ガンランスの話をしよう。   作:はせがわ

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お前がガンスを見つめる時、ガンスもまたお前を見つめている。

 

「はい! 整いました!」

 

「ではおねぇさん、どうぞっ」

 

 クエスト帰りの荷馬車の上、乙女が満面の笑みで挙手する。

 それを見て発言を促す男の子。

 

【嘘をつけ ガララアジャラは ラスボスだ】 ソフィー

 

「……うんっ! ガンランサーのガララに対するどうしようもなさが、

 たいへんよくあらわれていますっ。おねぇさんに1ポイントっ」

 

「よっしゃー!」とばかりにガッツポーズを決める乙女。それを見守るハンマーちゃんとミラちゃんが「ウチも!」「(おれ)も!」とハイハイ手を挙げている。

 

 ただいま彼女達が行っているのは“モンハン川柳“。

 男の子を司会に据え、各々が普段思っている事を川柳にして発表しようというお遊びだ。

 まぁ遊びとは言いつつも「男の子に褒めてもらいたい!」と、みんな結構必死ではあるが。

 

 ちなみに余談ではあるが、納刀の遅いガンサーにとって、あのガララの巻き付きドッカン攻撃は驚異でしかない。

 エリアルスタイルでも使わない限り、被弾せずに躱せるか否かはほとんど運次第だったりする。

 何故ガララが☆2の位置にいるのか納得いかないし、もしガララに二つ名の個体がいたら、全国のガンスランスのお友達は確実にその人口を減少させていたのではないだろうか。乙女は思う。

 

「はいっ。ではチエさん、どうぞっ」

 

「やった♪ ほなウチいきますっ!」

 

 熾烈な挙手争いを制したハンマー使いの少女こと“チエ“。

 二つのおさげが興奮気味に揺れている。

 

【試すけど 結局ギルドの 敗北感】 チエ

 

「……ふむ! せっかく様々なスタイルがあるのだからと、

 いろいろ試してはみるものの、

 けっきょくは『溜め2のアッパーと縦3が使いたい!』となって、

 ギルドスタイルにもどってしまう……。

 そんなハンマー使いの切なさをみごとにあらわしていますっ。

 チエさんに1ポイントっ」

 

「よっしゃー! やったでぇソフィーさんっ! ミラちゃんっ!」

 

 ピョーンとガッツポーズで飛び上がったチエちゃんが、皆とハイタッチを交わしていく。ワーキャーと喜ぶ一同。

 

 チエだってソロの時にはブシドーやブレイブなんかも使っていたのだが、やはりPTプレイではギルド一択。稀にモンスに合わせてエリアルをする程度だ。

 ハンマーならば何を置いても縦3、そしてアッパーなのである。スタンを取ってナンボなのだ。

 

「お見事ッ! チエさんもおやりになりますわ。

 ではプリティくん、次はわたくしが♪」

 

「はいっ。ではプリシラさんっ、どうぞっ」

 

 ここで満を持してプリシラが挙手。

 実は彼女は今日、乙女たちと同じ地域の狩場へと出かけており、途中で皆と合流。そしてせっかくだからと帰りの馬車にも同乗させてもらっていたのだ。

 

【ランサーで キリン倒すの 地獄です】 プリシラ

 

「お~っと!

 これはモンハン界屈指の“最悪の相性“といわれる、ランスvsキリン! 

 異常なスピードであり、しかもその小さな頭以外はぜんぶ硬いキリンに対して、

 ランサーは成す術がありませんっ。武器出し攻撃も弾かれてしまいます!

 プリシラさんに1ポイントっ」

 

「……プリシラ。まさか君は、今日……」

 

「えぇ、その通りですソフィー……。死ぬかと思いましたわ」

 

 砲撃のあるガンランスでもキツイというのに、ランサーであるプリシラは今日、ソロでキリン討伐に赴いていたらしい。

 どうしても素材が欲しい時に限って、同行してくれる仲間が見つからなかったそうな。

 相手は上位のキリンなのでなんとかなるかな~と思ったのだけど、全然なんとかならなかった。ボッコボコである。

 グッタリとした表情のプリシラが、禁煙ガンス(槍)を切なそうにピカピカと点滅させる。これが本物の砲撃だったら良かったのに。

 

「はいはいっ! はいはいはいっ!」

 

「ではミラちゃんどうぞっ。またせちゃってゴメンね?」

 

 両手をあげて元気にアピールするミラちゃん。

 その後は元竜族の王という事で、フフンと威厳たっぷりの仕草で川柳を発表する。

 

【散弾で ランスガンスの ケツを撃て】 ミラ・ルーツ

 

「お前だったのかアレはっ!?」

 

「なんか痛いと思いましたわ!」

 

「あ~。たまにソフィーさんとプリちゃんが『オゴゴゴ……!』

 なってんな~思ってたけど、それかぁ……」

 

 ガンスランスにはスパアマが無いので、後ろでガンナーさんに散弾を使われたら、もう何も出来なくなるのだ。どうか止めてあげて欲しい。

 

「散弾の弾は敵の弱点部位へ集弾すると聞いてな?

