ガンランスの話をしよう。 作:はせがわ
朝、ガンランスの乙女は、自室にて優雅なひと時を過ごしていた。
ゆっくり朝風呂に入り、髪を乾かし、そして身支度を整え終わった今は、ソファーに座り朝食を頂いている最中だ。
テーブルにはパンの積まれたバスケット、ソーセージや目玉焼きの乗ったお皿、サラダボール。そして温かな湯気の立つコーヒーカップが並ぶ。
窓からは柔らかな朝の光が差し込み、外から小鳥のさえずりなんかも聞こえてくる。
うむ、まさに至福のひと時だ。
彼女はG級ハンターだという事で、実は結構なクラスのお金持ちである。しかしその生活風景は、とても質素だといえる物。
部屋に豪華な調度品は無く、高価な絨毯もシャンデリアも無い。家具はすべて質実剛健といった風なシンプルな物ばかり。
しかしながら部屋はいつも綺麗に掃除されており、どの家具も丁寧に扱われているのが見て取れる、温かみを感じさせる物ばかりだ。
まさに“足るを知る“と言ったような、乙女の人柄がよく表れた自室であった。
そんなやすらぎの中で、乙女は朝の時間を過ごしていく。
その朝の光に照らされた美しい姿は、見る者が見れば「まるで絵画のようだ」と感じる事だろう。
キラキラと輝く、長いブロンドの髪。
女性らしさ溢れる、豊かな胸。
質素だが、綺麗な白いドレス。
そして柔らかな表情と、美しい指先。
母性を感じさせる、おしとやかな雰囲気――――
そのどれもが世の男性たちを魅了してやまない、そんな魅力に満ち溢れていた。
まだ男の子が迎えに来てくれるいつもの時間までは、少し間がある。それまではこうして落ち着いた時を過ごし、英気を養おう。
今日はあの子とどんなクエストに行こうか? 何を一緒に食べに行こうか?
そんな事を想いながら乙女はコーヒーカップを傾け、そしてテーブルに置かれていた新聞をなにげなく手に取り、目を通してみる。
【このたび政府は、国会で“ガンランサー税“の導入を、閣議決定した。】
――――ブフゥ!! と、思わずコーヒーを吹き出す乙女。
大切なテーブルが乙女色に染まってしまったが、今はそれどころじゃ無い。
驚愕に目を見開き、ガタガタと震える手で新聞紙を持ち、まじまじと読み進めていく。
【このガンランサー税の導入は、昨今の“ガンランサー撲滅“、“この国にガンサーは不要だ“という風潮が形として表れた物で、ガンサーの存在自体が迷惑だとする全国民、全ハンター達の強い要望により、以前より検討されていた。】
【首相はこの法案成立について『近年のガンランサーたちが与える周囲への被害、また悪影響を鑑みて、この度法案を正式決定する運びとなった。
これを新たな一歩とし、20××年までの全ガンランサーの撲滅、ガンランス廃止を目指し、ひとりでも多くの国民がガンランスの被害に苦しむ事が無くなるよう、今後も意欲的に案を講じていきたい』と語った。】
…………まだだ、まだ慌てる時間じゃない。
そう自分に言い聞かせ、もう半分白目を剥きながら、文字を凝視していく乙女。
【これに対して市民たちの声は『今までガンスには散々迷惑を被ってきた。法案成立は嬉しい』
『ひとりでも多くの若者がガンサーを止めていくよう、今後も手を尽くして欲しい』
『ガンランスという悪夢から、世界を開放したい』という物が多く、法案成立を歓迎する声が多数。】
【中にはガンス用砲弾の有料化や、飲食店などでの“禁ガンス席“の導入、そしていわゆるハッピートリガー的な非常識かつ無知蒙昧なガンサーに対しての強い刑罰を求める声も、数多く上がっている。】
【世論調査の結果、この度の法案成立に賛成だと答える国民の数が、実に98.5%にものぼる事が分かった。】
【現在市場では、ガンランスを止めたい人達に対しての“槍の先から煙の出るランス“や、ボタンを押せば疑似的な砲撃音の鳴るランス、電池を入れると先っぽがピカピカ光るランスなどの商品が発売されており、ガンランスの強い中毒性を緩和しつつ、無理なくガンランスを止めていけるよう支援する事を目的とした商品が、多数開発されている。】
――――――世界が私を、すり潰そうとしている!!!!
