ガンランスの話をしよう。 作:はせがわ
「――――今日のクエはいったい何だ!
どういう事なんだお前たちっ!!」
教官の怒声が集会所に響き渡る。
現在、なにやら不貞腐れたように酒場の席に座る3人のハンター達に向かって、物凄い勢いで教官が訴えかけている。
その同じ席の隅っこで、申し訳なさそうに顔を伏せている乙女。
「消散剤も持って行かず……、バリスタも撃たず、ただウロチョロするばかり!
オストガロアに手も足も出てなかったじゃないか!!」
そうなのだ、乙女は今日この三人のサポートとして、一緒にオストガロア討伐へと赴いていた。
そして大失敗して帰って来ていたのだ。
「なんであんな事になるんだっ!!
お前らずっと、雪だるまみたいになってたじゃないか!
……なんでもっと真剣に、ガロアと戦おうとしないんだっ!!」
目に涙を浮かべながら叱咤する教官。
それに対して三人は、今もダルそうに酒場の席に座っており、その口を尖らせていた。
「いい加減にして欲しいよなぁ~……」
「…………なにぃ!?」
その中の一人が、ボソリと呟く。心底教官の事が鬱陶しいというように。
教官が目を見開いているのが乙女にも分かる。
「俺たち……、別に緊急クエなんて、どうでもいいんだよ……。
……ガロアなんて強いヤツ……倒せなくてもしょうがないじゃんか」
「そうだよ……あんなデカいヤツ……。勝てるワケないもん……。
俺達……、別に今まで真剣にやってきたワケでもないのに……」
教官の方を見れず、目を伏せるばかりの三人。乙女は一人オロオロとみんなを見渡している。
教官の肩がプルプルと震え……、そして勢いよく〈バン!〉とテーブルを叩いた。
「0分……0分針だぞッ!? お前ら3人ともすぐに1乙づつして、
オストガロアの第二形態も見れないまま3乙したじゃないかッ!!
何も出来ないまま0分針で負けたじゃないかお前ら!!!!
悔しくないのかぁっ!!!!」
「――――お前らゼロかっ!? ゼロの人間なのかぁぁーーっっ!!!!
本当にお前らはゼロのっ……、価値の無い人間なのかぁぁーーっっ!!!!」
心から三人の事を想い、涙を流しながら教官は訴え続ける。
教官の言葉が三人の胸に突き刺さる。
お前達は決して、ゼロの人間などではないハズだと――――
「大剣使い! お前悔しくないのかッ!?
ホントにこのまま! 終わってしまっていいのかぁぁーーッッ!!!!」
「…………ッッ」
そんな三人と教官の事を、乙女がハラハラしながら見守り続ける。
私もうどうしたらいいんでしょうか、とそう狼狽えるも、やがて肩をワナワナと震わせていた大剣使いの子が、その口を開く――――
「 悔 し い で す ッッ!!!! 」
「今までッ……今までずっとッ! 笑ってごまかしてきたけどぉーっ!!
……今は 悔 し い で ぇ す ッッ!!!!」
――――叫び。それは魂の叫びだ。
涙を流し、情けなく鼻水だってたらしながら……それでもハッキリと教官に「悔しい」と伝える。
いままでずっと、悔しかったと……。駄目な自分が、嫌で嫌で、仕方なかったと。
そんな感情の吐露……!
「俺もッ、俺も悔しいですッッ!!!!
……あんな何回もッ……、雪だるまみたいにされてッッ!!
……ちっきしょうッ…………チキショォォォオオオーーーーッッ!!!!」
「勝ちたいッ! 勝ちたいよぉぉぉ~~~ッ!!
もう負けるのは嫌だッッ! 俺、オストガロアに勝ちたいっ!!
か゛ぁ゛ち゛た゛い゛よ゛ぉ゛ぉ゛~~~~~ッッッッ!!!!」
空を仰ぎ、号泣する三人。
オイオイと嗚咽を漏らしながら、それでも「勝ちたい、勝ちたい」と叫び続ける。
今までずっと押し込めてきた、弱かった自分達の、本当の気持ち――――
そんな中で一人、オロオロし続ける乙女。
「……そうか。…………そうかぁーッ!!!!
