ガンランスの話をしよう。   作:はせがわ

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Epilogue&番外編
明日が見えなければオレのガンランスに付いてこい。


 

 

 午前10時、ギルド本部所属のG級ハンターであるプリシラは、現在自宅のお屋敷にて優雅にティーを嗜んでいた。

 

「………………」

 

 ……いや、その表情や仕草こそ優雅ではあるが、チラチラと時計の方を気にしていたり、いつも以上のペースで紅茶を消費していたりと、そこはなとなくソワソワと落ち着きのない様子が見て取れる。

 ついでにボソボソ「まだですの……まだですの……」と呟いている始末。

 

「わざわざこの時間に“時間帯指定“をしてまで頼んでおいたと言うのに……。

 あぁ……パパやママが帰ってきたら、いったいどうしますの……?」

 

 そうなのだ。現在プリシラは荷物を待っている。

 本日クロネコベルナ宅急便から届く、自分宛の配達物を今か今かと心待ちにしているのだ。

 もちろん、お急ぎ便の代金引換で。

 ちなみにプリちゃん、実家住みである。

 

\ ピンコーン♪ /

 

「 !? 」

 

 スカートの端を摘まみ、まるでディアブロスのようなダッシュで玄関に突進していくプリシラ。優雅とかもう知ったこっちゃない。ドドドドと轟音を上げて突き進む。

 

「――――ご苦労さまですわ配達員の方ッ!

 はい、こちらはお代金っ。おつりの心配は御座いませんわっ。

 はい……! はい……! こちらにサインすればよろしいのね!? スラスラスラッ!!

 はい確かに♪ ありがとう存じますわ紳士さんっ♪

 それではごきげんよう! 気をつけてお帰り下さいませっ! 御身に栄光あれっ!!!!」

 

 嵐のような勢いで受け取り作業を済ませていくプリシラ。

 荷物を受け取り、バコーンと玄関を閉め、再びドドドと廊下を駆けていく。そして電光石火で自室のドアをくぐった。

 

「ハァッ……! ハァッ……! やりましたわ……!!

 さすがクロネコベルナ宅急便……。

 梱包も完璧、ちゃんと伝票にも“健康器具“との明記……。

 これなら“何を買ったのか“など、万が一家族に見られてもバレる心配は……!」

 

 実家住みへの素晴らしい配慮ですわっ!! そんな風に喜びながら、荷物を頭上に掲げてクルクルと回る。

 まるで最上のダンスパートナーと巡り会えたかのように、「アハハ! アハハ!」と花のように笑う。

 今バックにお花畑的な背景があれば、とても絵になった事だろう。ここは自室であるが。

 

 そして突然「カッ!!」と目を見開き、急いで荷物の開封作業に移るプリシラ。

 まるで情緒が不安定な人のように、恐ろしいまでの緩急をもって真剣に段ボールを開けていく。さっきまでとは別人のような顔だ。

 

「――――ッ!! ――――ッ!!」

 

 大事に扱うよう配慮しながら、中身を取り出し、即座に説明書に目を通す。

 そして同封されていた乾電池をセットし終えたプリシラは、意気揚々と中にあった物を腰だめに握り、手元のスイッチをグイッと押した。

 

――――チュドーーンッ!!

 

\ ペッカー! /

 

シュゥゥ~~……

 

 

 

「………………」

 

 しばしの間、自分の手元を見つめ続けるプリシラ。

 その顔はまったく感情のない、“真顔“だ。

 

 ……現在プリシラが握っているのは、いま世間で話題沸騰中の“禁煙ガンス“という物。

 ボタンを押せば先っぽがピカピカと光り、そして疑似的な砲撃音と共に、水蒸気の煙が出るという優れ物。

 その形状はマイルドなデザインながら銃槍チックな形をしており、武器種別としてはランスに分類されている商品だ。

 

 砲撃のような危険性は皆無で、ガンランスのように誤って仲間を吹き飛ばしてしまう事は無い。

 屋内での使用だってOK。火災の心配もまったく無い。

 だって出るのは、疑似的な光と音。そして水蒸気の煙なのだから。

 必要なのはタンクの水と、単三電池2本だけ! それだけで今日から貴方も、ガンランサー気分が味わえるのだ!

