ガンランスの話をしよう。   作:はせがわ

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お前を抱きしめるための暖かさを手に入れた。

 

 

「う~ん、こまったなぁ~。

 何にしたらいいのかなぁ~」

 

 笛使いの男の子が、うんうんと悩むような仕草をしている。

 口元に手をやり、可愛らしく小首を傾げ、「どうしようかなぁ~」と言わんばかりのアクションだ。

 

「――――やあプリティッ! どうしたんだいっ」

 

「あっ、おねぇさん!

 ……ぼくね? じつはいま、どんな武器をえらべばいいか、まよってるの」

 

 そこに颯爽と、ガンランサーの乙女が登場。

 フランクな雰囲気、「よう!」とばかりに上げられた右手、欧米的な「ニカッ!」っというスマイルで。

 

「ハンターの武器って、10しゅるい以上もあるんでしょう?

 ぼくはまだハンターになったばかりだし……、

 いったいどんな武器をつかったら、いいのかなって」

 

「なるほどっ! そんなプリティに、今日はうってつけの物があるぞぅ」

 

 そう言って乙女は、何故かこの場に準備されていた長机の下から、何かを取り出しだ。

 

『 ガ ン ラ ン ス !! 』

 

 \ ババーン!! /と机に置かれるソレ。

「わーお!」とばかりに大げさな男の子の表情。輝くような乙女の欧米的スマイル。

 今その光景を、チャアクの男と操虫棍の女性が、椅子に座って観覧していた。

 

「わぁー。ガンランスだー。

 ぼく、はじめて見たよー」

 

「はっはっは! どうだいプリティ、カッコいいだろう~?

 このガンランスは、現代加工技術の粋を集めて作られた、

 まさに人類の英知の結晶とも言える武器なのさっ」

 

「「………………」」

 

「すごいすごい!」と喜ぶ(演技の)男の子。

 そして普段の姿からは考えられない程、絶好調の乙女。

 そして、そんな二人の姿を黙って鑑賞している、ハンター仲間の両名。

 

「こちらのガンランスという武器は、

 大きな砲の先に、銃剣を取り付けた近接武器なんだ!

 鋭い斬撃に、ド派手な砲撃……、そして鉄壁を誇る大盾が特徴さっ。

 まさに“悪魔の左、菩薩の右“とでも言うような!

 そんな攻防一体型の武器なのさっ」

 

「わぁー。すごーい!」

 

 天高くガンランスを掲げる乙女。それをパチパチともてはやす男の子。

 ハンター両名はその光景を、「どよーん」とした顔で見つめる。

 

「えっと……でもガンランスって重たいし、おっきいし。

 それに動きはのろくて、操作はふくざつだし、とっても扱いにくいよね?」

 

「 !? 」

 

「なかまとの狩りでは、砲撃や竜撃砲もイヤがられるし……。

 スーパーアーマーがぜんぜんない武器だから、

 いっしょにいる人たちに、とても気をつかわせてしまうよね?」

 

「 ふぐぉ!?!? 」

 

 男の子は何気ない口調で、“一般的なガンランスの印象“を告げていく。

 それに対して乙女が、もうガンガンとダメージを喰らっているのが見て取れた。

 

「ノロマなのに、ずっとモンスターのそばに張り付いてるから、

 いっしょに戦ってる人たちからしたら、正直“障害物“みたいな物だし。

 そんなガンサーがいるせいで、みんな思うように力を発揮できないし。

 かといってガンランスって……“別に強くもなんともないし“」

 

「…………」

 

「ガンスの斬撃の威力には、さりげなく3%の“下方補正“が掛かってるし。

 だから普通に斬る分には、ランスとかでも良さそうな物だし……」

 

「 」

 

 反論、反論しろ。

 本来ならばここで「だいじょーぶ! 実はガンランスにはね?」とか言いつつ、ここぞとばかりに利点を説明していく場面なのだろうが……。

 しかし乙女は今、白目を向いてしまっている。

 

