ガンランスの話をしよう。   作:はせがわ

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朝までに何回KISSして欲しいか、決めとけよ。

 

 

「……もし? あのっ……少しよろしいでしょうか、ご主人」

 

 今日も元気にトンカチを振るい、商売繁盛とばかりに勤しんでいたオヤジ殿。そんな彼の加工屋の店先に、小さな小さなお客さんが現れた。

 

「おやっ、どうしたんじゃなお嬢ちゃん? 見ない顔じゃなぁ」

 

 ふと手を止めて目をやってみれば、そこにあったのは赤い髪の少女の姿。

 どことなく高貴さを感じさせる、神秘的な黒いローブ。

 真紅の宝石を思わせるような、肩で切り揃えられた綺麗な髪。

 そしてまだ7つにも満たないであろう幼い容姿と、モジモジと恥じらう愛らしい仕草は、強烈な程に庇護欲をそそる物。

 オヤジ殿も優しく微笑みかけ、親身になって要件を訊ねる。

 

「あのっ……この街に、白い髪をしたヘヴィ使いの少女がいると、

 お聞きしましたっ。……ご主人は、何かご存知ありませんか……?」

 

 手を祈りの形にし、ウルウルしながら問いかける、幼い少女。

 この人慣れしていない様子の儚げな少女が、必死の思いでここにやってきたであろう事が見て取れた。

 

「白い髪? ……あぁ! それならあのブタ娘んトコの!!」

 

 手をポンッと叩き、満面の笑みでオヤジ殿は答える。

 この健気な少女を安心させてやるべく、温かみのある優しい声で、集会所の場所を伝えてあげた。

 

「すぐそこじゃし、迷う事は無いとは思うが、

 道中わからんようになったら、そこらにいる者達に訊くとえぇ。

 皆気の良い連中じゃからの。

 また何かあった時は、ここに寄りなさい。ワシでよければ力になるでな」

 

 嬉しそうに何度もお礼を言い、何度もこちらに振り返ってペコペコ頭を下げる少女。

 フリフリと手を振って彼女を見送った後、暖かな気持ちを胸に抱きながら、オヤジ殿はトンカチを再開させる。

 

「あの子は、ミラちゃんの妹さんじゃろうか?

 気弱な感じの子じゃったが……、どことなく雰囲気も似ておったしの」

 

 まぁこの街に来たのなら、また自分と会う機会もあるだろう。

 今度会う時は、二人一緒にここを訊ねて来てくれるかもしれない。その時を楽しみに思う、子供好きなオヤジ殿だ。

 

 ミラちゃんは、折りたたんだヘヴィボウガンよりも小さな背丈の女の子であるが……、もしかしたらあの子もヘヴィを担いでいたりするのだろうか?

 ひとつあの少女達の為に、今度ヘヴィボウガンの軽量化について研究してみようか。ミドルボウガンなんて名前にしたらどうじゃろう?

 そんな事をのほほんと考える、オヤジ殿であった。

 

 

(待っててけろ、おねえちゃん……。いまそっちに行くだ。

 ……今度こそ、オラと一緒に死のうね(・・・・・・・・・・)

 

 

………………………………………………………………………………………………

 

 

「う……、うわあああああぁぁぁ~~~~~ん!!!!」

 

「あぁっ、ソフィーさん!!」

 

 乙女が泣きながら集会所の出口を飛び出して行く。

 席を立つ瞬間に何故か〈スポッ!〉っとブルファンゴフェイクを被り、涙をまき散らしながらこの場を走り去って行った。

 ファンゴによる心の安寧の為なのか、はたまた泣いている顔を見られたくなかった為なのか……。とにかく、ブタ女は走り去って行った。

 

「あぁもう……アカンでミラちゃん? ソフィーさんガン泣きしとったやん」

 

「ふんっ」

 

「あーあ」とばかりに出口の方を眺め、ため息をつくチエ。対してミラは悪びれる様子もなく、そっぽを向いている。

 

「おかしい物をおかしいと言って、何が悪い?