 

 ま さ に ッ !! 普段「ガンスを握りたいけど親に止められている」「憧れはあるけど、周りに気をつかう」という事情を持つ人や、「ガンスをやめたいけれど、中々やめる事が出来ない」といったガンランスの中毒性に悩んでいる人達の為のガンランス!(槍)

 

 プリシラが家族に内緒でコッソリ注文し、そして現在真顔で握っているのは、そんな商品であった。

 

「…………………………え……えへへっ♪」

 

 チュドーン。 ペッカー!

 チュドーン。 ペッカー!

 

 ……その日、家族が帰ってくる時間まで、プリシラは自室で禁煙ガンスのボタンを押し続けた。

 

「えへへ……♪ えへへ……♪」

 

 恍惚の表情を浮かべ、無邪気に笑うプリシラ。 ビックリするほど消費していく乾電池。

 ちなみに二日後“音でバレてしまい“、お父さんお母さんに怒られたプリシラは、ごはん抜きの刑に処された。

 

 ……没収されるのだけは、なんとか回避に成功。

 頑張って泣き落としたのだった。

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

 武器の強化などを加工屋さんにお願いする時、場合によっては2日ほど時間のかかる事がある。

 その時の込み具合にもよるけれど、たいがい加工屋さんに武器を預ける時は、一日二日は狩りに行けない事を覚悟する必要があった。

 ひとつの武器を大切に使い続けている乙女や、男の子であれば、それは当然の事。

 

 しかしながら、当然その一日二日は、暇だ。

 ではこの二人がその間、いったい何をしているのかというと……。

 

 

「 ――――おい見たか笛使いッ!!

  死におった! 膝からキレ~に崩れ落ちよったぞ、あやつッ!!!! 」

 

 現在乙女は、ソロでババコンガと対戦中。

 そして今、ニャゴニャゴと荷台で運ばれていく最中である。

 

「……へ、屁をっ! 屁を喰らって死におったッ!!

 ババコンガの屁をバックステップで躱そうとするも、距離が足りず!

 膝から崩れ落ちるようにして死におったぞ!!」

 

 それを見ていた幼女こと、ミラ・ルーツちゃん。

 驚愕に目を見開きつつ、男の子の肩を叩いて爆笑している。男の子はあんぐり顔だ。

 ちなみに今二人の首からは、このクエの参加者でない事を示す“ゲスト“と書かれたカードが下げられている。

 今日の男の子とミラちゃんは、二人して乙女のソロ狩りを観戦中であった。

 

 現在乙女は、そのガンス一本を頼りに、G級ババコンガと対戦している。

 身に纏うは、潔いまでにインナーのみ。いわゆる“防具無し縛り“での挑戦であった。

 

「ここまで無様な死を、(おれ)は見た事がないっ!

 バックステップの距離をミスり、ババコンガの屁を喰らい死ぬッ!!

 一撃でだ! 体力MAXの状態から、屁の一撃でキレイに死におった!!

 これまで優位に戦いを進めておきながらっ! ……なんと、なんというッ!!!!」

 

 狩場に〈ボフーゥ!!〉という音が鳴り、フワッと黄色い霧に包まれた瞬間、膝から崩れ落ちた乙女。

 ちゃんと屁を躱そうとバクステしていた所が、余計に切なさを増す。

 

 屁をよけ損ねて、死んだ――――

 このG級とかいう大層な位置にいる女は、いま敵の屁をよける事が出来ずに、死んでいったのだ。

 そりゃミラちゃんも大興奮するのだ。

 

「あっ……あれは本来……っ! “いやがらせ“の(たぐい)であろう……!?

 屁で敵に匂いをつけ……飲食物を食わせんようにしようという……っ!

 そっ……それで死んだと言うのか! あの女はッ!!!!」

 

 もう笑い過ぎて腹筋がエライ事になっているミラちゃん。対して男の子はポカンとしたまま。

 

 ――――どんな攻撃であれ、当たれば即死!!