「かといってバンバン撃つと、ありえないくらい切れ味を消費するし。

 でも撃たなければヒートゲージも上がらなくて、斬撃は弱いままだし。

 リロードはいちいち面倒くさいし、竜撃砲のチャージ時間は長いし。

 あらゆる意味でPT戦に向かない武器だから、全然狩りに貢献出来ないし。

 整備は難しいし、加工屋さんにも『面倒くせぇ!』って言われるし。

 収納スペースは取るし。持ち運びも不便だし。

 いつも砲撃で仲間に迷惑をかけるせいで、

 ガンランサーはみんなから、人間のクズ扱いを受けるし。

 集会場に入った途端、『出て行け!』って追い出される事あるし。

 街を歩けば石を投げられるし、通りすがりの人には唾を吐かれるし。

 武器種占いの本にも【ガンサーの人は自己中心的!】って書かれてるし。

 一部の公共施設には、ガンランサーお断りの張り紙とかもあるし。

 もう過去に“ガンランサーだった“っていうだけで、

 結婚にも就職にも不利になってk

 

「――――やめろ坊主! ソイツ死んじまうぞっ!!!!」

 

 思わず客席から声を荒げるチャアクさん。

 今目の前にいるガンスの女は、もうボロ雑巾のような佇まいとなっていた。口から血も吐いている。

 

「……駄目だ、とても見せらんねぇよこれじゃ」

 

「ガンスの良さを知って貰いたい……かぁ。

 ちょっと今のヤツじゃ、難しいかもしれないわよ?」

 

「そっ、そんなっ!」

 

 男の子と乙女に頼まれ、二人の行う“ガンランスのプレゼンテーション“を鑑賞していたチャアク、操虫の両名。

 みんなにガンランスの良さを知ってもらおう! そんな男の子の想いから考案してみた今回の企画であったが、試しにと最初に観て貰った両者の表情は、とても厳しい。

 乙女は必死に食い下がるも、なしのつぶてである。こんな物を仲間たちの前で見せても、印象を変える事は出来ないと。

 

「取り合えずよぁ? KOされてんじゃねぇかお前。

 今からガンスの良さを語ろうって人間が、心折られてどうすんだよ」

 

「確かに坊やは、異常なまでの聡明さを見せてたけど、でも舞台で気絶してしまうのはダメよ……」

 

 チャアク、操虫の両名が窘める。

 脚本だったのかもしれないが、たしかに男の子のあの台詞の数々は、常軌を逸していたとは思う。

 幼い子供から淡々と指摘されていく、欠点の数々――――

 もう聞いている方からしても、涙がちょちょ切れんばかりの残酷さだった。

 しかし、よくもこれだけの数の欠点を並べられたものだなと思う。

 そして全部“少しも間違っていない“というのが、ガンランスの恐ろしい所である。

 

「いや、あれでも大分セリフを削った方なんだ。

 斬撃武器なのに、尻尾に攻撃が届かないとか。

 ゲームの性質上、“ガード“という物自体がもうゴミでしかないとか」

 

「やめちまえよ!! なんで担いでんだよお前!!」

 

 モンスの攻撃には、ガスだのビームだのという、ガード不能な物も多い。

 そしてそれをスキルで補ったとしても、上下左右からの様々な攻撃にガードを“めくられる“事は、ガンサーにとってはもう日常茶飯事。

 もう数えるのも億劫になるほど、ガードをめくられる事となる。

 この世界においては、たとえ盾を構えて防御をしても、安全である保障などどこにもないのだ。

 

 ハッキリ言ってガードなんかするより、バリバリ動き回れる武器職でヒョイヒョイ攻撃をかわす方が、何倍も安全なのである。

 

「初めてガンランスに触れた新人ハンターたちは、

 大抵“回避行動“と“バックステップ“の違いに混乱し、

『なんじゃこれ!』『使いづら!』と感じて、この武器を使う事を諦める。

 そして村長がBOX内に用意してくれていた初期ガンスを売っぱらう事により、

 序盤の貴重な軍資金850zをゲットする事が可能だ。

 そのお金で砥石だのボウガンの弾だのを購入する事が出来るからこそ、

 新人のハンターたちは皆、安心して狩りに赴いて行ける。

 それこそがこの“ガンランス“という武器の存在意義であり、

 また誇りでもあるのだ。

 ガンスは本当に素晴らしい武器なんだ。信じてくれ」

 

「無理よ。ごめんね?

 さぁ行きましょう坊や♪ あっちでお姉ちゃんとゴハン食べよっか♪」

 

「待ってくれ操虫棍の人ッ!! プリーズ!!!!」

 

 男の子を連れ去ろうとする操虫棍さん。その腰に必死にしがみつく乙女。

 行かないで、捨てないでと、昭和の夫婦ドラマの如くしがみついて懇願した。

 操虫棍さんは鬱陶しそうにしながらも、渋々戻って来てくれる。

 

「そんじゃあよ? お前の思う“ガンスの良さ“ってのは何なんだよ?