 (オレ)は間違った事など言うてはおらぬ」

 

「まぁそらウチも、正直どうかとは思っとったけど……」

 

 いま乙女が泣いてしまった理由。ミラちゃんに言われ、逃げるようにこの場を走り去る原因となった事。

 有り体に言えばそれは「お前の定型文はおかしい」という物であった。

 

 ……余談ではあるが、かのMHXXというゲームには、狩り技を使う時や、罠や爆弾を設置する時、また誰かに粉塵を使ってもらった時などに、プレイヤーそれぞれが考えて設定した“定型文“を用いて、自動的にチャットで発言する機能がある。

 狩り技発動時には必殺技よろしくカッコよく叫んでみたり、罠や爆弾を設置した事を周りに知らせてみたり、回復してもらったお礼を言ったりと……それぞれの行動時に好きなセリフを言わせる事が出来るのだ。

 

 今回彼女たちの間で議題にあがったのは「お前は狩り技使う度に、なに叫んでんだ」という物。

 ブラストダッシュの度に、覇山竜撃砲の度に、竜の息吹を使う度に彼女が叫んでいる言葉。その是非を問う物であった。

「なにを言うとんねん」という事である。

 

「アレはいったい何だ? 『いつだって、何かに逆らい生きてきた』だの、

『不機嫌な天使は悪魔のように誘惑する』だの、

『ガンサーなら、派手さを貫き一本の虹となれ』だの。

 きゃつはいったい何を言うておるのだ?」

 

「……いや、その……、あのなミラちゃん?」

 

「技を繰り出す度『輝きを抑えられない我々を、人は堕天使(ガンサー)と呼ぶ』などと。

 ……何故いちいち妙なセリフを言う? どうかしておるのではないのか」

 

「えっと……世の中そーゆうんが好きな人らもおってな?

 ちょっとした“心の病“いうんかな……?」

 

 現代でいう所の、中二病。

 彼らはそれがカッコいいのだと微塵も疑う事無く……、満面の笑みを浮かべながら、自分で考えた“イイ感じのセリフ“を狩り技時に叫ぶのだ。

 

「……ミラちゃん、ああゆうんはな? 黙って見守ったらなアカン!

 たとえ思う所があってもな? それを言うたるんは殺生や。可哀想やで。

 あったかく見守ったげ? 彼らも頑張って生きてんねん」

 

「ぬ?」

 

 彼らみたいなモンでも、この宇宙船“地球号“の仲間やねん。仲良ぅしていこうや。

 チエは諭すように擁護しているが、もしこれを乙女が聞いていたら、血を吐いて死んでいたかもしれない。

 

「……ふむ、そこまでチエが言うのなら、致し方あるまい。

 今後は口には出さぬ。心で思うのみとしよう」

 

 呆れたように腕を組み、フゥとため息をつくミラちゃん。

 

「しかしながら、泣きながらこの場を走り去るとは、一体どういう事だ?

 我が主として、少しばかり自覚が足りぬのではないか?」

 

「そ、それは……」

 

 たらりと冷や汗をかくチエを余所に、ミラは拗ねたように「むーん」と口を尖らせる。

 

「まぁ良いか。特に許す――――

 いくら腕が立とうとも、支え甲斐の無いつまらぬ主など、我も御免こうむる。

 せいぜい良き臣下として、きゃつを支えてやるとするさ――――」

 

 うって変わって、得意げに「ふふん♪」と笑うミラちゃん。乙女への不満を言うかと思えば、次の瞬間には速攻でデレてきた。

 もう何をどう思えば良いのか分からない、チエであった。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 男の子は現在、外へ飛び出して行った乙女を迎えに行ってくれている。ゆえにこの場には、チエとミラちゃんの二人のみだ。

「はらへった。はらへった」と騒ぐミラちゃんを抱っこしつつ、チエはまったりしながら、席に料理が届くのを待っていた。

 そんな彼女の耳に……集会所の入り口の方からの、なにやら愛らしい女の子の声が聞こえてきた。

 