 ならば貴様らに撃てばどうなるのかと、

 たまに試しているのだ。よきに許せ。」

 

「試さんでいい! 私たちは敵じゃない!」

 

「ですわっ!」

 

「なんかミラちゃん適確にお二人だけを撃ってたような気ぃすんねんけど……。

 あれ逆に上手いんとちゃうかな?」

 

 まるで散弾が意志を持ったかのように、ソフィーとプリシラにばかりペシペシ当たっていたように思う。無駄な技術だ。

 件の集弾の事もあり、もしかして自分達はミラに“敵“として認識されているんじゃなかろうかと、必死こいて訴える二人。

 

「いいかミラよ? 私はガンスを使うフレンズ。

 そしてこの子は、ランスの上手なフレンズなんだ」

 

「よしなに」

 

「あっ、そろそろ集会所につくみたい!

 ともかく川柳は上手だったし、ミラちゃんに1ポイントっ。

 でももうしちゃダメだよ?」

 

「うむっ」

 

「ほ~い降りるでぇ~。ちょっと抱っこするから、ミラちゃんじっとしときや?」

 

 そんなこんながありながら、到着した馬車からガヤガヤと降りていく5人。

 ちなみに今日の川柳大会の優勝はソフィー。

【フルフルと トトスのブレス ガー不だよ】や、【謎判定 ラギアクルスを 許さない】などなど、ガンランサーの悲哀の籠った力作が生まれたのだった。

 

 

………………………………………………

 

 

「ふふ……みんなには悪いが、ガンランス川柳にかけては負ける気がしない。

 これまで味わってきた鬱屈の量が違うのだ」

 

 PTの皆と別れ、死んだ目をしながら今日の事を思い出す乙女。

 ネタには困らん。まるで湯水のようにガンランス川柳が浮かんでくるぞ! 私は!

 そんなカッコいいんだか情けないんだか分からないような事を言いながら、今はひとり帰路を歩いている所だ。

 しかしそんな時、ふとどこからか“乙女に話しかけてくる声“がした。

 

『――――あの、すいません。

【雑魚敵が 私ばかりに 寄ってくる】……とかどうでしょうか?』

 

 他の武器とは違い、ガンランサーは盾を構えてその場でじっとしている事も多いので、雑魚敵たちの格好の餌食となりやすい。あっという間に群がられ、しかも対処も苦手だ。

 ……それはともかくとして、乙女は急いで辺りを見回すも、その声の主が見当たらない。どこにも人の気配がしないのだ。

 

『あ、ここですガンサーさん。

 ちょっとゴミ捨て場の方を見てみて下さい。私はここですよ?』

 

 再び声を掛けられて動揺しつつも、乙女は近くにあったゴミ捨て場へと視線を向ける。しかしながらそこにも人影は無く、あるのはいくつかのゴミ箱と、なにやら薄汚れた鉄の物体のみ。

 

『そうです、その汚れた鉄が私です。

 えへへ……。こんばんはガンサーさん♪

 私はアイアンガンランスの“アイ“っていいます♪』

 

 ゴミ捨て場に捨てられている、一本の薄汚れたガンランス。

 それが今、まるで乙女の注意を引こうとするかのように〈ゴロン〉と転がる。

 

 

「 ――――――ガンランスがしゃべったッッ!!!! 」

 

 

 しゃべった……しゃべった……シャベッ……シャベ……シャ……。

 

 乙女の魂の絶叫であったが、もし誰かに聞かれていたら、またガンランサーの評判がガックーンと落ちていたかもしれない。

 もし仮にそれが知り合いであろう物なら、「ソフィーさん……いくらガンサーが孤独だからって、ついにイマジナリーフレンド(空想上の友達)を……」と勘違いされていたかもしれない。

 そうならなかった事は非常に幸運だった。だがその“ついに“とはいったいどういう事だ。

 私だって友達はいるんだぞ、今は。

 乙女は自分自身にツッコむ。

 

『あの……ごめんなさい……。

 やっぱりご迷惑でしたか……?』

 

 しばし自分の中へ入っていた乙女の意識を、再び聞こえたガンランスの声が呼び戻す。

 

『私……嬉しくて……。

 ガンサーの人を見かけるのは、ホント久しぶりだったから。

 だからつい……声をかけてしまって……」

 

 地面に倒れたガンランス。それが乙女の目にはシュン……としているように見えた。

 確かな事なんて分からない。だが乙女にはどうしても、そのガンランスが悲しそうにしているよう見えたのだ。

 

『あの……驚かせてしまって、ごめんなさい。

 どうか私の事は気にしないで――――って、きゃっ』

 

 乙女は走る、ガンランスのアイちゃんを抱えて――――

 重いとか、服が汚れるとか、そんな事は考えもしない。

 一刻も早く、安心して彼女と話せる所へ。乙女は自身初となる、本気のガチ走りで家に帰っていく。

 アカムやウカムに追いかけられた時だって、こんなに早く走った事はなかった。

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

『あの、大丈夫ですかガンサーさん?