 もうそれが屁であれネコパンであれ、喰らえば即キャンプ送りされるのが、このG級クエスト防具無し縛りだ。

 

 モンスの足踏みでちょっと踏まれるだけでも、体力の半分くらいダメージを喰らう。

 ちなみに、もし仮にラギアクルスの攻撃でもガードしよう物なら、それだけで瀕死となる。もしくは乙る。

 そう……ガードをする事すら、許されないのだ!!

 躱せる足を持たないからこそ! ガンランサーは、ガードをするというのに!!

 

 そして“防具が無い“という関係上、業物や砲撃王に代表されるスキルも、一切つけられない。

 実は防御力が1である事以上に、切れ味対策が不可能な事や、火力の減退も非常にキツかったりする。

 

 そんな素敵な素敵な、ガンランス“防具無し縛り“。

 乙女は男の子と狩りに行けない日は、いつもこんな事をしていた。

 

 ちなみに下位クエ上位クエに関しては、乙女は既にそのキークエスト全て、そして全ての個体を防具無し縛りでクリア済みだったりする。

 もちろん使う武器の強さは、律儀にそれぞれのランクに合わせて。

 ☆6のクエストならば、☆6で製作可能なガンランスで~、という風におこなっている。

 

 

「おぉ! ヤツか帰ってきたぞ笛使い!

 元気にこの場へ戻ってきおった!! 恥ずかしげも無く!!

 いやぁ~臭いが消えてよかったのぅ主よ!

 一度乙った事で体調は万全! 臭いままでは、戦えなんだ所よ!!」

 

 そう言った傍から屁を喰らい、膝から崩れ落ちてキャンプに運ばれる乙女。

 

「――――ッ!? ~~~~ッッ!!!!」

 

 ボフッ。 くさっ!! ガックゥ~! と、そんな見事な三挙動。

 もう息が出来ないほど爆笑するミラちゃん。

 

 男の子も…………これにはちょっと笑った。

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

「……今日もなんとか勝つ事が出来ました。

 これも皆様のご声援のおかげと存じます。

 かしこみかしこみ、申す」

 

 ところ変わって、ここはいつもの集会所。

 狩場から帰還した乙女たち三人は、現在酒場で夕食を囲んでいる。

 あの後なんだかんだとババコンガの討伐に成功し、今は軽い祝勝会の最中だ。

 

「本日、私のトラウマメモリーに、新たな1ページが追加された。

 私をキャンプに運んだ後、猫たちがみんな、鼻を摘まんで立ち去って行くんだ。

 人間の尊厳を教えてくれ」

 

「どんまい、おねぇさん」

 

 白目を剥く乙女の頭を、よしよしと撫でてやる男の子。ミラちゃんは骨付き肉をカプカプしている。

 

「あの2乙から立ち直った貴様が、

 ババコンガの屁をばんばんジャストガードし始めた時は爆笑したぞ。

 さすが我が主。人は盾で屁を弾けるのだな」

 

「人間には無理だ。だがガンランサーには出来る。

 迫りくる屁に対してカウンターを決められる唯一の存在だ」

 

「できなくていいよ」

 

 あの再会の日から、こうして三人で夕食を囲むのが彼らの日常となっている。

 ガンランサーの乙女、笛使いの男の子、そしてヘヴィ使いのミラちゃんの三人PT。

 人も羨むような、そんな仲良しパーティと言えるだろう。

 

 ……ちなみにミラちゃんがヘヴィを握っているのは、その身体能力が理由だ。

 実は最初は乙女の勧め通りにガンランスを握ってみたのだが、試しに一振りしただけで“ガンスがぶっ壊れる“という、驚異の腕力である事が発覚。

 その後ミラちゃんは、あまり腕力は関係ない武器であるヘヴィ使いへと転向する事となったのだ。

 さすが元、祖龍ミラボレアスである。

 

 実はミラちゃんが仲間に加わった事で、あの二人と交わしていた「二人分、席を空けておいて」という約束が果たせなかったりするのだが、そこは改めて二人にしっかり了承を取り、今後臨機応変にやっていきたいと思っている。

 5人でいわゆる“猟団“の形をとっても良いし、なんだったらミラちゃんはちびっ子だし、頭にネコミミでも着けたらオトモアイルーみたく狩場に連れて行けるんじゃないかな~とか思っているのだが……。

