相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第106話 集う者たち その2

 彼に促されるまま会場入りした妹紅は、すぐさま尊から挨拶され、同時に小鈴が書いた住民用の議事録を手渡される。右京は皆への説明のために一旦彼女を置いて離れた。

 そのまま、壁際まで歩いた妹紅は胡坐をかいて正面を見る。そこには参加者へ指示を出す右京の姿があり、彼が参謀であるのだと実感するも、どこか不満げな表情を見せた。

 

「来たばかりの人間にこんな大役を任せるとはねぇ」

 

 妹紅は里から離れたところで生活しているので、あまり里の情報が入ってこない。そのために右京の実績や能力を知らず、難色を示しているのだ。

 会議場に戻ったマミが参謀のところに駆け寄る。

 

「偵察を担当している子分どもから話を聞いたが、外から見る限り、特に目立った動きはないとのことじゃ」

 

「こちらは十六夜さんと打ち合わせが終わったところです。予定通り、彼女に内部偵察を行って貰います。戻ってきたばかりのところ申し訳ないのですが、十六夜さんに変装を施して下さい。里人の姿をしていれば万が一、里の中で発見されてもある程度、誤魔化せると思うので」

 

「わかった。すぐに取りかかろうぞ」

 

 二つ返事で了承したマミは咲夜を伴って庭先へと足早に向かった。彼女と交友関係のある妹紅は面を食らう。

 

「狸の旦那が表の人間の指示に従う、だとっ」

 

 マミは人間に友好的な態度こそ取るが本質は化かす妖怪であるが故、他者の頼みごとに対して無償で引き受けるなど滅多にしない。

 大体は条件をつけたり、自分が有利になるように言葉巧みに誘導するのだが、今のマミにはそれがなかった。

 呆気に取られる妹紅の隣にそっと輝夜が近づき、いつになく真面目なトーンで語る。

 

「あの狸の頭領さんはね、責任を感じているのよ。自分たちが結社の策にハマって連中を勢いづかせてしまったことにね」

 

「勢いづかせた?」

 

「そう、結社の言い分を後押する結果になって、それが里の奪取に繋がった。ここで率先して問題解決に協力しないと、きっと幻想郷にいられなくなる。それくらいの失態なのよ」

 

「ッ――。マジかよ」

 

 自分が腹痛で寝ている間に里はとんでもないことになっていたのだと実感した妹紅は、奥歯をギリッと噛み締める。能天気にしている場合じゃなかったのだ。

 事態の深刻さを理解した妹紅に輝夜は背を向けながら、

 

「アンタ、仲いいんでしょ? ちゃんと手助けてしてあげるのよ。もちろん参謀の指示に従ってね」

 

 と、告げて自分の持ち場へ戻った。

 普段なら喧嘩腰で言い返す妹紅だが、今回は両目を閉じながら、

 

「わかったよ」

 

 静かに頷くしかなかった。

 少しして、咲夜たちを送り出した右京が議事録と睨めっこする妹紅の下にやってくる。

 

「お待たせして申し訳ない」

 

「いいよ。忙しいんだろ?」

 

 彼女は手に持った議事録を床に伏せた。

 

「なんとなくだが事件の内容は把握できた。コレ、よくできているな。アンタが書いたのか?」

 

「いえ、内容は神戸君がまとめ、小鈴さんに書き起こしてもらったのですよ。ふたりとも、とても優秀なので助かります」

 

「あのにーちゃん、そんなに優秀だったのか。……意外だな」

 

 竹林で遭遇したときは取り乱してばかりで男らしさの欠片もなかったのに。

 妹紅は視線の先で議事録を作る尊にジト目を向ける。彼女の声が耳に届いた彼は「意外で悪かったな」と見えないように腹を立てた。

 右京は皮肉屋の元相棒の心情を理解してか、かすかに微笑んだ。

 

「ところでさ、私にも手伝えること……あるか? 知っているかもしれんが、私は喧嘩くらいしかできない。政治的な駆け引きなんてそんな細かいことは考えるのも無理だ。それでも幻想郷の一員として何かしたいんだ」

 

「里は危険な状態にあります。双方の話し合いで解決できるのならそれに越したことはありません。しかし、それが叶わない場合は里へ突入して結社を制圧――住民を救出します。その際、藤原さんのお力をお借りしたい」

 

「突入担当か。悪くないんだが、私は加減が苦手でな。妖術を使えば、里人まで巻き込んでしまうかもしれない。それはマズイだろ?」

 

 作戦の成否によって友人の立場が危ぶまれるとあってはさすがの妹紅も気を使わざるを得ないようだ。

 彼女の不安を聞いた右京はこう返した。

 