 火力も出ねぇ、足もねぇ。PTで使いづらくて、ガードも信用は出来ねぇ。

 ……そんなガンスの魅力ってのは、いったい何なんだよ?」

 

 わんわんと泣き喚く乙女と目線を合わせて、腰を屈めるチャアクさん。

 いったい何が、お前をそうまでさせるんだと、乙女に問いかけた。

 

「カッコいいですっ!」

 

 涙と鼻水をダーダー流し、某海賊漫画みたいな顔をした乙女が、叫ぶ――――

 

 

「ガンランスは! 宇 宙 一 カ ッ コ い い で す っ !!!!」

 

 

 

 

 ……しばし、この場の者達は言葉を失った。

 辺りにはおいおいと泣いている乙女の声だけが、大きく響く。

 

 ちょっと待てと、それはねぇだろと、そんな事を言える雰囲気では無い。

 今もう乙女は天を仰ぎ、スヌーピーの漫画のようにワーワー泣いているのだ。

 その姿をただただ見つめ、その場に立ち尽くすしかないチャアクと虫棍の両名。

 

 あれだけ嫌われ。

 あれだけの苦労をして。

 ずっと孤独を抱え。

 数えきれない程の理不尽な想いや、やりきれない程の悲しい想いをして……。

 

 それでもお前は“好きだ“って……。

 ただそれだけの理由で、ガンランスを握り続けていたというのか。

 

「いいです! ガンランスがいいです!!

 ガンランスはッ…………宇宙一カッコいいですっ!!」

 

 ……もう言葉も出てこない。

 多少なりともこの人を知った今だからこそ……、もうかける言葉が見つからない。

 “馬鹿だ“、という言葉が、思い浮かんだ。

 それと同時に“凄い“、という言葉も、脳裏に浮かんで来た。

 己の武器を心から愛する、一人のハンターとして。

 

 

「うん、カッコいいね――――」

 

 

 未だに「わーん!」と泣き止まないでいた乙女。その身体をそっと、男の子が抱きしめた。

 寄り添い、涙でグシャグシャになった彼女の心を、優しく包み込むようにして。

 

「カッコいいね、ガンランスって。

 おねぇさんはガンランス、だいすきだもんね」

 

 神々しい――――と思った。

 慈しむように乙女を抱きしめる、少年の姿を……。

 二人は、とても“美しい“と、そう感じていたのだ。

 

「今日ぼくがお迎えにいった時、

 おねぇさん部屋で、()()()()()()()()()()()()()

 ペロペロしちゃうくらい、ガンランスが好きなんだもんね――――」

 

 

 

 部屋で何してんだお前。

 坊やに何見せてんのよアンタ。

 

 二人による、嵐のようなお説教が始まった。

 

 

………………………

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

「ガンサーさんの事? ランポスに群がられて、ボコボコにされてたわよ」

 

 集会場の酒場にて。

 操虫棍の女性ハンターが、今日の狩りの感想を告げた。

 何気なしに「どうだった?」と訊ねたチャアクの男は、その場でブッと酒を吹き出す。

 

「うわっ、きたなッ! ……まぁそれはともかく、

 控え目に言っても“良いとは言えない“わね。

 いくら数が多かったからって、ランポス相手に苦戦するようじゃ……」

 

 チャアクの男の相棒である、操虫棍の女性。彼女は今日、あの男の子の素材集めに付き合う形で、クエストに同行してきた。

 行ってきたのは“ドスランポス“のクエスト。男の子や乙女と共に、三人で狩りをしてきたのだった。

 

 クエスト中、男の子は主にドスランポスの討伐を。そして彼女と乙女の二人が、その周りのランポス掃討を担当していた。

 まだハンター歴の浅い彼に大型との対戦経験を積んでもらい、そして彼が安心して戦えるようにと、彼女達が雑魚敵の露払いを行っていたのだ。

 

 男の子の戦いは、もう“見事“の一言。

 ヒラヒラと攻撃を躱し、何度もスタンを獲り、もう傍目から見てもまったく危な気ない戦いぶりだった。

 しかし、問題は乙女の方。

 ガンサーの乙女は、ドスランポスによって統率の取れたランポスの群れにワラワラと群がられ、それはもうとんでもない目に合わされていたのだった。

 