 まぁそれは出来ないにしても、5人で上手くやっていけるよう、しっかり思案していくつもりだ。

 

「被弾が2かい……とかんがえれば良いけれど、三かい目でアウトなんだもんね」

 

「そう、だから今回も危ない狩りだった。

 ババコンガは得意な方だと思っていたけれど……。やはりキツかったな」

 

 そもそも、“一発も喰らってはいけない“というのが、盾持ち職の大原則。

 乙女的には、もう二度も攻撃を喰らってしまった時点で、アウトと言える。

 

 たとえ即死はせずとも、足回りが死んでいるこのガンランスという武器は、一度でも攻撃を喰らってしまえば、その後何があってもおかしくない。

 起き攻めや、ガード不能攻撃。もうどんな倒され方をしたとしても、決しておかしくない武器だ。文句は言えない。

 他の職が持っていない大盾をわざわざ所持している以上、絶対に敵の攻撃をもらってはいけない。

 ――――全てを跳ね返し、全てに耐える。……それがガンランサーの誇りだ。

 

「防具無し、に関して言えば……次に戦うであろうクックが怖いな……。

 上位でやった時も、私は2乙させられている。

 あの速さで矢次に飛んでくる攻撃には、対応しずらい。

 “クック先生“の名の通り、いつも鳥竜種は私の難敵だ。イビルジョーが可愛く思える程だよ」

 

「そっか……。武器によって“えてふえて“があるんだね。

 そういえばG級には、ドスランポスって」

 

「ヤツの話はやめよう……。考えないようにしているんだ」

 

 それどころか乙女は、G級のドスゲネポスやドスイーオスなどとも戦わなければならない。

 なにやら今から気が重くなってくるが、やらねばならぬ、この定め。

 ガンランスの道は辛く険しいのである。

 

「ふむ……、ならばガンランサーよ?

 貴様がこれまでで、一番の強敵と感じたのはどの個体だ?

 聞いた所、防具ありの普段の狩りとは、大分勝手が違うようだが」

 

 骨付き肉をカプカプし終えたミラちゃんが、おかわりの肉を取るついでに乙女に訊ねる。

 

「そうだな……。普段なら喰らっても何ともないような攻撃が、一番の脅威になるんだ。

 具体的には軽くて速い攻撃を、矢次に放ってくるようなタイプが……、一番怖い。

 言ってみれば、まだ新人の頃に戦う鳥竜種なんかが、

 ガンサーにとって一番の強敵だったりする。

 だからガンランスを握ると、HRの低い一番最初の頃が、一番辛いんだ」

 

「逆にHRが3くらいになってくれば、

 出てくるのは大きくて一撃が重いタイプのモンスが多くなるだろう?

 そこからはウソみたいに、格段にハンター生活が楽になる。

 出てくるのはガンランサーが得意とする、そんな相手ばかりだ。

 みんなその景色を見る前に……ガンスを握るのを止めてしまうのだけれど……」

 

 乙女はふと遠い目をし、咳払いをひとつ。

 

「……話を戻すと、パッと思いつくのは“ショウグンギザミ“だ。

 昔ポッケ村にいた頃、上位のアイツと防具無しでやった時は、

 3度は3乙させられたと思う。

 全ての攻撃が早くて、矢次で、緩急もある。

 とてもいやらしい戦い方だから、全部に対処するのは容易じゃない」

 

「……ついでに言えば、あの地面から突き上げてくる攻撃に、

 ガードをめくられたりもするんだ。

 ガンスは納刀するのが遅いから、武器をしまって逃げられない場合もある。

 そうなるともう……、ガードを固めても生き残れるかは、

 純粋な運次第になったりするよ」

 

 私が蟹を食べられないのは、ショウグンギザミのせいかもしれない。食べるとウプッてなるんだ。

 そう乙女はウンウンと頷いているが、それは純粋な蟹アレルギーだと男の子は思う。

 

「後、この地域ではあまり見かけないのだけれど……、

 昔、狂竜ウィルスというのにやられた“ドスバギィ“というモンスとやった事があるんだ。

 ただ歩いているだけなのに、そのスピードが並のモンスの突進くらい速い――――

 とても補足していられる速さじゃなくて……しかもずっとその速度で動き回ってるんだ」

 

