はどんなクエストに行きたいのだろうか?

 私でよければ、ぜひお手伝いさせて頂きたく存じます、マイエンジェル」

 

 私いっしょうけんめい閃光玉投げる! 粉塵も使います! いつもネコさんが交易で素材をくれるのです! そんな風にフンスフンスと興奮しているおねぇさん。

 ついさっき、会話の中でひとつ痛烈に気になるワードが確認されたものの、その件はスルーして話を進めていく男の子。我慢の子。

 

「えっと、できればドスランポスに行けたらいいなっておもってます。

 ぼくのこの笛は貰い物なんだけど、

 ドスランポスの素材があれば、たしか強化ができ…………」

 

 ガッシャーンと、おねぇさんがコップを落とす音が響く。

 その肩は、なにやらワナワナと震えているように見える。

 

「ど……ドスランポスだと……?

 まさか君は……あんな恐ろしい魔獣に挑もうと言うのか!」

 

「えっ」

 

 肩をすくめ、両手で自分を抱きしめるようなポーズのおねぇさん。

 まるで恐怖しているような仕草に見える。見た目は白いドレスのブタ人間だが。

 

「どんなハンター根性なんだ君は! 挑む青春か!?

 先ほど君は“新人だ“と言っていたように思ったが、

 私の聞き間違いだったのだな」

 

「えっ」

 

「いや分かった。こうなれば私も女だ。

 ブタである前に、“女は度胸“を旨とするひとりの女。

 久しくドスランポスとは戦っていないが、私でよければ喜んで協力をしよう。

 あれほどの鬼畜モンス相手に、私などが役立てるかどうかは正直わからないが」

 

 乙女は「心から感服致した!」とばかりに自分の膝をスパーンと叩き、ウンウンと頷いている。

 まるで死地に向かう主を全身全霊を持って守るという、そんな覚悟を固めた忠臣の如くの顔だ。

 

「……あの、おねぇさんは、ドスランポスって……」

 

「ん? あぁ私はドスランポスとは“まともに“戦えた試しは無いぞ。

 あれはいったいどんな神様が考え出したクリーチャーなのだろう?

 きっと自分が殺した相手の墓に唾を吐きかけるような……、

 そんな鬼畜生なドS神に違いない。アーメン」

 

 こんな私でも、いつかドスランポスとまともに渡り合える日が来るのだろうか?

 乙女にはふざけている様子など微塵もなく、至極真面目にそう言っている事が少年にも見て取れる。

 

 だが、それはありえないのだ――――

 だって新人である少年にも分かる。目の前のおねぇさんが背中に担いでいる武器は、間違いなくとても貴重な物。

 詳しい事までは分からなくとも、少なくともそれが店売りの量産品などではなく、今まで強力なモンスター達を倒し続けてきたハンターだからこそ生産出来る、そんな凄い武具である事は明らかだったから。

 

「ふふ……腕が鳴るな。

 久しぶりに血で血を洗う、ルール無用の残虐ファイトの予感がする。

 主に私に対して」

 

 せっかくだから、君には私の口座番号を教えておこう。万が一私が倒れし後は、この遺産を有効活用してくれると幸いだ。農場などを経営する際のノウハウについては……。

 そんな事を乙女が大真面目に語り出した時、――――突然男の子の足が地面から離れ、身体が宙へと浮き上がった。

 

「オイ何してんだ坊主! こっちへ来いッ!!」

 

「ダメじゃないのボク! さぁ! 私たちとおいで!!」

 

 まるで疾風のように駆け寄って来た二人の男女により、男の子は小脇に抱えられて、どこかへ連れ去られていく。

 男の子は声を上げる間もなく、一瞬にしてこの場から居なくなっていった。

 

「……あっ」

 

 ひとりこの場に取り残されたまま、その様子をとても悲しそうな目で見送っている、ガンランサー。

 

 誰かが来たのは、分かっていた。 反応だってちゃんと出来ていたのだ。

 しかし彼女は、その場から一歩も、動く事が出来ずにいた――――

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

「つか坊主は新人だったんだな!

