相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第104話 参謀、杉下右京の分析 その2

「その後の展開……?」

 

 魔理沙は奥村の行動を思い出すもすぐに。

 

「――って、奥村は撃たれたじゃねえか!?」

 

 そう、彼は何者かによって狙撃されて帰らぬひととなったのだ。

 その時点で奥村の快進撃は終わりを告げたはずだ。魔理沙はそのように言いたいのだ。

 しかし右京は持論を展開する。

 

「撃たれましたねえ。ですが、そこからの行動があまりに早すぎる。姿をわからなくする煙幕に無数の爆弾。次は妖怪の仕業と叫ぶ聴衆。間をおかずに展開された反妖怪運動。そして、稗田火口両家を襲撃からの人里奪取。ーーさすがに仕組まなければ不可能ですよ」

 

「やっぱり、そう考えるのが妥当ですよね」

 

 阿求はひとり唸った。彼女の皮きりに周囲が動揺するも、幽々子や永琳はさほど驚かず、どこか納得した表情で右京を眺めていた。

 発言に疑問を持った霊夢が声を出す。

 

「だけど杉下さん――それって奥村が撃たれたことで生まれた流れですよね? 杉下さんの言い方だと狙撃まで結社の計画に含まれているみたいな感じに受け取れたんですけど」

 

「おっしゃる通り」

 

「だとしたら、演説から奪取まで仕組むのは難しいんじゃないですか?」

 

「確かに。議論で勝つために結社側が一連の工作を施していたんだろうしな。そして、演説の終わり際に狙撃手が奥村を射殺した。これが結社のシナリオと考えるのは少し難しいよな」と魔理沙が

同調する。

 

「アンタもそう思うわよね! 行動があり得ないくらい早いし。普通、代表が狙撃されたら皆、動揺して動けなくなるでしょ? だけど、間髪入れずに白煙と爆弾よ。おかしくない?」

 

「まぁ、言われてみれば……」

 

「そうよね! だから妖怪の可能性もあるわ。妖怪が里を混乱させる目的でリーダーを殺し、忍び込ませていた手下に爆弾を投げさせて、それをきっかけに結社が大暴れした。そう考えればしっくりくると思ったんだけど。だってバルバトスって四人の王を従えるんでしょ? 昨日、レミリアが言ってたし。もしそうなら、外部勢力による幻想郷乗っ取り事件になるわ!」

 

 目を鋭くしながらその瞳を黒く染める霊夢に魔理沙は呆れながら、

 

「つまり、途中までは結社のシナリオで後半は外部勢力(妖怪)の仕業だと言いたいんだな……?」

 

「そうそう!」

 

「む……。ありえない話ではないが……」

 

 右京のほうを見て「いつもアレだ」と目で訴える。

 伝承上、バルバトスは四人の王を従える狩人だ。妖怪の可能性を捨てることも軽率である。

 彼は霊夢の意見を無碍にすることなく、優しく返した。

 

「霊夢さん。邪悪な妖気は感じましたか?」

 

「え、あ……その――感じて、ません」

 

「「「「「……」」」」」

 

 ため息が会議場を包んだ。妖怪を疑う気持ちはわかるが、もう少し冷静になってくれ。巫女の知り合いたちは思った。

 

「疑うのは悪いことではありません。相手が妖気を隠す手段を持っていることも考えられますからね」

 

「そ、そうよ!! 狙撃犯が妖怪の可能性は十分あるわ!」

 

「そりゃあ、あるだろうけどさ」

 

「なら対妖怪用の装備も用意しなくっちゃ――」

 

 霊夢は拳を鳴らして意気込んだ。相手が妖怪なら容赦は入らない抹殺してやる。彼女の瞳にはある種の不気味さが漂っていた。

 皆がその雰囲気に引いている最中、右京がしれっとつけ加える。

 

「相手が妖怪でも可能な限り拘束してください。犯行の動機や背後関係を洗い出したいので」

 

「えぇ……」

 

「いやお前、普通だろ。仮に挑戦状が本当なら相手はバルバトス。七十二柱の一柱なんだぜ? 残りの連中が動いてるかもしれんだろ? 乱暴なことをしてでも訊きださんといかん」

 

「拘束後の妖怪の扱いについてはあなた方にお任せします。ただし人間の場合は僕たち表の警察のやり方で取り調べたいのですが。よろしいでしょうか?」

 

 元々、人間相手ならそこまで手洗い真似をするつもりがないらしく、周囲はわかった、と頷いた。

 ここまでで一時間が経過した。時間を気にする右京は一旦この話題を切り上げて次の話へ移った。

 

「奥村たちの話も大事ですが、次は有志募集についてのお話をしましょう。募集するのは以前より人間と交流のある人間、もしくは人型の妖怪に限るとお聞きしました」

 

 有志の話になったので、今度は慧音が答える。

 

「はい。妖怪は加減ができない者が多く、人との関わりがないと勢い余って殺してしまう恐れがあります。今回の案件は非常にデリケートですので、その条件で絞らせて頂こうかと」

 