お前達ぃぃッ!! 勝ちたいかぁぁーーッッ!!!!」
「勝ちたいッ! もう負けるのは嫌だッッ!!」
「勝ちたいッ!!!!」
「勝ちたいですッ!!!!」
「オストガロアは強敵だッ!! ヤツに勝つには武器も防具も鍛えて、
もぉ~地獄のような特訓をせにゃならんッッ!!
それでも勝ちたいのかぁぁーーッッ!!!!」
「勝ちたいッ!!!!」
「勝ちたいですッ!!」
「か゛ち゛た゛ぁ゛い゛ッッ!!!!」
もうわんわんと泣き叫び、嗚咽を漏らし続ける3人。
教官に抱き着き、想いの限りに「俺達を勝たせてくれ」と懇願する。
「わかった……! お前らの想い……よぉ~く分かったッ!!
立てぇ大剣! ライトぉ! スラアク! ガンスぅ!! 」
勢いよく立ち上がる三人。
「えっ、私も!?」と思いつつ、乙女も席から立ちあがる。
「 ――――俺は今から、お前達を殴るッッ!!!! 」
「いいかぁーッ! 殴られた痛みなど、三日で消えるぅ!!!!
だが今日の悔しさをッ! お前らずっと忘れるんじゃないぞぉーーッッ!!!!」
「「「 ハイッ! 教官!!!! 」」」
「…………は、はいぃーっ!!」
一列に並び、直立不動の態勢を取る三人。慌てて乙女もそれに習う。
もう何がなにやら分からないが、とりあえず自分も並ばなければいけないと感じた。この空気を壊す事は出来ないのだ。
「大剣っ、いくぞぉーーッ!!!!」
「ハイッ、教官!!」
「おらぁぁーーッッ!!!!」バシコーーン
勢いよく殴られ、机をなぎ倒して倒れる大剣の子。しかし即座に立ち上がり、しっかりと教官の顔を見つめる。
教官も、もうボロボロと涙を流している。
「ライトぉ、頑張れよぉ!!!!」
「ハイッ!!」
「おらあああーーッッ!!!!」バシコーン
椅子をなぎ倒し、地面に倒れるライトの子。しかし即座に立ち上がり、清々しい顔で教官を見つめる。
「スラアク! お前なら出来るぅッ!!」
「ハイッ、教官!!」
「だらああーーッッ!!!!」バシコーン
いま倒れ込んでいったスラアクの子を見つめ、「つぎ私の番だ……」と冷や汗を流す乙女。
なんで私、殴られる事になっているのだろうか……。
まったく分からないながら、それでも乙女は直立不動で姿勢を正す。
ぶっちゃけ泣きそうだ。
「ガンスぅ! 歯ぁ食いしばれよぉッ!!」
「はっ……はいぃぃーーっ!!」
乙女は口を閉じ、ギュッと目を瞑る。
「 お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛あ゛あ゛あ゛ーーーッッ!!!! 」ドゴォォオオオオオン!!!!
ハンマーでブン殴られ、壁をブチ破って飛んでいく乙女。
「――――教官ッッ!!」
「教官ッ! きょうかぁぁーーん!!」
「きょうかぁぁ~~~ん!!」
「お前達ぃ!! お前達ぃぃ~~~~っっ!!!!」
皆で抱きしめ合い、教官たちは泣く。
明日を誓い合い、絆を確かめ合うようにしてオイオイと泣いている。
まさに“青春“の二文字に相応しい、この上なく美しい光景――――
「教官ッッ!!」
「教官ッ! きょうかーん!!」
「お前達ぃぃっっ!!!!」
男達は泣き続ける。
それを見ていた集会所の者達も、あまりに感動的なその光景に、目頭を抑える。
「…………えっ。
なんで私だけ、ハンマーで……?」
そんな教官と三人の姿を、ひとり呆然と見つめる乙女。
ポカンとし、ヒリヒリするおしりを抑えながら、その場で立ち尽くす。
「よぉぉし! 今からイベクエのUSJだぁッ!
全員レウスの防具作るぞぉぉーーっっ!!」
「はいっ、教官!!」
「教官ッ!!」
「きょうかぁぁ~~~ん!!」
私なんにも関係ないのに……。ただ手伝っていただけなのに……。
そんな事を思うも、この場に乙女の言葉を聞いてくれる人間は一人もいない。
やがて教官と三人は、スクラムを組んでクエスト出発口の方へと向かって行く。
せめて私も、あの中に入りたかった……。
そう、ちょっとだけ寂しい想いをする、乙女であった。