 たまにはドスランポスってのも新鮮でいいモンだ!!」

 

 そういって男の人は、力の限りにチャージアックスを振り回す。

 

「そうね、今日が初めてだったなら、知らなくたって仕方のない事だわ」

 

 ショートカットの操虫棍使い使いが、的確にドスランポスの身体を切り裂いていく。

 

「おぉ坊主!

 お前初めてって割には、ちゃんとサポート出来てんじゃねぇか!

 こりゃ今からツバ付けとけば、将来は笛の名手を仲間に出来っかな?」

 

 チャアク使いの獲物が、空中高くドスランポスの身体を跳ね上げる。

 瞬殺。楽勝と言っていい程の速さだった。男の子の左手にある腕時計は、未だ5分針にすら到達していなかった。

 

「ほぃ一丁あがりっと! おら剥いどけ剥いどけ坊主!

 頑張ったお前には、俺らの分もくれてやっからよ!」

 

 

 

 …………あの後男の子は、このチャアク使いと操虫棍使いの二人に連れられ、共にドスランポスのクエストに参加していた。

 二人は心からの好意によって男の子に付き添い、先輩ハンターとしてクエストに協力してくれたのだ。

 

 最初男の子は、何故あの時おねぇさんから引き剥がされたのかが、分からなかった。

 しかしあの場から無理やり連れだされ、少し離れた場所に移動したその瞬間、二人による嵐のようなお説教が男の子を待っていたのだ。

 

「ダメじゃない! いくら手伝いが欲しくても、ちゃんと相手は選びなさい!!」

 

「お前いったい何考えてんだ!?

 あの女の背中にあるモンが見えねぇのかッ!!」

 

 ――――ガンス、ガンランスだ。

 新人である男の子は、今までその名前と見た目くらいしか知らなかった物。

 ガンランスはただの金属の塊とは違い、現代の加工技術の粋を集めた巨大な大砲の先に銃剣を取り付けた、カッコいい狩猟武器。

 しかし彼らはまぎれもなく、あのおねぇさんが“ガンランサーである“という事をこそ問題としていたのだ。

 

「貴方、近接武器でしょう!? いくらカリピスト(狩猟笛使い)とはいえ、

 ガンサーなんかと組んじゃダメじゃない!!」

 

「狩りになんかなるもんかよ! モンスと戦うどころじゃねぇ!! 

 ガンサーと狩り場に出るなんざ、勝負を捨ててるようなもんだろうが!!」

 

 そう真剣な表情で語る二人の姿に、男の子はただ黙って聴く事しか出来ずにいた。狩りの事を何も知らない自分は、二人に言い返す言葉を持たないのだから。

 

 手伝いが欲しけりゃ俺たちが付き合ってやる! さぁどのモンス行きてぇんだ坊主!?

 そんな二人の迫力に押され、ワケのわからないままに男の子は「ドスランポスだ」と答え、そして現在に至る。

 自身初めての狩りを、こんなにも頼りがいのある先輩二人に手伝ってもらえた。これはきっと自分にとって、願っても無いほどに幸運な事だったのだろう。

 こんなにも快く、気持ちのよい程の善意で、狩りを手伝ってもらえたのだから。

 

 ――――行くぞ坊主! だからもう二度とガンサーに近づこうなんざ、思うんじゃねぇぞ!

 

 だけど、出発する時にかけられたあの言葉が、いまも胸を離れない。

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

「もうね? チョーかわいいのっ!

 こ~んな小さな身体で、しっかりとクルクル~って笛を操っててね?

 それに旋律効果だってもうバッチリ!

 この子の笛を聴くと元気100倍って感じ! 萌えるわよ!」

 

 狩りから酒場へと帰還後、今日の男の子の戦いっぷりを、操虫棍使いの女性が熱っぽく語る。

 

「いいなっ! すごいじゃん!