「もうランポスに噛まれるわ、蹴られるわ、しまいには泣いちゃうわで……。

 見ていてちょっと可哀想だったもの私。

 まぁ私たちを気遣ってか、ガンスなのにちゃんと砲撃を控えてたのは、

 凄く好感が持てたけど。

 まだまだハンターランクも1なんだし、仕方ないんじゃないかしら?」

 

 知らねぇってのは、恐ろしい事だな……。

 以前ギルドカードを貰い、乙女の本当のHRを知るチャアクの男は冷や汗をかく。

 きっとあの普段着みたいな白ドレスと、骨銃槍なんぞを握ってんのを見て勘違いしてやがるんだろう。チャアクの男はそう解釈をする。

 

 今日は相棒である虫棍の彼女が「あの子たちと狩りに行ってみたいの」と言うもので、チャアクの男は別のクエストでソロ狩りをしていた。

 自分はもう乙女の実力を充分知っているし、あの程度のクエストなら同行の必要は無いとそう判断し、今ここで今日の感想なんぞを訊ねてみたワケなのだが……。

 しかしその感想は“弱かった“。

 てっきり「とんでもないわ彼女……。ガンスの化身か何かよ……」などと、そんな相棒の狼狽える様が見られるかと期待していたというのに。

 まぁランポス相手に力の振るいようなど無いのは理解しているが……、それにしたってボコボコだったってのは一体どういう事だ? 男はひとり首を傾げる。

 

 あの坊主と一緒の狩場で、まさか三味線ひいてたワケでもあるまいに。とても乙女が手を抜いていたとも思えない。

 乙女であれば、男の子と一緒のクエストに出ようものなら、それはもう普段以上の力を捻り出しそうなものなのに。

 そんな風に男がウンウン考えているうち、なにやら向こうの方から、男の子と乙女の声が聞こえてくる。

 

「やったぁ! あとドスランポスの爪が2つでれば、

 そうしょくひんがそろうよ♪」

 

「よかったなプリティ。砥石使用高速化のスキルまであと一息だ。

 このまま一気に手に入れてしまおう」

 

 そう言ってキャッキャと喜び合う二人。

 無邪気に喜んでいる男の子と、それを暖かく見守る乙女の姿。

 親愛や、慈愛を感じさせる微笑ましい光景に、おもわずチャアクの男の口元も緩む。

 

「あ、操虫棍のお方。今日は本当にありがとう存じます。

 もし貴方がいなければ、いまごろ私はランポスの腹の中に居ただろう。

 人のぬくもりと優しさが身に沁みる、今日この頃。

 生命の喜びを噛みしめております」

 

 ビシッと45度の角度でお辞儀をし、乙女が虫棍さんに礼を告げる。

 相棒は「いいのいいの」と朗らかに手を振っているが、ランポスに喰われるG級ハンターってどういう事だオイ。おもわず苦笑いのチャアクさん。

 

「この前もおねぇさん、ファンゴの群れにかこまれて、ないちゃって……。

 なんとか助けだしたけど、あぶなかったよね」

 

「 お前ギルカ偽造してんのかオイ!!!! 」

 

 そんな事は無いと知ってはいるのだが……それでも叫ばずにはいられないチャアクさん。

 

(……ん? もしかして、そういう事かありゃ?)

 

「ひー!」と頭を抱えてうずくまる乙女。それを余所に、チャアクの男が思考を巡らせる。

 そして手のひらをポンっと叩き、自らの相棒に対して言葉をかけた。何かを思い付いたかのように。

 

「よぉ相棒、お前“ランス“は握った事あるよな?」

 

「え? そりゃ訓練で試してみた事はくらいあるけど……。それがどうかした?」

 

「なら何でもいい、次はランス担いでこいつらに付いてってみな。

 ガンサーがランポス共に苦戦してたワケ、ちったぁ分かるかもしんねぇぞ」

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

 せっかくだから、完成まで付き合うわ。

 坊やのスキル獲得の瞬間にも、立ち会いたいしね。

 

 そう言って虫棍さんは、再び乙女たちと共に“森丘“へとやってきた。

 クエスト内容はもちろんドスランポスの討伐。通いなれた道だと、仲良く三人でおしゃべりしながらここへとやって来たのだ。

 

(ふむ、ランスかぁ~。

 まぁランポス相手なら、武器なんてなんでも良いケド)

