ガンランスの話をしよう。   作:はせがわ

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走り続けることでしか報われぬ生き方がある。

 

 

 あ、ウチはいらんねや。

 ウチの事なんか、誰も必要やないねんや。

 

 それに気が付いたんは、ウチが集会所に行くようになって、直ぐの事やったと思う。

 

 チビで、人見知りで、ハンマーなんぞ握っとる田舎モンの小娘。そんなウチの居場所はこの集会所には無いねんや。

 でもそれをしっかり自分で認めるまでには、結構な時間がかかったと思う。

 

 いつもみんなに向けられる視線が「役立たず」という意味のモンやったのを知らんフリしておれたんは、何度目のクエストまでやったやろか?

 

 我慢してたんは、ウチやったんやろか。

 それとも、ウチと一緒にクエ行ってくれてた、みんなの方やったんやろか。

 それを見ないふりして、考えへんようにしてたウチは、やっぱ悪い子やったんかな?

 

 これを想う時、ウチの心はいつも、折れそうになる。

 

 貴方を、ガンサーさんの事を思い出す時……、ウチはいつも折れそうになる。

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

 今日、初めて訪れたこの集会所の酒場で、ガンサーさんの姿を見かけた。

 彼女はウチがハンター始めたての頃、当時通ってた集会所の方でよく見かけてた人やった。

 

 名前は知っとるが、ろくに話した事もない。

 でも彼女の姿を見たその瞬間、昔の色んな事を一気に思い出した。

 思い出したくないような事まで、全部頭に浮かんで来た。

 

 

 

 ……あの頃、ウチがハンター家業を始めて最初に通ってた集会所。そこに彼女の姿はあった。

 当時はあんな白いドレスなんか着てなくて、もっと竜の素材めいたイカつい防具を身につけてた思う。

 そんで誰も寄せ付けへんような……、なんや“孤高“みたいな雰囲気を纏った、不思議な人やったと思う。

 そらガンスなんか握っとったんや。たとえ彼女が近づこうとしても、周りの方から彼女を避けとったやろう。

 そんな雰囲気で一人で座っとんのも、悪いとは思うけど、そら当然や思った。

 

 対してウチは、まだハンマー使いとしては駆け出しのペーペーやった。

 芋くさいおさげの髪に、自分の身体よりデカいんちゃうかっていうハンマーを担いだ小娘や。

 まだ自分の所属する村からのクエストをいつくかこなした程度。それでもその時のウチは、自信に溢れた顔でその集会所の扉をくぐってた思う。

 なんてったってウチは、すでにソロでディノバルドを討伐してたんやから。

 ここにおるHR1の連中と違い、もう既にある程度の武具は装備しとる。しかもこれは自分一人の力で作ったモンなんや。

 せやから今更クックやドスランポスなんぞ怖ぁない。ホンマは仲間なんぞおらんでも、ウチ一人で充分狩れるくらいの力は持っとる。

 

 ウチの力は、ここにおる誰にも引けを取らへん。

 この集会所でも、充分やっていける――――

 

 そんな自負をもって、初めて来たこの集会所の扉をくぐってた思う。

 

「あっ、あのっ……! ウチ初めてここ来たばっかりなんです!

 よかったらウチも、一緒に連れてって貰えませんかっ!?」

 

 酒場でくつろいでる連中の中から適当に声をかけて、そしてすぐにOKを貰った。

 ウチは人見知りやし、声もテンパってなんや裏返っとったけど、最初が肝心やと頑張って声を掛けたんや。

 なんや喋り方が独特やとか、ちっこいのにハンマーなんかとか色々言われたけど、それでも快く了承を貰えた思う。

 一緒に頑張ろう言うて、肩を叩いてくれた記憶がある。

 

「ハイッ! ウチ頑張りますからっ!

 ぜったい皆さんのご迷惑にはなりませんからっ!」

 

 そう元気に宣言して、一緒にクエ出発口まで歩いた。

 みんなと冗談なんかも交えながら、楽しい雰囲気で狩りに出かけていけた思う。

 

 ふと出発口をくぐる前に、後ろを振り返って彼女を見た。

 あのガンサーさんはウチが来た時と変わらず、未だに一人で黙々と狩りの計画を立てとるようやった。誰に声をかけられる事もなく。

 

 ――――ガンスなんぞ握っとるから、そうなんねんで……?

