ガンランスの話をしよう。   作:はせがわ

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鈍く光るガンランスが、「お前を愛す」と叫ぶ。

 

 

「ところでプリティよ?

 君のご両親に挨拶に伺いたいのだが、いつ頃が良いだろうか?」

 

 お昼時の街中。ガンスの乙女ことソロモン(仮名)と笛使いの少年プリティ(愛称)は、屋台でなかよく昼食を摂っていた。

 

「あいさつ? ぼくのおとうさんと、おかあさんに?」

 

「あぁ。大切なご子息の人生をお預かりするワケだし、

 私も全身全霊をもって筋を通しておかねば。

 ふむ、『息子さんを私に下さい!』……か。

 なにやら胸がドキドキしてきたぞ」

 

 スパゲッティを上品にクルクルしながら、乙女は嬉しそうに語る。

 おねぇさんが何を言っているのかはよく理解出来ないが、とりあえずはパンをモグモグしながらお話を聞く男の子。

 

「――――いかん、緊張してきた。

 きっとご挨拶に伺うその日こそ、私の人生最大のターニングポイント。

 もしこれをしくじれば、私が次の朝日を拝む事は無いだろう」

 

 乙女は眼を見開き、瞳孔をMAXまでオープンしている。

 顔を真っ青にし、ここではないどこかを見つめているその姿に、男の子は「はてな?」と首を傾げる。

 もし挨拶に失敗したら、いったい何をするつもりなのか。

 

「どうだろうプリティ、今から練習に付き合ってはもらえないだろうか?

 なんといっても、君はご両親の血縁者。

 きっとご本人と対峙するのに勝るとも劣らない、

 そんなリアリティが実現可能だと、私は確信している次第だ」

 

「えっと……。それはぼくが“おとうさん達の役“をするってこと?

 ぼくは小さいし、ヒゲとか生えてないけど、だいじょうぶかな?」

 

「問題ない。そこは私の想像力でカバーだ。

 君は威厳のある感じでソファーにふんぞり返り、

 葉巻を咥えながら、ワイン片手にシャム猫を撫でていればいい」

 

 いったい彼女はどんな想像をしているのか。

 少年のお父さんは、決してマフィアの親分とかではない。

 

「よし、では始めようかプリティ。

 まずはキョロキョロと挙動不審な私が、

 ハァハァと荒い息遣いで君の家の前に立っている所だぞ」

 

「通報されると思うよ?

 とりあえずいらっしゃい、おねぇさん。

 まぁまぁ、ようこそおこしくださいました」

 

 少年はとても付き合いの良い子なので、大概の事はスルーして事を進める事が出来る。だいぶ慣れてきたというのもある。

 

「どうも、お義母さん。わたくしハンターのソロモン(仮)と申します。

 あっ、これはつまらない物なのですが……」

 

「通帳と実印はいりません。出さないでください。

 さぁどうぞ、お入りになって?」

 

「どうぞどうぞ」「あ、どうもどうも」みたいな仕草をしながら、二人は居間にいるお義父さんの元へと向かったという体で、お芝居を続けていく。

 傍から見れば、まるで年の離れた姉弟が仲良く遊んでいる姿のよう。

 微笑ましいような、でもどこかおかしいような、微妙な光景だった。見る者によって意見が分かれる所だろう。

 関係ないけれど、乙女が言う“おかあさん“のニュアンスが、どこかおかしかった気がせんこともない。

 

「ん? なんだね君は。どこのおねぇさんかね」

 

「初めましてお義父さん。わたくしは……」

 

 椅子の上に胡坐をかき、少年は“威厳のあるお父さん“の感じを演出する。なんだかんだとノリの良い子だ。

 

「まちたまえっ。

 わたしは君に“おとうさん“などと、よばれる筋合いはないよ?」

 

「あ、すいませんポイズン山田さん。

 実はこの度、ご挨拶に伺いましたのは……」

 

 お父さんは山田でもポイズンでもないのだが、そこはスルーしてお芝居を続けて行く男の子。我慢の子である。

 

「まったくっ! 君のようなワケのわからない者はね? かなわんのだよっ。

 だいたい君はハンターだそうだが、将来の事はかんがえてるのかね?」

 

「はっ。将来の事はまだ分かりませんが、

 来世ではガレオスに生まれ変わり、

 砂を食べて生きていこうと思っております」

 

「なんで砂たべちゃうんだよ。卑屈すぎるよ」

 

 どうかその一日だけで良いから、おねぇさんには頑張って欲しい。

 これは猛特訓が必要だと、心を鬼にする覚悟を決める男の子。

 

「もういい! かえりたまえっ!

