相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

101 / 181
皆さまのおかげで話数が100話を超えました。
ありがとうございます!


第100話 混迷する幻想郷 その1

 里の外に追いやられた阿求一行は、方向的に一番近いであろう博麗神社へ向かって歩道を歩いていた。

 解放された小鈴は里を離れた瞬間から泣き出し、ずっと阿求の腕に抱きついていた。

 

「ひっぐっ――阿求、ごめん……わたしの、せいで……うぅぅぅぅ……わた、しがぁぁ……人質に、ならなかったら――こんな、ことに、は――うぅぅぅ……ごめん、なさい――うわーん!!」

 

「小鈴、アナタのせいじゃない。だから泣かないで、悪いのは全部、私なんだから……」

 

 抱きついてくる小鈴を阿求は子供をあやすように慰めるが、阿求本人も悔しさと悲しさのあまり泣きそうになっている。

 そのような状況にも関わらず、誰もふたりに声をかけられない。

 犯人の正体も掴めずに人質を取られたあげく里を追放される。ショックで言葉が出せなかった。

 なおも泣きじゃくる小鈴を見かねた尊が「小鈴さん、これ以上は体力を消耗するからそろそろ――」とその身体を案じ、声をかけるも彼女は阿求の袖にくっついて離れない。阿求は彼女の手を引きながら歩いていたのだが。

 

 ――ドサッ!

 

「「「阿求!?」」」

 

 突然、その場に手を突いてしまう。

 

「だ、大丈、夫――立て、る……から――」

 

 立ち上がろうと踏ん張るも身体に力が入らず、

 

「うぅ……」

 

 地面へ倒れ込んでしまった。

 

「阿求!!」

 

 小鈴が身体を揺すると「だ、大丈、夫――平気、だから……」

 

 返事をするものの、当の本人には意識がなかった。

 慌てた霊夢が阿求の身体を揺するも呻くだけ。

 もしやと思い額を触れば強い熱を帯びていた。

 

「アンタ、熱が出てるじゃない!?」

 

 阿求は病弱で有名であり、普通の人間と同じように行動するのも一苦労なのだ。そこにきて数日間の緊張状態に身体的過労と極度のストレスと複数の原因が重なり、限界を超えてしまったのだ。

 高熱にうなされる阿求を見た魔理沙が急ぎふたりをどけて慧音に訊ねる。

 

「永遠亭に連れて行く!! いいな!!」

 

「た、頼んだぞ!!」

 

 即座に慧音は了承した。しかし、半ばパニック状態の小鈴が「阿求、そんな……。やっぱり、私の、せいで」と激しいショックを受け、その場で尻もちをついて阿求と同じように気絶してしまう。

 霊夢は狼狽えた。

 

「こ、小鈴ちゃんまで……」

 

 倒れた小鈴に真っ先に駆け寄り、彼女を抱っこした霊夢が残りのメンバーに「私も小鈴ちゃんを永遠亭へ運ぶわ」と伝え、尊が「早く連れて行ったほうがいい。俺は大丈夫だから」と答える。

 そして、魔理沙は阿求を箒に、霊夢は小鈴を抱きかかえたまま、人里を大きく迂回するルートで永遠亭を目指して空を駆けて行った。

 残された尊はその様子を眺めながら、

 

「クソッ――どうしてこんなことに!」

 

 足で地面に八つ当たりをする。慧音は俯きながら「これからどうしたら……」と落ち込んでしまう。やはり、初めての里を乗っ取られる。しかも仲間である里人にとあっては頭を抱えるなというのが無理だ。

 慧音も半ば放心状態となり、尊が声をかけても上の空。

 いたたまれなくなった尊は彼女を木陰まで誘導し、座らせて休ませる。

 

「(こんな時、杉下さんだったら――)」

 

 慧音が座る木の隣に座った尊は自分の力の無さを痛感して、うなだれた。

 そこから数分後、子分たちから里の惨状を報告されたマミと文が里へ急ぐ途中、ふたりを発見する。尊が阿求たちのことを話すとマミが「送っていこう」と大きな鳥に変身して、彼を背中に乗せて永遠亭まで移送する。

