ガンランスの話をしよう。   作:はせがわ

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特別編、茨の海
その1


 

 

 まるで呪い(・・)のようだ。そう感じる時がある――――

 

 

 どれだけ人に疎まれようと、蔑まれようと、決して自分では変える事の出来ない想い。

 決して手放す事の出来ない、この胸の想い。

 部屋でひとりで居る時や、窓の外に降る雨を眺めている時……、そんなふとした瞬間に私は思う。

 

 これは、呪いなんじゃないのか。

 ただ私を縛りつけるだけの……、黒くて重い“鎖“なんじゃないかと。

 

 これのせいで、私はずっと一人だった。

 こんな物があったおかげで、今まで誰の傍にいる事も出来ず、決して人から愛される事は無かった。

 けれど、自分では本当に、どうする事も出来ない。

 

 私の心のずっと底の、自分でも触れる事が出来ない程に深い、ちょうど真ん中の部分。

 たとえ屍のように打ちひしがれようとも、ボロクズのように倒れ伏そうとも、常に私を突き動かし続ける、ひとつの想い。

 決して私を放す事なく、決して逃がしてはくれない、そんな想い。

 

 ――――ガンランスを握ろう。

 私はガンランスを、握らなくては(・・・・・・)――――

 

 

 いつもは、花で飾っている。

 普段は、ありったけの花で。見栄えが良くて、とても聞こえの良い言葉で、綺麗に飾っているんだ。

 ……そう、「私はガンスが好きだから」って。「ガンランスを愛してるから」って。

 

 そんなとても綺麗な言葉で、私はこの感情を飾っている。

 決して中が見えないように……覆い隠している。

 

 だから、仕方ないんだって。

 私はガンスが好きなんだから、仕方のない事なんだって。

 どれだけ辛い想いをしようとも、寂しい想いをしようとも、私は、ガンランスを“選んだ“んだから。好きで握っているんだから。

 

 私は、へっちゃらだ。ガンランスさえあれば、私は大丈夫なんだ。

 だから今日もガンスを握ろう。大好きなガンランスと共にあろう。

 私は、ガンランスを握らなければ(・・・・・・)――――

 

 

 けれど、私のこの気持ちは、いったいいつから胸にあったんだろう?

 

 物事には始まりという物がある。

 なら私のこの想いは……いつからこの胸にあるんだっけ?

 

 いったい、いつ生まれた物なんだろう。

 “誰から“もらった物だったんだろう――――

 

 

 今も私を突き動かし続ける、心の真ん中にある、この強い気持ち。

 

 決して自分では触れられない……捨てる事の出来ない、呪い(・・)

 

 その始まりを、私は思い出す――――

 

 

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『ソフィーはとても美人だから、きっと将来、誰からも愛される素敵な子になるよ』

 

 

 これは、今朝ベッドで目覚めた時に、ふと脳裏に浮かんできた記憶。

 今はもう遠い昔……、暖かい誰かと一緒にいた頃に、かけてもらった言葉だった。

 

「……残念ながら、そんな事はなかった」

 

「うん? おねぇさん?」

 

 私の顔を、プリティが不思議そうに見つめている。

 共に集会所のテーブルに着き、リモホロ・ミックスグリルを元気に頬張っているプリティに向き直り、私は何でもないのだと首を横に振る。

 

「すまないプリティ、ちょっと昔の事を思い出していてな。

 つい独り言が出てしまった」

 

 苦笑しつつ、誤魔化すようにして私はお酒をひとくち。

 いかんいかん。せっかくプリティやみんなとゴハンしているというのに、物思いにふけってしまっては。

 

「独り言も良いが、妄想は大概にせぃよ?

 おおかた今も、新しく作ったガンランスの事でも考えておったのであろう?

 家に帰ったら、思う存分舐め回そ~などと……」

 

「!?!?」

 

 ミラよ、何故知っている!? 最近はガンスをペロペロするのは控えているというのに!!

