ガンランスの話をしよう。 作:はせがわ
「 こ の バ カ 嫁 」
地面に蹲り、ひたすら「おーいおい!」と泣いていた私の首根っこを、お義母さまが引っ張り上げた。
「あなた何考えてるザマス? 雨降ってるでしょ? 今。 いっぱい降ってるでしょ?
これもお得意のジャストガードでなんとか出来るの? 出来ないでしょ?」
「え゛……お、おかっ! お義母さま?!?!」
突然なんの気配も前触れも無く、この場に推参したお義母さま。
今も優雅に口に手をあて、「おっほっほ♪」と笑っている。
「身体冷えるでしょ? 雨って。 ならお腹だって冷えるでしょ? 分かる?
元気な赤ちゃん産まなきゃでしょ? 嫁は。 お仕事ザマショ?
アタクシに孫の顔見せて? 楽しみにしてるのよ? これでも」
「え゛っ……ちょっと………え?!」
そうお義母さんは私の手を握り、ズンズンと歩き出そうとする。
私の意向や意志を尊重する気配は微塵も無い。
「待って下さい! 私はもう帰れません!! プリティのもとへは戻れないんだ!!!!」
そう叫びながら腕を振り払……おうとしたものの、〈がっしり!〉とばかりに捕まれた私の腕はビクともしなかった。まるで万力に捕まったかように。
それでも私は、必死に声を振り絞る。
「 貴方も今すぐこの場を離れてくださいッ!
私はこのゴアと戦った! こいつは普通のゴアマガラじゃないんだッ!!
……そのウイルスに感染した私は、もうどこへも行けない!! 戻れない!!
たとえ人に感染する物じゃなくても……ギルドがそれを許さない!!!! 」
もう泣き喚きながら、懇願する。
目の前も見えなければ、自分が何をしているのか、何を言ってるのかも分からない。
「 だからひとりで来た! ひとりでここに来たっていうのに!!
……貴方まで感染してしまったら、もう全て台無しなんだッ!!!!
私はプリティになんて謝ればいいんだ!? もう会えもしないっていうのにッ!!
帰ってっ……帰って下さいッッ!! 私を置いて今すぐ帰ってくれッ!!!! 」
「………………」
空を見上げてビービー泣く。
このバカお義母さま、“バかあさま“と、新しい言葉も発明する。
「ほう……ウイルスとな?
そのウイルスというのは……この竜の物ザマスね?」
やがて呆れるように、心底私を
そして何気ない足取りで、スタスタとゴアの遺骸へと歩いていく。
「で……この竜がいったいどうしたんザマス?
アタクシぜんぜん、なんともありません事よ?」
「 !?!? 」
私は衝撃に目を見開く。お義母さまは「じ~っ」と私を見つめる。
今、ゴアの傍で立つお義母さまが、そのゴアの頭を〈なでり、なでり〉としている。
「何がウイルスなんザマス?
……さっきちょっと見てたけど、貴方すこし心が豆腐なんじゃありません?
アタクシがやられたら、PTの皆は一体どうなるんザマス?
誰が笛を吹くんザマス?」
「…………ッ! ………ッッ!!」
もう私には、アングリ口を開ける事しか出来ない。
「そもそもアタクシ、もう結構前からこの場に居るんザマスよ?
ウイルスにやられておかしくなるなら、とっくにおかしくなってるザマス。
少しは落ち着きなさいな、ソフィーさん」
お義母さまが懐からハンカチを取り出し、上品に手を拭う。
その余裕に満ちた仕草を見て……私は冷静さを取り戻してくる。
「きっと……“体質“もあるのね……。
人それぞれ、食べ物や物質に“身体が受け付けない物“があるように。
……恐らくアタクシには、このウイルスは効きづらい。
ソフィーさんは戦いが終われば、しばらくして元に戻った。
でも、たとえアタクシ達と同じく強靭な肉体を持っていようとも……、
それが致命的なダメージとなってしまう者も、いるという事なのでしょう」
再びお義母さまが私に寄り添い、今度はゆっくりと優しく手を引いてくれる。
「……でも、何故ここに来てくれたのです?
貴方はハンターとして重要な立場がある人で、プリティの母親なのに……。
自分は大丈夫だなんて、最初から分かってたハズない。
なのになぜ……私なんかの所に……」
チラリとこちらを一瞥し、なにやら愛嬌のある片眉だけを上げた表情で、お義母さんがそっと口を開く。
「――――“家族“でしょ? ならウイルスなんて、何?」
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やがて必死こいて森を抜けた私達が見た物。
それは雨の中で私達を待ち続け、そしてちょっと済まなそうに苦笑しているプリシラの姿だった。
「いや……あの、どうしてもって言って聞かなかったんですのよ。
わたくし、必死にソフィーの顔を立てようと頑張ったのですけれど……」
お義母さまがあの場所に居た理由。それを察する事が出来た私。
「それと……あの……実はお母様だけではなくてですね?
なんと言うか……その、気持ちを汲んであげて欲しいんですの……」
プリシラが少しだけ横にずれ、彼女の背後の光景が見えるようになる。
そこには、私の愛する人達の姿。
狩団のメンバーたちが並んでいるのが見えた。