「……あのっ……もし? ここに白い髪をした……」

 

「んぁ?」

 

 何気なしに目を向けてみれば、そこにはオロオロとしながら、必死になって集会所のハンター達に声を掛けている女の子の姿がある。

 

「なんやあの子……。えらいちっこいけど、あの子もハンターなんかな?」

 

「ぬ?」

 

 ナイフとフォークをカチカチして遊んでいたミラちゃんも、いったん手を止めて、そちらの方に目を向けてみる。

 

「……あぁ……ありがとうございます。本当にご親切にっ……。

 あちらに居るのですね? では行ってみますっ……」

 

「 んぼッ!?!?!? 」

 

〈ピキーン!〉と身体を硬直させるミラちゃん。

 彼女をだっこするチエからは見えないが、その顔面は一瞬で蒼白となっていた。

 そして、次の瞬間……。

 

「――――おねえちゃん! ミラおねえちゃん!!

 あぁっ、やっと会えただっ!!」

 

「 ばっ、バルカン(・・・・)ッッ!!!! 」

 

「ふぎゃーーっ!!」

 

 感極まったように涙を流し、〈ピョーン!〉とこちらに飛び込んで来た赤い髪の幼女。

 ミラはチエに抱っこされていたので、三人まとめて床にひっくり返った。

 

「4千年ッ…4千年ぶりだなや!

 なしてオラを置いて行ったんだぃ!? オラずっとひとりで寂しかったっ!!」

 

 今もミラのお腹にしがみつき、もうえんえん泣き続けている少女。

 彼女の名は“ミラ・バルカン“。

 ミラにとって、生き別れの妹とも言える存在であった。

 

「 死のう! 一緒に死のうおねえちゃん!!

  オラたちゃ都会にゃあ住めねぇだ!! 一緒に死んでけろっ!! 」

 

「離っ……離さんか貴様ッ! やめんかぁッッ!!」

 

「おねえちゃんといっしょなら、オラなんにも怖ぐねっ!!

 なんも寂しい事なんがねっ!!

 もうこの世界にゃ、オラたち田舎モンの居場所なんかねぇだ!!」

 

「ば……馬鹿ッ! 馬鹿バルカン!! 離せぇぇーーッッ!!!!」

 

 もう這いずるようにして逃げ出そうとするミラ。そしてどれだけポカポカ頭を叩かれようが、根性でしがみつくバルカンちゃん。

 

「ここ来る途中、ちょーどえぇ感じの木をみつけただよ!!

 そこで首括って死ぬべおねえちゃん! では行くっぺし!!」

 

「い、行かぬ! 行かぬと言うとろうがおねえちゃんはぁーーッ!!

 ぬぅおおおぉぉぉーーーーッッ!!!!」

 

 必死に柱にしがみつくミラを、「おーえす! おーえす!」とばかりに引っ張るバルカンちゃん。

 宙に浮くミラの身体は、なんか鯉のぼりみたいだった。

 

 

………………………………………………………………………………………………

 

 

「えっと、じゃあバルちゃんは、ミラちゃんの妹さんでええんかな?」

 

 やがて騒動も収まり、現在チエたち三人は、テーブル席に着いて料理を囲んでいる。

 肩で息をしながらそっぽを向いているミラ。その隣にはモジモジと恥ずかしそうな仕草のバルカンちゃんの姿がある。

 

「はい……初めましてチエさん。私はルーツの妹、バルカンと申します。

 いつも姉が、大変お世話になってて……」

 

 行儀よくペコリと頭を下げ、はにかむような愛らしい笑顔を見せてくれる。

 

「あ、ご丁寧にどうもな? バルちゃんはちゃんと挨拶出来てえらいな♪

 ……というか、さっきと喋り方変わってしもうとるけど、

 別に楽に喋ってくれてええんよ? ウチもこんなんやし」

 

「~~ッ!!」

 

 その途端、もうカーっと赤くなるバルカンちゃん。

 どうやら自分の方言が恥ずかしいと感じているようで、頬に手をあてて悶絶してしまっている。

 

