ガンランスの話をしよう。   作:はせがわ

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ガンランスの美学は隠れキリシタンの信仰に似る。

 

 

「ありがとうなソフィーさんっ。

 デンセツコインも無事ゲット出来たでー!」

 

「うん。闘技大会をやるのは久々だったけど、役に立てて何よりだ。

 よかったな、チエ」

 

 ある日の午後。

 ガンスの乙女ことソフィーと、ハンマーの少女チエが、笑顔で闘技場の出入り口をくぐり、酒場へと帰還してきた。

 今日はPTを二組に分けての闘技大会チャレンジという事で、さっきまでこのコンビでいくつかの闘技大会クエに参加していたのだ。

 和気あいあいと話す二人の笑顔が示す通り、その結果は完勝。どのクエストも見事Sランクを達成してきた。

 

「でもソフィーさん流石やな~。

 ガンスだけやなくて、片手や太刀とかも上手いねんもんっ」

 

「一応昔、一通りの武器講習は受けたんだ。

 得物は違っても立ち回りには共通する部分も多いし、

 一度扱い方さえ覚えてしまえば、あとは応用が利くよ」

 

 闘技大会では“指定された条件でタイムを競う“というルール上、普段自分の使わないような武器やスタイルで挑まなければならない場合も多い。

 二人とも今日はガンスやハンマーではなく、片手剣や太刀や大剣といった武器を握って戦っていたのだ。

 

「ほぇ~。ウチずっと『ハンマー握んねや~! 一筋や~!』思て、

 他の武器の講習は受けてへんかって……。

 今日とかもうめっちゃテンパってもうたし、こういう時に困んねやな……。

 一回ちゃんと受けとこぅ思います」

 

「良いと思うよ。私も笛やヘヴィ、そしてハンマーの講習を受け直そうかな。

 みんなの使う武器の事、もっとよく知っておきたいんだ」

 

「あっ、ほな講習やなくて、ハンマーに関してはウチに任しといてっ!

 今度採取クエ行く時とか、一緒にハンマー担ぎましょ!」

 

 私のアイテムBOXに、ブルファンゴのハンマーがあるぞ。

 あ、それウチも持ってますっ! ほなお揃いで行きましょ♪

 そんな風にキャッキャと話す二人。その姿はまごう事無く女の子。そして友達トークである。

 どれだけこの瞬間を、二人が夢に見ていた事か……。

 もし二人の事情を知る者がこれを見たら、きっと目頭が熱くなるような光景だったかもしれない。

 

 ちなみにチエに関してだが、現在は彼女もHR9となり、名実ともにG級ハンターとなっている。

 普段はこの集会所で共に狩りをしているが、予定の空いた時などには乙女、そしてチャアク虫棍の両名にも手伝って貰い、着実にG級酒場でのクエストもこなしてきているのだ。

 

 面倒見の良いチャアクと虫棍の二人はチエの事を痛く気に入り、時折「おめぇばっかズリィよ。チエこっちにくれよ」「そうよそうよ」と冗談交じりに言うのだが、今はHRよりもしっかりPT狩りの訓練を積む事、そしてなにより乙女と共に居たいというチエの気持ちを尊重している形だ。

 

 G級とはいえまだ年端もいかない少女であるチエの事を、両名は暖かく見守ってくれている。

 その事に彼女は、深く感謝していた。

 

「ほないっぺん加工屋さん覗いて来る!

 席で待っとってなソフィーさんっ♪」

 

 そして先ほど手に入れたコインを持って、ヤッホーイとばかりに駆け出して行くチエ。その後姿を乙女は暖かい気持ちで見つめ、手を振って見送った。

 

「…………」

 

 先に席に着いておいてくれ。そう今しがた言われたにも関わらず、何故かその場から動かない乙女。

 先ほどまでの暖かい気持ちは何処へやら。今乙女の心は、深い葛藤に襲われていた。

 ガタガタと震える両足では身体を支える事が出来ずに、やがてガクリと膝を着く。

 

「…………つ、使いやすい」

 

 ボソリと呟いた言葉が、雑踏に紛れて消えていく。

 

「片手とか太刀って…………超使いやすい……」

 

 今乙女の心を支配するのは、衝撃――――

 チエと一緒にいる時はなんとか平静を保っていたが、もう一人になった途端に立っている事すら出来なくなる。

 それ程の衝撃。今日闘技場で片手や大剣や太刀を使い、改めて思い知った事実。

 他の近接武器って、“こんなにも使いやすいんですね“、と……。

 

「なんだアレは。まるで羽でも生えたかのようだったぞ。

 軽快に動ける、駆けまわれるのが、こんなにも素敵な事だったなんて……」

 

 当然これらの武器も、達人となる為にはそれはそれは長い年月を要する事だろう。

 しかし明らかにとっつきやすさ、そして扱いやすさが段違いなのだ。めっちゃ戦いやすい。

 ようするに、ソフィーからしても「凄く良い武器だな」と感じざるを得ないのだ。

 

 そして、心の何処かで思う。

 いけないとは思いつつも、自身の深い所から声がする。冷徹な部分が言っているのだ。

『そらガンスなんか、誰も使わんわ』と。

 

「だっ、誰が考えたんだ剣とか太刀とか!?