 

 ふいに、彼女を不憫やと思った。

 今しがた来たばっかりのウチが、速攻でパーティに入れて貰えて、狩りに出かけて行くいうのに、いつまで経っても座ったままでおる彼女の事が、哀れに見えとった。

 

「……えっ。いや何でもないんですっ!

 行きましょ行きましょ! ウチばっちりスタン取りますから!!」

 

 仲間に声をかけられ、止めていた足を急いで動かす。

 初めてのPT狩りに想いを馳せ、すぐに彼女の事は頭から消えていった。

 

 

………………………………………………

 

 

「きっ、今日はホンマありがとうございましたっ。

 良かったらまたお願いしますっ!」

 

 狩りから帰ってきたウチは、元気にそう言うてメンバー達と別れる。

 みんなも機嫌よぅ「GJ」と、「また行こう」言うてくれてたし、今日の狩りは成功やと実感しとった。

 

 初めてしたPTでの狩りやったけど、ウチは1乙もする事なく、大した被弾すらする事なく乗り越える事が出来た。

 苦労したけどスタンも取ったし、ハンマーの役目は充分果たした言える思う。

 

 そら普段のソロでする狩りとは勝手も違ったし、なんや仲間やらモンスターやらがゴチャゴチャしとってやりにくさは感じとったけど……、まぁPT狩りなんか初めてやったんやし、それもしゃーない事。

 今後PTでの経験つんで、だんだんそれに慣れていったらええ。

 ウチの前には、もうそんな希望しか無かった思う。

 

 仲間たちと別れ、さぁ帰路に着こう思った時、ふと酒場の方を見てみたらあのガンサーさんの姿が見えた。

 ウチが狩りへ出かける前と全く一緒の姿。全く一緒の場所に座っとる。

 

 ――――あの人、今日は一日中あっこにおったんやろか? 誰にも声かけられへんかったんやろか?

 

 そんな風に気にするも、ウチの胸は今、初PT狩りを終えた興奮で一杯。充実感と自信に溢れとる。

 ウチは彼女の事を大して気にする事もなく、集会所を後にしていった。

 

 スタンを取るんは、ホンマに気持ちえぇ。あのカキーンいう音がたまらへん。

 これがあるから、ハンマーは止められへんねん――――

 

 自身がハンマー使いである事への誇り、嬉しさ。

 そういうんを一番実感してた、そんな時期やったんやないやろか。

 

 

…………………

………………………………………………

 

 

 違和感を感じたんは、それからすぐやった思う。

 

 モンスの頭を殴られへん。ウチの攻撃回数、めっちゃ少ないやん。

 どうやってもそれが改善出来へん事に気が付いたんは、PT狩りをやり始めて3回目くらいの時やった思う。

 

(なっ……なんでコイツ、こっち向けへんのっ……!?)

 

 モンスの後ろに控えて、ハンマーを構えて待つ。でもモンスはウチやのぅて、別の仲間の方に走って行く。

 せっかく力を貯めて待っとったウチを置き去りにして、ぜんぜん明後日の方へと走って行く。

 そんなんが何回も何回もあって、やがてウチがこのクエスト始まってから全然モンスを殴ってない事に気が付いた。

 双剣や大剣の子らは、今もモンスをガンガン斬ってくれとる言うのに。

 

 当たり前やけど、ウチがモンスの足とか胴体とか殴るワケにはいかへん。

 双剣の子を吹き飛ばしてしもたり、跳ね飛ばしたりする心配もあれば、そもそもウチは頭専門の殴り屋や。

 頭以外を殴るのはハンマー使いのプライドが許さへん。ハンマーはそんな風な武器とちゃうんや。

 