ガッシャンと机をひっくり返し、思わずその場から立ち上がる乙女。
あぁプリティ、プリティ。 みんなが私を
プリティ、プリティ。 私を助けて。
そんな心の
……………………
………………………………………………
「さぶうぇぽん?」
毎度おなじみ集会所の酒場。
現在、可愛らしく小首を傾げる男の子を始めとし、乙女、チャアク、虫棍の4人が席に着いて談笑をしていた。
「そうだ。今プリティは狩猟笛を得意としているが、
それとは別に、何かもうひとつ使える武器を持っておく、という事だ。
いわゆる“第二の武器“だな」
乙女は上品な仕草でお酒を飲みながら説明をする。リモホロ・ミックスグリルをはぐはぐと元気よく頬張る少年の口元を、たまに拭いてあげたりしながら。
「俺で言やぁ、たまにライトを握るぜ。
相棒に関しては虫棍一筋だが……、まぁいくつか使えると便利だぞ、って話だ」
そしてひたすら酒ばかり飲んでいるチャアクの男。その隣では虫棍さんがサラダをモシャモシャ食べている。
「ひとつだけじゃ、ダメなの?」
「ダメじゃないわよ、もちろん。
ただ武器という物にも様々な特徴があって、長所と短所があるわ。
どうしても、“出来る事と出来ない事“っていうのがあるからね」
「たとえば坊主が使ってんのが、狩猟笛っていう“打撃武器“だ。
しかしこの先『尻尾の素材が欲しい』って時が出てきた時に、
握ってんのが打撃武器じゃ、切れねぇもんで手に入りづれぇ事がある。
それにいくら狩猟笛が良い武器でも、どうしても笛だと戦いずれぇとか、
苦手だと感じる相手だって出てくるかもしんねぇ。
例をあげればグラビとか、ディアとかは打撃武器の天敵だぜ?
肉質で言やぁ、フルフルなんかもそうさ。
そういう時の為にも、もう一種類ぐれぇは使えるようにしとくモンなんだよ」
男の子は新人ながら、もう十分に笛を使いこなしているように見える。二人の目から見てもだ。
加えて男の子には乙女という頼れるパートナーがいて、つい最近もHRが2になったばかり。
そろそろ狩りという物にも慣れ、余裕が出てきた頃合いだと判断し、このサブウェポンの話題が上がったのだ。
「別に必ずいるってモンじゃねぇし、
相棒みてぇに一つの武器を極めてくのも、立派な道だ。
だが俺的な考えで言やぁ、仲間の握ってる武器の特色を考え、必要な武器を選ぶ。
そんでPTのそれぞれが“自分の役割“ってのをしっかり考えて戦うってのも、
良いもんだと思うぜ」
「この人で言えば、火力担当であると同時に“尻尾切り担当“ね。
チャアクの長いリーチを活かして尻尾や翼をザックリ! 素材をゲットよ♪
操虫棍の私で言えば、とにかく“チャンスメイク“ね。
乗りを狙い、モンスターをダウンさせて、みんなの攻撃チャンスを作る。
坊やの狩猟笛が旋律効果でのサポートや、スタンを獲れる武器であるように、
武器にはそれぞれの役割があるの」
そんな風にパーティ全員が自分の役割を考え、各々がしっかりと果たしていけば、狩りはきっと上手くいく。
そしてなにより“楽しい“。
みんなで協力して戦う狩りの喜びは、何事にも代えがたい物なんだ。そう二人は男の子に語る。
「だから坊主も、余裕が出てきたら他の武器も試してみるといい。
色々な武器を使えば、仲間の使ってる武器の特色も学べる。
出来る事、出来ねぇ事、それが頭に入ってりゃ連携も取りやすくなるしな」
「坊やだったら何が良いかしらね?