 どこの天才が発明した? なんて素晴らしい物を作り出すんだ人類は!!

 こんなにも……こんなにも使いやすい武器がっ! この世に存在した!?」

 

 震えが止まらない。衝撃で目の前が見えない。

 久しぶりに握ったガンス以外の武器の感覚が、身体に焼き付いて離れない。

 

「おっ……おえぇぇーーっ!!」

 

 吐きそうだ。淑女として意地でも耐え抜くが、ぶっちゃけ吐きそうだ私は。

 久方ぶりに他武器を握った事により、乙女の身体はガクガクと震える。そして顔面は蒼白となった。

 それでも銃槍が、ガンランスが、“私の心を捉えて離さない“というその事実に。

 “他の武器を握りたい“という想いが、微塵も湧いてこない事に。

 

「死ねる。ガンランスの為なら――――死ねる」

 

 ガンランスの生みの親ジュード・ガンドフに……。

 そして近代ガンス道の始祖ウーチン・ドッカンチョフに誓う。(※そんな人いません。)

 私は決して、ガンランスを手放さないと。

 この身朽ち果てる時まで、ガンスを担ぎ続けると。

 

「おかえりおねぇさん♪ さぁ、こっちきてゴハン食べよ?」

 

「あぁプリティ。私は今日もガンス定食がいいな」

 

 そしてテッテケテーといつもの席に向かい、プリティ&ミラちゃんと合流する乙女。さっきまでの葛藤は何処へやら。二人の顔を見た途端にご機嫌な表情であった。

 

 ちなみに“ガンス定食“とは、ネコの砲撃術が付くゴハンの事である。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 今日は非常に充実した一日であった。

 二組に分かれて行った闘技大会は、皆にとって大変実りのあるクエストだったといえよう。

 今日あった事、がんばった事を、夕食を囲みながら笑顔で報告し合う四人。

 そんな幸せな時間をブチ壊す轟音が響いたのは――――集会所の出入り口の方からであった。

 

『こっ…………殺したいっ!! 竜を殺したいッッ!!!!』

 

「奥さまっ、お気を確かにッ!! 奥さまッッ!!」

 

 はじけ飛ぶように開く出入り口。そして勢いよく中に転がり込んでくる人影。

 

『こ……ころころコロコロコロ……! 殺したいっ!!

 この手でッ、たくさんッ……! りゅ……竜を殺したいッッ!!』

 

「奥さまッ! 奥さまぁぁああーーーッ!!!!」

 

 う、うわぁ……。

〈ズリィ……ズリィ……〉と、不気味な動作で床を這いずる淑女。

 その傍らにはタキシードを着こんだ、いかにも老紳士といった人物が必死に付き添っている。

 その二人を見た面々の第一印象は、「うわぁ……」

 そろそろだいぶ暖かくなってきたし、こういった狂人が沸いてくる感じの季節なのだろうか。

 

『こ……ここでなら……殺せるッ……!!

 鳥竜種をッ……!! 飛竜種をッ……!! 魚竜種をッ……!! 獣竜種をッ!!

 沢山ッ………たくさんッッ!! た、たたたタクタクタク……!!!!』 

 

「おおぉぉ奥様ぁぁああーーーーッッ!!!!」

 

 もうホラー映画みたいに、口から泡を出して「ウケケケケ!」とか言っちゃっている淑女。

 見た感じ、もう良いお年を召した女性の方なのだが……。狩りに取りつかれた者とは、そして廃人と呼ばれるハンターとはかくある物なのだろうかと、乙女からしても我が身を振り返らざるを得ない。

 狩場から離れた廃人が時に発狂してしまうように、乙女とて2日ガンランスを握らなければ手がガクガクと震えてきたりするのだ。

 そんな中……隣に座る男の子が、ボソリと呟くのが聞こえた。

 

「――――――おかぁさん」

 

「えっ」

 

 現在床に這いつくばり、そしてエクソシストもかくやという奇行を繰り広げているご婦人。その姿を男の子が、目を見開きながら見つめている。

 

「おかぁさん……なんでこんな所に」

 

「えっ、ちょっと待ってくれプリティ。

 ……あ、あの人は君の……?」

 