 君のようなふざけた者に、むすこを預けることはできーん!」

 

「待って下さい!!

 確かにファンゴのマスクを被ってはいますが、私は真剣なんです!!」

 

「なんでファンゴで来てるの! 脱いできてよ!」

 

 少年の足に縋りつき、「後生でございます。後生でございます」を繰り返す乙女。

 ついに話し合いを放棄し、泣き落としに入った。

 

「私に息子さんを下さい! ぜったい幸せにしますっ!!」

 

「できないよファンゴには!

 自分の息子をファンゴに預ける人、見た事あるのか!」

 

 下さい! 下さい! 下さいっ!!

 二人の演技は白熱し、最後には本当に泣いてしまうおねぇさん。

 お腹にしがみつき、もうわんわんと泣く彼女を、少年はヨシヨシと撫でてやるばかりだ。

 ただただ「幸せにします……! 幸せにします……!」とつぶやきながら、やがて乙女は泣き疲れて、少年の膝で眠った。

 

 

……………………

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 あの時、少年が想いの限りに乙女を呼び止めた後。

 乙女は男の子をギュッと抱きしめたまま、しばし声を殺して泣いた。

 

 街の片隅で、静かに抱きしめ合う二人。

 お互いのぬくもりだけを感じる、そんなやさしい時間。

 

 ――――こんな幸せがあって良いのか。私なんかが、傍に居ても良いのか。

 

 そんな想いが、震える身体から伝わってくるようだった。

 グジグジと泣く彼女につられるようにして、男の子の目からも、ちょっぴり涙が零れた。

 

「また明日、集会所でね」

 

 そうしっかりと約束をし、二人は今度こそ、笑顔で別れていった――――

 

 

 

 …………………そして今日、集会所の前で再会を果たした二人。

 フリフリと笑顔で手を振っているおねぇさんを見つけ、少年はとても暖かな気持ちになる。

 これからはおねぇさんと二人、いっしょに頑張っていくのだ。

 乙女の柔らかな笑顔を見つめながら、少年は一人決意を新たにする。

 

 まだ早い時間だからと一緒に屋台巡りなどをした後、改めて集会所へとやってきた二人。

 先ほどはおねぇさんが泣き疲れて眠ってしまうというハプニングもあったものの、結果的にはちょうど良い時間に、ここへやって来る事が出来たのだった。

 

「あぁ、全てが輝いて見える。

 今まで私の目に映る景色は、全てドブのような色をしていたというのに。

 いまでは目に映る物全てが、キラキラと輝いているんだ」

 

 仲良く手を繋ぎ、扉の前に立つ。二人はコンビでの初クエストへと想いを馳せる。

 

「さっきから脳内で『パワー トゥザ ピーポー! パワー トゥザ ピーポー!』

 という声が鳴り響いているんだ。

 “人民に力を!“と言われても私にはよく分からんのだが……。

 でもなにやら、勇気が湧いてくる気がする」

 

 おねぇさんがこれ以上変な事を言う前にと、少年はさっさと扉を開け、ズカズカと集会所へと入って行った。

 

 

………………………………………………

 

 

『 おはようございますっ! ガンランサーですっ!!

  今日も一日、頑張って行きましょう! 御身に栄光あれっ!! 』

 

 一歩集会所の中へ入った途端、おねぇさんは〈ビシッ!〉と直立不動の態勢を取り、大きな声でそう言い放った。

 

「おっ、おねぇさん……?」

 

「あぁ、すまないなプリティ。驚かせてしまった。

 しかし私は集会所へ入る時には、こうやって挨拶する事にしているのだ。

 挨拶も出来ないブタなど、この世に生きている価値は無い。

 酸素を吸うのも許されないという物だ」

 

 突然の大声にざわついている集会所。そんな中〈やすめ!〉の態勢で立つおねぇさん。

 