 ねぇボクぅ~? 今度わたし達とも一緒に狩りいこうよぉ~。

 おねぇちゃんがバッチリ守ってあげるからっ」

 

 そんな操虫棍使いの話を聞き、顔見知りのハンターたちもワーキャーとテンションを上げている。

 テレテレと身体をモジモジさせる男の子の姿に、大人達の心はもうハックスハート。

 貴重な笛使い。加えてこの愛らしい容姿。皆に大人気の男の子なのだ。

 

「おいお前ら! こいつぁ将来俺達のPTに入んだからな!

 ツバつけんじゃねぇぞオイ!」 

 

「えー。いいじゃんケチっ!

 アタシたちもこの子となかよくしたい! キャッキャウフフしたいっ!!

 日々のむっさい狩りに癒しを! 潤いを!!

 ショタっ子は人類の宝なのよッ!!」

 

 独占反対! ショタっ子独占禁止法よ!! そんな風にギャーギャー騒いでいるハンターたち。

 気のよい仲間。心から笑い合うハンターたち。

 ここにはもう、本当に良い人しかいないという事が十二分にわかる光景。

 

「坊主、また手が欲しい時ぁ、いつでも声をかけな?

 はやく俺達と同じランクに上がれるよう、いくらでも手を貸してやっから。

 お前だったらすぐさ」

 

 絆。共に狩場に立ち、同じ集会所に集まる仲間。

 そんな暖かい絆を、ひしひしと感じる。

 ――今日からお前も、俺達のダチだ。

 その言葉に心からの感謝を告げ、手を振るみんなに見送られながら、男の子は集会場を後にした。

 

 

………………………………………………

 

 

 “ガンランスお断り!“

 

 \ ババーン! /と大きく書かれたその看板を見て、少年は言葉を失う。

 

「なっ、何故だオヤジ殿!

 なぜ私のガンスを整備してくれないのだ!」

 

「えぇ~い! うるさいわい、このガンランサーがっ!

 帰れ帰れ! お主がおると運気が下がるわい! なんか風水的に!!」

 

「むきー!」とばかりに縋りつく、あのガンランスのおねぇさん。それをドタバタと追い返そうとする加工屋のオヤジ。

 帰路に着いていた少年がふらっと加工屋に立ち寄ってみれば、そこには壮絶なバトルが勃発していた。

 

「ファンゴか?! このファンゴなフェイスがいけないのか?!

 だったら今度はモスフェイクを被ってくるっ!

 私は決して怪しい者ではないのだ!!」

 

「充分あやしいわい! このデカ乳ドレス豚が!」

 

 でもこれオヤジ殿が加工してくれたんじゃないか!

 やかましいわブタ娘! 誰がそんなファンシーなモン、本当に被ると思うか!!

 乙女とオヤジさんは、ワーワーと店先で暴れまわる。

 

「誰がガンランスの整備なんぞするものかっ!

 触るのもおぞましいわ! そんな欠陥武器!!」

 

 ピシャーンと雷に打たれたように、〈ガーン!〉みたいな表情をする乙女。どうやらこの加工屋は、ガンランスを扱う事自体を拒否している事が見て取れた。

 

「出て行けガンランサーめ! 二度と顔を出すでないわ!!」

 

「う……うわぁぁぁあああーーーんっ!!!!」

 

 ガンランスのおねぇさんが泣きながら走り去っていく。両手をバンザイにしながら、まるで子供みたいに走っていった。

 それにしても器用にブルファンゴの瞳から涙をまき散らしていたが、アレはなにか特殊な加工でもされている一品なのだろうか。謎の技術。

 

「……ったく、あー縁起悪い! くわがらくわばらっと。

 おぉいらっしゃい坊主! 見ない顔じゃなぁ!」

 

 店先に塩を撒きながら、ポケーっと立ち尽くしていた少年に気づいたオヤジが声をかける。

 どうぞ見ていっておくれ。それとも背中の笛の強化かの? さっきまでがウソのように、とても愛想よく対応してくれる。

 

「あの……オヤジさん、今のおねぇさんって……」

 

「ん? あの腐れファ〇キンガンランサーの事かの?