『ウケケケケ!!!!』

 

 思わず男の子を二度見してしまう乙女。未だ彼の視線はご婦人へと向けられている。

 そんな中、突然ご婦人の首が〈グルンッ!!〉とこちらを向く。もうまごう事無くホラーその物の仕草だが、彼女の目が男の子の姿を捉えたのが分かった。

 

『ラインハルトッ! ラインハルトじゃありませんかッ!!』

 

「おかぁさん……」

 

「えっ」

 

「あっ……あかんアカンあかーんッ!!!!」

 

「!?!?」

 

 男の子の本名であろう“ラインハルト“の名を呼び、こちらに突貫してくるご婦人。テーブルと人をなぎ倒しながら〈ドゴゴゴゴ!!〉と迫りくるソレに対し、思わず乙女は男の子を背中に隠し、即座にチエとミラちゃんが淑女の前に立ちはだかる。

 

「あ、そ~れ♪」

 

「ふぎゃーーっ!!」

 

「ぬぅおおぉぉッ!!!!」

 

 その二人をいとも簡単に〈ドゴーン!〉と吹き飛ばし、ついに男の子&乙女の眼前に立つご婦人。

 G級ハンターと竜族の王である二人を、あっさり突破してみせた。

 

 恐らく艶やかだったのであろう、乱れた髪。

 豪華を極めていたであろうズタボロのドレス。

 そして普段は大層美しいのであろう、白目を剥いた瞳。

 今も全身からよく分からないオーラと、口から「ふしゅるるる……」とよくわからない音を発している。

 だがよく見ればその背には、セネトシリーズであろう黄金の狩猟笛がある事が分かる。

 まごう事無くこの化けm……このご婦人は、男の子の実の“母親“であったのだ。

 

 男の子は乙女の背中をすり抜け、今まっすぐに母と向かい合う。

 

「あぁなんという事ザマショ!!

 突然お前が家を飛び出してから、はや半年!

 いったいどこで何をしているのかと思えば……、

 こ~んな薄汚い集会所でハンターをしていただなんてっ!! あぁっ!!」

 

「坊ちゃま! こんな所にいらしたのですかっ!

 どれほど旦那さまと奥さまがご心配なされた事か!!

 もうお二人とも、毎日のように涙をお流しに……」

 

「だまらっしゃいトーマス! あ、そーれ♪」

 

「ぬわーーッッ!!」

 

 トーマスと呼ばれたお付きの老紳士が、ご婦人のスタンプ攻撃により〈ゴドーン!〉と吹き飛ばされる。

 PTプレイではご法度とされる、狩猟笛禁断の技だ。

 

「ラインハルト! お前は自分の立場を分かってるんザマスか!?

 お前は全国カリカリピー(狩猟笛)協会会長、世界一の笛使いと名高き我が夫、

 “狩場出 吹蔵“(婿養子)の息子ザマスのよ!?

 お前には将来、狩猟笛の未来を担っていくという使命があるんザマス!!

 こ~んな所で遊んでいる暇など、一時たりとも無いんザマスのよ!!」

 

「坊ちゃま! これまで笛の訓練ばかりでロクな自由を与えなかった事に、

 旦那さまも奥さまも、深く反省なさっておいでなのです!!

 もうお二人とも今後は、坊ちゃんを猫可愛がりするおつもりで……」

 

「やかましぃザマス! あ、そーれ♪」

 

「ぶるぅあぁーーッ!!」

 

 再び〈ドゴーン!〉と宙を舞うトーマスさん。

 PTメンバーにとって狩猟笛のスタンプの攻撃範囲は、もう脅威でしかないのだ!

 

「さぁ帰るザマスよラインハルト! 本当は超特殊クエでもして、

 お前が居なくなってしまった悲しみを竜共にぶつけようかと思いましたが、

 もうその必要も無いザマス!!

 今夜はお前を抱きしめて寝るザマス! 覚悟するザマスよ!!」

 

「さぁ坊ちゃん! こちらへ!」

 

 般若のような顔でデレッデレな事を言うご婦人、そして吹き飛ばしから即座に戦線復帰したトーマスさんが、男の子に駆け寄る。

 その手を引き、家に連れ戻す為に。

 

 今まで語られる事の無かった、男の子の事情。

 きっとその窮屈な生活と、使命という名の束縛に耐え兼ね、自由を求めて家を飛び出したのであろう事が分かる。

 

 思わず乙女が一歩踏み出し、なんとか男の子を連れ去ろうとする二人を止めに入る直前……、ご婦人と老紳士の差し出した手を、“彼自身が振り払う“。

 パシッという、乾いた音が響いた。

 

「坊ちゃん……!?」

 

「ら……ラインハルトッ!」

 

