ガンランスの話をしよう。 作:はせがわ
「いたぞ! ソフィーだ!!」
「捕まえろっ! 泥玉部隊、しゅつどうっ!」
ある日、村はずれの草原でひとり遊んでいた私のもとに、村の男の子達がたくさん押しかけてきた。
「ひっ……ひぃぃいいいやぁぁ~~~!!」
作っていた花飾りや、話相手になってもらっていたお人形を放り出し、私はその場から駆け出した。
手を上にあげて「うわーん!」と泣きながら走る。必死に逃げる。
「追えっ! 逃がすなぁー!」
「待てぇイャンクック! ペイントしてやるぅー!」
棒きれや泥玉を手に、笑いながら追いかけてくる男の子たち。
ハンターごっこのつもりなのか、私をイャンクックに見立ててやっつけようとしているのか。物凄い恐怖を覚え、私は涙で顔をグシャグシャにする。
それでも男の子たちは容赦なく私を追ってくる。
「――――えっ? なんかソフィー、速くない……?」
捕まえろ~と全力で走る男の子たち。それとは対照的にとても不格好に走る私。
……しかし、なぜかその距離は、一向に縮まらない。
「オイ! あいつ速いってオイ!」
「なにあれ!? ぜんぜん追いつかない! ……速っ!?」
「うそっ!? なんでアイツあんな……。えっ……?」
もう「わあああ!」とばかりに必死こいて走る私が、やがて並み居る男の子たちを全て置き去りに、遠くへ逃げ去っていく。
「何だあいつオイ! どうなってんだオイ!」
「ソフィー半端ないって! マジ半端ないって!!」
立ち止まり、唖然と見送る男の子たち。
この間まで楽に捕まえられたハズのどんくさい女の子が、いま自分達を振り切って逃げて行った事が、信じられないというように。
そんな彼らの様子も知る事無く、私はひとり、草原を駆けていく。
おにいちゃんの家を目指して。
あの暖かい場所に、行く為に。
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「ガンランスをおしえて」
そうおにいちゃんにお願いしたのは、この家に通うようになって、すぐの頃だった。
あの日以来、私は毎日のようにおにいちゃんの家に遊びに行くようになり、その度にハンターの事、そしてガンランスの事を聞かせてくれるようにせがんだ。
時におにいちゃんの部屋で、時にお母さんも交えてお茶をご馳走になりながら。
二人はいつも暖かく私を迎え入れてくれ、まるで本当の家族のように接してくれた。
メガネのおにいちゃんの、優しい微笑み。いたずらっぽくおどけるお母さんの笑顔。
この家にいる時だけは、私は普段の自分の事を忘れ、心から幸せな気持ちでいる事が出来た。
「えっ、僕がかい?
……いや、今まで偉そうに話してはいたけど、僕ってまだHR3だからなぁ。
何年かやってはいるけれど、全体としてはもうペーペーもいいトコなんだ。
とてもじゃないけど、人に教えるって程じゃあ……」
おにいちゃんの話を聞くのが、好きだった。
狩場で見てきた風景、戦ってきたモンスターの事、そして大切な仲間たちの事。
その全てが私にとって未知の物で、小さな世界で生きてきた私には想像も付かないような物。
時に情けない失敗話や、お金や素材集めで苦労した話なんかもあったけれど……、おにいちゃんの優しい口調で語られるそれらでさえ、私にはとても輝かしい物に思えた。
そしていつもおにいちゃんが目を輝かせ、一番楽しそうに語るのが“ガンランス“の事。
どれだけおにいちゃんがこの武器の事を愛し、そして楽しんで握っているのかがひしひしと感じられた。
だから私は、ある日おもいきり勇気を振り絞り、ガンランスを教えてもらえるようお願いしてみたのだった。
「おねがいです! わたしもガンランスを使えるようになりたいのです!
