ガンランスの話をしよう。   作:はせがわ

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軽く番外編なのは、ガンランスが無敵すぎるからだ。

 

 

 世界名作劇場、【ガンス売りの少女】

 

 

 

 ――――その日は、とても寒い夜でした。

 

「ガンスいりませんか……? ガンランスいりませんか……?」

 

 雪は降り、辺りはもう真っ暗。そんな大晦日の夜の街角に、ひとりの哀れな乙女が立っておりました。

 

「ガンス買ってください……。アイアンガンランスです。

 切れ味レベル黄色の、砲撃タイプは“通常Lv1“です。

 ガンスいりませんか……?」

 

 そう通行人たちに声をかけるも、なしのつぶて。

 誰一人として乙女の為に足を止める者はいません。

 

「装弾数5発、攻撃力は70。 大きな盾もついてきます。

 ガンスいりませんか……?」

 

 乙女は懸命に声をかけるも、ランゴスタ一匹倒す事の出来ない通常砲撃のアイアンガンランスなど、買う者はいません。

 握るなら断然“拡散タイプ“のガンランス。ヒートゲージも良く溜まり、砲撃メインで戦う事も出来ます。

 そんな「ガンスなら撃ってナンボだろ!」という昨今の風潮により、乙女が束のようにして抱えているアイアンガンランスなど、見向きもされません。

 

「――――おう小娘! どきなっ」

 

「あぅっ!」

 

 その時、乙女は背中を突き飛ばされて倒れてしまい、アイアンガンランスはゴロンゴロンと地面を転がっていきます。

 

「やっぱ使うならチャアクだろ!?

 DPSが違うんだよ! DPSが! ぎゃはははは!!」

 

「いや大剣っしょ! エリアル大剣!!

 抜刀攻撃で乗れるっつーの! あはははは!!」

 

 乙女を突き飛ばした大柄な男と連れの女性が、笑い声をあげながら歩き去って行きます。

 乙女はドロドロに汚れてしまった衣服を気にしながらも、寒さと雪でかじかんだ手でガンスを拾い集めます。

 

「ガンスいりませんか……? アイアンガンランスです。

 フルバーストの威力が特徴の、通常砲撃タイプです」

 

 乙女はブシドーガンサーなので、フルバの強い通常タイプが大好きでした。

 

「……あぁ困った、ガンスがひとつも売れない」

 

 乙女は靴を履いておらず、身につけているのはサンダルとインナーのみ。

 その身にベルターシリーズ一式すら身に纏っておらず、まるで縛りプレイ時のような姿。

 なんとこの寒空の中、乙女はイベントクエストの刃牙クエで、ガムートとのマッパ対決をしてきたばかりだったのです。

 寒さでかじかみ、色が青くなってしまっている両足。

 いくら強靭な肉体を持つハンターとはいえ、ホットドリンクも無しにこの寒さは堪えます。

 

「ガンスいりませんか……? ガンランスです。

 ガードを固めてじっくり戦えます……」

 

 結局この日、街の人々は誰もガンランスを買いませんでした。1zたりとも彼女にあげる者はおりません。

 寒さと空腹に震えながら、それでも健気に歩き続ける乙女。

 

 ――――まさに、悲惨を絵に描いたような姿。 なんと可哀想な子なのでしょう!

 

 

 …………しんしんと振り続ける雪が、乙女の長いブロンドの髪を覆いました。

 しかし乙女は、そんな事を気にしてはいません。

 今彼女が見つめる集会所の窓からは、沢山のハンターたちが酒を酌み交わし、豪華な料理を囲んでいる姿が見えるのです。

 

「あぁ、なんて楽しそうな光景なのだろう」

 

 今日は大晦日。狩り納めを終えて、朗らかに笑い合うハンター達。

 窓からはキャンドルの輝きが広がり、美味しそうな香りがしてきます。

 少女は自分の凍える身体の事も忘れ、ハンターたちの背にあるスラアクやライトや虫棍などといった、とても使い勝手の良さそうな人気武器たちを、ただ見つめます。

 