 今私はバルちゃんと一緒に住んでいるし、そういった所は極力見せないようにと、頑張って“週一回“に抑えているというのに!! いつの間に見られた!?

 

「もう病気じゃねぇか。ガンスの病だよお前は。

 そんな若い身空で拗らせやがって……。親が見たら泣くぞオイ」

 

「お……オラは別に、ソフィーさんがどげな事しとっても……」

 

「ダメよ、バルちゃんにそんな変態行為は見せられないわ。

 何か怖い事があったら、迷う事なく私のトコにいらっしゃいな。

 いつでも歓迎するわ」

 

「ウチよぅわからへんけど……味とかあるんですかソフィーさん?

 ガンスそれぞれに違う味わいが~とか……そんなんあるんです?」

 

 ミラの一言に端を発し、私の尊厳が蹂躙されていく。ちびっこ達の前でこれは、流石の私も涙が出そうになる。

 ちなみにチエよ? 私がガンスを舐めるのは味の為じゃなく“愛情表現“なんだ。いつもありがとう愛してるよペロペロ、みたいな事だぞ。

 

「今日もガンランスがあるから生きていける……。

 最近また国会で“ガンランサー税“の増税が閣議決定されたが、私は挫けない」

 

「せちがれぇなオイ……また増税されたんかよガンサー税」

 

「なんか3か月ごとに増税されてってない?

 今たしか10%でしょ? 容赦ないわね……」

 

「ちなみにこの10月から、ガンランス用砲弾の有料化が始まるよ?

 おねぇさんドンマイっ」

 

 時に愛は私を試してる。ビコーズ アイ ラビュー。

 プリティも私を応援してくれているし、今後とも頭を低くし、精進して生きていこうと思う。

 

 そんな事を言ってみんなにあきれ顔をされていた時……ふいにこちらに近づいてくる人影に私は気が付いた。

 青いドレス、そして特徴的なロールブロンドの髪が私の視界に入る。

 

「……ソフィー、少しよろしいかしら。貴方に重要なお話がありますの」

 

「プリシラ?」

 

 G級ランサーのプリシラ。

 彼女は私の後輩にあたるハンターであり、普段は別の場所で活動しているものの、よくこうして会いに来てくれる大切な仲間だ。

 しかしいつもの陽気な彼女とは違い、その表情はどこか真剣さを感じさせる物だった。

 

「これはギルドから直接の依頼なのですけれど、内容が内容だけに、少しここでは。

 ……プリティくん、皆さん、少しばかりソフィーをお借りしてもよろしいかしら?」

 

 プリシラに連れられ、私はいったん席を立つ。

 心配そうに私を見つめるプリティに「大丈夫だよ」と伝えるように、そっと頭を撫でてやってから。

 

 

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 ――――わたくしが代わりに行っても良い。この任務、貴方にはあまりにも酷です。

 

 そんなプリシラの気遣いが、嬉しかった。

 この子は本当に優しくて、情の深い、真っすぐな女の子。

 唯一昔からずっと変わらず私と接してくれる……掛け替えのない友人。

 

 そんな彼女の気遣いを無下にしてまで、私はこのクエストを受ける事を決めた。

 わたくしでは頼りにならないと言うんですの!? と、ちょっとだけプリプリ怒られてしまったが……、そんな姿でさえも、なにやら愛らしく見える。

 丁寧に誤解を解き、そして心からの感謝の気持ちを伝えると、彼女は顔を赤くして黙り込む。

 

 ――――貴方がそう決めたのなら、わたくしはもう何も言いません。

 ――――ご武運を、ソフィー。どうか無理だけはしないで。

 

 万感の想いを込めて、私は頷く。

 祈るようにその場に佇むプリシラを残し、みんなの待つ席へと戻っていった。

 

 今朝ふいに思い出したあの言葉。遠い昔の、私の原初の記憶――――

 これはきっと、偶然なんかじゃ無い。そう強く感じながら。

 

 

 

「すまないみんな。ギルドから至急のクエスト依頼が入ったんだ。

 これから数日ほど、留守にする」

 

 みんなのテーブルに戻った私は、開口一番、矢次に必要な事を告げていく。

 バルちゃんとミラにはしばらく虫棍さんの所にお世話になるように、同じくプリティにも髭モジャの所へ行くようにと。

 

「……待て、我が主。よもや貴様、我らを残し一人で行くつもりか?」

 

 ミラが憮然とした顔で私を睨む。臣下を置き去りとはどういう了見だと詰め寄ってくる。

 

「そのクエスト、参加にHR制限があるの?