 その後ろを文と慧音がついてくる形となり、ものの十分もしないうちに永遠亭に到着する。

 彼らが永遠亭の玄関に着地した時、建物内から「はやく、ふたり分の布団を持ってきて!!」「わ、わかりました!!」「輝夜も手伝って!」「わ、わかったわ!」と騒然としていた。

 四人は落ち着くまで玄関で待機した。十五分が経つころ、偶然目が合った輝夜に座敷へと案内され、座って待つように指示をされる。

 さらに十分。一段落ついた永琳と助手の優曇華、つき人兼臨時スタッフになっていた魔理沙と霊夢が四人の前に姿を現した。

 永遠亭を代表して永琳が、

 

「稗田さんと本居さんはもう大丈夫です」

 

 と説明して皆を安心させた。

 魔理沙と霊夢もやっと一息つけるとホッとしたようで尊たちに近くでよっこらしょっと腰を下ろして胡坐をかく。

 同じく永琳と優曇華も皆と向かい合うように座る。

 

「何があったのです?」

 

 この状況を訊ねる永琳に慧音が「実は――」と事の顛末を話す。

 話を聞かされた永琳は「大変なことになったわね……稗田さんが倒れるのも無理はないわ」とため息を吐き、優曇華もまた動揺を隠せず、物陰でこっそり聞いていた輝夜も「嘘でしょ……」と絶句して、永遠亭の住民たちに途方も無い衝撃をもたらした。

 

 

「我々は妖怪側勢力である稗田家を追い出すことに成功した! これより里は我々、人里の夜明け指導の下、民主的な世界へと生まれ変わるのである!!」

 

 午後十六時、混乱する里の人々を余所に、大通りのど真ん中で田端率いる秘密結社が聴衆に向けて説明を行っていた。

 内容はいかに自分たちが正しいかを主張するものであり、虚偽も多く混じっていた。聴衆の中にはその部分を指摘する者も多数存在し、議論は紛糾する。

 らちが明かないと思った田端は最後にこう締めくくって説明を終えた。

 

「異議のある者は明日の昼、里の劇団にてその意見を聞かせて頂く。開かれた言論空間なのでふるって参加して欲しい。それでは」

 

 部下を伴い、田端は半ば強制的に借りた劇団へと向かう。

 道中、部下たちが「リーダー、アイツらあんなこと言ってましたけど、いいんですか?」と訊ねる。ふふんっと笑った田端は、

 

「問題ないさ。お前ら、稗田邸はくれぐれも荒らすなよ。あそこには貴重な資料がある。妖怪たちとの話し合いに役立つだろうからな。当然、鈴奈庵もだ。後、水瀬家と土田家もな。わかったな?」

 

 さらに続けて、

 

「里中の目につくところに()()()()もしくは()()()()と書いておけ。白沢が能力を使えば、記憶が曖昧になるかもしれん。少しでも思い出せるようにしろ。もし、俺たちの記憶に齟齬が生じた場合は攻撃を受けた証だ。そうなった場合、寺子屋のガキを何人か始末してさらし首にしてやれ」

 

 と語り、慧音対策を施させた。

 劇団に到着した田端は「ひとりになりたい。何かあったらすぐに伝えてくれ」と部下に命令――個室でひとりっきりとなる。

 部下たちがいないことを確認した田端は、

 

「大きな犠牲を伴ったが、これで変わる、変わるんだ」

 

 鼻息を荒くしたのち、スマホのメモアプリやボイスメモ、手帳などに今日の出来事を記録。少し横になった。

 

 

 水瀬家本宅。

 秘密結社のメンバーから報告を受け取った水瀬が書斎で側近たちと雑談していた。

 

「上手くいきましたね」

 

「アハハ、まさか稗田家を排除できるとは思わなかったな。奇跡だぞ、これ」

 