 そうです、さっきの牙刃クエを、乙女はソロで行ってきたのです。

 どれだけ募集をかけて待とうとも、部屋主がガンランサーの部屋などに、人は集まりませんでした。

 ふたりきり、裸で殴り合ったあのガムートだけが、彼女の友でした。

 

「想像を絶する寒波が、ガンランサーを襲う」

 

 やがて彼女は街の一角に座り込み、その寒さに耐えようとするように、小さくなりました。

 足を引き寄せて身体にピッタリとくっつけたりしましたが、身体はどんどん寒くなっていくばかり。

 それでも乙女は、家に帰る事が出来ません。

 だってガンランスは一本も売れていない。1zも持って帰れないからです。

 

 このまま帰ったら、きっと加工屋のオヤジ殿にぶたれてしまいます。

「私がガンサー人口を増やしてみせる!」などと大見えを切り、無理を言って大量のガンランスを製造させたのは、間違いだったのやもしれません。

 在庫を抱えて怒り狂うオヤジ殿の姿を想像し、乙女の目から涙がポロリと零れました。

 

「私の手はかじかみ、もう感覚が無くなりつつあるぞ」

 

 その時、乙女の頭上に\ ピコーン! /と裸電球。

 あぁ、束の中からガンランスを取り出し、その竜撃砲の炎で指を暖めれば、どんなにほっと出来る事でしょう! 大発見です!

 さっそく乙女はイソイソとガンスを取り出し、銃座を地面に置いて縦に設置します。

 

「 Fire 」

 

 ――――なんという輝きでしょう。なんと暖かな光なのでしょう。

 もう夜の街中に〈ドゴーン!〉とか〈バゴーン!〉とかいった爆音が響き渡りましたが、乙女は今そんな事を気にしてられません。とても寒いのです。

 この上なく温かく、そして5Hitくらいしそうなほど爆散する竜撃砲の炎は、手をかざせばまるで焚火のようでした。素晴らしい光です。

 

 いま乙女の目の前に、以前竜撃砲を使って睡眠中の竜の傍にしかけた大タル爆弾を起爆しようとし、そして大失敗した時の思い出が幻となってホワッと浮かび上がります。

 あの時は、竜と一緒に私も吹き飛んだな――――

 倒せるとタカをくくってグレートをケチっていたため、そのままキャンプ送りにされて素材を剥ぐ事が出来なかったという、そんな苦い思い出です。

 タル爆の起爆は、やはりペイントボールなどでするに限るのでした。

 

 ……やがて竜撃砲の炎は消え失せ、辺りに静寂が戻ります。

 炎の中に浮かんでいた乙女の幻も、今はすっかり消えてしまいました。

 その場に残ったのは、放熱状態でチャージ中になったガンランスだけ。

 

「ふむ、なるほどなるほど」

 

 乙女は束の中からもう一本ガンランスを取り出し、地面に設置します。

 

「 Fire 」

 

 ガンスに竜撃砲の火が灯り、再び辺りに〈バゴーン!〉という爆音が響きました。

 重ねて言いますが、今の乙女にはもう音とか知ったこっちゃありません。死ぬか生きるかの瀬戸際なのです。

 そして炎に手をかざしてみれば、再びその光の中に乙女の過去の記憶が、幻となって浮かんできます。

 

 これは必死こいてガードを固めていたのに、ラギアクルスのくねくねした突進にガードをめくられ、ぶっ飛ばされた時の光景――――

 

 そしてこれは、またまたガードを固めていたにも関わらず、ナルガの尻尾びったん攻撃にガードをめくられ、そのまま乙らされた時の光景――――

 

 そしてあちらにあるのは新人ハンターの頃の、クックの4連続ついばみ攻撃を誤って盾でガードしてしまい、〈ガンガンガン!〉とスタミナゲージを全部もっていかれて、そのまま死ぬまで起き攻めされた時の光景でしょうか――――