 バルちゃん達を預かるのはもちろん大歓迎だけど……、

 でも何人かは連れていったらどうかしら?」

 

「あぁ、クエに参加は出来んでも、何人か連れてった方が良いだろ。

 荷物もあんだろうし、飯だの寝床だのの準備する人間がいりゃあ、

 オメェは狩りだけに集中出来る」

 

「あ、ほなウチお供しますよ!

 ウチまだHR10やけど……今回はソフィーさんの応援しながら、

 しっかり勉強させてもらいます!」

 

「そもそも、前からその“HR“とやらの意義が理解出来んのだ。

 いったい我を誰だと思うておる?

 雑魚共がいくら束になろうが、遅れをとるものか。煩わしゅうてかなわん。

 ……我は行く。よもや異論はあるまい?」

 

「お……オラも行く! オラもお役に立ちてぇだ!

 ソフィーさんさえ良かったら、だけんども……」

 

 そうワイワイと盛り上がる狩団のみんな。

 皆一様に「自分が行く」と、私に力を貸す事を願い出てくれている。しかし。

 

「――――すまない、今回は私一人で行く。

 みんなはここで、いつも通り狩りをしていてくれ」

 

 そう言い放ち、私は踵を返す。

 もう伝えるべき事は伝えた、そう言わんばかりに帰路に着く。すぐにでも家に戻り、出発の準備をする為に。

 

「……お、おいっ……! ソフィー!?」

 

「ソフィーさん!?」

 

 背中から、なにやら驚いたようなみんなの声が聞こえる。きっと普段の私とは違う毅然とした態度に戸惑ってしまったのかもしれない。

 だけど私は、振り返る事無く、そのまま歩みを進める。

 

「 おねぇさん!! 」

 

 みんなが呆然とする中、プリティだけが即座に動き、私の前に回り込んできた。

 私の行く手を遮るように、……いや、心から私を案じるかのように。

 

「――――なにがあったの、教えておねぇさん」

 

 一瞬、言葉を失う。

 この純粋で、まっすぐな瞳――――それに照らされ、私はその場に立ち尽くしてしまう。

 まったく動く事が、出来なくなる。

 

「――――おねぇさん、ぼくを見て。いったい何があったの」

 

 プリティが、私の手を握る。そして全てを見透かすような瞳で、真っすぐ私を見つめている。

 

「――ッ」

 

 跪いて、しまいたい。

 この場に跪き、泣いてしまいたい。プリティに縋りついてしまいたかった。

 抱きしめて、欲しかった。

 

「 ッ! おねぇさん!?!? 」

 

 そっとプリティの手を外し、その場を歩き去る。

 前だけを見つめ、もう振り返る事無く、集会所の出口をくぐる。

 

 

「………………おねぇさん……」

 

 

 消えてしまいそうな程、ちいさな声。

 今まで聞いた事の無い、プリティの悲しそうな声。

 

 それすらも、聞こえなかったフリをして。

 

 

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 “泣き虫ソフィー“。それが私のあだ名だった。

 

 まだ小さな、幼少の頃……私はよく村の子供たちにイジめられ、仲間外れにされて泣いていたものだった。

 

 友達と言える者も、いなかった。

 私のように臆病で、怖がりで、ボソボソと小さな声でしか物を話せない子。そんなのとは一緒に遊んだとしても、さぞつまらなかった事だろう。

 だからみんなはいつも私を置いて山や川に出掛けたし、泣きながら連れて行ってもらおうとしても、必死で皆を追いかけようとしても、身体がちいさくて足も遅い私などがついて行けるハズも無かった。