「さて、私はこれより掃除用具を借り、

 トイレ掃除に勤しんで来ようと思う。奉仕の心だ。

 プリティはそこの席にでも座り、少し待っていて貰えるだろうか?」

 

 イソイソと受付に向かおうとする乙女を、少年は「んーっ!」と必死こいて止める。

 

「おねぇさんはそんな事しなくていいのっ。

 どうしてもっていうなら、ぼくもいっしょにやるからっ。

 狩りから帰ってからにしよう?」

 

「そうか? いやプリティにそんな事をさせるワケにはいかないが……。

 ではトイレ掃除は、帰ってからにする事としよう。

 舐めても大丈夫な程、ピッカピカにしてやるぞ」

 

 乙女の手を引き、少年が席へと誘導していく。

 仲の良さげな二人の様子に、酒場にいる者達がざわざわと囁き合っているのが分かった。

 

「……おい、あれどういう事だ?」

 

「なんで笛使いの子が、悪の化身ガンランサーなんかと……」

 

 少年はニコニコとおしゃべりに夢中。しかしその周りの声は、乙女の耳にはしっかりと届いている。

 楽しそうに笑う少年の顔を曇らせないよう、必死で微笑みを保つ。

 

「……やべぇよ。ガンランサーはクズの代名詞だぞ……」

 

「にんじん、ピーマン、ガンランサーって言うくらいよ……?

 まさかこんなにも邪悪な存在を、主が創造なさるとは……」

 

「ガンス使うヤツ、みんな半月板損傷したらいいのに……」

 

「あぁ汚らわしいっ。ガンサーと同じ場所なんかに居られませんわっ!

 ほらポチ! 行きますわよっ」

 

「なんまいだぶ、なんまいだぶ……」

 

 心がズキリと痛む。いますぐブタのマスクを被り、現実から逃避したい。

 でも今目の前には、こんなにも暖かな少年の笑顔がある。ぬくもりがある。

 乙女は少年の事だけを見つめ、必死に心を守る。

 

「……誰ぞ……誰ぞあの少年を救ってたも……。礼はいくらでもする……」

 

「こうなりゃ俺が……差し違える覚悟で……!」

 

「ダメよっ!

 ヤツはガンランサーという名のうんこよっ! 関わってはいけないわッ!!」

 

「ノウマク サマンダ~、バザラダンカン。

 ノウマク サマンダ~、バザラダンカン……」

 

 なにやら集会所全体が、無駄に悲痛な雰囲気を漂わせていた。

 笑顔を張り付け、汗をダラダラかきながらも、少年との会話を行っていく乙女。

 

「ぼくね? イャンクックの防具がほしいのっ。

 おねぇさんの防具って、その白いドレス?

 なんかあんまり“防具!“ってかんじはしないね?

 とってもキレイだしっ」

 

「……あっ、あぁ!

 私のこれは、少し特殊な物になっていてな?

 見た目こそ普通のドレスなのだが、中身は……」

 

「 ――――おい坊主!! お前なにやってんだッッ!!!! 」

 

 突然響いた怒声。

 二人が振り向くと、そこには昨日クエストに付き合ってくれた、あのチャアク使いのお兄さんの姿があった。

 

「お前ッ……昨日あれほど言っただろうがよ!!

 おいガンサーてめぇ!! お前が坊主をたぶらかしたんかッ!!」

 

「……たっ……たぶっ?!」

 

 勢いよく机を叩き、チャアク使いが乙女へと詰め寄る。

 オロオロと狼狽える乙女に対し、男には微塵も怯んだ様子はない。周りの者達とは明らかに違う。

 そしてその瞳には、燃えるような怒りを宿していた。

 

「オイ! 迷惑なんだよガンランサー!!

 コイツぁこれから、俺らと一緒にこの集会所でやってくんだ!!

 お前みてぇなワケわかんねぇヤツといちゃあ、

 コイツが潰れちまうだろうがよ!!!」

 

 痛烈な言葉が、乙女に突き刺さる。

 乙女は目を見開き、ただただ男の顔を見つめるばかり。身体は硬直し、言葉が出てこない。

 

「 失せろガンランサー!!