 でもこっちを向いてくれへんモンスの頭部を殴る事ばかりに固執すれば、当然それだけウチの攻撃チャンスは無くなっていく。

 本来足やったらギリギリ殴れる所を、わざわざ頭の方まで向かって行く間に、もうモンスは硬直から立ち直ってたりする。

 結果、ウチの手数は激減していく。

 殴れるのは、たまたまモンスがウチの方に振り向いてくれた時。手数もあらへんウチの方を向いてくれる事なんか、それこそ6回に一回も無い。

 それか仲間の誰かがモンスをダウンさせた時のみや。

 

(……ちょ! どいてっ……! どいてくれんと頭殴られへんよっ)

 

 そしてようやくチャンスが巡ってきたと思えば、毎回頭の位置にはチャアクの人とか双剣の人が先におる。

 ウチのハンマーよりはるかにDPSが高い言うて、率先して弱点部位である頭部に向かっていく。

 

(スタン……! スタン取ってあげられへんっ! ウチハンマー使いやのにっ!)

 

 その日、はじめてウチは一度のスタンを取られへんまま、クエストを終えた。

 モンスは倒した。素材も貰った。誰も1乙もしてへん完勝や。

 でもウチは何の手ごたえもないまま、何も出来へんままに、クエストを終えた。

 

 

………………………………………………

 

 

 頭を殴られへん、役に立たれへん。

 そう感じたのは、そのクエだけやなかった。

 むしろこれ以降、ずっとずっとそんなクエが続いた。

 

(どうなってんの……!? ぜんぜん上手い事戦われへんやん!?)

 

 片手、ボウガン、ランスの子達が狩場で躍動するのを見つめながら、ウチは焦りだけを感じる。

 

(ウチこんなんちゃうねんっ……! 一人でディノかって倒せるねんで!?)

 

 せっかく後ろで構えていたのに、またモンスが明後日の方へ駆けていく。

 ボウガンの子が竜の翼を破壊し、ランスの子が見事に尻尾を切断。そして片手の子が乗り攻撃を成功させ、お情けのように頭部の位置を譲ってくれる。

 

(こんなんでスタン取れても嬉しないっ!!

 ウチぜんぜんモンスと戦えてないっ! 役立ってないやんっ!)

 

 通称“縦3“と呼ばれる攻撃で竜からスタンをとるも、感じるのは虚しさだけ。

 仲間達から笑顔で「GJ!」と言われても、心が晴れる事なんかない。

 

(あっ……ごめっ……!)

 

 そのストレスから思わず放ってしまった、竜の足へのスタンプ攻撃。それによってランスの子と片手の子が豪快に吹き飛んでいく。

 

 スタンも取れず、味方の邪魔ばかりするハンマー使い。

 こんなウチがPTの役に立っているなどと、どうやっても思えるワケなかった。

 

「今日はホンマごめんなさいっ! ごめんなさいっ!

 次は頑張りますから、また誘ってくださいっ……!」

 

 狩りから帰ってきた後、そう仲間達に謝るのはこれで何度目やろう?

 情けない気持ちを噛みしめながら、迷惑をかけた事を必死で謝っている時、同時に目から溢れ出そうとする涙を堪えんとアカンかった。

 

「今度はがんばります! ちゃんとスタンも取りますからっ!」

 

 そんなウチの姿に、一緒にクエに行った人たちも苦笑しながら「いいよいいよ」と笑ってくれる。次がんばろうと励ましてくれる。

 でも彼らがウチをまたクエに誘ってくれる事は、本当に稀やったと思う。

 表面には出さず、何も言う事は無く、みんな少しずつウチから離れていった。

 

 自分が失敗するんは、ええ。

 自分が弱い事は、仕方の無い事や。

 でもそれで周りに迷惑をかけとる言うんは、どうやっても我慢が出来へん。

 大好きなハンマーを、ウチが汚してしまう。それがどうしても耐えられへんかった。 みんなが立ち去って行った後、ウチの目から涙が零れていく。

 

 そんな中でふと目線をよそにやると、いつもの酒場の席に、あのガンサーさんの姿が見えた。

 彼女はいつも通り、そこにおる。

 いつもと変わらず、そこに一人で座ってる。誰にも声を掛けられへんままで。

 

(――――ッ!)