「……おっ……お恥ずかしいですっ。

 私おねえちゃんに会えたのが嬉しくって……、ついいつもの口調でっ……」

 

「いやいや♪ ええやんか素の喋り方で。

 ウチは方言って好っきやで? なんかあったかい言葉や~思うもん♪」

 

 胸張っていこうや! 方言同盟の結成や! そうチエは朗らかに笑う。

 

「というか、バルちゃんとミラちゃんって、ずいぶん喋り方が違うんやね……。

 もしかしてミラちゃん、今まで方言かくしてたん?」

 

「 !?!? 」

 

「ミラちゃんのその口調……、もしかしてキャラ作ってたとか(・・・・・・・・・)?」

 

〈ズガーン!〉と雷を受けたように固まり、骨付き肉をポロッと落とすミラちゃん。

 

「ちっ、違う!! 違うのだチエよッ!!

 我はこやつとは何の関係も無い!! 誰がこのような田舎者……!!」

 

「おねえちゃん……前はそんな喋り方、してなかったよね?

 私と同じ、故郷の言葉でしゃべってたのに……」

 

「黙れッ!! 我はシティガールだ!!

 貴様とは違うのだ馬鹿バルカン!! 帰って芋でも掘っておれ!!」

 

「おねえちゃん! オラがかっぺだからってバカにしてるだか!?

 おねえちゃんだってかっぺでねぇべか!! あんなに芋ばっか食ってたくせに!!」

 

「おだずでね!!  誰がかっぺなもんかぃ!!

 オラぁちゃんとモダンな香水とか付けてんだ!? めんけぇ服着てんだ!?

 朝は優雅に“こーんふれぇく↑“(訛り)とか食べてんだ!?」

 

「何そのオサレなの!? どこで売ってんだべ!?

 オラもそのこーんふれぇく↑、食いてえ!!」

 

 

 ――――――地獄やッ!!

 

 ワーキャーと騒ぐ二人を見守りつつ、余計な事を言ったと深く反省する、チエであった。

 

 

………………………………………………………………………………………………

 

 

「あ~。やーっと落ち着いた……。

 じゃあちょっとトイレ行ってくるけど、もうケンカしたらアカンよ?」

 

 そう言い残してチエが席を立ち、この場には今、ミラとバルカンちゃんだけが居る。

 

「お……我の威厳が……! 積み重ねてきた王のイメージが……!

 馬鹿バルカンのせいで……ッ!」

 

 もう「ああああ……」と顔を伏せているミラ。竜族の面汚しだとばかりに落ち込みまくっている。

 

「お……おねえちゃん? ゴメンね? 私わざとじゃなくて……」

 

「もう良いのだバルカン……気にせずとも良い。

 この場に我が主がおらなんだだけ、まだマシと言う物さ……」

 

「……………」

 

 もしこの醜態を乙女に見られていよう物なら、ミラは「実家に帰らせて頂きます!」とばかりに空へ飛び立っていた自信がある。

 情けない主の姿に呆れつつも、それでもばっちりクールに支える“出来る臣下“。それこそがこのミラの誇りであり、生きる意味である。

 実際の所は愛らしい幼女なので、乙女の抱き枕だったり皆の癒し要員だったりもするのだが……、ミラにとっては絶対的にそうなのだ。

 情けない姿を主に見られる事など、決してあってはならない事だ。彼女は竜族の王なのである。

 

「おねえちゃん……今はハンターをやってるんだね……。

 チエさん達といっしょに、PTを組んで」

 

「然り。ヘヴィボウガンなる物を担いでおるぞ?

 貴様も人間共に、頭部に拡散弾を喰らわされた経験くらいは……」

 

「――――――なんでそんな事してるの?