  今度坊主に近づいてみろ! 俺が容赦しねぇぞッ!!!! 」

 

 男の怒りは本物だ。汚い口調だが、心から少年の事を思っている事が乙女にも見て取れる。

 だからこそ、怒る。

 だからこそ、こんなにも激しく。目の前の私に対して。

 

 ――――終わってしまうかに見えた。

 今にも乙女が、泣きながらこの場から駆け出してしまうかに思えた。

 

 だが、この場にたったひとりだけ、男の行動を止める者がいた。

 

「 ――――まって! ぼくがおねがいしたのっ!

  おねぇさんとパーティを組みたいって、ぼくがおねがいしたのっ! 」

 

「……なっ!?!?」

 

 男の腹にしがみつき、涙目になりながら叫ぶ男の子。

 その姿に男が、周りすべての者達が、言葉を失う。

 

 

「おねぇさんと狩りにいきたいのっ!

 おねぇさんにガンランスのこと、たくさん教えてもらうのっ!

 おねぇさんは! ぜったいおねぇさんは、わるい人なんかじゃないっ!!」

 

 

………………………………………………

 

 

 泣ぁ~~かした~♪ 泣ぁ~かしたぁ~♪

 そんな空気が、集会所全体を包む。

 子供を泣かした極悪人として、人間の屑として、チャアクのお兄さんが皆に「ジトォ~」っという目で見られる。

 

「……ちょ!?!? 泣くんじゃねぇよ坊主ッ!? おっ……俺ぁよ?!」

 

「プリティ! あぁ大丈夫かプリティ!! あぁっ!!」

 

 天井を見上げて「あーーん!!」と泣いている男の子を、必死で宥める二人。

 チャアクの男が〈オロオロ! キョロキョロ!〉と周りに助けを求めるも、みんなプイッと目を逸らすばかり。この薄情者どもめ。

 

「おっ……俺達ゃ別に、喧嘩しちゃあいねぇからよ!?

 なっ? 確かに大きな声は出しちまったがよ?! 違うんだよ!!」

 

「そうだ! これは音楽性の違いゆえの行き違いというヤツだ!

 またCDの権利が切れそうになる10年後くらいには、

 復活ライブをおこなって無事に再結成を……!」

 

 お兄さんもおねぇさんも、アタフタしながらワケのわからない事を言う。

 ちびっ子の涙というのは、ここまでの威力を持つ物なのか。さっきまでの雰囲気がガラリと一変していた。

 とりあえず、子供を泣かすヤツは悪。異論は認められないのである。真理だ。

 

 未だクシグシと目元を拭っているものの、乙女にヨシヨシと抱きしめられ、男の子が落ち着きを取り戻した頃……。

 怒気を削がれ、そして冷静さを取り戻したチャアクの男が、静かに乙女に声をかけた。

 

「……おいガンランサー。ギルカを出しな」

 

 男は胸元から自分のギルドカードを取り出し、机の上へと乗せる。そして乙女に対してもカードを要求する。

 

「お前は最近になってこの街に来たばかり。

 俺ぁお前の事を、よく知らねぇ」

 

 それでお前にあれこれ言うのは、フェアじゃない。男はそう言っているのだろう。

 気に喰わない相手にカードを渡すのは、きっと良い気はしない。これは自分のハンター人生の全てが詰まった、かけがえのない物だ。

 それでも筋を通そうと、男は自分のカードを乙女に渡したのだ。

 

 アタフタとポケットをまさぐり、急いで自分のカードを取り出す乙女。

 そしてまるで「ははーっ!!」とでも言うようにして、低姿勢で男に差し出した。

 

「……ったく、調子狂って仕方ねぇよ。 えーっと、なになにぃ?