 

 そう言って虫棍さんは、ランスと大盾の感触を確かめる。

 今彼女が握っているのは、ワイルドボーンランスという名の槍。ブルファンゴの顔を模したデザインの、たいへんイカしたランスである。

 実はこれは乙女の所有物で、彼女が少年との狩りの中で制作した物。

 今回虫棍さんがランスを握ると聞きつけた乙女に「ぜひ使ってあげて下さい!」とばかりに押し付けられてしまったのだ。

 

「ガンランスには、ファンゴデザインの物が無いんだ……。

 なぜ神様はこうも、我々(ガンランサー)に辛くあたるのか」

 

 乙女のファンゴ好きなど知った事では無いが、とりあえずわざわざランスを購入せずに済んだのはありがたい。節約第一。

 ちょっと切れ味が悪かろうが、正直すんごくダサかろうが、一度握るだけならば何の問題も無い。ここはご厚意(?)に甘え、ありがたく借りておく事とした。

 

(使い方は、一応頭に入っているけどね。

 でもこれ重いし、バックステップって感覚がややこしいのよね)

 

 過去に二度ほど使ったきりで、ランスを握るのは本当に久しぶりだ。普段は操虫棍という軽快な武器を使用している彼女にとって、違和感は拭えない。

「いつもみたいに走り回りたい!」と、どうしてもそんな不便さを感じる。

 

(……ふむ。まぁ倒す分には問題ないわね。

 ランポス相手には、ひたすら“駆け寄って突く“のみ。

 ステップの不慣れなんて気にする必要もないわ)

 

 倒しては、武器をしまって走る。

 また倒しては、再び武器しまって走る。

 いつもと違いノロノロとした動作ではあるが、確実に一匹づつランポスを仕留めていく虫棍さん(槍)

 今遠くの方では、果敢にドスランポスに挑む坊やの姿。そして「ふぎゃー!」なんて言いながらランポス相手に四苦八苦している乙女の姿が見える。

 何かありそうなら粉塵を使いましょうと、慣れない武器を握っているとはいえ、十分に周りを見渡す余裕をもつ事が出来ていた。

 

『オゥオゥオゥ!』と、今ドスランポスが手下に指示を送っているのが見えた。

 新たにこの場へと現れる大勢のランポスたち。そしてヤツらが連携らしき物を取り始めたのを感じる。

 

(いつも思うけど、それってただの“攻撃チャンス“なのよね。

 私なら即乗りを狙うし、坊やにとっては、ただのスタン獲りのチャンスよ)

 

 おバカなドスランポスさん、なんて事を思いつつ、ひたすら手下の数を減らすべく突きを繰り出す虫棍(槍)の彼女。

 いま乙女が「もがー!」とか叫んでいたが、もう知った事か。

 さっさとこの場を納めてしまおうと、彼女は奮闘する。

 

「 !? 」

 

 その時、彼女の側面からランポスの一撃。

 見えない角度から来たそれを喰らい、一瞬彼女の足が止まる。

 

(ぐっ! 痛かないけど、身体がぐらつくっ。

 こんなクソ重たい、バランスの取りずらい武器握ってるからっ!)

 

 落ち着いて態勢を立て直し、向き直ってランポスを一突き。しかしその突きはヒラリと躱される。

 

(ウロチョロしてんじゃないわよ! あぁもう面倒くさいったら!)

 

 ヤツを攻撃できる距離まで行こうと、ノシノシと近寄っていく彼女。しかし縦横無尽に駆け回るランポス。

 ヤツの方が、はるかに“足が速い“。

 

「 !?!? 」

 

 ヤツに気を取られているうち、背後から衝撃を受ける彼女。

 別のランポスの攻撃が、彼女の背後を捉えた。

 

「うっとぉしいってのよ! もうっ!!」

 

 振り向きざまに、おもいきりランスを薙ぐ。

 だがランスの主体はあくまで“突き“。怯ませる事は出来ようが、横薙ぎなどではランポス程度も打ち倒す事が出来ない。

 

(……当たらない。あせっちゃって全然突きが当てられないっ。

 線ではなく“点“での攻撃が、こんなにも当てにくいだなんてっ!!)