 

「暖かいのは良い……。

 だが、ろくな思い出が無い」

 

 いま乙女の目の前には、意気揚々とアルバトリオンのソロ討伐に向かってはみたものの、ヤツの攻撃のほとんどがガードを貫通してきて、案の定7分くらいで3乙させられた思い出が幻となって浮かんでいます――――

 

「お、こんな所に土があるな。 ちょっと食べてみよう」

 

 乙女が死んだ目をして土を口に運ぼうとしましたが、その時ちょうど竜撃砲の炎が止み、辺りに静寂が戻って来ます。非常に危ない所でした。

 

「おかしい、おかしいぞ。

 私のガンス人生にも、ひとつくらい良い思い出があるハズだ」

 

 そういって乙女は持っていたガンランス全てにイグニッションし、竜撃砲を慣行します。

 両腕に、背中に、脇に、足元にガンランスを構え、その全てを同時発射しました。

 

「 オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛ッッ!!!! 」

 

 裂帛の気合を上げ、竜撃砲の反動に耐え続ける乙女。

 その瞳は血走り、額からは汗が吹き出します。まさにガンランサーの魂の全てを賭けた、そんな一撃です。

 命を燃やせ! そう言わんばかりの!!

 

 凄まじい爆音が響き、辺り一面が白い光に包まれます。

 そしていま乙女の眼前に、彼女のガンサー人生で“一番幸せだった時“の記憶が、浮かび上がってきました――――

 

 

………………………

 

 

 テン♪ テテン♪ テテテ♪

 テン♪ テテン♪ テテテ♪

 テテテン! テテテン! テテテン! テテテン! テ テ テ テ テ ン♪

 

 \ 上手に焼けましたー♪ /

 

 ジャン♪

 

 

 …………なにやら軽快なBGMが鳴りやんだ後、そこにいたのは狩場で簡易な椅子に腰掛け、嬉しそうに手元のこんがり肉を見つめ続ける、乙女の姿――――

 

『ふふふ、上手く出来たではないか。

 これで私も、一人前の肉焼き職人だな。 ふふふ――――』

 

 

 

 

……………………。

 

 ……………そして竜撃砲の炎は止み、辺りは再び静寂を取り戻します。

 幻は消え去り、今この場には未だ煙を上げているガンランスの数々。そしてその場に立ち尽くす乙女の姿だけ……。

 

 

「 ――――――――しょうもない人生ッ!! 」

 

 

 雪とか知るかとばかりに、大の字でその場にひっくり返る乙女。

 何か無かったのか。自分で言うのもなんだけど、なんかあっただろう。

 乙女はそんな風に、自問自答を繰り返します。

 乙女だって店でお食事券をオマケして貰ったり、黄金魚を釣り上げたりした事くらいはあるのです。なんかあったハズなのです。

 

 死んだろかぃ。このまま凍死して死んだろかぃ。

 そんな事を一瞬思うも、ここまで人生がしょうもないと「死んでたまるか」みたいな感情も浮かび上がってきます。

 どんな人間にも、幸せを享受する権利はあるハズなのです! 絶対にあるのです!!

 

「おねぇさん、おつかれさま♪

 加工屋のオヤジさんが、『どうせ売れんじゃろうから、もういい』って。

 かぜをひく前に、かえっておいでって♪」

 

「ぷ、プリティ! 来てくれたのかプリティ!!」

 

 

 

 ――――こうしてガンス売りの乙女は、かじかんでいた手を男の子にニギニギして貰いながら、お家へと帰って行きました。

 

 男の子と一緒にごはんを食べ、一緒に眠り、なんだかんだととても幸せな想いで、一年を締めくくったのでした。

 

 

 

 

 

 

 世界名作劇場、【ガンス売りの少女】 ――完――

 

 

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