普段は笛だし、しっかりした洞察力もあるから、
きっと動きを先読みしたり、誘導して戦うのが得意なんだと思うわ。
だったら私的には大剣がお勧めかな?
足回りも早い武器だし、君ならきっとモンスの動きを予測して、
そこに溜め斬りを入れる事だって出来るでしょう。
なにより彼女のガンランスは、尻尾の切りづらい武器だしね。
もし尻尾の切断が必要になった時も、大剣を使えば楽に攻撃が届くわ♪」
フムフムと愛らしく頷く男の子と共に、和気あいあいと盛り上がっている三人。
そんな中、みょ~に視線を逸らしつつ、この場でただひとり会話に参加していない人物の姿があった。
「あっ、おねぇさんはガンランスのほかに、
どんな“さぶうぇぽん“をつかってるのっ?」
「 !? 」
男の子の無邪気な笑顔が、乙女の胸を貫く。
さりげなくアサシンのように気配を消し、こちらに話が来ないように神に祈っていたのだが、そうは問屋が卸さなかった。
男の子の満面の笑みに照らされ、乙女がモゴモゴと歯切れ悪くしゃべり出す。ダラダラと汗を流しつつも。
「わ……私のメインウェポンは“愛“で、
尻尾が欲しいと思った時は“根性“、
そして早さや攻撃範囲が欲しいと思った時には“我慢“というサブウェポンを」
「それウェポンじゃねぇよ。気持ち的なヤツだよ」
ガンス愛だけで、とりあえず何とかしてきました。私のアイテムBOXにはガンスとファンゴグッズしか入ってません。乙女はそう語る。
「ちょこまかと素早い相手、複数の相手と戦う時は、
いつも泣きながらやっていました。
この間のドドブランゴの緊急クエも、
プリティが励ましてくれなかったら心が折れていた」
「貴方ホントにG級? 夢の無いこと言わないでよ」
チャアク、虫棍の両名にツッコまれ、白目になる乙女。
ガンスが対応力、そして柔軟性のある武器だというのは聞いているし、グラビだろうがアグナコトルだろうがガンスに殴れない物は無い。
今まで苦労をする事はあれど、それでも全部なんとかなっちゃったんだろうというのは大体察しが付く。
なんだかんだ言いつつも、乙女のガンス愛は大したモンではある。
「じゃあね? ガンランスの“やくわり“ってなにかな?
片手剣はぞくせい武器で、状態異常をとったりするよね。
ハンマーさんはぼくとおんなじで、スタンをとれるもん。
ガンナーの人たちは、ぼくらじゃとどかない場所をこうげきできるよね。
おねぇさんの、ガンランサーのやくわりって、どんな事かな?」
今度こそ――――乙女は硬直した。
石となり、ピクリとも動かず、ただただ絶句している。
その様子を、三人が黙って見つめる。
「………………………あ、ありません」(小声)
「「「 え? 」」」
まるで小人がささやくような小声で、乙女がボソリと呟く。
三人は思わず声を重ねながらも、ジッと辛抱強く次の言葉を待つ。
「……ガンランサーに、PTでの役割はありません。
生き残る事…………絶対に乙らない事だけです」
えっ、それってみんなそうなんじゃ?