フンコツサイシンでがんばります! ハイスイのジンです!」
「ソフィーって、よく知らない言葉を躊躇なく使っていくよね。
たくさん本を読んでるんだなっていうのは分かるよ」
やがて私のよくわからない熱意に押される形で、おにいちゃんはしぶしぶ折れてくれた。
そしてその日から、おにいちゃんによるガンランス指導が始まったのだ。
「――――はい。今日からこれが、ソフィーのガンランスだ」
手渡された小さな銃槍を見て、私は目を輝かせた。
「これは本来オトモ用に作られたガンスなんだけど、
僕が頑張って砲撃も撃てるように改造したんだ。
完成まで1年もかけた、ぼく自慢の一品さ」
“ランポスネコ銃槍“、これが私の初めての愛槍だった。
本来オトモアイルーが持つサイズのそれは、丸みをおびた可愛らしいデザインをしている。
これなら、怖くない――――
幼い私が持つのにピッタリの、そんな愛らしいガンランス。
何より、おにいちゃんが作った物だというのが、私にはこの上なく嬉しい。
私の為にピカピカに磨かれ、しっかりと整備されたそれを見て、私は心から幸せに包まれたのを憶えてる。
「さって! さっそく始めていこうかソフィー!
今日から君もガンランサーだ! 一緒に最高のガンサーを目指そう!」
「おす! おねがいもうしあげそうろう!」
「ソフィー! 押忍ではなく“ガンス“だッ!
君もガンランサーなら、言葉の前と後ろに“ガンス“と付けろッ!」
「ガンス! おねがいするでガンス!」
「オゥケィガール! では行くぞソフィー!
まずは水平突き10回×3セットからだ! レッツガーンスッ!」
まるで「レッツダーンス」みたいに言うおにいちゃん。
今思えば、私にガンス指導する時のおにいちゃんは、なにやらテンションがおかしくなっていたような気がする。
「はいっ! エックス、エックス、エーイ!!」
「えっくす、えっくす、えーーい!」
「エイ、エックス、エーイ!!」
「えい、えっくす、えーーい!」
なぜかおにいちゃんはいつも、水平突きの事を「X」、砲撃の事を「A」と呼んでいたけれど……あれはいったい何だったんだろう? ちなみに斬り上げの時は「X+A」だ。
「どうしたソフィー! 遊びに来てるのか!?
……そんな事でガンスが輝くかッ!! ガンスが答えてくれるものかッ!!」
「ガンス! わかったでガンス!」
「おぉきてる! 君のガンスが光って見えるよ!!
キレてる! キレてるよソフィー!!」
「えっくす、えっくす、えーーい! えっくす、えっくす、えーーい!!」
「よぉ~し! そこでフルバーストだソフィー!
いいよいいよ~。もう全部出しちゃおっか~。
君の全てッ! ……そうっ、君の全てをッッ!!!!」
「ふぅぅぅ~~ん…………どぉぉぉーーーん!! はいだらぁぁーーーっ!!!!」
「リロォォード!! 即座にリロードだソフィーーッ!!
……リロードアクションこそ、ガンスの華ッ!!
リロードタイムが……こんなにも戦いに息吹をッッ!!!!」
「わたしのリロードは、れぼりゅーしょんだっ!」
時に叱咤し、時に鼓舞する。おにいちゃんのガンランス指導が続く。
「回れ回れソフィー!!
斬り上げ→サイドステップ→斬り上げで、ぐるぐるとモンスの周りをッ!!
……これが出来てこそのガンランサー! 仲間にポジションを譲るPTの基本ッ!!」
「あ、ハンマーさんあたまをどうぞ! スラアクさんしっぽをどうぞ!」
「君みたいなモンは……申し訳なさそうにガード突きでもしてれば良いんだッッ!!!!
何様なんだガンランサー!! 黙って翼でも斬ってろッ!!」
「すいません! ガンランスですいません! いきててすいません!!」
技術だけでなく、ガンランサーの精神。心得。
その全てを、私はおにいちゃんから学んだ。
「歩け! 歩くんだソフィー!! 盾を構えたら常にのしのし歩けッ!!
……止まったら死ぬ! ガンランサーは止まったら死ぬんだッ!!」
「わたしはサメ……! わたしはマグロ……! わたしはガンランサー……!」
「ガムートと戦えば、ガンサーはありえないくらい雪だるまにされる。
テオとやれば、ガンサーはありえない量の熱ダメージを喰らう。
どうだソフィー! 怖いか!!」
「ノー! たいへんお得でありマース!!」
「ガンスに感謝をッ! 常に感謝を忘れるなッ!!
