ガンランスの話をしよう。   作:はせがわ

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俺の行先? このガンスにでも訊いてくれ。

 

 

「――――ランポスだ」

 

 ここはG級酒場のテーブル席。

 

「――――場所は森丘、報酬は1000z」

 

 酒や料理を囲み、ハンター仲間であるチャアク虫棍と楽しく談笑していた乙女のもとに……、突然あのG級ハンター、ランポススレイヤーさんが現れた。

 

「クエスト内容は、ドスランポスの討伐。

 だがサブクエストの“ランポス20匹討伐“の達成を目指す。

 来るどうかは好きにしろ――――」

 

 フォークを手に固まっている乙女。同じく絶句し硬直するチャアクと虫棍さん。

 そんな三人をよそに、言い捨てるようにそう告げたランポススレイヤーさんが、一人ズカズカとクエストカウンターの方へ歩き去って行く。

 乙女たちは呆然としたまま、彼がクエストの受注を済ませていく様子を見守る。

 

「……おい、ソフィーよ」

 

「……あの、ソフィーさん?」

 

「…………」

 

 硬直から立ち直ったチャアク虫棍の両名が、ギギギ……っと乙女の方に顔を向ける。乙女はたらりと冷や汗をかく。

 

「俺らのリーダーはオメェだ。

 お前の決めた事にゃ……、俺らも従ってくつもりだけどよ?」

 

「貴方は頑張ってると思うわ?

 団長なんてきっと、柄じゃあなかったでしょうに……。

 それでも立派にやっていると思う。感謝してるのよ?」

 

「…………」

 

 今では乙女の傍には男の子を始めとし、この両名やミラちゃんチエちゃんといった沢山の仲間が集うようになった。

 現在この6名は正式に“猟団“の形を取り、乙女を団長として活動を行っているのだ。

 

「……でもよ? 相手は選べよお前(・・・・・・・・)

 

 ふとチャアクの男が目をやってみれば、そこにはクエスト出発口の所で一人佇むランポススレイヤーさんの姿。

 不気味なフルフェイスの兜で、乙女の方を見つめている。

 先ほどは「来るかどうかは好きにしろ」などと言っていたが、彼には一人で出発していく気配など微塵も無い。

 今も直立不動でその場に立ちつくし、ただただ「じぃ~」っとこちらを見つめ、プレッシャーをかけてくる。

 もう乙女がやってくるまで、テコでもその場を動かないつもりなのが見て取れる。

 

「別に入団条件なんてあるワケじゃないけどね?

 でも、あの人はちょっと……」

 

 このところ乙女たちは、飛竜種と戦ったという憶えが無い。

 というか、獣竜種や魚竜種や古龍種とだって無い。

 もうずっと、鳥竜種。それもクックやゲリョスではなく“ランポス“と戦ってばかり。

 

「…………」

 

 ソフィーは、人見知りだ。

 今でこそ皆に支えてもらいながら団長として奮闘してはいるものの、本来彼女はとても内気で、自分が思っている事をなかなか口に出せないシャイな子である。

 

 しかし、彼女は言いたかった。「仲間にした憶えなど無い」と――――

 私は彼をPTに誘った憶えも、猟団に入れた憶えも無いのだと――――

 

 今も不動でクエスト出発口に立ち、ジリジリとこちらにプレッシャーをかけてくるランポススレイヤーさんを見て、ダラダラと冷や汗をかく乙女。

 

 

 ……あの、男の子が連れ去られてしまった一件からすぐ後、というかもう“次の日から即“なのだが……、彼はよく乙女に声をかけてくるようになった。

 男の子とゴハンを食べている時、ミラちゃんを抱っこしている時、チエと女の子トークしている時、そしてこの遠く離れたG級酒場にいる時でさえ……。

 彼は毎日のように乙女のもとに現れ、そしていつもなんの脈絡も無く告げる。

 ただ一言「ランポスだ」と。

 

 乙女も最初は恩義のある相手だからと、快く彼のランポス討伐に協力していた。彼の力になろうと奮闘していたのだ。

 しかし何故か次の日も同じ事が続き、やがてそれが一週間目を数えた頃……、ようやく乙女は事の深刻さに気が付いた。

 

 