 

 だから、ひとりきりで静かに遊ぶのが、私の日常。

 花や草木、そして動物を遊び相手としているのが、私には合っていた。

 

 ウサギや小鳥は、村の男の子たちみたいに棒で叩いてきたりしない。

 花や草木は、村の女の子たちみたいにひそひそクスクスとわざと聞こえるようにして私を笑ったりしない。

 それにひとりでいる時は、この引っ込み思案な性格を、上手く人前でしゃべれない性格を気にしなくても良い。

 

 だから私は、ひとりきりでいるのが好きだった。

 ずっとひとりで遊ぶ。ずっとひとりきりで生きるもん。そんな馬鹿な事を本気で思い描いていたように思う。

 

 ……そんな私が約7年ぶりに、生まれ故郷であるこの村の門を、くぐった。

 

 

「……ッ!? お……お主は!!」

 

 憶えている、この人は村長のおじいさんだ。

 会うのは私が村を出て行ったあの日以来ではあるけれど、今もしっかり顔を憶えていた。

 そしてそれは、この村長も同じであるらしい。

 

「お主が……依頼を受けて来たハンターなのか……?

 本当にお主は……あのっ……!」

 

 私は静かに頷き、肯定の意を返す。村長は今も上手く言葉を探せずに、目を見開いている。

 想像するしかないけれど……、そりゃあ今の村長さんは、バツの悪い気持ちでいる事だろう。

 

 なんたって私は、“あのソフィー“だ。

 村の近隣に現れたモンスターの討伐を依頼してみれば、そこに現れたのが私だったのだから。

 過去にこの村を追い出した、あの忌まわしきガンランサーの娘なのだから――――

 

「………ッ! ………ッ」

 

 目の前の村長は、今も言葉を無くし、酷く考え込んでいる様子だ。

 私はそんな彼の様子を、じっと見つめるばかり。

 言葉をかける事も無く、ただじっと見守っていた。

 

「……いや、誰であろうと、この際関係ない。

 この村は今……、まごう事無く危機に晒されておるのだから。

 ハンター殿(・・・・・)、ワシの話を聞いて頂けますかな……?」

 

 覚悟を決め、まっすぐに私の目を見つめる村長のおじいさん。

 それに対し、頷きで肯定を返した。

 

 

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「なんだよアイツ……ガンランサーなのか……?」

 

「なんでガンサーなんかが来るんだよ……。

 村長のやつ、依頼料をケチりでもしたのか……?」

 

 村長は、私の顔を憶えてくれていた。しかしながら村の皆は、そうでもなかったらしい。

 村の様子を確認すべく、防衛の為の下調べに村を周っている私。そんな見慣れぬガンランサーの娘を遠くから見つめ、皆がヒソヒソと囁き合っているのが聞こえる。

 

「終わりだよ……ガンランサーなんかに、なんとか出来るワケない……」

 

「何考えてんだよ村長も……。

 どうぜ無駄なら、さっさと村を追い出しちまえばいいのに……」

 

 こちらを見て囁き合っている面子の中には、私とそう変わらない年頃の者達もいる。

 よく見れば、それが昔私にイジワルをした子たちである事も分かる。買ってもらったばかりだった本を取り上げられたり、泥を投げつけて服を汚されたり、そんな思い出が脳裏に浮かんでくる。

 ヒソヒソ話ばかりするのは、今も昔も変わってはいないんだな――――

 別に気になどしていないし、わざわざ彼らをふん捕まえてまでそれを咎めるつもりもない。

 ただなんとなしに、そう思っただけ。

 私にとって彼らは、もうすでに過去の人達だから。

 

「――――ッ!?」

 

 ふいに身体に何かがぶつかった感覚がして、私は足を止める。

 ふと顔を横に向けると、そこにはゲラゲラと笑い声をあげる少年たちの姿があった。

 