 

 その時ウチの脳裏に、とても良くない想像が浮かんだ。

 自分で自分に唾棄してしまいそうな、そんな黒い感情が胸に浮かんでくる。

 

 いつかウチも、あんな風になるんやろか――――――

 

 このまま役立たずでおったら、あの人みたいになってしまうんやろかと。

 誰にも声をかけてもらえんと、ずっと一人でおる事になってしまうんやろか。あのガンサーさんみたいに。

 

 弱った心では、そんな考えが際限なく浮かんでくる。

 人を見下すような、最低の下衆の考え。ウチは慌ててそれを頭からかき消す。

 

 頑張ればええんや。凹んでるヒマなんかない!

 たくさん努力して、みんなの役に立てるようなったらええんや!

 

 ガンサーさんから目線を切り、慌ててウチはその場から歩き去っていった。

 醜い自分の心を、誰かに見透かされんうちに。

 

 

………………………………………………

 

 

 それからのウチは、もう散々やった思う。

 なんとかみんなの役に立とうと、まさに七転八倒した時期やった。

 

(ブレイブなんかじゃアカンねんっ……!

 モンスを追えんブレイブなんぞ意味ないっ……!)

 

 ストライカー、ブシドー、慣れないエリアルまで。なんとかPTの狩りで役に立とうとし、ウチはあらゆる事を試していった。

 慣れないエリアルジャンプからの攻撃を試みるも、リーチの短いハンマーで攻撃を当てるんは至難やった。

 とても付け焼刃で出来るような事やなく、ウチは何度も何度も乗りを失敗して、周りに迷惑をかけた。

 挙句の果てにレンキンスタイルにまで手を出してみるも、そもそもウチが頑張ってタル振っとる内に狩りが終わってしまう事も多々ある。

 ホンマの意味で何もせんままに狩りが終わってしまい、ウチはどんな顔して仲間を見ればええんか分からんかった。

 もう恥ずかしくてモンスの素材なんか貰えん。

「鉱石いるねん」とかウソをついて、採取に行くフリしてその場から離れるんは、屈辱の極みや思えた。

 そしてそんなヤツ、もう二度と狩りなんか連れてってくれるワケない。

 

「ウチも連れてってもらえませんか……? ウチも一緒に……!」

 

 この集会所に来てから1か月と経たん内に、だんだんと狩りの仲間を探す事にも苦労するようになった。

 スタイルを試行錯誤している内に、もう自分の戦い方もあべこべな物になってしまってた思う。

 なんとか懇願して仲間に入れてもらえても、それで自分の行きたいクエストなんかお願い出来るワケあらへん。

 ウチはただひたすら拝み倒し、必死に粉塵や罠を使い、まるでみんなのご機嫌を取るような狩りの仕方を続ける。

 ひたすら仲間の行きたいクエストばかりに同行する。もう自分の武具を作る事など、欠片も頭にあらへん。

 

 一人になるのが怖かった。

 みんなに「必要ない」とそう言われる事が、怖くて仕方なかった。

 自分の価値、大好きなハンマーを否定されてしまう事が、怖かった。

 

 あのガンサーの人を集会所で見かける度に、得も知れぬ恐怖がウチを襲う。

 あんな風に、ただひとりっきりで座っておらなアカンようになるんが、怖い。

 

 いつもヘラヘラと笑いながら、なんとか皆の機嫌を損ねないようにと注意を払う。

 小心者も人見知りもかなぐり捨てて、誰よりも大きな声で「GJ!」と言った。

 一日に何回も何回も「ありがとうございます」と言った。なんとか自分の感謝を、相手に伝えよう伝えようと。

 

 

 ふと自分の家で我に返る時、目からたくさん涙が溢れた。

 

 

………………………………………………

 

 

「お前まだHR1だろ? これからは別のヤツと組めよ」

 

 ある日、もう数少なくなった“私を使ってくれるPT“の人達から、そう宣告を受けた。

 

「俺らガロア倒して上位に行くから、もう付き合えねぇよ」

 

 今まで罠や粉塵要員としてなんとか一緒に連れて行って貰えてたものの、これから彼らが向かうのはオストガロアのクエスト。参加資格はHR3以上。

 これまで人様のクエストばかりに同行していたウチは、自分のクエストなんて全然こなして来てはいーひんかった。

 

「う……ウチも急いでキークエこなしますっ!