 私重いのに……あんなに一生懸命走って……』

 

 現在乙女は無事に家へとたどり着き、そしてガンランスのアイちゃんを椅子へと立てかけて、机を挟んで向かい合っている。

 もう必死こいて走って来たので未だにゼーハーと息は上がっているが、なんとか人に見つかる事なくここまで帰って来られた。

 なにも走る必要とかは無かったのかもしれないが、これは気持ちの問題なのだ。

 

「いや……心配はいらない。

 私こそ、つい動揺して持ち帰ってしまったが、構わなかっただろうか?」

 

『ガンサーさんは、動揺したら持って帰っちゃう方なんですね。

 てっきり私、怖がられるか、無視されちゃうとばかり……。

 でもぜんぜん大丈夫ですよ♪』

 

 うわー! ガバッ! ピュー! という見事な三挙動をもって、電光石火で家に帰って来た乙女。

 まさか連れ去られるとはアイちゃんも思っていなかったらしく、軽く戸惑ってはいたものの、今は朗らかに笑ってくれている(ように思えた)。

 

「改めまして、私はソフィー。ガンランサーだ。

 お察しの通り、長女で御座います」

 

『ごめんなさい、察してませんでした。

 改めまして、アイです。ガンランスを生業にしています♪』

 

 本当は低姿勢になってギルカでも渡したかったのだが、残念ながらアイちゃんはカードを受け取る事が出来ない。

 とりあえずはペコペコと頭を下げ、乙女はガンランスと意思の疎通を図る。

 

 関係ないのだけれど、乙女の感じるアイちゃんの声の印象は、まごう事なき少女の物。しかもちょっと分かりにくい例えかもしれないが、cv丹〇桜もかくやという可愛いらしい声なのだ。

 なにやら聞いているだけで胸がキュンキュンしてくる心地の乙女である。ぶっちゃけ抱きしめたい。

 

「えっと……ではアイちゃん、ご趣味は?

 どれくらいの身長や年収を相手に求めているんだ?」

 

『はい?』

 

「美人、美男子は3日で飽きると言うぞ?

 見た目やお金も大事だが、やはり生涯添い遂げるのなら、

 一緒にいて安心出来る相手が一番だと愚考する次第だ」

 

『あ……私ガンランスなので、理想とかはちょっと……』

 

 なにやら結婚相談所のような事を訊ねだす乙女。

 ハッキリ言って、もうアイちゃんをお嫁に貰う気まんまんだった。

 

「それはいけないっ、理想は高く持つんだ!

 君はこんなにも愛らしくて、素敵な子じゃないか!

 何を卑下する事がある! 自信を持たないとダメだ!」

 

『えっ』

 

 自分の事は棚にUPして、ひたすらアイちゃんを鼓舞していく乙女。

 

『あ……でも趣味といえば、私砲撃とか得意かもです。えへへ♪』

 

「そうだ! 君は5発も砲撃が撃てるじゃないか!

 装弾数UPのスキルがあれば6発だぞ! フルバで大活躍だ!」

 

『理想……とかは無いですけど……。

 でももし私なんかを使ってくれて、その人のお役に立てるなら……、

 とっても嬉しいなって♪』

 

「天使かッ! 舞い降りたのか私のもとにッ! ……何故だッ!?

 私なにか良い事をしたか!? 早起きか!? いつの間に徳が貯まったんだ!?

 なぜ君は私に降臨した!? ハレルヤッ!!」

 

 窓をバーンと開け放ち「ハレルヤーーー!!」と叫ぶ乙女。夜中だというのに結構な近所迷惑だ。これだからガンランサーは。

 

「――――2年待ってくれ。起業する。

 必ず大企業の社長となり、君にふさわしい女になってみせる」

 

『あの……出来ればガンランサーでいてくれた方が、私嬉しいかも』

 

 乙女の渾身のプロポーズであったが、お前はハンターでおれとあっさり流される。

 私はキャデラックに乗るぞ、と乙女が意味の分からない事を言ったが、アイちゃんはガンランスなので特に気にしなかった。

 

 

………………………

………………………………………………

 

 

「盗難……?」

 

『はい、ご主人様の家のアイテムボックスにいた時に、

 ドロボウさんに持ち去られてしまって……』

 

 やがてテンションも落ち着いた頃、ようやく乙女はアイちゃんの事情を訊くに至った。なぜ彼女はゴミ捨て場などにいたのか、その理由をアイちゃんが語っていく。

 