思わずそんな事を言いそうになる三人だが、ようは乙女は「そんな事くらいしか無い」と言っているのだ。
「ハンマー様が頭を狙っていれば、私はスィスィと別の所に行こう。
翼や足を斬りたいお方がいれば、私はまた他の場所を探そう。
攻撃チャンス時、皆さまが弱点部位めがけて殺到していく中で、
私はただひたすらに空いている箇所をチマチマ殴ります。
しいて言うなら、“皆さまに需要のない部分を、細々と飯のタネにしていく“。
そんな隙間産業で生きております」
属性武器を握っても、手数が中途半端なので麻痺とかあまり取れません。
同じく手数が中途半端なので、ガンナーさん達の囮にもなれません。
斬撃武器ですけど、ダウン中くらいしか上手く尻尾を斬れません。
砲撃で部位破壊とか出来ますけれど、PTなら皆で爆弾置いた方が早くて安全です。
武器しまうのがおっそいですので、道具とか使う支援にも向いてません。
ソロ狩り時とは違い、PT時にモンスターは常にそこら中を走り回っておりますので、追いかける足がないガンサーはあまり火力にも貢献できません。
皆さまを吹き飛ばしてしまう恐れが御座いますので、攻撃チャンス時にもガンスにとっての最高火力であるフルバーストを絡めた連携は使えません。
我々に出来るのは必死こいてガードを固め、絶対に乙らないようにする事。
もしくは普通みなさまの殴らない、そんな食べ残しのような部位をブヒブヒと頑張って叩く事のみです。
仲間から見てガンランサーは「勝手に戦っとけ」みたいなポジションです。大変申し訳ございません。
…………そう言って、深く深く
「……ど、どんまいだよおねぇさん!」
「……て、手の届かねぇ所をやれるって事じゃねぇか! 自信持てよ!」
「……な、なんか粘土みたいよね!? 隙間を埋める大事な役目! みたいなっ!」
お詫び申し上げます、お詫び申し上げます。
どれだけ皆がフォローし続けても、乙女はしばらくの間、
役目があり、また需要のある武器を握る三人の言葉は、なかなか届かない。
ガンサーはスパアマも無い為、すごく打たれ弱いのだった。
……………………
………………………………………………
「オーケー! ナイスだぞプリティ!
その調子で尻尾を狙っていけー!」
そして場所は移り、ここは“森丘“の狩場。
現在男の子は新しく作ってみたアイアンソードを握り、大人たち三人と共にレイアを狩りに来ていた。
「おーしいいよいいよー! ナイス乗り攻撃!
ガンガン飛び乗っていこー操虫棍さん! いけるよいけるよー!」
「ここ大事な所だぞー髭モジャー! しっかり動き見てー!
落ち着いて部位破壊していこー! いいよいいよー! 時間使ってけー!」
男の子が尻尾切りを担当し、虫棍さんが乗りを狙い、チャアク(髭モジャ)が翼や頭などの部位破壊を担う。
それぞれが自分の役目を意識して戦い、狩場を躍動する。
「さーエリア移動したよー! みんな追いかけてこー!
レイアは次6番に行ったよー! 今のうちにしっかり武器研いでねー!」
「「「………………」」」
そんな中、常にひとりだけ大声を上げている乙女。
皆がイソイソと砥石を使う中、ひたすら元気な声で、皆を鼓舞し続けている。
「……あの、おねぇさん?」
「おっ、なんだプリティ? 砥石が無くなったのか?
それとも閃光玉がいるか? いまのうちにいくつか渡しておこ……」
「なんでさっきからしゃべり倒してんだよオメェ。うるせぇよ」
「 !?!? 」
「……ちょっと、うるさくて集中しずらいかもしれないわ。
元気があるのは、すごく良いとは思うのだけれど……」
〈ガーン!〉みたいな顔をする乙女を、問い詰めていく三人。
このクエストが始まった途端、なぜか乙女が普段の引っ込み思案な性格をかなぐり捨てて、みんなに声援を送り続けていたのだ。
「……こ、“声出し“を」
「ん?」
「私なりに考えてはみたのだが、やはりガンサー固有の役割というものは、
なかなか思いつかなかった。
……ならばせめて、声を出そうかと。
みんなとは違い、盾を構えてのそのそと歩いている事の多いガンランサー。
そんな私が出来る事、それは皆を鼓舞する“声出し“なのではないかと」
顔を真っ赤に染め、モジモジと身体をくねらせる乙女。
どうやら慣れない大声を出すのは大変恥ずかしかったようで、シャイな乙女がだいぶ無理をしていた様子が見て取れる。
「これからガンランサーは、声を出していく事を推奨していこうと思う。
笛のような旋律効果は無いが、
狩人たちのハンティングライフを応援出来たら幸いだ」
「……いや、いんのかなソレ。
俺的にはもう、“黙って戦え“って感じなんだけどよ」
有り体に言えば、「お前は何やってんだ」って事である。
ガヤにまわるのではなく、お前も殴らんかいと言われること必至だ。
「司令塔みたいな人物は、いても良いとは思うけれどね……。
でも貴方がやってるそれって“応援“よね?