 

 一匹をノロノロと追いかけていれば、その側面から別のランポスに襲われる。何事かと視線をソイツやれば、今度はまた別のランポスに背後を殴られる。

 まるで自分の買ってもらったボールを取り返そうと、それでキャッチボールをする悪ガキたちの間を行ったり来たりしているイジメられっ子のように。物凄い屈辱感だ。

 

 それもこれも、この“点“でしか攻撃が出来ないランスのせいだ。いくらリーチが長くったって、動き回る相手に対してはまったく当てられない。

 そしてこの鈍重な身体。ランスと大盾の重さによって、ノロノロとした動き。

 ……一匹なら良い。なんの問題もない。……だが複数に囲まれてしまえば、何もする事が出来ないッ! 良いように囲まれて嬲られるだけだ!

 いつもみたいに軽快に走りたい! 思いっきり獲物を振り回したいっ! そんな衝動にかられて仕方ない!

 

「舐めてんじゃ……ないわよぉーーーッッ!!!!」

 

 盾を構え、槍を突き出したまま“突進“する。

 2匹ほどのランポスを正に突き飛ばしながら、囲まれていたこの状況から脱出する!

 

(ははっ! ガンランスとは違うんですよっ、ガンランスとは!!

 って、あら? ……ご、ごめんなさいガンサーさん!!

 おもいっきり跳ねちゃった!?!?)

 

 そしてそのまま、たまたま進行方向にいた乙女を〈ドゴーン!〉と跳ねてしまう虫棍さん(槍)

 乙女が情けなくゴロゴロと転がって行く、その姿を見送る。

 

 思わず罵ってしまった事と、おもいっきり突き飛ばしてしまった事、その両方を後で詫びようと心に誓う。ぜひ一杯おごらせて頂きたく思います。

 あぁこれじゃあ、ガンサーが迷惑者だなんて、とても言えやしない!

 

(盾持ち職って、こんなに戦いにくいの!?

 ……違う、“得手不得手“があるんだ。

 大型に対しては強くても、素早い小型の群れに立ち回るのは至難だ!)

 

 ここに来る前、ガンサーの乙女が「ファンゴに泣かされていた」と聞いた。

 そして坊やは「おねぇさんはドスランポスがきらいなんだって」とも。

 今ならそれが、少しは理解できる気がする。

 いくら苦手とはいえ、乙女とてヤツらにやられてしまうワケではないのだ。

 勝つだけなら、倒すだけならいくらでも出来る。ただ“苦手“なのだ。

 

 以前ガムートを“退屈な相手だ“と言うガンナーを、見た事がある。

 また同じガムートを“悪魔みたいなヤツだ“と言っている近接使いを、見た事がある。

 

 己が握っている武器と、相手との“相性“。

 今まで己の武器を極めようと、ひたすら虫棍ばかり握っていた自分には、考えもしなかった事。

 ただ自分にとって強いか弱いかだけで、モンスターを語ってしまっていた。

 

 まさかこんなにも、握る武器によって違いがあるだなんて――――

 今の私にとって、レイアよりドスランポスの方が、よっぽど強い!!!!

 

 あぁ……。たった今、ガードをめくられた。

 盾を構えていたにも関わらず、側面ぎみに来たランポスの攻撃がガードを貫通した!

 

 このバカみたいに取り回しのしずらい、重く大きな盾を見て、思う。

 これは“鎖“だと。私をここに縛り付ける為の。

 

 もしかしたらこれは、竜から身を守る為の物ではなく……。

 竜から逃げ出せなくする為に科せられた、重りなのかもしれない。

 

 ――――逃げる事無く、恐怖に屈する事無く、戦え。

 

 これはそんな、狩人を地面に縛り付ける為の、鎖。

 

 

 

 その後、もう必死こいて立ち回り、なんとか彼女が目の前の敵を掃討し終わった頃……。

 ランスでこうなら、ガンスっていったいどうなってんのよと、そんな事を考える余裕がようやく得られた時。

 突然その場に、あの少年の声が響き渡った。

 

 

「あ! あの子また来たよおねぇさん! どうしよっか?」

 

 

 数多のランポスの死骸。剥ぎ取り中だったドスランポスの匂い。それに釣られてやって来たのかどうかは分からない。

 

 しかし今、皆がいるこの場に、突然巨大な獣竜種“ディノバルド“の姿が現れた。

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

「 !?!?!? 」

 

 思わず絶句する操虫棍の彼女。

 なぜここにディノバルドが!? これはドスランのクエでは無かったか!?

 そもその“下位クエスト“であるこの狩猟場に、そうそう乱入などあるワケがない。ギルドはいったい何をやっているのか!?