『もう3年も前の事なります。

 それからは私、ずっと売られたり、人に買われたりをしていたんですけど、

 最後の持ち主さんに、あそこに捨てられてしまって……』

 

『狩りに失敗した帰り道に、ガンランスなんて要らないって、ポイって。

 ……今までは皆さん、一度使ったきりで「合わない」って言って、

 いつも売却をしてくれたんですけれど……。

 でもそんなお金も要らないってくらいに、

 その方は私に腹が立ったんだと思います。……私が、役立たずだったから』

 

 思わず、叫びそうになった――――

 違うんだと、君は悪くないんだと、乙女はアイちゃんに駆け寄りそうになった。今すぐ抱きしめてあげたかった。

 でも乙女は、かろうじてその気持ちを抑えこむ。

 彼女の持つ過去、心の傷、それを今懸命に語ってくれている。心から血を流しながら。

 自分は今、それをしっかり、最後まで聞かなければならない。

 

『あのゴミ捨て場で、雨風に晒されている内に、

 いつしか私の中に自我が生まれました。

 色んな事を考えられるようになったんです』

 

『……あ、でもただのガンランスだった頃にも、

 ちゃんと“嬉しい“とか“楽しい“っていう感情はあったんですよ?

 だって私たち“武器“は、ハンターさんのパートナーですから♪』

 

『握ってくれてる人の想いが、その手を通じて私たちにも伝わるから――――

 いつもハンターさんが“勝った“と喜んでいる時、

 同じように私たちも嬉しい気持ちでいるんです。

 とっても誇らしい気持ちになるんです』

 

 共に戦い、力を貸してくれる。そして誰よりも近くで応援してくれている。一緒に喜んでくれる。

 私たちの使う“武器“とは……そういう存在であったのだ。

 

『でも、もうそれがおしまいになったから、私は自我を持ったのかも。

 ……あまり強化もされなかったし、ご主人様はまだ新人だったけど、

 それでも楽しい思い出が沢山あった。ご主人様の背中で、一緒に世界を見た。

 ……そんな思い出を忘れない為に、ずっと憶えている為に、

 きっと私は自我を持ったんだって、そう思うんです――――』

 

 ――――ごめん、アイちゃん。

 乙女は心で詫びながら、アイちゃんを強く抱きしめる。

 縋りつくようにして、ボロボロに泣く。

 

 限界だった。抱きしめずにはいられなかった。

 張り裂けそうな胸の痛みに耐えながら、私に話を聞かせてくれていたのに……、その言葉をこうして止めずにはいられなかったのだ。

 

「 おしまいなんかじゃないっ! 探してやるっ!

  君のご主人様を探し出し、また一緒に暮らせるようにしてやるっ!!

  大好きなご主人様とまた狩りに行けるように! 絶対にするからっ!! 」

 

 絶叫するようにして、誓う。

 君の言葉を止めてしまった私は、君の為ならばもう、何でもしなくちゃいけないんだ。

 

 これまでの君の献身、心から狩人の事を想ってくれた優しさ、そして私が“ガンランス“という武器に貰った全ての恩。

 それを今、全部ひっくるめて、君に返す――――

 

『……あはは……。あれからもう、3年も経つんですよ……?

 私、あの頃のまま……、弱いまんまのアイアンガンランスだし……。

 たとえご主人様が見つかったとしても……もう……私なんかじゃ……』

 

「 知らない! そんな事は知らないっ!

  私は君を、ぜったいご主人様の所に届ける! 絶対に会わせてやるっ!!

  強化なんか後でどうにでもなる! 私の全財産を使え!!

  それがイヤなら、私の手を使え!!

  いくらでもご主人様の狩りに付き合ってやる!! 」

 

 アイちゃんの声が、だんだん涙声になっていく。

 堪えてきた気持ちが、溢れ出すように、声が涙に濡れていく。

 

『……も……もしっ……! もうガンスなんか……握ってなかったらっ……!

 使いづらいからって……、弱いからってっ……!

 ガンランスの事なんてもうっ……! もう……忘れてたらッ……!!』

 

「忘れたりなんか、するものかっ。

 ハンターは、最初に自分が握った武器の事を、ぜったいに忘れない。

 ……初めてクックに勝った時の武器。初めてレウスに負けた時の武器……。

 それをずっと……、ずっとハンターは憶えてるんだ。

 たとえ記憶が忘れても、たとえ他の武器を使っていても、身体が忘れない。

 一度ガンランスを握れば、すぐに全部……、ぜんぶ思い出せるんだ」

 

 二人して、わんわん泣いた。

 もう時間も分からなくなるくらい、二人で寄り添って泣いた。

 