 水瀬は愉快そうに笑った。

 裏切りに加担したのは明らかだった。

 

「これも代表の力あってですよ」

 

「ん? 何の話だ? 部下たちが勝手に火縄銃等の武器を持ち出して抗争に加担したんだぞ?」

 

「そういう話でしたね。でもって今は秘密結社の連中に監視されていて動けない、と……」

 

 側近が作り笑顔を浮かべ、ワザとらしく水瀬が肩を竦める。

 

「まったくいい迷惑だよ……。これじゃ、何もできないな~。 ――ちゃんと口ぶりを合わせろよ?」

 

「心得ていますよ」

 

「それでいい。たまには役に立つな、デクのお前も!」

 

「……」

 

 そのやり取りの後、水瀬は部下に日本酒を持ってこさせ、ひとり楽しく飲む。

 

 

 そのころ、風下家では火縄銃や刃物、工具や農具で武装した屈強な男たちが室内を占拠していた。

 部下たちは縛られて各部屋で軟禁状態だ。当主の風下は男たち五人に囲まれながら客間の中央で正座していた。

 

「まったくアンタらが、ここまでアホやったとはなぁ。さすがのウチもわからんかったで」

 

 ぼやくも男たちは無視して聞き流す。

 

「つまらん連中やな」

 

 風下は心底不満そうな態度を取った。

 そこに見覚えのある中年男性がドシドシとやってきた。

 

「よぉ、風下のババア。生きとるか?」

 

 土田家当主である。彼はニコニコしながら風下と向かい合うように胡座をかいた。

 案の定、彼は稗田家を裏切り、秘密結社側についた。

 風下は睨みを利かせながら攻撃的な口調で牽制した。

 

「見ればわかるやろ? ピンピンしとるがな」

 

「それはよかった。アンタには死なれると困るからな!」

 

「人質として使う気かい? ウチは稗田とは仲悪いで?」

 

「古くからの知り合いを見捨てられるほど、あの女は薄情じゃない」

 

 知ったような口を利く土田に風下は腹を立てて噛みつく。

 

「アンタは薄情の極みみたいなヤツやけどな! 先代との約束破って、あの娘を裏切り、里に仇名しおった。ほんまもんの恥知らずやで!」

 

「妖怪どもが跋扈する里がいいんか? 儂は耐えられへんかったで。アイツらが人間に混じって楽しんでいるのがな!」と土田は怒りを顕わにした。

 

「ウチも思うところはある……。せやけど、あんなボンクラ共に乗っかるなんてどうかしとる! ありえんわ!!」

 

「時代は変わったんだよ。表の利器があれば稗田家を追放できるくらいにな。この調子で妖怪共とも――」

 

 その幼稚な考えを風下が叱咤する。

 

「甘いわ。妖怪はそんな弱わないで! アンタらが木を切りに行って遭遇するのは雑魚中の雑魚や。妖怪はバケモンやで。人間なんて逆立ちしても勝てん。だから上手くつき合っていく必要があるんや。自分らの尊厳を守りながらな。ここんとこ、忖度が激しかったから、言い争うのも多かったが、ウチは妖怪とことを構えようとは一度も思ったことないで。()()()()と同じ末路を辿る。アンタにはわからんやろうけどな!」

 

 自らの目論見を一刀両断された上に自分が知らない表の話を引き合いに出されたことで土田の表情が一気に崩れる。

 

「けっ、親父が表の人間やからって調子乗って――里生まれの癖に!」

 

「アンタより調子乗ってるヤツはおらんがな!」

 

「あー、わかった、わかったよっ。とりあえず、おとなしくしてろ。気が向いたらまたきてやる」

 

「二度とくるな、このボケ!」

 

 文句を背中に受けながら土田は退散していく。

 口論においては四家最強の名は伊達ではない。周りの監視役もその怖さからか風下と顔合わせようとはしない。

 話し合いがいなくなった風下は一人、天井を見上げて

 

「あの娘ら、無事ならええなぁ……」

 

 と無事を願った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。