 ――――え? もしかして私、彼に仲間認定されてる(・・・・・・・・)

 

 

「と、とりあえずは行くかぁ? なんかアイツも待ってるみてぇだしよ……」

 

「あはは……今日もランポス討伐かぁ~……。

 私そろそろ、防具の新調したいんだけどなぁ~……」

 

 粗末と言って良いような薄汚い鎧を纏い、表情の見えないフルフェイスの兜を装備する片手剣使い。

 先ほども酒場のマスターから鬱陶しそうな目で見られ、もう嫌々のようにクエスト受注の手続きをして貰っていた男。

 ランポス素材が捨て値で取引されている最大の原因とされ、地味に新人ハンター達に多大な迷惑をかけている存在。

 G級にもかかわらず大型モンスターを狩る事もなく、ギルドや地域に貢献する事もせず……、ただひたすら“ランポス討伐“ばかりに執念を燃やす異色のハンター。

 

「ランポス共は、皆殺しだ――――」

 

 彼の名は、ランポススレイヤー。

 

 渋々といった様子でこちらに歩いて来るソフィー達の姿を認め、そのフルフェイスの兜は、どことなく満足そうに見えた。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 理由は、わからない。

 いつも集会所で見かけていたであろう、男の子の無邪気な笑顔にホッコリしていたのかもしれないし、その暖かい人柄に好感を持ってくれていたのかもしれない。

 不気味なフルフェイスの兜を装備している割に、意外と子供好きな優しい人なのかも。

 はたまた男の子の愛用する狩猟笛“ランポスバルーン“に、勝手に変な親近感を覚えられたせいなのかもしれないが……。

 とにもかくにも彼、ランポススレイヤーさんは男の子を大変可愛がってくれており、先の事件でも掛け値なしに協力を願い出てくれた。

 ゆえに乙女は彼に対し、強く出る事など出来はしないのだが……。

 

「……ちゅらい。……ランポス討伐ちゅらい……」

 

 乙女は、鬱を発病していた。

 連日のように付き合わされるランポス討伐により、心に深刻なダメージを負っていた。

 

「まぁ元気だせよソフィー。パーっと酒でも飲んでよ?」

 

「私も前に似たような事はやったし、盾持ち職がキツイのは分かるけど……」

 

 無事にクエストを達成し終え、G級酒場へと帰還してきた乙女たち。

 エグエグとテーブルに突っ伏す乙女を、もう必死こいて慰めている両名。

 

 ガンランスは、小型モンスターへの対処が苦手だ。

 大型モンスに対しては強くても、素早く動き回る複数の相手に対してはほとんど成す術が無いのだ。

 太刀やスラアクのような横薙ぎの斬撃を持たず、それに加えて同じ場所でじっとしている事も多いガンランサーは、小型モンスター達の格好の餌食になりやすい。

「お、ガンサーやガンサーや」とばかりにワラワラと群がられ、容赦なくボッコボコにされてしまう。

 しかしながら……たかがランポス討伐で鬱を発病するG級ハンターというのも、大変情けない話だ。

 毎日のようにランポスに心を折られ、日に日にやつれていく乙女の姿を見て、両名は苦笑いをする他ない。

 

「しっかし傍で見てるとよ? お前とヤツの“対比“がスゲェよ。

 方やランポス相手にボロ雑巾、方や鬼神の如くのランポス無双だろ?

 見てて笑えてくるぜ?」

 

「……正直、あれはちょっとズルいと思うわ。彼って下位ランポス相手でも、

 恥ずかし気もなくG級の片手剣で斬りかかってくでしょう?

 ぜんぶ一撃で倒しちゃうし……。片手剣ってそんな武器じゃなかったと思うの」

 

「……今思ったんだが、なんで俺達ぁヤツに付き合わされてんだろな?

 ソロでいいじゃねぇか……下位ランポスなんざ……」

 

「クエ報酬が1000z。4人で分けたら250z。

 …………ソロで良いじゃないのよ。一人で行きなさいよ……」

 

「しかもアイツ、たまにスタイリッシュボマーみてぇな事してんだろ?

 ……賭けてもいいが、アレぜってぇ赤字だぞ。

 今日も3つぐれぇ大タルG使ってやがったし……。どうやって生計を……」

 

「そもそもPTでスタイリッシュボマーしないでよ!!

