ガンランスの話をしよう。   作:はせがわ

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その6

 

 

「 こ の バ カ 嫁 」

 

 

 地面に蹲り、ひたすら「おーいおい!」と泣いていた私の首根っこを、お義母さまが引っ張り上げた。

 

「あなた何考えてるザマス? 雨降ってるでしょ? 今。 いっぱい降ってるでしょ?

 これもお得意のジャストガードでなんとか出来るの? 出来ないでしょ?」

 

「え゛……お、おかっ! お義母さま?!?!」

 

 突然なんの気配も前触れも無く、この場に推参したお義母さま。

 今も優雅に口に手をあて、「おっほっほ♪」と笑っている。

 

「身体冷えるでしょ? 雨って。 ならお腹だって冷えるでしょ? 分かる?

 元気な赤ちゃん産まなきゃでしょ? 嫁は。 お仕事ザマショ?

 アタクシに孫の顔見せて? 楽しみにしてるのよ? これでも」

 

「え゛っ……ちょっと………え?!」

 

 そうお義母さんは私の手を握り、ズンズンと歩き出そうとする。

 私の意向や意志を尊重する気配は微塵も無い。

 

「待って下さい! 私はもう帰れません!! プリティのもとへは戻れないんだ!!!!」

 

 そう叫びながら腕を振り払……おうとしたものの、〈がっしり!〉とばかりに捕まれた私の腕はビクともしなかった。まるで万力に捕まったかように。

 それでも私は、必死に声を振り絞る。

 

「 貴方も今すぐこの場を離れてくださいッ!

  私はこのゴアと戦った! こいつは普通のゴアマガラじゃないんだッ!!

  ……そのウイルスに感染した私は、もうどこへも行けない!! 戻れない!!

  たとえ人に感染する物じゃなくても……ギルドがそれを許さない!!!! 」

 

 もう泣き喚きながら、懇願する。

 目の前も見えなければ、自分が何をしているのか、何を言ってるのかも分からない。

 

「 だからひとりで来た! ひとりでここに来たっていうのに!!

  ……貴方まで感染してしまったら、もう全て台無しなんだッ!!!!

  私はプリティになんて謝ればいいんだ!? もう会えもしないっていうのにッ!!

  帰ってっ……帰って下さいッッ!! 私を置いて今すぐ帰ってくれッ!!!! 」

 

「………………」

 

 空を見上げてビービー泣く。

 このバカお義母さま、“バかあさま“と、新しい言葉も発明する。

 

「ほう……ウイルスとな?

 そのウイルスというのは……この竜の物ザマスね?」

 

 やがて呆れるように、心底私をゴミのような目で見た(・・・・・・・・・・)お義母さまが……私の手を放す。

 そして何気ない足取りで、スタスタとゴアの遺骸へと歩いていく。

 

「で……この竜がいったいどうしたんザマス?

 アタクシぜんぜん、なんともありません事よ?」

 

「 !?!? 」

 

 私は衝撃に目を見開く。お義母さまは「じ~っ」と私を見つめる。

 今、ゴアの傍で立つお義母さまが、そのゴアの頭を〈なでり、なでり〉としている。

 

「何がウイルスなんザマス?

 ……さっきちょっと見てたけど、貴方すこし心が豆腐なんじゃありません?

 アタクシがやられたら、PTの皆は一体どうなるんザマス?

 誰が笛を吹くんザマス?」

 

「…………ッ! ………ッッ!!」

 

 もう私には、アングリ口を開ける事しか出来ない。

 

「そもそもアタクシ、もう結構前からこの場に居るんザマスよ?

 ウイルスにやられておかしくなるなら、とっくにおかしくなってるザマス。

 少しは落ち着きなさいな、ソフィーさん」

 

 お義母さまが懐からハンカチを取り出し、上品に手を拭う。

 その余裕に満ちた仕草を見て……私は冷静さを取り戻してくる。

 

「きっと……“体質“もあるのね……。

 人それぞれ、食べ物や物質に“身体が受け付けない物“があるように。

 ……恐らくアタクシには、このウイルスは効きづらい。

 ソフィーさんは戦いが終われば、しばらくして元に戻った。

 でも、たとえアタクシ達と同じく強靭な肉体を持っていようとも……、

 それが致命的なダメージとなってしまう者も、いるという事なのでしょう」

 

 再びお義母さまが私に寄り添い、今度はゆっくりと優しく手を引いてくれる。

 

「……でも、何故ここに来てくれたのです?

 貴方はハンターとして重要な立場がある人で、プリティの母親なのに……。

 自分は大丈夫だなんて、最初から分かってたハズない。

 なのになぜ……私なんかの所に……」

 

 チラリとこちらを一瞥し、なにやら愛嬌のある片眉だけを上げた表情で、お義母さんがそっと口を開く。

 

 

 

「――――“家族“でしょ? ならウイルスなんて、何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………………………………………

 

 

 やがて必死こいて森を抜けた私達が見た物。

 それは雨の中で私達を待ち続け、そしてちょっと済まなそうに苦笑しているプリシラの姿だった。

 

「いや……あの、どうしてもって言って聞かなかったんですのよ。

 わたくし、必死にソフィーの顔を立てようと頑張ったのですけれど……」

 

 お義母さまがあの場所に居た理由。それを察する事が出来た私。

 

「それと……あの……実はお母様だけではなくてですね?

 なんと言うか……その、気持ちを汲んであげて欲しいんですの……」

 

 

 プリシラが少しだけ横にずれ、彼女の背後の光景が見えるようになる。

 

 そこには、私の愛する人達の姿。

 狩団のメンバーたちが並んでいるのが見えた。

 

 

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