 静かな瞳で、まっすぐに二人を見据える男の子。

 

「――――ぼくは帰らない。 ごめんね二人とも」

 

「……ッ!」

 

「……ライン……ハルト……?」

 

「もうぼくはラインハルトじゃない、“プリティ“だ。

 あなたの言う、このうす汚い集会所のハンターです。

 ぼくの居場所はここ。そしておねぇさんの隣なんだ。

 あなた方とは、いっしょに行けません―――」

 

 乙女の手を握り、優しい顔で乙女を見上げる男の子。

 ニッコリと親愛を称えるその瞳に、思わず息が詰まる。胸が熱くなる。

 

 嫌だと喚き散らすのではなく、子供らしく泣くでもなく、ただまっすぐに自分の気持ちを伝える。

 ひとりのハンターとして。乙女の相棒として。

 ――――――自分の居場所はここだ。

 その高潔なまでの言葉に、この場の誰もが、しばらく口を開けずにいた。……のだが。

 

『…………こっ……こんの泥棒猫がぁぁあああーーーーッッ!!!!』

 

「えっ!?」

 

 突然矛先がこちらに向き、唖然とする乙女。

 

『お前がラインハルトを誑かしたんザマスねぇぇええーーッ!!

 キィエェェーーーーイ!!!!』

 

 まさかの展開に乙女が呆然とする中、謎の力により一瞬でゲージを溜めたご婦人による狩り技“音撃震“が発動。

 狩猟笛の奥義である、嵐のような乱舞攻撃が次々と襲い来る。

 

『なっ!?』

 

 ――――しかしその全てを、ジャストガードで弾き返す乙女。

 その凄まじいまでの絶技に目を見開くご婦人。

 

 まさか自分が“泥棒猫“などと呼ばれる日か来ようとは思いもしなかった。それでも乙女の身体は即座に動き、的確に攻撃を捌き続ける。

 

 守る事こそ我が本分。前に立つが我が使命。

 ガンランサーの誇り、そして男の子の親愛に賭けて――――

 やがて最後の攻撃を弾き飛ばし……、乙女が雄々しく大盾を構えた。背中で男の子を守るようにして。

 

「ほう……貴方ガンランサーなんザマスのね。

 アタクシの音撃震を受けきったのは……、貴方が初めて。

 ひとまず“お見事“と言っておくザマス」

 

「――――ッ」

 

 狩猟笛を片手に、まるで狂人のようにユラユラと身体を揺らすご婦人。

 

「うふふ……さぁ、かかっていらっしゃいなガンランサー。

 お得意でしょう? “対人戦“は――――

 その砲撃で、アタクシを吹き飛ばしてごらんなさいな」

 

「ッ!!」

 

 思わず出来た、心の隙――――

 それを見逃すご婦人ではない。

 

『隙ありゃぁあああーーッ!! ザマスぁーーッ!!』

 

 突如、辺りを包む閃光――――

 ご婦人の投げた閃光玉により視界を塞がれた瞬間、すり抜けるようにしてヤツが男の子に駆け寄ったのが分かった。

 

「わぁぁーー!!」

 

「!? プリティッ!?」

 

『あーーっはっはっは!! 甘いザマスねガンランサー!!

 坊やはこの通り、頂いていくザマスよ!!』 

 

 男の子を小脇に抱え、ピョーンと何故かクエスト出発口の方を出ていくご婦人。急ぎ乙女が駆け付けた時は、もう既に馬車に乗り込んだ後であった。

 

『追って来るザマス、ガンランサー! 坊やを取り戻したくばねッ!!

 アタクシの考えたこのクエストを、貴方如きがクリア出来ザマス?

 あ~~~っはっはっは!!!!』

 

「おねぇさぁぁーーん!!」

 

「 プリティィーーーーッッ!! 」

 

 凄まじい速度で走り去っていく馬車から、バサッと一枚の紙が投げ捨てられたのが見える。

 ヒラヒラと地面に落ちたそれは、クエスト内容らしき物が書かれた用紙だった。

 

・依頼主、ラインハルトのママ。

・内容、連続狩猟。

・登場モンスター、不明。

・制限時間、今晩中――――

 

「 プリティィィーーーーーーーッッッ!!!! 」

 

・クエスト名、“ウチの息子はあげないザマス!“

・概要、【追って来なさい、この泥棒猫! ブチ殺してあげるザマス!!】

 

 

 急ぎこの場に駆けつけてくる仲間たち。未だクエスト用紙を握りしめ、立ち尽くすばかりの乙女。

 

 今、愛しの男の子プリティくんを巡り……、

 嫁と姑(?)の戦いの火蓋が、切って落とされた――――

 

 

 

――つづく――

 

 

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