 やがて夜が明けて朝日が差す頃に、乙女とアイはようやく泣きつかれ、一緒のベッドで眠る。

 この気持ちは忘れない。必ず約束を果たす――――

 その想いを胸に刻みつけ、乙女は眠りに落ちていった。

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

「ウチも前はいくつか集会所を周っとったし、知り合いにあたってみるわ。

 大丈夫やで、ソフィーさん。

 それとウチには声は聞かれへんけど……、アイちゃんもな」

 

「我のちんまい翼が役に立つ時が来たな。

 とりあえずはこの地域の集会所を虱潰しにしてくれよう。

 大船に乗った気でおれよ? アイとやら」

 

「ギルド本部へ戻り、情報を漁ってみます。

 何か分かり次第、すぐ例の“機械“で連絡致しますわソフィー。

 狩りではまだまだ貴方に及びませんけれど、

 こういう時こそ、わたくしの出番。

 ノブレス・オブリージュというヤツですわ(?)」

 

 アイから聞いた“ご主人様“の名前と情報を伝え、乙女は仲間たちに協力を願い出た。

 以前ならこんな事は絶対出来なかったし、きっと乙女なら全部ひとりでなんとかしようという人柄であったハズだ。

 しかし今の乙女には、頼りになる仲間たちがいる。信頼する人達がいるのだ。

 彼女たちに心からの感謝を告げ、ひと時の別れを告げる。

 

「ありがとうプリティ、私のわがままを聞いてくれて。

 すぐに戻るよ。だから少しだけ待っていておくれ」

 

「だいじょうぶ、ぼくチャアクのおにぃさんの所に行ってるから。

 しんぱいないよ、おねぇさん。

 きっとアイちゃんを、ごしゅじん様に会わせてあげてね」

 

「んーっ!」とばかりにほっぺにチューをし、男の子にも心からの感謝、そして親愛を。

 

「行ってくる、プリティ。

 アイも今、君に『ありがとう』って。

 プリティくんがガンランサーじゃないのが残念です、って言ってる」

 

「ぼくもいつかガンランスを握るよ?

 おねぇさんに教えてもらって、きっと使えるようになってみせるから。

 そのときはアイちゃんと同じ、アイアンガンランスにするね。

 ……だから楽しみにしてて、アイちゃん。

 こんど会ったら、いっしょに狩りにいこうね」

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

 アイのご主人様の捜索は、非常に順調に進んだ。

 

『ソフィーさんは……、たくさん良いお友達がいるんですね。

 ご主人さまはとびっきりの善人だったけど、ガンサーだったから……。

 平気そうに振る舞っていても、いつもどこか寂しそうにしてて』

 

 仲間たちの尽力もあり、すぐにそれらしい情報が見つかった。

 そして今ソフィーはアイを背に担ぎ、ご主人様の事を知っていると思しき人物のもとへと向かっていた。

 

「私が言うのもなんだが……、

 きっとご主人さまは、よほどガンランスが好きだったんだろうな。

 強烈な憧れか、はたまた向こう見ずな情熱か……。

 いずれにせよ、何をおいても貫きたい想いがあったんだと思う。

 愛してたんだガンランスを。……きっともう、どうしようもない位に」

 

 自分はプリティと出会い、そして今は何人もの仲間と出会う事が出来た。

 この3年間の間で、願わくばアイちゃんのご主人様にも、良い出会いがあったならと思う。

 ガンスを握る事を、受け入れてくれる人――――

 それは自分達のような者にとって、己の全てを受け入れてくれる事にも等しい。

 願わくば彼にも、全てのガンランサーにも……、そんな出会いがあったなら。

 

「……アンタかい? アイツの事探してるっていうのは。

 俺は以前、アイツとPT組んでた事があってさ。よく知ってるよ」

 

 やがてソフィーたちは目的の場所へたどり着き、そこで待ってくれていたハンターの男と出会う。

 正確には彼は“以前ハンターだった男“で、聞く所によるともう引退をした身であるらしかった。

 

「俺が知ってる事は全部話すよ。

 さっき集会所に寄って、当時の資料も貰ってきたんだ。

 行こう。案内しながら、歩きながら話すから」

 

 

………………………………………………

 

 

 アイツは勇敢だった――――それが男が告げた、最後の言葉だった。

 

 目的地へと案内をし終え、そして伝えるべき事を全て言い終えた後、男はソフィーたちを残してこの場を立ち去っていった。

 

『…………これが、ご主人様の』

 

 やってきたのは、とある墓地。

 ここはこの地域で生まれ、そして狩場で死んでいった多くのハンターたちが眠る場所。

 その中に、まだ作られてから間もないであろう、ひとつの墓があった。

 ソフィーたちが今立っている、目の前。それはアイの主人であったハンターの墓だった。

 

 ――――2か月前になるよ。アイツか俺達庇って死んだのは。

 