スポーツじゃないんだし、私は静かに狩りがしたいかな~……?」
「そっ、そんなっ!?!?」
「もういいから、黙って殴れよ。アンタも貴重な戦力だってんだよ」
その後男の子は、初めて使った大剣ながら、見事レイアの尻尾切断に成功。みんなから称賛を受ける。
四人での狩りは充実した物だったし、レイアの素材も無事に手に入れる事が出来た。それはすごく喜ばしい事ではあったのだが……。
「なんだ、ガンスの役目とは……。
私はいったい、狩場で何をすればいいのだ……」
帰りの馬車においても、ウンウンと悩み続けている乙女。
そんな彼女の苦悩している姿を、男の子がずっと見つめていた。
……………………
………………………………………………
「アイテムBOXの前で、新しく作ったガンスを眺めてニヤニヤする作業。
……これがガンランサーの仕事と言えば仕事だ。しかし……」
狩場から無事に帰還し、今は集会所からの帰り道。
乙女と男の子の二人は、自宅までの道を仲良く並んで歩いていた。
男の子がじっと顔を見つめているも、乙女は今、自分の世界の中から中々出てこない。
私に出来る事は何だ? どうしたらプリティの役に立てる?
まるで役に立てなければ、男の子の傍にいる事が出来ないのだと、そう言わんばかりの深刻さで乙女は悩み続ける。
そんな彼女の顔を、並んで歩きながらじっと見つめている男の子。その表情には何の感情の色もなく、ただただ子供らしい純粋さで彼女を見つめているように思えた。
「ねぇ、おねぇさん?」
「……ん゛っ!? な、なんだ? プリティ」
「今日ぼく大剣をつかってみたけどね?
おねぇさんは、どうおもった?」
男の子に話しかけられ、唐突に意識をこの場に戻される乙女。
せっかくふたりでいるのに、自分の世界にばかり入っているのは、本当はとても失礼な事だ。だけど少年は少しも気にした様子はなく、ただフラットな声で乙女に問いかける。
「あ、あぁ! よかったぞプリティ。
得物の重さに振り回される事なく、しっかりと剣を振れていた。
それに尻尾の切断もばっちりだ。大剣のすべき役割を、きちんと果たせていたよ」
「そっか、よかった。
初めてだったから、すこし不安だったの」
乙女は急いで取り繕いながらも、心からの称賛を少年に贈る。
凄かった、上手だったと、今日の少年の活躍を喜ぶように。
それに対して、少年は薄く笑顔を浮かべる。乙女に褒めてもらえたのは嬉しいのだろうが、あまり喜んではいないように感じる。
「どうしたんだ、プリティ? 今日の狩りはよかったぞ?