 たまに来よるんじゃよ、あのメス豚は。

 ウチはガンスの整備はせんと言うとるのに……、しつこうてのぉ」

 

 まったく困ったもんじゃ。ろくなモンじゃないわい。オヤジは「やれやれ」と首を振っている。

 

「まったく……何を考えてガンスなんぞ握っておるのやら。

 重いわ、弱いわ、死ぬほど扱いずらいわ。

 おまけにガンランスの砲撃は、使えば刃の切れ味まで落とすんじゃぞ?

 しかも威力は雀の涙。普通に斬った方がはるかに強いときた。

 いったい誰が使うというんじゃ、あんな欠陥武器」

 

 しかもガンスの整備には、独自の技術が必要じゃしの。凄く手間もかかるし、加工屋的にも、とてもじゃないがワリに合わんよ。

 オヤジさんは誰に聞かせるでもなく、そう呟いている。

 

「それにな? ガンランサーなんてモンは変わり者である事以上に、

 もうハンターの間では“嫌われ者“の代名詞なんじゃよ。

 ガンスを握っとる……、それだけで皆、ソイツを避ける。

 共に狩場には立たん」

 

 男の子は目を見開く。心底驚いた様子ながら、黙ってその続きを待っているのが見て取れた。

 しかしオヤジは「失言だったと」、そっと目を逸らす。

 

「……坊主、これはワシのような加工屋が言う事ではないし、

 お主もハンターならば、おのずと分かってくる事じゃろう。

 まったく、何故あんなにも美しく、気の良い娘が、ガンランサーなんぞに……」

 

 

………………………………………………

 

 

「あ……あのっ! 少年よ! ちょっと良いだろうか?」

 

 加工屋で武器強化してもらった帰り道。木の影からブルファンゴの顔が〈ヒョコ!〉っと現れた。

 

「あの……さっき走っていた時に、不意に君の姿を見かけたものでな。

 家からモスフェイクを取ってくるがてら、気になって戻ってきたのだ」

 

 テレテレと頭をかきながら、ブヒブヒと歩み寄るガンスのおねぇさん。

 少年も駆け出すように、乙女のもとへ走る。

 

「おねぇさんっ、だいじょうぶなのっ?!

 だってあんなにも泣いてたのに!」

 

「大丈夫、よくある事なんだコレは。

 今後もあのオヤジ殿とは、粘り強く交渉を続けていこうと思うぞ。

 いや、はずかしい所を見られてしまったな……」

 

 そんな事を言うワリに、おねぇさんの声はまだ、若干涙声。ブタのマスクごしにも、グシグシと鼻をすすっている音が聞こえてきた。

 

「君こそ、初めての狩りはどうだった? 怪我はしなかったか?

 小耳にはさんだ、というか皆の話を物陰から諜報活動してみたのだが……、

 君の笛はとても上手だったと、皆がすごく褒めていたんだ」

 

 ――――ズキリと、男の子の胸が痛んだ。

 でもそんな事は関係なく、おねぇさんは本当に嬉しそうな声で話している。

 君が無事に帰って来てくれて嬉しい。元気でいてくれて嬉しい。

 そんな心からの想いが、見て取れる。

 

「この地域では、狩猟笛のハンターは貴重だ。

 扱いが難しい事もあり、真に笛を使いこなせる人間は数える程しかいない。

 だから君は、本当に期待されているんだ。

 懸命に練習をしてきたであろうまっすぐな人柄。その優しい心。

 きっとみんなにも良くしてもらえる。立派なハンターになれるさ」

 

 ブタのマスクを取り、腰を屈めて少年と目線を合わせるおねぇさん。

 そしてまだ少しだけ赤い瞳のまま、花が咲いたような微笑みを浮かべる。

 胸が締め付けられるような、美しい笑みを。

 

「私などが言って良いものかは分からないが――――応援している。

 君の活躍と無事を、いつも想っているから」

 

 男の子の両手を優しく握り、胸に引き寄せる。祈るように瞳を閉じた。

 君に幸運を――――

 ありったけの想いを込めて、まるで自分の分の幸運までも捧げようとするかのように、乙女は少年の未来に“幸あれ“と願う。

 そしてそっと瞳を開けて、少年に一枚のギルドカードを手渡す。

 

「私のカードだ。

 ……今まで誰かに渡した事もないし、もし何か変だったらどうしよう?