 ――――俺ガンサーだからって言って、デカい盾持ってんだって言って、この場に残るって言い張って。

 ――――俺達を逃がす為、ひとりその場に残りやがった。囮になりやがったんだ。ガンサーの役目だっつって。

 

『……ご主人……さま……』

 

 ――――遺体は見つからなかった。いくら探しても、腕の一本見つからなかった。だからこの墓にも、骨は入れてやれてない。

 ――――盾だけがその場所に落ちてた。盾がこんなボコボコになっちまうまで、アイツは一人で耐え抜いてたって事を知った。

 ――――俺達を逃がす為、自分の命が尽きるまで、時間を稼いでくれてたんだって分かった。

 

『………………ご主人……さま』

 

 ――――いいヤツだったし、最高のダチだった。いつもバカみたいに元気に笑うんだ。俺達との狩りが楽しくて仕方ねえって言ってて。

 ――――でもバカだから、いくら言ってもガンス握るのだけは辞めねぇ。お前の為を想って言ってんのにっつっても、ぜんぜん聞きやしない。

 

 ――――それでもみんなアイツが好きだったから、仕方ねぇって言って一緒に狩りをした。たまに砲撃で吹っ飛ばされたりもしたけど、いつも一杯奢りで勘弁してやった。アイツといるのが楽しかった。

 

 乙女は黙って、目の前の墓を見つめる。

 自分と同じ、ガンランスを愛したひとりの男の墓を。

 

 ――――俺はガンスの事なんざ知らないが、アイツこそ本当のガンランサーだったんじゃないかって思う。

 

 ――――だってアイツは炎みたいに戦って、そして守って死んだんだ。あの銃槍と盾に相応しい、そんな生き様だったんじゃないかって。

 

 ――――俺ぁアイツの墓守でもしながら、これから生きてくつもりだ。隻腕になっちまったが出来る仕事はあるし、そもそもアイツが助けてくれなきゃ、片腕どころか全部あのモンスに喰われてたんだ。アイツに貰った命だ、大事にしてくさ。

 

 ――――よかったらまた墓参りしてやってくれ。そんでアンタも知っててくれると嬉しい。

 

 ――――ガンランサーは、本当にスゲェんだって。 アイツは誰よりも勇敢だったって。

 

 

………………………

………………………………………………

 

 

『ソフィーさんは……戦った事がありますか……?』

 

 あの墓地を後にして、今ソフィーたちは馬車の荷台で揺られている。

 

『紅兜……。あの二つ名のアオアシラと、戦った事は……?』

 

 あれからアイが、初めて声を出した。

 二人ともずっと話す事をしなかったから、随分久々に声を聞いたような気がする。

 

「一度だけ……、やりあった事がある。

 少し戦ってからヤツは逃げ出していったが、正直生きた心地はしなかったよ」

 

 そう静かに告げ、ソフィーは当時の事を思い出す。

 あの時は別の目的でクエストに赴いており、偶然ヤツと接敵し、なし崩しに戦闘になったのだ。

 たが短い時間ながら、乙女はすぐに理解した。

 ――――コイツとまともにやりあってはいけない。

 コイツはまさに、私の“天敵“であるのだと。

 

『…………勝てますか……? ソフィーさんなら……。

 G級ハンターのソフィーさんなら……あの紅兜に……』

 

『例えば…………アイアンガンランスで、戦っても……』

 

 風圧、地震、破壊力。ステップやジャストガードでは対応できない性質の攻撃。

 通常のアオアシラとはまるで別物と言える、その凶悪さ。凶暴性。

 

「――――出来るよ。私なら、アイアンガンランスで勝てる」

 

 だが迷いなく、乙女は言ってのける。

 あの男の片腕を喰い、そしてこの子の主人を喰らった、赤い獣。

 私なら殺せる。どんな武器でも。例えそれがLv2ほどのアイアンガンランスだとしても。

 一瞬も躊躇する事なく、乙女はそう告げる。

 逸らす事無く、真っすぐにアイの事を見つめながら。

 

『…………ごめんなさい。冗談です……。

 いくらなんでも、Lv2のガンランスで……、

 私なんかで……紅兜と戦わせられません」

 

「!? アイちゃんッ!!」

 

 思わず肩を掴むようにして、乙女がアイの身体を掴む。

 真剣に詰め寄るも、アイが「えへへ……」と、どこか困ったような表情をしているように思えた。

 

『……ダメなんです、弱いガンランスなんかじゃ……。

 もう私が弱いせいで……、誰かを危険な目に合わせるのは……イヤです。

 誰も守れないガンランスなんて……もう……イヤなんですっ……!!』

 

『だから、ソフィーさん……、お願いがあります……』

 

 いいんだと、私は大丈夫なんだと詰め寄ろうとした乙女。

 しかしアイの真剣な声色に、その言葉を飲み込んでしまう。

 

『…………私を“強化“してください。

 紅兜と戦えるくらい……あの紅兜を、倒せるくらいに……。

 ……何を失ってもいい。私がどんな形になってしまってもいい。

 だからあの紅兜をっ……、私に討たせてッ………………下さいッ……!!』

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

「――――憶えているか? 私を」

 

 通称“孤島“の狩場。

 そこで乙女は今、紅兜アオアシラと対峙している。

 

「もう何年前かな?