これならば今後、大剣を使っていく事だって……」
「――――ぼくが大剣をつかえば、おねぇさんはうれしい?」
唐突に、少年が真剣な瞳を見せた。
乙女の目を真っすぐに見つめ、まるで心の中の全てを見透かすようにして。
怖い。そう感じてしまうまでの、純粋無垢な瞳で。
「ぼくが大剣でしっぽを切れれば、
はやい足でモンスターを追いかけられれば、おねぇさんはうれしい?」
「――――」
「大剣じゃなくてもいい。片手剣でマヒをとれれば、
ライトボウガンで遠くからこうげきができれば、
操虫棍でモンスターにのれれば――――おねぇさんはよろこんでくれる?」
言葉が詰まった。
男の子の目を見た時、何も言葉を返す事が出来なくなった。
軽い言葉を返す事も、その場しのぎを口にする事も、許されない。
そんな真剣な雰囲気を感じ取り、乙女は口を開く事が、出来なくなる。
「おねぇさんはきっと、なんでもできる」
目を見開き、少し狼狽えた表情を見せる乙女から、少年はそっと視線を外す。
「ひとりで、なんでもできるの。
ひとりでたたかっている時が、いちばんつよいの。
だからおねぇさんには……、
きっと大剣の人も片手剣の人も、ボウガンの人もいらない」
感情の見えない、そんな声色。
ただただ当たり前の事を口にするかのように、男の子は言葉を紡いでいく。
いつしか二人は足を止め、その場で向かい合っていた。
「マヒも、どくも、罠だっていらない。
乗りだって、たまにできたらいい。それだけで充分たたかえる。
だってガンランサーは、ソロでちからを発揮する武器だから。
なかまがいない、ひとりの時の方がつよいから」
やめて――――
乙女が硬直し、ただ目で訴える中、男の子がハッキリと言葉を告げる。
「おねぇさんにはきっと、“だれも必要なんかじゃない“」
「 プ、プリティッ!!!! 」
思わず、抱きしめた。
力いっぱい、なりふり構わず。その言葉を遮るようにして。
もうやめて、言わないで。
そんな感情が、乙女の震える身体から伝わってくる。
ターゲットの分散。
追い足の無さ。
スーパーアーマーの不所持。
砲撃、竜撃砲の自重。
その未使用による、火力減退。ヒートゲージの問題。
ありとあらゆる意味において、ガンランスは仲間との共闘に“向いていない“。
ガンランスは、弱くなんてないのだ。
その力は、数多のタイムアタックのレコードが証明している。
他のどんな武器よりも強い、どんな武器よりも早く竜を倒せる。そんな力を確かに持った武器なのだ。
でもそれは、あくまで“ソロならば“の話。
思うがままに砲撃をし、ヒートゲージを維持し、竜撃砲を撃ち。竜が自分の方だけを向いてくれるソロ狩りで力を十全に発揮出来ればの話。
ガンランサーは、ひとりで戦える。
その高い柔軟性と、相手を選ばない攻撃性能で、どんな相手だって倒せる。
なんだって、ひとりで出来る。
それを知っているからこそ、乙女は口を開く事が出来ない。
ガンランスを誰よりも知り、誰よりも愛しているからこそ、嘘がつけない。
「そんな事ないよ」と、男の子に言ってあげる事が出来ない。
「君が必要なんだ」と、言ってあげられない。
仲間から見て、だけじゃない。ガンランサーだって、いつも感じているのだ。
「邪魔だ」と。「戦いにくい」と。
「ひとりなら、もっと上手く戦えるのに」と、心の奥底で冷徹な自分が、そう感じている。
「ぼく、大剣はつかえなくていいや。
きっとぼくには、ひつようのない物だから」
その言葉が、胸に突き刺さった。
乙女には、それが決別の言葉のように聞こえたから。
抱きしめる腕に、力を込めた。ただそれだけが今、乙女に出来る精一杯の事。
「ぼく、やっぱり狩猟笛がすき。
この武器がいちばん、おねぇさんのちからになれるとおもう――――」
そんな中で、この言葉を聴いた。
愛想をつかされた。もうきっと傍に居てはくれない。
そう思い込み、必死で少年に縋りついていた彼女の思考は、真っ白になる。
「ぼくがスタンをとれば、尻尾を切りやすくなるよね?