 

 言葉を失い、立ちすくむ彼女。

 いくら自分が上位ハンターとはいえ、今握っているのはこの頼りないランス。

 ファンゴのフェイスが憎い感じの、切れ味“黄色クラス“の無強化だ! おまけに私はバックステップすらまともに出来やしない!

 

 それに彼女は今、実は普段と違う防具を装備していたのだ。

 見栄を張るワケじゃないけれど、せっかくランスを握るのだしと、せめてガード性能かランナーあたりの付く防具をと思った。

 そしてBOXにあまっていた素材で下位防具を制作し、それを装備して来ていたのだ。 なまじハンターとしてランスの知識があった為、普段来ている上位クラスの装備を放棄。耐久力などまったくない下位防具を着て来てしまった。

 たかがドスラン、たかが下位クエストと、そう高を括って。

 

 足が震える。

 過去に仲間たちと共に何度も討伐してきたハズの相手が、ディノバルドが、今とても大きく感じる。

 この私のランスで、アイツと戦う事が出来るのか……?

 目を見開き、歯を食いしばって。彼女は久しぶりとも言える“絶望感“を味わっていた。

 

「――――あぁ、またか。

 ヤツも懲りないものだな、まったく」

 

 何気なく、まるでタオルを肩にかけ、お風呂にでも行くような足取りで。

 ガンランスの乙女が前に出る。

 操虫棍の彼女を、通り過ぎるようにして――――

 

「あっ……貴方なにしてるのっ!?

 逃げなさいガンサーさんッ! はやく坊やを連れて逃げてッ!!」

 

 そう背中に向かって声を上げるも、未だその足はすくんで動かない。

 あのディノの大きな尻尾の刃に、胴体を薙ぎ払われる――――そんな最悪の光景が脳裏に浮かび、絶望の表情が浮かぶ。

 

 それに対して骨銃槍Lv2を担いだ乙女は、スタスタとディノに向かって歩いて行く。

 切れ味レベル黄色の、駆け出しが使うようなガンランスを持って。

 

「あぁ大丈夫。()()()()()()()()()()

 ドスランポスのクエだというのに、毎回アイツはここに現れる。

 ……そういえば前回は来なかったが、お昼寝でもしていたのだろうか?」

 

「もうこないかなって、おもってたけど、まだまだディノさんはいたんだね。

 ここらへんにディノバルドの群れでも、きてるのかな?」

 

 そんな事をのほほんと話す二人。それを見て驚愕の表情を浮かべる彼女。

 いつも来てた? 何度も?

 この二人はドスランの素材集めで、いつもディノと戦ってた!?!?

 

「この銃槍ではヤツに刃が通らないし、手が痛くなるから嫌なのだが……、

 まぁ来てしまった物は仕方がない。

 コイツを倒せば“8頭目“だプリティ。きっとディノの防具が作れるぞ」

 

「ぼくまだ、そのお金ないかも……。

 クックのよろいもまだピカピカだし、しばらくはこれを着てたいの。

 だっておねぇさんに作ってもらったよろいだもん」

 

 

………………………………………………

 

 

 舞のようだと――――――彼女は思った。

 

 二人の奏でる、戦いのリズム。

 その美しい旋律に、彼女は見とれてしまっていた。

 

「――――よしきた! よしきた! よ~~し、きたっ!!」

 

 ブシドー。

 これはブシドースタイルのジャストガードという物だ。

 ディノの小刻みで、多彩な攻撃。“その全て“を、すべからく乙女が弾き返していく。

 

 そして、その度に跳ね上げられる、乙女のガンランス。

 ブシドーガンランサーの使う、いわゆるカウンターの切り上げ。 

 ガンサーの持つ、数少ない“弾かれ無効“を持つ斬撃。それがディノの身体にブチ当たる度、固い音と共に、火花を散らす。

 

 攻撃は“通ってはいないのだ“。

 切れ味の悪すぎるそのガンスでは、ディノの身体を切り裂く事は出来ない。

 だが乙女は、ただひたすらに攻撃を弾き、その度にカウンターを入れる。

 かまうものかとばかりに、ひたすらガンスで叩き続ける。その度にディノの身体から火花が散った。

 ――――絶え間なく、連続して。

 ――――――まるでリズムを刻んでいくように。

 

「こなくそ! こなくそ! こーなくそ!!」

 

 ……もう何分間、これが続いている?