そうすれば君は負けない! 君のガンランスは負けなぁぁーーいッ!!!!」
「わたしのダントウは、けして許しはしないわ!」
おにいちゃんといるのは、楽しかった。
ガンスの訓練だって、別に辛くはなかった。
真剣に私に向き合ってくれるのが嬉しかったし、たまに厳しかったけれど、今まで感じた事の無かった“達成感“という物を教えて貰った。
思わぬ副産物として、私の足が村の男の子たちよりも速くなったのも嬉しかった。これもおにいちゃんの指示の下、ガンスを担いだまま散々走らされた成果だったんだろう。
私にとっておにいちゃんとのガンランス訓練は、そんなとても充実した時間であったのだ。
この大きな盾が、好きだ。
何かあったら、これに隠れてしまえるという安心感。臆病な私の心でさえも、これですっぽり覆い隠してしまえる気がする。
おにいちゃんが“似合う“と言った、ガンランサーの、大きな盾。
最初は“ウソ“から始まった。
おにいちゃんに好かれたくて、一緒に居たくてついていた、嘘――――
本当は、ハンターになんて興味は無い。
あんな恐ろしいモンスターと戦うなど、私にとってはとんでもない事だ。
怖がりな私は、おにいちゃんがモンスターと戦った話を聞くだけで、身体が震えてきた。
怪我をしてしまった話を聞いていた時なんか、恐怖で涙が滲んできた程だ。
……それでも必死に我慢して、おにいちゃんの話を聞き続けた。自分のガンスで生き物を殺してしまうかもしれない想像から、必死で目を背けた。
ただただおにいちゃんと一緒に居たくて、ずっとずっと、ウソをつき続けた。
私もガンランスを担ぐ。私もハンターになる。
私は嘘をつき過ぎて――――それが
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「あれ? どうしたのおにいちゃん?
イスにすわっているのですか?」
ある日のガンランス訓練の時、いつもなら一緒にガンランスを振り回しているハズのおにいちゃんが、椅子に腰かけていた。
「あぁ、ちょっと今日は……身体の調子が悪くってね。
最近ソフィーと居るのが楽しくてさ。ちょっと張り切り過ぎちゃったのかな?」
そう朗らかに笑うおにいちゃん。
今日はもうやめよう。お家で休まなくちゃ。私は心配になってそう言うも、おにいちゃんは大丈夫だと言うばかり。
「平気さ。少し休んでいればすぐ元気になるから。心配いらないよ。
さっ! ガンスの道は一日にしてならずだよ、ソフィー。
今日はソフィーもお待ちかね、竜撃砲の撃ち方だ!」
私の頭を撫で、優しく微笑んでくれるおにいちゃん。
私はそれで安心し、ずっと“ガンランスの代名詞“と聞いて興味を持っていた竜撃砲の事に想いを馳せる。
「ソフィー、炎が竜にダメージを与えるのは当然だけど……、
実は竜撃砲の時、撃っているハンター本人の“背中“にも攻撃力があるんだ」
「ナンデ!? りゅうげきほうナンデ!?」
「炎に頼っているうちは……まだまだだね。
ガンランサーは、背中で竜を撃つのさ」
この世界の不思議。アタリハンテイ力学。
私は目を輝かせ、いそいそとガンランスを構えた。
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「あいつも運がねぇよな……。まさか身体をやられちまうとは……」
おにいちゃんの家からの帰り。
わたしは道端で、ヒソヒソと話をしている男性たちの姿を見かけた。
「あぁ……確か“ゴア・マガラ“とか言ったか?
新種のモンスなんだろ?」
「ギルド本部の方じゃ、今もうてんてこ舞いらしいぜ?
なんでも未知のウイルス? それがえれぇ厄介なんだとよ」
「まだ新人だってのに……偶然そいつにブチ当たっちまったってのか。
ほんと運がねぇよ、
ただその場を通り過ぎようと歩いていた私は、突然聞こえてきたおにいちゃんの名前に、その足を止める。
「今は実家で療養中だって聞いたが……治すアテもねぇんだろ?
未知のウイルスだってんだから」
「医者は首振ってやがったよ。手の施しようがねぇって。
まだ発狂して死んでねぇのが、不思議な位なんだとさ。
……まぁ、
やがて私を通り過ぎ、男たちが歩き去って行く。
私は身を固くし、その場で佇む事しか出来なかった。