だからぼく、がんばってスタンをとるよ。おねぇさんに切ってほしいの。
がんばって笛も吹くよ? ぜったいに効果を切らしたりしない。
おねぇさんがカッコよくたたかえるように、ぼくがんばって吹くから」
腕を解き、少年の肩を掴む。そして涙をボロボロ流している瞳で、少年の顔を見据えた。
少年が今、いままで見た事の無いような、優しい表情をしている――――
「きっと、“そのための“狩猟笛なんだ。
おねぇさんがつよく戦えるように、ぼくが遠くで笛を吹く。
その間おねぇさんは、自由にモンスターを砲撃ができる。ゲージもためられる」
「おねぇさんが尻尾を切りやすくなるように、ぼくがスタンをとる。
そしてぼくらは、こうげき部位が被らない。
たとえかち合った時だって、ぼくらならすぐに位置を変えられる。
おたがいがおたがいを、ジャマしてしまう事は、ないよ」
「だからおねぇさん……信じてほしいの。
ぼくはおねぇさんの、力になりたい」
男の子が、そっと乙女の手を握る。
グシャグシャになった顔、何も考えられなくなった頭。でもそのぬくもりだけは、ハッキリとわかる。
「おねぇさん、“砲撃をして欲しいの“。
ぼくはおねぇさんの……、枷なんかじゃない」
「おねぇさんはぼくに当てない。ぼくも決して当たったりなんかしない。
でも別に当たってもかまわないの。怖くなんてないの。
おねぇさんがおもいっきり戦えるようにする。
それがきっと、狩猟笛の“役割“……」
親愛、そして笛使いの誇り――――
この日、初めて乙女は、男の子の本当の姿を目にする。
「ガンランスを教えて?
カッコいいおねぇさんを、もっと見てみたいの」
「だからおねぇさん、“ぼくを撃って“。
ぼくは
……………………
………………………………………………
――――きっと、嫌われるのが、怖かったんだと思う。
『おい入って来んなよガンランサー! 出て行けよ!』
そして自分の行動が、大好きなガンランスという物を貶めてしまうかもしれない事が、きっと怖かったんだと思う。
『ガンサーなんて、ロクなもんじゃねぇな!
こないだも散々吹き飛ばされてさ? 狩りになりゃしない!』
だったらひとりで狩っていようと思った。
誰も吹き飛ばさず、迷惑をかけないまま。ずっとひとりで狩っていようと思っていた。
『君、今度G級なんだって?
ソロでオストガロア討伐なんて……、よくやるもんだよまったく』
ガンスを握るのは楽しかったし、狩りだって別に辛くなかった。
切れ味対策のスキルが手に入るようになってからは、モンスターに背を向けて逃げ、エリア移動をする惨めさも無くなった。
『アンタ他の武器も使えるんでしょう? だったらウチのPTに来なよ!
ガンスなんかやめてスラアクでも握ってさ?』
『スカしやがって……。調子乗ってんだよアイツ。
どうせランクも金渡して上げたんだろ? ガンサーのやりそうなこった』
誰にも頼らず、ひとりで狩り続けるうちに、私のHRの上限は解放された。
そしてその数字が上がれば上がるほど、周りとの距離もどんどん離れていった。
『いらっしゃいお嬢!