 おねえちゃんは、誰かに討たれるのが望みなんじゃ……、無かったの……?」

 

 先までの様子とは違い、バルカンは真剣な目でミラを見つめる。

 

「そう言って、故郷を出て行ったのに……。

 私を置いて、ひとりで飛び立って行ったのに……。

 おねえちゃんはもう……、死ぬ事すら(・・・・・)諦めてしまったの……?」

 

「……………」

 

 テーブルに伏せていた顔を上げ、ミラは妹を見つめる。

 その肩は震え、今にも崩れ落ちそうな程、儚い物に思えた。

 

「私は……もうイヤだよ……。

 隣に誰も居ないのも、ひとりぼっちで待ち続けるのも、イヤだよ……。

 ずっと待ってた……、ずっとずっとがんばって待ってたよ?

 でも居ない……。私たちを討てる存在なんて、

 “終わりをくれる人“なんて、どこにも居なかった。

 もう疲れた……。疲れたよぉ……、おねえちゃんっ……」

 

 静かに、ポロポロと涙を流す少女。

 今にも消えそうな小さな声。だがそれはあまりにも、悲痛な叫びだった。

 

「もう“竜“じゃなくったっていい……。

 竜の本懐なんて……竜の役目だなんて、そんなこと知らないっ……。

 おねえちゃんが死なないのなら、それでもいい。

 私を殺して――――。

 “終わり“がほしいの……おねえちゃん――――」

 

 

………………………………………………………………………………………………

 

 

 あの日……、あの古い塔の上、わたしはひとりのガンランサーと出会った――――

 

 どこぞで狩りでもしてきたのか、それとも人間たちの手による物なのか……。

 そのガンランサーの顔にはたくさん治療の跡があり、戦う前から、既に満身創痍であるように見えた。

 

『……待っていたんだろう? 私を』

 

 一目みて、分かった。

 この人だ――――と。

 そうとも。わたしはずっと長い事、あなたを待ち続けていたのだ。

 

 でもそんな事、わたしはおくびにも出さない。もし無様に喜びでもしようものなら、品格という物を疑われてしまう。

 わたしはけして、そんな安い女では無いのだから。

 

『お前とこうして会う為に、ガンスを握ってきたのかもしれないって、……そう思う』

 

 同感だ。わたしも今、同じことを考えていたよ。

 あなたと出会うこの時の為……、わたしはこうして、生を受けたのだと。

 

 気安くもあなたは、何気ない仕草でこちらに歩み寄り、わたしの身体に触れた。

 そして優しく、慈しむようにして……わたしの身体を撫でた。

 

 やがて離れていったその手が、惜しかった。

 願わくば、もっともっと触れていて貰いたい。そう感じた。

 

 でもそれも、詮無き事。

 なぜならわたしにはもうすぐ、終わりがくる。

 この人がわたしの、“終わりをくれる人“だから。

 

『さあ戦おう、ミラボレアス。

 私が、お前の待ち望んていた相手だよ』

 

『私がお前の――――天敵だ』

 

 まるで濁流のような、溢れ出す歓喜を、押さえ切れなかった。

 らしくも無く、はしたなく雄たけびなんて上げてしまったけれど……、そんなわたしの姿は、あなたには一体どう映っただろうか? 今思い返してみても、少し恥ずかしい。

 

 せめて、不覚にもこの眼から零れた涙が。

 あなたに見られなかった事を、願いたい――――

 

 

………………………………………………………………………………………………

 

 

(………………ふむ)

 

 暫しの回想から意識を戻し、ミラは目の前の妹へと目を向ける。

 彼女は今もポロポロと泣き、力なく、言葉もなく項垂れている。

 

 自分は、あのガンランサーと出会った。

 人生(?)とは面白い物で、今こうしてあの腐れガンサーと共に、日々ハンターとして狩りなんぞに勤しんでいたりするが……確かに自分はあの日、待ち望んでいた人と出会う事が出来たのだ。

 

 そしてこの子は、出会えなかった――――

 その健気な心が、膨大な時間にすり潰される時まで待ち続けようとも……、ついに出会う事が出来なかった。

 

 この子は、もう一人の自分だ。

 有り得たかもしれない、自分の姿そのものだった。

 

(話してみるか、我が主に……)

 