 初めてお前を見た時は、生きた心地がしなかったのを憶えてる」

 

 血のような赤。醜悪な顔。

 多くの生き物に絶望を、そして今乙女に“嫌悪感“を抱かせる、その風貌。

 

「だけどあの時――――しっかり殺しておくべきだったよ」

 

 感情の無い、冷たい瞳。

 乙女は誰にも、男の子にも見せた事のない顔で、紅兜を見つめる。

 

「私のせいだな……。アイのご主人様が死んでしまったのも」

 

 乙女の左腕には今、数段強化したアイアンガンランスがある。

 

「――――そしてアイが、“死んでしまったのも“」

 

 もうアイが喋る事は無い。困ったようにアハハと、乙女に笑いかけてくれる事は無い。

 何故ならば、これはもう“アイではないから“。

 身体をバラされ、炎の中で別の金属と混ぜ合わされて加工された、アイとはまったく別のガンランスだから。

 このアイアンガンランスLv6は笑う事も、悲しむ事も無い、ただの銃槍。

 何の変哲もない、ただの鉄で出来た武器だった。

 

「あの人は炎のように戦い、守って死んだという」

 

 とてつもない咆哮をあげ、地響きを鳴らして紅兜が襲い来る。

 

「ならば今の私は……何かな? どんな風に戦おうかな……?」

 

 あの時に手を焼いた地震、そして風圧。

 それはスキルによって下品な位に対処している。もう乙女がコイツに怯む事は無い。

 加えて今は5段階も強化した、出来過ぎな位の“武器“がある。乙女がコイツに負ける道理が存在しない。

 もう自問自答以外の、なにかを思ったり感じたり事も、ない。

 

「まぁいいや、“死ね“。

 お前を殺した後で、ゆっくり考える事にするよ……」

 

 砲撃、竜撃、斬撃、フルバースト。

 ありとあらゆる攻撃を喰らい、少しずつ己の身体を裂かれ、幾度も幾度もこの場から逃げようと試みるも、それがついに叶う事も無いまま。

 やがてこの醜い獣がピクリとも動かなくなるまでには、さして時間はかからなかった。

 

「……帰ろう。あぁ……家に帰らなきゃいけない」

 

 気分が悪いだけの肉塊を放置し、乙女がフラフラとその場を立ち去っていく。

 

 自分の姿は自分で見えないハズなのに、不思議――――

 こうやって歩いてる自分の姿を、まるで幽鬼みたいだと思った。

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

「なぁプリティ? 私は冷たい女なのかな」

 

 あれからしばしの時が過ぎ、現在乙女は自分の家にいる。

 温かい飲み物を入れ、テーブルを挟んで男の子と向かい合う。これまでの事を報告する為、男の子を家に招いているのだ。

 

「あの子の事が好きだった。

 アイの為ならば、なんでもしてやりたいと思ってた。

 何かあったとしても、たとえご主人様と会えなかったとしても、

 私が代わりにずっと一緒に寄り添おうって、そう思ってたんだ」

 

 あの後乙女は再び墓地を訪れ、あの墓守の男に紅兜討伐の報告を、そしてかつてアイだったガンランスを預けてきた。

 

 ――――これは紅兜を討ったガンランス。そしてその人が一番最初に握っていたガンランスです。勝手に強化をしてしまい、申し訳ありません。

 

 そう墓守の男に詫びたが、男はただただ涙ながらに、礼を言うばかりだった。

 

 ――――仇を討ってくれてありがとう。しかもアイツのガンスを使ってくれて。これて俺のダチも報われると思う。

 

 このガンランスは、こいつの墓に入れるよ。

 天国でこのガンス握って、また狩りでも始めるんじゃないかな。

 男はそう言ってくれたが、乙女はただ深く頭を下げ、その場から去ってきた。何と言えば良いのか、もう分からなかったから。

 

「もし強化をしたら、アイが死ぬ。

 ガンランスか形を変えれば、アイの自我は消えて無くなってしまう。

 彼女は最後まで言わなかったけれど……、そう感じてはいたんだ。

 あぁきっと、彼女は死ぬつもりなんだって――――」

 

「でも……止められなかった。

 辛い事は忘れて、私といっしょにおいでって、言ってあげられなかった。

 だって私も……、アイの立場なら、きっと同じ事をするから」

 