お嬢のガンス整備で、いつも稼がせてもらってますよウチは!』
『近辺にディアブロスが現れて困っているんです……。
高名なガンランサーさまのお力を、お貸し願えませんか……?』
『おだてりゃいいんじゃよ、あんなモンは。
たとえ薄汚いガンランサーだろうが、役に立つウチは使うてやればえぇ』
狩り続け、人々を救い、沢山の愛想笑いに囲まれて、お金だけが貯まる。
あらかたの義務を果たし、衝動的に龍識船から飛び降り、そして各地の集会所を転々としても、それは決して変わる事は無かった。
『なんだアンタ、ガンランサーか?』
『誰あの人? ガンス担いでんの? あぁ怖い怖い』
強くなれば。
ガンスが上手になれば。
みんなの役に立てる力がつけば。
そうすればいつか私をパーティに誘ってくれる人が、現れるかもしれないと思っていた。
私のガンランスを、受け入れてくれる人が。
……いや、必要とされたかったんじゃない、“許して欲しかった“。
私が、ガンスを握る事を。
私の「ガンスを好きだ」っていうこの気持ちを、どこかの誰かが、許してくれるかもしれない。
がんばれば。みんなの役に立てば。
強くなれば。“砲撃を撃たなければ“。
そんな事を、ずっと思い描いてたと思う。
……………………
………………………………………………
――――――とんだ馬鹿野郎だ、私は。
「 あああああぁぁっ!! あああああああぁぁぁっ!!!! 」
――――――“信頼“だったんだ、私に足りなかった物は。
「 あああああああっ!! あああああああああぁぁっ!!!! 」
泣いた。
いつも泣き虫な私だけど、もう目の前も自分の立っている場所も、分からなくなる位に泣いた。
そんな私を、プリティは優しく抱きしめてくれた。
ただ黙って、傍に居てくれた。
「 プリティッ!! プリティィィーーッッ!! あああああああああっっ!!!! 」
いままで、自分の事ばかり見て、自分の事ばかりを考えて。
ただガンスが好きだって想いばかりで、目の前にいる人の事をちゃんと見てはいなかった。
だから私はひとりだったんだ。
だから信頼を築けなかったんだ。
「 あああああああああああああぁぁぁぁぁっっ!!!! 」
目の前にいる人を、ちゃんと信じて居なかった。
嫌われる事ばかりを恐れ、自分を伝えようとはしなかった。
自分の想いを、好きな物を、ちゃんと相手に伝える事をしなかったんだ。
信じて貰う努力を、しなかった。
信頼する事を、していなかったんだ。
ならば自分が信頼される事も、許される事もありはしないのに。
ただ、言えばよかったんだ。『ガンランスを握っても良いですか?』と。
伝えればよかったんだ、『ちゃんと気を付けて撃ちます』と。
そしてもし当ててしまったならば、ちゃんと一言『ごめんなさい』と、素直に謝れば良かったんだ。
それだけできっと、私を受け入れてくれる人は、きっと居たんだ。
許し合う事。
お互いを尊重し合う事。
そして、信頼し合う事――――
私はただ砲撃を撃たず、ただ我慢する事ばかりで、それをしては来なかった。
そんな私の姿を辛いと、そう思ってくれる人だっているのに。
仲間が辛い想いをしている事を、楽しめないでいる事を“つらい“と感じてくれる人も、ちゃんといるのに。
プリティが“嫌だ“と、そう思ってくれたように。
私がプリティを大切に想っているように、プリティもまた私の事を、大切に想ってくれているんだ。
だから蔑ろにしてはいけない。ただ我慢して、自分をごまかしていてはいけない。
信頼を築こう、プリティと。
許し合い、尊重し合い、そして本当の仲間になろう。
それがきっと、パーティなんだ。
それこそがきっと“共に狩りをする“って、事なんだ――――
「 あああああぁぁぁ!!!! ああああぁぁっっ!!!!
プリティィィぃーーーーッ!!!! ぷりてぃぃぃーーーーーッッ!!!! 」
なんでこんな子が、私と居てくれるんだろう。
なんでこんなにも良い子が、私のもとに来てくれたんだろう――――
そう思えば思う程、涙が止まらなくなる。
嗚咽を抑える事も、ご近所様を気遣う事も出来なくなる。
「 あああああああっっ!!!! あああああああぁぁぁっっ!!!! 」
もういいや、泣こう。
そして後で、いくらでも怒られよう。
またガンランサーが迷惑を……と。
これだからガンランサーは……と、言われてしまうかもしれないけれど……。
でも、もういい。 私にはプリティがいるから、それでいい。
ぼくを撃って――――そんな言葉を言ってくれる人。
この男の子に出会えた幸せにくらべたら、別に怒られるくらい、いったい何だというのか。
…………でもプリティ、分かってるのかな?
大丈夫なのかな~と、私はちょっと不安になる。
ガンランサーに対し、「ぼくを撃って」
これがもうガンサーにとって、ホントとんでもない位の“殺し文句“なんだって。彼はちゃんと分かって言っていたのだろうか?
……きっと私、もう二度と
そこの所、君はどう思うんだぃ? プリティよ。