 そやからウチも一緒にっ……。ウチもガロアに行けるように……!」

 

「え、それ俺らに付き合えって言うの? お前を手伝えって?

 そんな事してるヒマないって」

 

「悪いけど、ここでお別れだよハンマーちゃん。

 お互い自分のレベルに合う人と組んだ方がいいよ」

 

「そっ……、そんなっ……!」

 

 今思えば、それは良い厄介払いやったんやと思う。

 自分らは上位に行く。せやから役立たずはここでお別れ。つまりはそういう事や。

 むしろもうすぐ上位に行くと分かってたからこそ、ただの頭数とはいえウチなんかを一緒に連れて行ってくれてたんやと思う。

 スタンも取れん、火力にもならへんウチみたいなハンマー使いを。

 

 せやけどその時のウチに、そんな事分かってたワケない。

 心を削り、やりたくない事までして、必死にこの人達に尽くして来たつもりでおった。

 せやから裏切りとまでは言わんけど、“捨てられる“思って必死に懇願してた。

 

「お願いしますっ……! ウチもみんなと一緒におらせて下さいっ……!

 ウチの事、見捨てんとって下さいっ!

 おねがいします! おねがいしますっ!!」

 

 もうほとんど慟哭しながら、縋りつくみたいにして必死にお願いした。

 ウチの事を見つめるこの人らは、ほんと困ったような顔をしてたんを今でも憶えとる。

 どうにかしてくれ、助けてくれと言わんばかりの目で、後ろにおったこのPTのリーダーに目線を向けた。

 

「あのね? 言いたかないけど、この先お前とやってくのは無理だよ。

 ――――ハンマー使いなんて、戦力にならない」

 

 言葉を失い、ただ硬直した。

 知っとったのに、自分でも分かっとった事やのに、それでも言われた事を理解するんには随分時間がかかった。

 

「自分が役に立ってたって自信あんの?

 せめて俺らの半分の手数でも、モンスを殴ってくれてたか?

 笛使いだったら歓迎出来っけど、

 もう役立たずに構ってる余裕は無ぇよ」

 

「それにね? お前が今までろくに取れなかったスタン、

 俺のスラアクなら一撃で取れるんだよ?

 そんな無理して頭ばっかり狙う必要もない。

 モンスがダウンでもした時に、軽く決めればそれだけで良い」

 

「スタンなら、僕のライトにも取れる。片手剣だってそうさ。

 別にハンマーのお家芸じゃない。

 残念だけど、君をPTに入れておく理由は、ひとつも無いんだよ」

 

 

 そう言い捨て、三人はウチの前から遠ざかっていった。

 今までずっと彼らが思っていた事、言わずに済まそうとしていた気分の悪い事。それを仕方なしと言ったように投げつけて、ウチから去って行った。

 

 今思えばきっと、ウチの未練を断ち切ってくれる為やったんや思う。だから言いたく無かったような事までを、あえて言うてくれたんやと思う。

 周りに迷惑ばっかりかけとるウチに、キッパリと引導を渡してくれる為に。

「お前は駄目なんだ」と、「ハンターを辞めろ」と、そう教える為に。

 

「 う゛っ……う゛っ………………うわぁぁあああああーーーーん!!!! 」

 

 もう周りの目も何もあったモンやない。ウチはその場に座り込んで、もうわーわー泣いた。

 

「 うわぁぁあああああーーーーん!!!! うわぁぁぁああああーーーーんッ!!!! 」

 

 これまで抑え込んでたモンが、もう一気に溢れ出した。

 自分が何してるんかもよぅ分からんかったし、目の前も涙やらなんやらでよぅ見えん。

 ただ「終わった」と、そう思った。もうウチはアカンのやという事だけ、繰り返し心に思った。

 それだけで、目からとめどなく涙が溢れてきた。

 こんなんの止め方なんて、ウチが知るワケない。止めようとかそんなんも思う余地ない。

 ただただ、もうアカンねやとそれだけを想い、涙を流し続けた。

 