 ただひたすら乙女がカウンターを決め続ける、この光景は。

 

 まるで曲芸だ。

 ありとあらゆる攻撃を、次々に乙女は弾き返していく。そして切り上げ、切り上げ! 切り上げ……!

 その度にディノの身体から火花が散り、バキバキに鱗が割れ……、やがてその胴体から、真っ赤な血が噴き出し始めた。

 

『今世界の中心は、間違いなくガンランサー()

 

 乙女の様子がおかしい……。

 なにやらキリッとした表情をし、意味の分からない言葉を呟き始めている。

 

 それもそのはず。だって彼女はいま「絶好調!」なのだ。

 だってその心と体には――――だいすきな男の子の奏でる“旋律効果“が乗っかっているのだから。

 

「~♪ ~~♪♪♪」

 

 ディノの突進をヒラリと躱し、男の子が笛を奏で続ける。

 目を瞑り、音を感じながら、その身体は優雅に狩場を舞い続ける。

 攻撃があたる素振りなど、微塵も感じる事が出来ない――――

 

『燦めきこそオレの魂の火花。オレの生存理由』

 

 そしてディノの頭に、乙女の踏み込み切り上げが炸裂。

 まるで「メッ!」とでも言わんばかりに、浮気をするなとばかりに顎を的確に跳ね上げ、無理やりこちらを向かせる。

 

『俺を称えたい? このガンランスに跪け』

 

 もう彼女には、乙女が何を言っているのか理解も出来ない。

 ただ乙女が嬉しそうに、ほんとうに幸せそうに戦っている事が、見て取れる。

 

『変化など恐れぬ。ガンスには歴史を創る権利がある』

 

『筋肉と知性の絶え間ない会話が、ガンスを解き放つ』

 

『聞こえるぜ、アンタの本能が“ガンスを握りたい“って』

 

 切り上げ、叩きつけ、演奏攻撃、スタン、ブラストダッシュ。

 優雅に男の子が舞い、乙女が酔いしれる――――

 

 その美しい二人の輪舞に。

 彼女はただただ、心を奪われてしまって……。

 

 

『――――知ってたか? ガンランスは堕天使の象徴なんだぜ』

 

 

 ディノの身体が、倒れ伏した後も。

 しばらくその場から、動けずにいた。

 

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

 

 

「さぁどうじゃ! 新入荷の片手剣じゃ!!

 それともこちらのハンマーが良いかの!? ヘイラッシェーーーッッ!!」

 

 次の日、虫棍の彼女がまた何気なしに加工屋を覗きに来た時。

 そこには声を張り上げる加工屋のオヤジと、ビクビク狼狽える乙女たちの姿があった。

 

「ち、違うのだオヤジどの!

 私はただ……この骨銃槍Lv2を、骨銃槍Lv3に!!」

 

「うるさい黙れホーリーシットッ!!!!

 ほらっ、ちょっと持ってみんかいブタ娘ッ! ガンスなんぞ捨てて!!

 世の中こんなにもえぇ武器が沢山あるんじゃ!

 さぁ有り金を出せこの腐れガンランサーが!!

 ヘィラッシェェエエ----ッッ!!!!」

 

 どうやら乙女のガンス狂いに業を煮やしたオヤジ殿が、なんとか他の武器を握らせようと必死に頑張っているのが見て取れる。先日の復讐か。

 その光景をみて、なにやら頭痛のしてくる心地の虫棍さん。

 

「ほら坊主も何か言ってやらんか! 坊主っ!

 いつまでもガンスなんぞ握っとるんじゃないとっ!

 お前はもっと羽ばたけるんじゃと! イン ザ スカイじゃと!!」

 

「でもオヤジさん?

 ガンランスつかってる時のおねぇさんって、すごくカッコいいんだよ?」

 

「お主がそんな事じゃからぁぁああーーーッ!!

 このバカ娘はぁぁぁあああーーーーッッ!!!!」

 

 

 やがてなんやかんやあり、乙女と坊やが「ばんざーい!」と勝利の凱歌を上げている所を見届けた後……、虫棍の女性は踵を返していった。

 

 仕方ないから相棒でも捕まえて、飲んで時間潰そ。

 

 ポケットに入れていた、乙女のギルドカード。

 それをふと取り出し、空にかざしてみた。

 

 

 

「ソロモン……は無しよね、流石に」

 

 

 

 

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