 お前の名前は“ソロモン“…………って、ソロモン?!?!」

 

 男が驚愕の表情を見せる傍ら、乙女は嬉しそうに男のカードを見ている。

 男の子はハンター家業を始めたばかりだし、まだ彼からはカードを貰っていない。

「これから二人でがんばって、凄いカードにしていこうね」と、そう約束している感じなのだ。

 だからこれは、乙女が初めて貰った、誰かのギルドカード。

 満面の笑みでホクホクしながら読み進めているのが見て取れた。

 

「……そんなマジマジ読まんでもいい。筋を通しただけの話だからよ。

 俺のハンターランクは“7“。一応上位ハンターで通ってる。

 それでもここいらじゃ、一番でけぇ数字だ」

 

 嬉しそうな様子の乙女に調子を崩し、男はケッと吐き捨てながら、受け取ったカードに視線を戻す。

 先ほどはNAME欄を見ただけでカードを放り投げそうになったが、今度は覚悟を決めてどんどん読み進めていった。

 

「――――!?」

 

 男の子からは、様子しか伺えない。しかしチャアクの男の表情が、乙女のカードを読み進めていく内に驚愕に染まっていくのが分かった。

 

「……………お前っ」

 

 男がカードから視線を上げるも、乙女は未だホクホクとギルカを見つめるばかり。

 家に帰ったら、これを神棚に飾ろう。ご先祖様にご報告せねば。そんな風にブツブツ呟いていた。

 

「おい……、アンタ……」

 

「――――ねぇ、このガンサーとクエストに行くんでしょう?

 あたしも付き合うわ。しっかり見定めておきたいの」

 

「アタイも行く。ホントに坊やを任せて良いのかどうか、見極めてやるわ」

 

 男が乙女に声をかけようとした、その時。

 今まで静観を保っていた二人の女性ハンター達が、男にそう告げる。

 

「ねぇ坊や? 今日一日だけ、この人をあたし達に貸して欲しいのっ。

 坊やのクエストは、あそこの操虫棍のお姉ちゃんが手伝ってくれるからねっ。

 なんでも好きな装備を作ってもらいなさい♪」

 

「うんうん♪ それがいいよ♪

 だいじょ~ぶ! 今度はアタイ達、ぜったいケンカしたりなんかしないよ♪」

 

 頭を撫でてやりながら、女性ハンター達が男の子に告げる。

 その様子を乙女はポカンとしながら、そして男は黙したまま見守る。

 

「――――さぁ行きましょう、ガンランサーさん?

 坊やの交友関係に、口出しはしない。

 どうぞゴハンでも買い物でも、一緒に行くといいわ。

 ……でも狩りだけは別。共に狩場に立てるのは、信頼の出来る仲間だけよ」

 

「お好きなクエストを選んで下さい。

 アタイ達三人は、それにお付き合いするだけですから」

 

 オロオロとする乙女を先導し、女性ハンターが受付へと向かって行く。

 やがて今まで沈黙を守っていた男も、一目だけ男の子に視線を送った後、彼女達に続いていった。

 

「……ぷ、プリティ! プリティよ!

 狩りが終わったらここで待っていてくれ! いっしょにゴハンを食べよう!

 私たちのラブラブハンターライフはっ、これから始まるのだ!!」

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

「――――ジャマよ貴方! そんな所に突っ立ってないでよ!」

 

 女性ハンターが太刀を振り回す。それが身体に当たり、乙女が態勢を崩す。

 

「さっさとモンス追いなさいよ!

 武器仕舞うのに、いつまでかかってんの!」

 

 大剣の女性ハンターが即座にモンスターへ突進していく。

 一方乙女は未だ立ち止まったまま。緩慢な動作でガンランスを納刀している。

 

「もうっ! どいてったら!!

 そんな風にウロチョロ居座られちゃ、頭を狙えないでしょッ!!」

 

 ひたすら竜の傍に張り付き、いつまでも延々と立ち回り続ける乙女。

 それを邪魔だと、戦いにくいと、太刀の女性が非難する。

 最終的には「構うものか」と、後ろから乙女の身体ごと斬り付けた。

 

「邪魔よッ!」

 

「どいてっ!」

 

「トロいのよっ!」

 

 エリアルジャンプ後の斬撃が、竜の傍にいた乙女の頭上に振ってくる。

 太刀の回転斬りが、竜にまとわりついていた乙女の身体を巻き込んで炸裂する。

 そして距離が離れていったなら、誰よりもトロトロと武器をしまい、一番遅れて竜のもとへ到着する。

 

 邪魔だわ、動きはトロいわ、少し当たっただけですぐコケてしまうわ。

 二人から見て、ガンサーである乙女の戦いぶりは、とても不細工な物だった。

 

 “やりいにくい……“

 “居るだけで気を遣う“

 “役に立たない“

 