 死ぬほど迷惑なのよアレ! 彼は人間のクズよ!!」

 

 彼はランポス討伐しかしないのに、何故わざわざエリアルスタイルを選択しているのだろうか。乙女たちには知る由も無い。

 

 ちなみに彼は、この食事の場に加わる事無く、すでに帰宅している。

「明日のランポス討伐の準備をする」と言ってスタコラ去って行ったが、きっと今頃雑貨屋さんでタル爆や素材玉の調達でもしている事だろう。

 

「……ちゅらい。ランポス討伐ちゅらい……」

 

 両名の努力も虚しく、ただただ「つらい」と呟き続ける乙女。料理に手をつける余力もなく、テーブルに突っ伏している。

 

「と……とりあえずよ? まだ時間も早ぇし、なんかクエ行かねぇか?」

 

「そうよ! ウジウジしてても仕方ないって!

 ほらソフィーさん、顔を見せて? 元気を出して頂戴♪」

 

「…………」

 

 乙女はなんとか気力を振り絞り、その顔を上げる。

 

「おらっ、たまにゃー気晴らしによ? オメェの好きなクエストに行こうや!」

 

「いつも助けてもらってばかりだし、

 今日は私達がソフィーさんのリクエストを聞くわ♪

 ほらっ、ソフィーさんは何のクエストに行きたい? どんなモンスが好き?」

 

「き……君たち……」

 

 優しく労われ、思わず乙女の目から涙が零れ落ちそうになる。

 疲弊した心に二人の優しさが染み渡り、ようやく乙女が笑顔を取り戻そうとした、その時……。

 

「――――――ランポスか」

 

「「「!?」」」

 

 いつのまにやら背後に現れたランポススレイヤーさん。

 三人がクエストに行く雰囲気を嗅ぎ付け、この場に戻って来た。

 

「……お、オメェ! いつの間に……!」

 

「――――ランポスに行くのだな。俺も共に行こう」

 

 そう言い放ち、スタコラとクエストカウンターに向かおうとするランポススレイヤーさん。

「共に行こう」どころか、もう自分がクエを貼る気マンマンだ。それを必死こいて止める一同。

 

「ちょっと待って頂戴! 私たちは今から、ソフィーさんのクエストに行くの!

 たまにはソフィーさんの好きなモンスターをって……」

 

 ランポススレイヤーさんを羽交い絞めにしながら、必死に語りかける虫棍さん。

 しかし彼はジタバタしつつも、平然と言い放つ。

 

「――――あぁ、だからランポスに行くのだろう。

 コイツはランポス討伐が、大好きだからな」

 

「「「!?!?」」」

 

 思わず絶句する一同。しかし彼は淡々と言葉を続けていく。

 

「――――以前、あの子が俺に『おねぇさんはランポスがキライなんだよ』

 と教えてくれた。だから俺は知っている。

 ――――コイツは俺と同じ、ランポスに憎しみを抱く者だと(・・・・・・・・・・・・・・)

 

「「「!?!?」」」

 

 たまに彼が男の子と仲良く談笑しているのは見かけた事があった。

 しかし、その内容までは知らなかった乙女。

 

「――――しかし、たとえあの子の言葉が無くとも、

 俺はコイツと共に狩場に立った事だろう。

 ――――俺には分かる。コイツは俺と、同じ匂いがする」

 

「「「 !?!?!? 」」」

 

「――――小型討伐に向かないガンスという武器を使っていながら……、

 それでもコイツはランポスを狩る。戦い続けている。

 決してランポスを許さぬという、その気高き心……。心に燃える憎しみ……」

 

 今、ランポススレイヤーさんがそっと乙女の手を取り、そして力強く頷く。

 

「――――ソフィー、お前に必要なのは、ランポスだ。

 ――――――共にランポス共を皆殺しにするぞ、同志よ」

 

 

 やがてランポススレイヤーさんにズルズルと手を引かれ、乙女がクエスト出発口の方へと消えて行く。

 

 仲間どころか、同志認定――――

 チャアクと虫棍の両名が、その姿をただただ見送っていた。

 

 

 

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