「ああああああっ!! …………あぅ……?」

 

 そんな時やった。誰かがウチの目の前に、ハンカチを差し出してくれたんは。

 鼻水も涙もボロッボロ流しながら見たんは、女の人の白くて綺麗な手。

 見上げてみると、そこにはまるで天使みたいな、ブロンドの女の人がおった。

 

「――――ッ!!」

 

 ガンサーさんやった。

 いつも一人で黙って座っとったガンサーさんが、今ウチの目の前におった。

 そんでウチと目線を合わせるように跪いて、綺麗なハンカチを差し出してくれはったんよ。

 

 あの時のガンサーさん、ホンマ天使みたいに綺麗やったなって……。ホンマ心の優しい人なんやって、今思い返してみてもそう思う。

 せやのに、なんでウチの口からは、あんな言葉が出てきたんやろう。

 

「――――――さっ……触るなぁあああーーーッ!!!!」

 

 ウチが跳ね除けた手から、ハンカチが落ちる。

 

 

『 アンタなんかに同情されたないッ!!!!

  アンタとはちゃうッ……! ウチはアンタとはちゃうねんッ……!!

  ガンランサーなんかが、ウチに寄ってくるなぁぁあああーーッッ!!!! 』

 

 

……………………

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

「そっか……。

 ガンサーさん、仲間できたんや……」

 

 

 あれから2年、今ウチの目線の先には、あのガンサーさんの姿がある。

 笛使いの小さな男の子と、ベヴィを担いだ小さな女の子に囲まれ、彼女が幸せそうに笑っているのが見て取れる。

 

「……そっかぁ……。そっかぁ……………」

 

 それをウチは、ただただ見つめとった。

 何をするでも無い。何の感想を想うでも無い、ただただそっかと、そう呟き続けた。 ウチが今、どんな名前の感情でおるんか。それはウチ自身にも分からん。

 

 

 あの後の事は、もうウチはよぅ憶えてへん。

 ただウチが泣き止もうという時には、ガンサーさんはもう傍にはおらへんかったのは憶えとる。

 気分が多少落ち着き、そしてウチが真っ先に思ったんは「なんて事を」という気持ち。

 そして考えられへんような口汚い言葉を彼女に吐いた、自分自身への嫌悪やった。

 自分の言った事、した事が、自分でも信じられへんという程に。

 

 それからウチはガンサーさんとは一回も会うてへん。

 なぜならその次の日から、ガンサーさんはもう集会所には来んようになったから。

 もしかせんでも「ウチのせいや!」と思い、縋るような気持ちで受付嬢にガンサーさんの事を聞いてみた事がある。

 彼女はどうしたんですかと。どこに住んどるんですかと。聞いてもしゃーないような事までオロオロと訊ねた思う。

 

『ソフィーさんなら、先日見事G級へと上がられたんですよ。

 ですので今は、別の集会所へ行っていらっしゃると思います』

 

 ニコニコと笑顔で教えてくれた受付嬢の前で、ウチは膝から崩れ落ちそうになった。もうあの人とは会われへん。あの優しかった人に謝る事は出来へんというのが、衝撃となってウチの身体を打ちのめした。

 散々受付嬢には心配されたけど、しばらくその場から動く事は出来んかった程に。

 

 ホンマ言うと、その日でウチは、ハンターやめようか思ってた。

 もう自分のしでかしてしもうた事と、自分のハンターとしての価値の無さ、その両方を想い知った今、これからも続けようみたいな気は皆無に等しかった。

 でも、ふっと受付嬢が言うた一言に、ウチは目が点になった。

 よぅ考えたらそうやのに、言われてみるまでウチは、その事に気が付かんかったんや。

 

『でもソフィーさん、よくソロでG級まで上がられましたよね。

 これは凄い努力と信念あっての事と思います。

 私は受付に過ぎませんけれど、

 彼女を見てガンサーという物に対する意識が変わりましたもの。

 たとえPT向きの武器じゃなくても、ここまでやれるんだって――――』

 

 ――――ソロ。

 ソフィーさんというガンサーさんは、ハンターの最上位であるG級に、たった一人ソロで上り詰めた。

 その事がウチに稲妻のように、天啓のように降りてきた。

 

 PT向きじゃなくても、ここまでやれる。

 たとえ一人でもG級まで上り詰める事が出来る。その証明がウチの身近にある。こんなにも近くに!