 それが乙女に対しての、女性ハンター両名の評価だった。

 

「……あら? さっきから一度も“砲撃“をしていないけど

 貴方、やる気が無いの?」

 

 太刀使いの女性が、違和感に気づいた。

 クエスト前、自分があれだけ“吹き飛ばされる“という覚悟をしてきたにも関わらず、あれだけ警戒していたにも関わらず……。

 しかし、これまで一度も乙女は“撃っていない“。

 一度も砲撃の音を聴いていない事に、彼女は気が付いたのだ。

 

 ――――怖かった。正直ガンサーと共に戦うのは、恐怖だった。

 

 以前ガンランサーの砲撃に吹き飛ばされた恐怖。

 何もする事が出来ず、まともに狩りをさせてもらえなかったトラウマ。

 そんな苦い思い出を胸に押し込め、坊やの為にと、この狩場へやってきたというのに。

 

 しかし乙女のガンスからは、一度も砲撃が放たれる事は無い。

 だから彼女たちが巻き込まれ、なすすべなく吹き飛ぶ事も無かった。

 ……………それを彼女たちは“舐められている“と感じた。

 

「気でも使ってるの? もし吹き飛ばしたら怒られるからって?

 ……撃たないって言うなら、ランスでも握れば良いじゃない。

 ガンランスが泣くんじゃないの!? そんな使い方してたらッ!!!!」

 

 ――――撃たないので、どうぞ怖がらないで。

 ひたすら斬撃のみで戦う乙女の姿が、彼女たちにはそう言っているように映った。

『あなた達が居ると“撃てないので“、どうぞがんばって下さい』

 実力が出せないので。貴方達は下手なので。

 ……そんな風に、彼女たちには聞こえたのだ。

 

「~~~~ッッ!!!!」

 

 もう構う事はないと、好き勝手に太刀を振り回し始める女性。

 まるで乙女などこの場に居ないかのように、思うがまま長物を振り回す。大剣の女性も然りだ。

 

 二人の織りなす嵐のような剣戟の中、乙女の身体はぐらつき、時に跳ね上げられて宙を舞っていった。

 

 

………………………………………………

 

 

 チャージアックスの男は、三人が戦う姿を、見守り続けていた。

 

 こんな下位クエストに自分が力を振るえば、自分ひとりで瞬く間に終わってしまう。だからこそ男は積極的には参加せず、粉塵を用意したり罠に誘導したりと、サポートに徹して行動していた。

 

 男は、必死で立ち回りを続ける乙女の姿を見守る。

 狩りの序盤こそは仲間から攻撃を喰らい、何度も態勢を崩す姿が見られたものの……、次第にそういった光景は少なくなっていった。

 そして狩り終盤に至れば、乙女が身体をよろつかせている姿は、皆無となる。

 サイドステップを駆使し、時に攻撃を中止してまで、乙女がこまめにポジションを変えている様子が分かった。

 

「 もう最悪っ!! やりにくいったらありゃしない!! 」

 

「モンスの近くで、ずっとウロチョロして!

 ちょっとコツかれたら、すぐよろける癖に! 気をつかってしょうがないわ!」

 

 やがて狩りを終えた女性二人が、男のもとに歩み寄って来た。

 倒したモンスターの剥ぎ取りをする乙女をその場に残し、男に対して、今日の戦いの愚痴を言いに来たのだ。

 

「良く思われたいからか知らないけど、アイツ一発も砲撃使わなかったっ!

 手を抜いてたのよっ! あたし達を馬鹿にしてるんだわ!」

 

「どうせアタシ達が倒すからと思って! 人任せなの!

 いくら弱いガンス使ってるからって、

 撃たずにチョンチョン斬るばっかりでさっ!」

 

 もう烈火の如く愚痴を言い合う二人。

 そんな二人を黙って見つめていたチャアクの男が、静かに口を開く。

 

「――――お前ら。このクエスト中、何回あいつを斬った?」

 

「えっ?」

 

 そうかと、大変だったなと、労ってもらえると思っていた。

 だが男が二人にした事は“質問“。

 今日の二人の戦いを、問いただす物だった。

 

「何回間違って、攻撃を当てた? 何度ヤツを跳ね飛ばした?