 だからアイが消えてしまっても、不思議なくらい悲しくないんだ。乙女はそう男の子に語る。

 悲しいハズなのに、なんで悲しくないんだろう。

 でも悲しくないのは当然の事なんだと、乙女は心のどこかで、分かっているのだ、

 

「アイを加工屋に持っていった時、私はいけないともダメだとも思わなかった。

 ……ただ淡々とアイをオヤジ殿に手渡し、

 解体されて、炎にくべられていくアイの姿を、ただぼけっと眺めていたんだ」

 

「私にあったのは――――“こうすべきだ“っていう想いだけ」

 

「あれだけ好きだったのに、優しい子だって痛い程知ってたのに……。

 ただ私の中の冷たい部分が、“紅兜を殺せ“って。

 それをしろって。アイに本懐を遂げさせろって。

 ……それ以外を、決して許さなかった」

 

「死ぬとわかってたのに。アイが消えてしまう事を、私は知っていたのに。

 私はあの時、“アイの命はこの為にこそあったんだ“と思った。

 あの紅兜を討つ為に、主人を殺した相手を討つ為に。

 きっとあの日の、私との出会いさえも。

 その為にこそあったんたんだって……、思った」

 

「こんなのきっと……人間の感情じゃない。

 血の通った人間のする思考じゃない。畜生だよ」

 

 カップの紅茶を飲みほして、ふぅと一つため息を吐く。

 男の子は何も言わない。ただじっと乙女の言葉を聞く。

 それはたぶん、“何も言う必要がないからだ。“

 彼は黙って、ただ乙女の話を聞く。聞いているよ、ここにいるよと乙女に示すだけでいい。

 それだけで乙女は、大丈夫だ。

 今乙女がしているのは、報告。

 そして男の子にしっかり話す事で、心の整理をしている所なのだから。

 

「でも、それでいいんだ私は――――

 まっとうな人間じゃなくていい。だって私はハンターなんだ。

 ガンランスを操り、竜と戦う人間なんだから」

 

「プリティ、私たちの“武器“は、持ち主である私たちの事を、

 凄く愛してくれている。

 いつも一番近くで応援し、共に喜び、共に悔しがり、

 私たちといる事が嬉しいって、誇らしいって、そう思ってくれているんだ」

 

「だったら私が寄り添うべきは、あの時のアイちゃんの“想い“なんだ。

 武器としてのアイちゃんの想い。持ち主であるご主人様への愛情。

 私はそれを叶えてあげたかった。何よりも、それを遂げさせてあげたかった。

 だから、私はああしたかったんだと思う。

 ガンランスであるアイちゃんの想いを、叶えてあげたかったんだ」

 

「……だから、悲しくなんてなかった。

 アイちゃんが別のガンランスになってしまっても、

 私にあったのは“これをどう上手く使うか“だけ。

 あの紅兜をしっかり倒せた後で、ようやくなんか“よかった“って思った」

 

「よかったね、アイちゃんって……。

 強かったよ。助かったよって。

 アイちゃんが助けてくれたから、紅兜に勝てたよって。

 私はアイちゃんを、……誇らしく思った。心底愛おしいって、そう思った。

 だから私は、ぜんぜん……悲しくなんてなかったんだ」

 

 言葉とは裏腹に――――乙女の目から涙が零れた。

 男の子は静かに席から立ち上がり、優しく乙女を抱きしめる。

 

「 ――――でもっ、ご主人様と狩りをさせてあげたかった!!

  ずっと一緒に居られるように、してあげたかったッ!! 」

 

「 約束したんだっ!! 会わせてあげるってっ!!

  あの子が大好きだって、ガンランスに感謝してるんだって、

  そう伝えたかったのにっ!!

  ご主人様を見つけて、あの子に恩返しがしたかったのに!

  あの子に幸せになってっ! 欲しかったのにっっ!!!! 」

 

「 うそつきだッ! 私はうそつきなんだッ!!

  なんにもしてあげられなかったッ! あの子の幸せな顔を見たかった!!

  ご主人様に甘えている君の声を聞きたかった!! 聞きたかったのにッ!!!! 」

 

「 ごめん!! ごめんよアイちゃん!! 私はうそつきだっ!!

  何より……! 他のどんな武器よりも……!

  君を幸せにしてっ……! あげたかったのにッ……!!!! 」

 

 

 いつもと違い、声をかみ殺すようにして泣く乙女。

 慟哭……だけどとても綺麗な。優しい。

 まるでどこかにいる大切な誰かの幸せを、心から願うような。まるで懇願しているみたいな、そんな泣き方。

 

 

「おねぇさん、おつかれさま――――がんばったね」

 

 

 乙女の頭をやさしく撫でる。

 男の子は男の子なのだけど、まるでおかあさんがするようにして。

 

 がんばったこの子を、誇らしそうに見つめて。

 この子の心に、そっと寄り添うみたいに――――

 

 

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