 

 ……その事を知ってから、すぐウチはソロでの狩りを開始した。

 なにやら今までの事が嘘だったかのようにHRは上がり、ガムシャラに走れば走る程に、ウチは強くなっていった。

 思えばウチは、元々ソロでの村クエストから始めたんや。一度通った道とばかりに、ガンガンとクエストをこなしていく。

 そこから3か月もすればウチは上位のハンターとなり、気が付けばソロのハンマー使いとして、周りから一目置かれる存在になっていたと思う――――

 

 

「そっかぁ……。良かったなぁソフィーさん……。

 ホンマ……ホンマ良かったなぁ……」

 

 気が付けば、知らぬ間にウチの目から、涙が零れていた。

 幸せそうな彼女の姿。これを見る事が出来て、ただ“良かった“と。

 今ウチの胸には様々な想いが去来している。でもウチが思うのは、ただ、良かった。

 その一言に、ホンマ尽きる。それ以外の言葉が出てこんかった。

 

 

 PT向きの武器では無いとして、ウチはこれまで頑なにソロ狩りを続けてきた。

 HRが上がった事で稀にPTに誘われる事も出てきたけど、それを断り続け、今までソロを貫いてきた。

 だからソロで集会所をこなしていく辛さは……、一人で狩り続けて行くその苦しみは、痛い程に分かる。

 ウチみたいな甘ったれで寂しんぼの子なら尚更や。それにソフィーさんみたいなキレイで優しい人やったら、一人でおるのが不自然な位やもん。

 ……ウチなんかとは違う。心の汚いウチなんかとソフィーさんは違うんや。

 

 今までウチがずっとソロ狩りを続けて来た理由、それはもしかしたら、あの時言うてもうた事への贖罪やったんかもしらん。

 ウチみたいなモンは一人で狩っとれと、そんで誰よりも苦労したらえぇねんと、そんな風に思っとったのかもわからん。

 

 “ナシ“にはならへん。

 あの時ウチがした仕打ちは、たとえ何をしようが、無しなんかにはならへん。

 でもウチは苦しみながらでも狩りをしよう思った。

 ソフィーさんみたく、やないけれど。でも一人のハンターとしては、あの頃のソフィーさんのように胸を張って戦っていけたらと、そう思うとるのかもわからん。

 

 そんなこんなで、ウチは今日もハンマーを握っとる。

 あれから少しでも前を向けたとか、自分の中で整理が付いたとかは、そんなモンは一切ない。

 

 ただただウチはハンマーを握っとる。そんで今日も、狩りに行く。

 ウチに出来るんは、ただそんだけ。

 

「見れてよかった……。

 ソフィーさんの幸せな姿見れて……ホンマよかった」

 

 こんなボロボロ泣いたんは、きっとあの時以来や。

 あれからウチは、もう周りから「クール」だの「機械」だのと言われる位にひたすら狩りに明け暮れとったから。

 なんや言うたら、自分が頑張る事でその分の幸福とか徳とかが全部ソフィーさんの所いかへんかな? ……とかそんなアホな事考えながら狩りやっとったけど。

 そんな事よく考えんでも、あるワケないねんけど……それでも今日、このソフィーさんの姿を見られたんは、ウチにとって“救い“のように思える。

 がんばって頑張って、がんばってきた優しい人が、あんな風に今幸せそうに笑うとる。心からの笑顔を見せとる。

 それを、ホンマによかったと――――――ウチは思うねん。

 

「……オッケ、行こう。

 もうなんも、思い残す事ないわ――――」

 

 今日の相手は、オストガロア。

 あの時ウチが置いてけぼりを喰ろうたクエやのうて、これは上位の最終クエストや。

 

 ウチは今日、このクエストに挑む――――

 なんと無しに「ウチもしかしたら死ぬかもわからんし、顔見知りの受付嬢に会うんイヤやわ」と思い、場末のこんな集会所へと足を運んで来たのだが……まぁ思わぬプレゼントがあったモンやで。

 神さんも中々、意気な事するやないの。

 

「……なんや、クエ行く前に気ぃ抜けてもうたな……。

 まぁえぇ、行こう。……もうどうなっても構わん」

 

 頑張ったやろ、ウチは。

 こんな年端もいかん芋くさい田舎娘が、今まで一人でようやったモンやで?