 ……中終盤のアレは、わざとやってたんだろう。

 でもよ? 序盤の方はどうだった?」

 

 静かな声、静かな瞳で二人を見つめ、男が言葉を続けていく。

 

「そんで、ヤツが砲撃をしなかった事はともかく……。

 お前らこのクエスト中、一回でもあいつに“ガンスで斬られたか?“」

 

 二人が驚いた表情で男を見つめる。

 なぜ自分達が今、男に責められているのか。それがまったく分からないというように。

 

「き……斬られてないけどっ。

 でもそれはっ、アイツが手を抜いて! ロクに戦わなかったから!」

 

「あいつは誰よりも多く斬り、誰よりも長くモンスに張り付いてたぞ。

 それで適確に、モンスの身体だけを斬ってた。

 ちょこちょこと常に立ち位置を変え、決してお前らに当てんようにしてな」

 

 遠くで観ていたから分かる。誰よりも狩りに貢献していたのは、あの女だ。

 それを静かな声で、男は二人に伝える。

 

「お前らが気分よく弱点殴れたのも、“あいつが場所を譲ってたからだ“

 サイドステップを駆使して、

 常にモンスを斬り付けながらも、いいポジションを開け渡してたんだ。

 火力の高い武器を使ってる、お前らの為にってな」

 

 今度こそ二人は、驚愕の表情を浮かべる。

 口は悪いが、仲間の中で誰よりも確かな実力を持つこの男。そんなこの人が告げる事実に、二人は目を見開く。

 

「それによ? お前らの立ち回りは“論外“だ。

 好き勝手に長物を振り回す。自分がやりたい事をするばかり。

 ……テメェが足腰の強い武器握ってるからって、

 他人まで殴っても良いなんざ、思ってんじゃねぇぞ。

 ……まわりを気遣う余裕も、そう立ち回れる腕も、……意識すらねぇ。

 んなモンはパーティでもなんでもねぇぞ。“共闘“じゃねぇ。

 ――――ソロ狩りでもしてろ未熟者。迷惑なんだよ」

 

 踵を返し、男がその場から去っていく。

 男の言葉に驚愕しながらも、やがてシュンと項垂れてしまう二人。

 

 悔しい気持ちはある。言い訳したい気持ちだって、モチロンある。

 ……でも、今日自分達が彼女にしてしまった事だって、しっかりと憶えてる。

 だからこそ――――二人は口を閉ざしているしかなかった。

 

 

………………………………………………

 

 

「なぁアンタ。なぜ今日は、一発も撃たなかった?」

 

 未だイソイソと剥ぎ取り作業を行う乙女のもとに、チャアクの男が立ち寄った。

 

「気ぃ使ってたんかよ? あの二人に。

 一緒に狩りしてんだ。ある程度の事は……まぁお互い様だ。

 せっかくガンス使ってんだ。“撃てない“まま戦わされるなんざ……、

 アンタ自身が、いちばん辛ぇ事なんじゃねぇのか?」

 

 乙女は今まで、「みんなの分も!」とばかりにひたすら解体作業をしていた。

 この場にいる仲間の分は元より、ここに居ない男の子の分もと、張り切って剥ぎ取りをしていたのだ。

 

 

「アンタなら……“当てねぇように撃つ“事も、余裕で出来るんじゃねぇのか?」

 

 

 そもそもこのクエストを乙女が選んだ理由も、“男の子が喜ぶ“と思ったからだ。

 別に自分の欲しい素材じゃない。このクエストのモンスターが得意だったからでもない。

 ただこのクエストで得られる素材が、男の子の防具作りに役立つと知っていたからこそ、この狩場へとやって来たのだった。

 

 今日集会所へと戻ったとき、男の子にプレゼントする為に。

 ただただ彼女は、男の子の喜ぶ顔が見たいが為に、頑張っていたのだ――――

 

「……えっ。いやっ! あのっ!