「や~~い! 当たってやんのバカガンサー!!」

 

「出て行けガンランサー!! 弱っちいガンランサーめ~っ!!」

 

 私が言葉もなくボケーっと立ちすくんでいると、やがて少年たちは「わーい!」と声をあげ、どこぞへと逃げ去って行った。

 どうやら先ほどは泥玉をぶつけられたみたいだが……この年になっても私は子供にイジめられるのかと、妙に感心してしまった。

 あ、筋金入りなんだな、私って……。

 

 

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 泣き虫ソフィーは、みんなに遊んではもらえない。

 だからいつも、ひとりきり。お花や動物たちが私の遊び相手。

 

 ずっとそうだったんだ、あの日までは(・・・・・・)

 あの日から私は、突然ひとりでは無くなった。……まぁ友達と呼ぶには、少し違うかもしれないけれど。

 

「………………」

 

 なんとなしに、村のはずれまで歩いて来てしまった。

 まぁ防衛の下調べとしては、ここまで来る必要など無かったのだけれど……、これは本当に無意識にというヤツなのだ。

 

「……もう無い、か。……当たり前か」

 

 それもそのはず。だって幼少の頃、私は毎日のようにこの場所に通っていたのだから。今も足が憶えていたのかもしれない。

 今はただの荒れ地となり、草木が生えているだけのこの場所。ここは当時、私がよく足を運んでいた民家があった。

 

「おにいちゃんの、家……」

 

 もうどこにも姿はない。けれど今も、ハッキリと思い出せる。

 ここにあったハズの暖かな家。私が毎日のように通い、そして話し相手になってもらっていた、あのおにいちゃんの事を――――

 

 

 

 

 

 

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「わあああああーーーっっ!!!!」

 

 

 突然の爆発音に驚き、わたしは地面にひっくり返った。

 

 村の男の子たちに追い立てられ、逃げるがままにこんな見知らぬ所まで来てしまったけれど……もしかしたら私はここで死んでしまうのかもしれない。幼き日の私は本気でそう思った。

 

「――――ん? あれ、そこにだれか居るのかい?」

 

 地べたにペタリと座り込み、目を白黒させながら声のした方に顔を向けてみる。するとそこには見知らぬ男の人の姿。

 その左腕に、未だプスプスと煙を上げるガンランスを握った青年(・・・・・・・・・・・)の姿があった。

 

「ひっ……ひぃぃいいやぁぁぁ~~~~~~!!!!」

 

 例えるならば、いきなり目の前に包丁もった“なまはげ“が現れたらば、誰だってこんな風に叫び声を上げると思う。

 この青年さんはなまはげとは程遠い華奢な身体だが、手にしたガンランスの迫力が遥かに包丁を上回っているので、プラマイで良い勝負なのだ。

 

「……た、食べないでくださいっ! ころさないでくださいっ!

 わたしはまだほんの7年ほどしか、こたびの生をオウカしていないのです!

 これはあまりにもセッショウなことですっ! このしうち!」

 

「えっ」

 

 土下座して拝み倒し、当時うろ覚えであった「なんまいだぶ、なんまいだぶ」という言葉をひたすら連呼したが……もしかしたら“なんまいだぶ“は、私が死んだ後に使われるべきワードだったかもしれない。

 

「あ……あの、女の子さん? ちょっと?」

 

「いっすんの虫にもゴブのたましい、ともうしますっ!

 言葉のいみはよくしりませんが、とにかく見逃して下さるとサイワイですっ!

 わたしが世話をしているお花さんたちも、タイヘンよろこんでおります!」

 

「あの……食べないし、殺したりしないよ?

 ぼくって、そんなサイコパスに見えるかな……?」

 

 お慈悲をくださいませ、お慈悲をくださいませ。

 幼き私はそう連呼しつつ、ひたすらおにいちゃんに土下座をし、慈悲を請うのだった。

 

 

 


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