 この子を、会わせてみよう。

 あのガンランサーに。親愛なる、我が主に。

 

 その時、一体どうなるのかは分からない。

 妹が殺してくれと懇願し、それを我が主が受け入れるのかどうか、それは分からない。

 我が主が妹を討つのか。それとも妹が、我が主を討つのか。

 その時に自分は何を思うのか。その時、自分たちは一体どうなってしまうのか。

 

 分からない。ただ……この子に会ってあげて欲しい。

 この世界で唯一、我が信頼するお前には。

 

 ……まぁそれを言ったらチエの事だって超大切だし、あの虫棍とチャアクの両名だってけっこう気に入っている。

 それに最近はあの男の子の方が、自分の中でちょっぴり比重が大きくなってたりもするのだけど。(護らねばならぬ、的な感じで)

 

 けれど、会ってあげて欲しい、ソフィー。

 お前になら、全てを託せる。心からそう思える。

 

 我が半身、愛すべき我が主。

 この世でたったひとりの、わたしの“運命の人“――――

 

 

「…………バルカンよ、実はな?」

 

 そう妹の肩に触れようとした、その時……。

 突然、集会所の扉が開いた。

 

 

………………………………………………………………………………………………

 

 

「お……オラこんな美味ぇもん! 食った事ねぇだ!!」

 

 我が妹の、歓喜の声が聞こえる――――

 

「そうか、良かったなバルちゃん。沢山食べるといい」

 

 そして我が妹をその膝に乗せ、慈愛に溢れた笑みを浮かべる、我が主の姿が見える(・・・・・・・・・)

 

「……………」

 

 ミラは硬直している。

 まるでいま起こっている出来事を、受け入れる事が出来ぬと言うように。

 

「おー、凄いなぁ~ソフィーさん! もうメロメロやんかバルちゃんは♪」

 

「バルちゃん、おねぇさんの事だいすきみたいだねっ。

 おねぇさんも、すごく嬉しそう♪」

 

 そんな風にのほほんと笑い合う、チエと男の子。

 キャッキャと微笑ましい姿を見せる、乙女とバルちゃんを見守る。

 

「………………ぬ?」

 

 なんだこの光景は……何が起こっている?

 ミラ・ルーツは、未だ眼前の光景を受け入れられずにいる。

 

 

 

 …………先ほど、妹へと声を掛けようとしたのと同時に集会所の扉が開き、乙女がこの場へと帰還して来た。

 その姿をひと目みたその瞬間、妹の頭上に〈ピシャーン!!〉と雷が落ちる光景を、ミラは幻視した。

 

「~~~~ッッ♡♡♡」

 

 分からない。この子にいったい何が起こったのか。

 しかしこの子がいま衝撃に打ち震えており、その凄まじい歓喜によって、おめめがハッキリ♡の形になっているのが見て取れた。

 

「ッッ!! ッッ!! ~~~~~~~ッッ♡♡♡」

 

 身に覚えがある――――。

 これは、我が初めてガンサーと出会った時のヤツだ。

 我が妹は今……あの時の我とまったく同じ感情を味わっているのだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 ……ミラは竜の本能として、そう確信した。

 

「……あっ! あのあのっ! ……もし? そこの素敵なお方!!」

 

「なんだい? 私に何かご用かな? 可愛いお嬢さん」

 

 

 

 …………そこから先は、語るまでも無い事だろう。

 バルちゃんは好き好きビーム全開で乙女のもとに駆け寄り、乙女も親切に、慈愛をもって彼女に接した。

 そして他人を寄せ付けぬラブラブ空間を作り出した二人は、いま現在も仲睦まじく一緒にゴハンを食べ、たいへん微笑ましい姿を見せている。

 

「………………」

 

 目を見開いて眼前を見つめる、竜族の王ミラ・ルーツ。

 

「ほんとにオラ、ソフィーさんといっしょにおってええだか……?

 もうさびしい想い、せんでえぇだか……?」

 

「もちろんだよバルちゃん。

 今日から私が、君の姉になる。これからずっと一緒だ」

 

 

 ――――わたしの運命の人、乗っ取られとる!!!!