 ご……ご機嫌麗しゅう、髭モジャ」

 

 シリアスな雰囲気がブチ壊しだ。

 だがチャアクの男(髭モジャ)は、辛抱強く、乙女に言葉をうながす。

 

 

「“音“が怖い、と思うんだ――――」

 

 

 やがて呼吸を落ち着け、乙女が静かな声で言葉を紡いでいく。

 

「音だけじゃない……。この砲撃の炎も。リロードをしてる姿も。

 聴くだけで、目にするだけで……、みんな怖いと思うんだ」

 

「たとえ、撃たれなくても。吹き飛ばされなくても。

 ちゃんと自分の居ない場所を、選んで撃ってくれてたとしても……。

 ……でも“ガンランサーが砲撃をしている“という、

 それだけできっと……、みんなモンスターには近寄れなくなる。

 足がすくんで、飛び込めなくなる」

 

「……今は大丈夫だったけど、次は撃たれるかもしれない……。

 もしうかつに近寄れば、砲撃で吹き飛ばされるかもしれない……。

 “ガンサーが砲撃を使うから、モンスの懐に飛び込むのが怖い“。

 ――――そんな怖さが、きっとあると思うんだ」

 

 はぎ取った素材をポーチに入れ、乙女は満足そうな笑みを浮かべる。

 これを渡した時の光景が、瞼に浮かぶようだ。

 男の子は、喜んでくれるだろうか? 

 

「――――だから私は、砲撃を撃たない。

 じゃあランスを使えって、そう言われる事もあるけれど……。

 でも私はガンランスが一等好きだから、こればっかりは仕方ない。

 撃たない弱いガンランサーが…………嫌われてしまうのも、仕方ない」

 

「うーん!」と一度伸びをして、乙女が柔らかな笑みを浮かべる。

 黙ってその姿を見つめていた男が、「ふぅ」っとひとつ、ため息をついた。

 

「……今日、初期ガンスなんぞを担いでんのは、

 坊主とクエに行く為だったのか?」

 

「あぁ。これを握って、クックに行こうと思っていた。

 プリティと一緒に狩りをし、

 そうして得た素材で、少しずつこのガンスを強くしていくんだ。

 このガンスはきっと、私の一番の宝物になるよ――――」

 

 

………………………

………………………………………………

 

 

「 加工して下さい! 下さい! 下さい! 下さぁぁーーい!! 」

 

「おねがいしまーーす!」

 

 次の日、何気なしに加工屋を覗きにきたチャアクの男(髭モジャ)は、店先でワーワー元気に騒いでいる乙女と、男の子の姿をみつけた。

 

「……ひっ、卑怯じゃぞブタ娘っ! 坊主を援軍に連れて来よるとはッ!!!!」

 

「うるさい黙れ! お願いします!

 私のガンスを整備して下さいっ。お願いしまぁーーす!!」

 

「おねがいしまーーす!」

 

「……………」

 

 直立不動の〈きをつけ!〉をし、二人ならんでワーワーと嘆願する二人。

 さすがのオヤジ殿も男の子に対して強い態度はとれず、もうグァングァンと頭を揺らして悩んでいる。

 その光景をみて、なにやら頭痛がしてくる心地の髭モジャだ。

 

「オヤジ殿! 私はお金ならあるのだ!

 僭越ながら、ここに999万9999zを用意させて貰った!

 これで私の骨銃槍を、“骨銃槍Lv2“に!!」

 

「お前、お金をなんだと思うとるんじゃ!!」

 

「おねがいしまーーす! おねがいしまーーす!」

 

「坊主っ! わかったからこやつの金を引っ込めてやってくれ!

 お主がしっかりせんとっ!! この娘は……ッ!!」

 

 

 

 そしてなんとか骨銃槍を強化してもらえる事になり「ばんざーい! ばんざーい!」と喜び合う二人。

 その姿を見届けてから、チャアクの男は踵を返して歩いて行く。

 

 らしくもなく、その顔に笑みなんぞ浮かべながら。

 ポケットに入ったままだった乙女のギルドカードを、ポンっと叩いてみた――――

 

 

 





ギルドカード

name ソロモン(仮)
HR 250

村下位 557回         武器、骨銃槍(Lv2)
村上位 202回          頭、グリードXRヘルム
集会所下位 1070回        銅、ギザミRXメイル
集会所上位 728回        腕、グリードRXアーム
集会所G級 302回         腰、ギザミRXフォールド
闘技大会 42回          足、グリードRXグリーヴ
                ※(全て合成防具)


武器使用頻度

・ガンランス 2706回
・その他、少々。

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『御身に栄光あれ』
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