 ソフィーさんが半年で踏破した上位に、2年近くもかけてもうたけど……それでもウチはようやってきた思う。

 それだけはもう、胸を張れんねん。

 

 

 ハンマーが好きや。

 カッキーン頭殴ってスタン取った時が、一番幸せな気ぃする。

 ほな最後まで、それ貫いてこか。

 

 まぁ最後のガロアっちゅう相手が、スタンの取れへんしょーもない相手やっちゅーのがウチらしくて笑うてまうが……それはもうしゃーない。

 せめてウチがハンマー握ってきたっていう証だけは、この「ハンマーが好きや」っちゅー気持ちだけは、ヤツに叩きこませて貰う。

 

 PTの狩りもろくに出来んかったけど、今までエライしんどかったけど、最後にえぇ思いが出来て良かった。

 

 ウチのハンター人生……短いながらも、けっこう悪ぅなかった。

 そんな風に思えへんか? ソフィーさん――――――

 

 

………………………

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 ひとりは嫌や!!!!

  ウチもパーティに入れてッッ!!!! 』

 

 

『 もう一人で狩りすんのもッ、寂しいんも嫌や!!!!

  隣に誰も居ぃひんのは嫌やッ!! 

  ――――ソロ狩りなんかッ、嫌やッッッ!!!! 』

 

 

 

 さっき、“こんなに泣いたんは久しぶりや“みたいな事を言うたけど……、ウチまた泣いとるわ。

 ……うん、撤回するわ……ウチやっぱ泣き虫や。

 ホンマはハンターなる前から……ずっと泣き虫やってん。

 

『 ――――ウチと一緒におって!! ウチと一緒に狩りしてッ!!!!

  ソフィーさんばっかり……、ズルいッ!!!! 』

 

 きっと、あの顔見知りの受付嬢の手回しやったんやろな。

 ウチがオストガロア行く~いうて聞きつけたあの子が、ソフィーさんに知らせてくれはったんやろう。

 

 今ウチの後ろには……もう動かへんようになったガロアの身体がある。

 そんで今ウチが必死に泣きながらしがみ付いとんのは……、ソフィーさん。

 もうアカン~みたいなタイミングで颯爽とこの場に駆け付けて、ほんで一緒にガロアと戦ってくれはったお人。

 

 もうホンマ……天使みたいに駆けつけてくれはった、びっくりするくらいカッコええ、ガンランサーのお人や――――

 

『 あああああーーーーッ!!!! あ゛あ゛あああああッッ!!!!

  ソ゛フィィーーーさぁぁあああーーーーんッッ!!!! 』

 

 ソフィーさんがウチを抱きしめ、頭を撫でてくれる。

 そうされればそうされる程、ウチは泣いてまうんやけど……、ボロッボロ涙も鼻も出とるんやけど……そんなんもう知るか。

 決して離すワケにはイカンのじゃい。こんなあったかいモン、離すアホがおるかぃ。

 

『 ウチな゛っ!? ウチがんばって゛ん゛!!

  ソフィーさんおらんようなってか゛ら゛っ! 一人でがんばって゛ん゛!! 』

 

 

 もう「うん」と言うてくれるまで、ウチはアンタを離さん。

 ……正確にはもうすでに「うん、分かったよ」と言うて優しい笑うてくれとるんやけど……、でももっと言うてくれるまで離さん。

 

 ウチの話、全部聞いてくれるまで、離さん。

 

 ウチの悪かった事……、寂しかった事……、そんでがんばってきた事、全部聞いてくれるまで……。

 ウチはソフィーさんの事、離さん。

 

 

 そんでもうウチ……、ソフィーさんの事、離さん。

 

 

 

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