 

 驚愕の表情を浮かべながら、ミラは己の主にスリスリと頬ずりをする、妹の姿を見つめた。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 ここは夜の渓流。

 彼はひとり、じっと待ち続ける――――――

 

 

 彼は“ジンオウガ“と呼ばれる、この渓流の主だ。

 生まれてこのかた、彼の強大な力に敵う者は無く……、その生涯は数えきれない勝利と、空虚な孤独に満ちていた。

 

「――――――」

 

 彼は、待ち続ける。

 ここでひとり、静かに月を見つめながら。

 自分を倒す事の出来る、誰かが来る事を。

 

 来るかどうかなんて、分からない。

 そんな者は、この世のどこにも居ないのかもしれない。

 少なくとも自分は、今までそんな者、見た事も聞いた事も無かったから。

 これはまったく無駄な事、虚しい事をしているだけなのかもしれない。

 

「――――――」

 

 しかし、彼はじっと待ち続ける。

 この孤独を、終わらせてくれる者を。

 

 強者と呼べる存在を。

 退屈なだけの時間ではなく、燃えるような充実感を味合わせてくれる、そんな存在を。

 

 このぽっかりと胸に空いた風穴を、埋めてくれる誰かを。

 

「――――?」

 

 ふと耳を傾けてみれば、なにやらこちらに向かって歩いてくる、誰かの足音がする。

 彼は月を見上げるのを止め、ゆっくりと、雄々しく身体を持ち上げた。

 

 ――――――グルルル……。

 

 彼が喉を鳴らす。

 獲物を威嚇する為でなく、自分の感情を高めていく為に。

 退屈な時間は終わりだ。さぁ、戦いを始めよう。

 

 自分のものにやってきてくれた、誰か。

 それを歓迎するように、恋人の胸に飛びこんでいくように、彼は駆け出していった――――

 

 

『 ………………あ゛ぁ゛ん? おぉコラ? 』

 

 

 思わず〈キキキィ~!〉とブレーキをかける彼。

 なんとか必死こいて、ぶつかる寸前で止まる事が出来た。

 

『 誰だ貴様オイ? おっ? おっコラ?

  お前いくつだコラ? 何年生きとんじゃコラ? 』

 

 ダラダラと冷や汗をかき、彼は震える事しか出来ずにいる。

 今おもいっきりメンチをきり、額に青筋を浮かべ凄まじい瘴気を放つ、“白い髪の幼女“に対して。

 

『 5歳か? 10歳か? ……まだクソ餓鬼じゃねぇかぁこの犬っころがあッ!!!!

  なにを月みて黄昏とんのじゃあボケェェェーーーーッッ!!!!

  イワされたいんかぁゴラァアアアアアアッッ!!!!!!!!! 』

 

 凄まじい落雷が連続して落ち、二人の周囲の僅かなスペースだけを残し、辺り一帯が焼け野原となる。

 彼も一応雷系のモンスなのだが……、その威力は自分などとは、天文学的な数値で開きがある事が分かった。

 

『 千年生きてから物言えボケェェエエッ!!!!!!

  五千年生きてから悩まんかぁカスゥゥウウウーーーッッ!!!!!

  ……お前ほんまいてもうたろかぃコラ!? おぉコラ!?!? 

  ワレなに見とんのじゃお前こらボケカスゥーーーーッッ!!!!! 』

 

 彼は地面に頭を打ち付け、自らの手でその角をへし折る。

 そしてパリパリと身体から甲羅や鱗を剥がしてから、「へへ~っ!!」とばかりにひれ伏し、幼女に差し出した。

 

 ――――――これでどうか、許して頂けませんでしょうか、と。

 

 

『 お前ほんまコラ■■■■やぞボケコラカス◆◆◆※※※※――――ッッ!!!! 』

 

 

 天地を割る程の祖龍ミラボレアスの怒りが、いま理不尽な八つ当たりとなって、若者へと降りかかっていった。

 

 

 

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