「僕もそれでいいと思います。しかし、選ばれなかった妖怪の方々が不満に思うかもしれません。その辺りのケアも考えねばなりませんねえ」

 

「ヤケを起こされて里へ強行突撃されても困りますからね……。善処します」

 

 慧音は右京の意見に誠実に返答をした。

 

「次は各妖怪のトップへの根回しですね」

 

「こちらは私が行います。こう見えて顔は広いですから」と阿求が手を挙げる。

 

「わかりました。護衛は忘れずに」

 

「ええ。足が欲しいので魔理沙をお借りして行きます」

 

「そうですか。魔理沙さん、よろしいですか?」

 

「おう」

 

「じゃ、私は冥界周辺と地獄の連中に話を通すわ」と幽々子が語り、右京が同意した。

 

 こちらも各勢力の有力者二名が名乗りを上げたことで無事解決した。

 その後の話し合いで近隣最大勢力である〝妖怪の山〟への訪問が決まり、文がコンタクトを取れ次第、交渉する方向で固まった。

 時刻が八時を回ると時間を惜しんだメンバーたちが続々と行動を開始する。

 慧音は有志募集、文は上司へのかけ合い、幽々子は冥界周辺戦力への根回し、霊夢は偵察の要である咲夜を連れてくる、マミは偵察に出した子分から情報を収集すべく永遠亭を後にした。

 残ったメンバーの右京は阿求と妖怪との交渉についての相談、尊と小鈴は議事録の作成、永琳はけが人用の薬の生成、優曇華が料理担当、輝夜が来客の受つけを引き受け、皆、事態解決のために奔走する。

 

 

 同時刻。いつも賑わっているはずの里は結社関係者とデモ参加者以外の人影は見当たらず、不気味な緊張感に包まれている。小鳥が囀ろうとするものなら石で追い払われ、地面には毒餌を食べて死亡したと思われる小動物たちの死骸が散見され、足で道端へ押しやられる。

 里にある全ての入り口には〝妖怪立ち入り禁止〟と書かれた大きな横断幕を設置され、その両脇を火縄銃と日本刀で武装した者が固めており、不審な者が現れたなら即座に発砲しそうな雰囲気を漂わせて警戒にあたっている。

 右京が予想した通り、里は極度の緊張状態にあった。

 西口を見張るメンバーのひとりが愚痴を零す。

 

「はぁ、昨日の疲れがとれねー」

 

「我慢しろよ。やっと妖怪から里を取り戻したんだから」

 

「まだまだこれからだろ。後は妖怪との交渉か――こっからどうすんだ?」

 

「どうするって。そりゃあ、話し合うんだろ?」

 

「まともな話し合いになるのか? リーダーたちはその辺りのこと、教えてくれねーし――」

 

 見張りがそう言い掛けると遮るように〝妖怪・消えろ〟と書かれた襷を肩にかける信介がやってきた。

 

「私語は慎めよ。俺たちの戦いは始まったばかりなんだからさ」

 

 彼は火口家制圧の功労者、かつリーダー田端と知り合いであることから結社内で優遇されていた。

 自慢げに語る彼の姿に見張りたちのイライラが募るも彼らは腰を低くして謝罪する。

 

「は、はい! すみませんでした」

 

「わかればいいのさ。お前たちも大変かもしれないが、努力は必ず報われる。じゃ、頑張ってくれ」

 

 火口家当主を裏切って鍵を開けただけの男が何を偉そうに。見張りたちは去って行く信介の後姿を睨みながら、不満を押し込んで見張りに集中する。

 その視線を背中で感じ取り、何故か羨ましがられていると錯覚した信介は「はぁー、気持ちィィィ」とその限りなく小さい自尊心を満たす。

 大通り中央付近にある酒場谷風では店を開店できない舞花がひとり、店のカウンターに頬杖をついてため息を吐く。

 

「これじゃ、商売できないわ」

 

 大通りから聞こえる声に耳を傾けた。

 このころになると騒ぐ輩も出現し、数名の若者たちが右拳を振り上げながら大通りを行進する。

 

 ――妖怪・消えろ! 妖怪・消えろ! 妖怪・消えろ!

 

 ――俺たち・勝った 皆で・勝った 稗田に・勝った!

 

「バッカじゃないの――二家を襲撃して、稗田さんたちを追い出して、里の経済を止めてまでやるのが()()()()とか……」

 

 里のあり方に不満を持つ者もいれば現状に満足する者もいる。舞花は後者だった。

 

「妖怪を否定して言い分を通させるよりも妖怪と仲よくする方法を考えてから生活圏を広げていく方向へ持って行ったほうがいいと思うけどね。話せばわかる人もいそうなんだし」

 

 行儀のよい常連客であるマミの姿を思い浮かべながら舞花は呟く。

 本当は英雄ズラしている馬鹿どもへ文句のひとつやふたつは言ってやりたいが、相手は武装した危険集団であり、何かあれば自分もタダでは済まないと察しているので行動に移せない。

 やり切れない思いを抱えながらも彼女は店の裏口から自宅へと戻り、仕入れた食材を無駄にしないように台所で黙々と作業を続ける。

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