 大丈夫だろうか……なにやら少し不安になってきた。

 あ、私などのカードだし、これは縁起が悪いのかもしれない。

 だから、すぐ捨ててくれても構わないから」

 

 乙女が「えへへ」と苦笑する。

 誰かに自分のカードを渡すという喜び。不安。

 そんな色んな感情が入り混じったような照れ笑いも、少年にはこの上なく美しい物に映る。

 

「そのカードの裏に、私の口座番号を記載しておいたんだ。

 捨てるのはメモを取ってからにしてくれ」

 

 思わず「うわぁ!」と叫び声をあげ、カードを放り出しそうになる少年。

 

「それと、初クエスト記念と言っては何なのだが、私からプレゼントを。

 気に入って貰えると嬉しいのだが……」

 

「すいません。ブルファンゴフェイクは、ぼくいりません」

 

 乙女は〈ガーン!〉という表情になったが、男の子は言うべき事はちゃんと言うタイプの子。

 部屋に飾ると、癒されるのに……。そんなおねぇさんの言葉も、しっかり聞かなかった事とした。

 

 

 

………………………………………………

 

 

 

「ではな、少年。

 私と話してくれてありがとう。嬉しかった」

 

 グッバイ……マイプリティ……。

 そのささやくような呟きは、幸運にも少年の耳には届かなかった。本当によかったなと思う。

 

 そして乙女は立ち上がり、少年に背を向けて歩き出す。

 フリフリと手を振り、本当に幸せそうな笑顔で。そんな彼女の姿を少年は見送る。

 

 立ち尽くし、決してその場から動かず。

 いや、少年は、そこから動けないでいたのだ。

 

 ――――どんな気持ちからだったのかは、分からない。

 ――――――でも男の子は、歩き去ろうとする乙女の背中を、必死で呼び止めたのだ。

 

 

「 …………おねぇさん!!!! 」

 

 

 少年の心は、グシャグシャだった。

 実はさっきから、なぜか溢れ出そうとする涙を堪えるのに、精いっぱいであったのだ。

 

 今日の、おねぇさんとの思い出。

 集会所や加工屋で聞いた事。

 そしてまだまだ、何も知らない自分――――

 

 色んな事を思った。この一瞬で様々な想いが胸に去来した。

 でもそのどれもが形にならず、自分の気持ちは、未だわからない。

 

 ――――二度とガンランサーに関わるんじゃねぇぞ!

 ――――何故あんなにも良い娘が、ガンランサーなんぞに……。

 

 わからない。未だ自分には、何もわからないまま。

 でも今、自分はおねぇさんに、行ってほしくないと感じている。

 

 このおねぇさんと『共に居たい』と、そう感じている。

 

 

『 ぼくをっ、狩りにつれてってくださいっ!

  ぼくにガンランスの事、おしえてくださいっ!! 』

 

 

 

 

………………………………………………

 

 

 

 いま、少年の手の中にあるギルドカード。

 そこに記載されし乙女の名は、“ソロモン“。

 

 

 ……これは本当に、女の子に付けるべき名前なのか。

 適当に付けた偽名なのではないか。そうだと言ってくれ。すごく言って欲しかった。

 

 

 まるで“ソロ(モン)“。

 

 そのハンター人生を、たった一人で孤独に狩り続ける事を宿命づけられたような名前。

 金髪なのに、そこはかとなくエスニックの香り。

 やっぱり偽名なんだろうこれは。後でぜったいに問いただす事を、少年は心に誓う。

 

 

 しかし、今この時より……、乙女はソロ(ひとり)ではなくなる。

 

 ずっと孤独な道を歩んできた、ガンランサー。

 その隣には今日から、とてもプリティな笛使いがいるから――――

 

 

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