「……正直もう、ドスバギィの事は、思い出したくもない。

 今まで色んなモンスとやってきたけれど……その強さや、倒せる倒せないはともかく、

 これほど純粋に“戦いずらい“と感じた敵は、居なかったよ。

 きっとヤツこそが――――ガンランスという武器の天敵なんだと思う」

 

 さっきまでと違い、真剣な目をしてドスバギィの事を語る乙女。

 思い出したくない、と言うのはその言葉通りの意味ではなく、きっとガンサーの彼女にとっての“最大の賛辞“なのだと男の子は感じた。

 

「後、これもまた、ポッケ村時代に戦ったんだけど……。

 防具無しでやった時の“アカムトルム“は、本当に辛かった。

 未だに憶えているんだけれど……きっと私は“14回“は、3乙させられたと思う」

 

「ガードをするしか無いのに、ガードすれば体力を4分の1ほど持っていかれるんだ。

 だからたとえ被弾していなくとも、どんどんポーチのグレートが無くなっていく」

 

「それにヤツの突進攻撃は、身体の大きさのせいか一度ガードして終わりじゃないんだ(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 まるでその巨体ですり潰そうとしているかのように、2度も3度も“判定“がある。

 私の上を通り抜けていく時、アカムの突き出した腹や尻尾がガンガン当たってくる。

 その度に体力を削られ、盾を構えるスタミナを削られる。

 体力、スタミナ、そのどちらかでも割られてしまえば、私は1乙だ。

 そんな事が多分、20回も30回もあったと思う」

 

「……それに、またしてもその巨体故か、どこが攻撃判定で、

 どの方向にガードすれば良いのかが、まったく判断出来ない攻撃があるんだ。

 逃げる足の無いガンスでは“どうやっても死ぬしかない状況“という物も、

 沢山出てくる。

 どんなに必死にガードを固めても、その心ごとすり潰されていくんだ。

 ……たまに狩り場での被弾を“事故“とか“理不尽“とかいう新人の子がいるけど……。

 私にとって、防具無しで戦ったアカムやウカムこそが……、

 まさにそんな存在だったと思う――――」

 

 近年はハンター側の技術も進化して、乗り攻撃やブシドースタイルなんかも修得する事が出来た。だから今は防具縛りをしてても、そこまで苦労をする事は無いよ。ガルルガ教官は今でも嫌だけどね。

 乙女は苦い顔をしつつ、そんな風に笑う。

 

「あの時代は……キツかった。

 やれる事も少なかったし、今ほどスキルが充実した防具も無かったんだ。

 だから必死に研究して、必死に知恵を絞ったよ。

 ……何体の獰猛化モンスが来ても、どれだけキツいモンスやクエストが来ても、

 あの時のしんどさを今も憶えているから…………、私は折れずにいられる」

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

 ――――――ほう、ならば我は貴様にとって、どの程度の位置のモンスなのだ?

 

 ジト~っと上目づかいで睨みながら、ミラが乙女に訊ねる。

 

 ――――――お前と防具無しでやる位なら、泣いて謝るさ、私は。

 

 それに乙女は、親愛の瞳で返す。

 

 そんな光景を男の子が笑顔で見つめ、三人の幸せな時間は、優しく過ぎていった。

 三人で手を繋いで帰り道を歩き、家の前で別れ、「また明日」

 

 明日も、明後日も、しあさっても。ずっとずっとこの子達と一緒にいよう。

 そんな風に、乙女は思う。

 

 

 ……やがて家に帰ってれば、なにやら玄関に段ボールの箱が置かれているのを発見した。

 

 乙女はとりあえず確認してみるものの、それに全く身に覚えが無い。

 最近何も荷物を頼んでいないし、お金だって払った憶えが無いのだ。

 

 住所はここであってはいるようだが……、きっと何かの手違いなのだろう。

 伝票を確認し、明日にでも連絡してあげなければ。

 そう思い、ウムムと唸る乙女。

 

「取り合えず……ここに置いてはおけないな。

 雨でも降ったら困る」

 

 

 そして乙女はその“健康器具“と書かれた箱を、家の中へと運び込んでいったのだった。

 

 

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