「大丈夫です。突入と救出だけが仕事ではありませんので」

 

 笑顔で語る右京に妹紅は一抹の不安を覚えるも「まぁ、それならいいが……」と呟くにとどめた。

 そのタイミングで慧音が戻ってくる。彼女は知人である妹紅に有志参加への感謝を述べてから右京のほうを向いた。

 

「ただいま、戻りました」

 

「お疲れさまです。皆さんの反応は如何でしたか?」

 

「理解を示してくれる者もいれば、失態を犯した我々が行動を起こすこと自体、気に入らないと発言する者もいました。正直……返す言葉もありませんが、めげずに色々と声をかけてきました。結果的に〝古道具屋の店主〟や〝魔法の森の魔女〟が協力を申し出てくれました」

 

「おや、霖之助君が」

 

「彼は以前、雑貨屋の亭主でお世話になっていたので、その関係でしょう。『必要な物があれば可能な範囲でお貸しする』と言ってました」

 

「それは心強い」

 

 提供ではなく貸すという単語をチョイスする辺りが実に霖之助らしい。右京は微笑んでから次の質問に移る。

 

「ではお言葉に甘えて色々と頼らせて頂きましょうか。もうひとりの方は魔法の森の魔女とおっしゃいましたね? もしかして……。人形師のあの方ですか?」

 

「そうです。準備をしてから出向くと言っていたので、そろそろこちらに合流すると思うのですが」

 

「もういるわよ」

 

 慧音が答える最中、彼女の後方から少女の声がした。

 声のする方向へ顔を向けると、プラチナブロンドの髪を揺らしながら歩く少女の姿が目に入った。

 つり上がっているとまではいかないが凛とした目元に碧眼の双眸を持ち、青いドレスのような服装に肩から二の腕付近まで覆う白いローブをまとった可憐な女子である。

 左手に質のよい皮で厳重に施錠された魔道書と思われる書物を携えつつ、彼女は右京の下までやってきて挨拶する。

 

「初めまして、アリス・マーガトロイドと申します。お噂は聞き及んでおります」

 

 彼女は魔法の森に住む人形使いアリス・マーガトロイドご本人である。魔法の鍛錬により人間から魔法使い(妖怪)となり、完全なる自立人形の製作を目標として日夜研究を重ねている。

 アリスの振る舞いは名家の令嬢そのものであり、右京を感心させるには十分だった。

 

「どうも杉下右京です。お越しいただき感謝申し上げます」

 

「人里にはお世話になっていますから。今回の件で参謀を担われているのですよね。状況は如何です?」

 

 妹紅と異なり、予め慧音の話を聞いていたアリスは目の前の外来人を参謀として捉えて接する。聡明な人物である、右京はそう評した。

 

「順調です。現在、稗田さんが妖怪の山で天狗の代表と会談を行い、十六夜さんが内部偵察を行うべくここを発ちました。それらの結果を踏まえ、具体的な作戦を練っていきます」

 

「なるほど。わかりました。私は魔法使いですが、基本は人形師――人形操作が専門です。突入援護や人質救出などでしたらお役に立てるかと」

 

「それは助かります」

 

 アリスはどこからともなくメイド服に身を包んだ人形を出現させ、自らの右手の中に着地させる。少女の形をした人形は右京に向かってお辞儀する。その動作はまるで人間のようで、何かで動かしているようには見えない。

 幻想郷縁起に書かれている通りの操作技術だった。

 右京は思わずにんまりする。

 

「噂通りの技術ですねえ。時間ができたら是非、お話を伺わせて頂きたいものです」

 

「かまいませんよ。私も泥棒を大人しくさせるコツをご教授頂きたいので」

 

 アリスは快く応じたものの、泥棒に困らされているのか、警察官のノウハウを聞きたいと言ってきた。

 右京は彼女の交友関係もそこそこ把握しており、アリスが言う泥棒が誰なのかすぐ理解した。

 

「おやおや、ご苦労なされているのですねえ」

 

「単にわずらわしいだけです。まぁここのところ、めっきり大人しいので助かりますけどね――これもお巡りさんのおかげでしょう」

 

「僕はただ彼女を頼っているだけですよ」

 

 実際はくぎを刺し、有能さと異常さを見せつけている影響で泥棒に及ばないのだが、右京にとってはごくごく普通のことなので自慢するに値しない。

 

「警察官の近くでは盗みを働きにくくなるからねぇ~。うちにやってきたときも盗みを働かなかったし。意外と効果あるんじゃないの?」

 

 傍から会話を聞いていたレミリアが混ざり、三人での会話に発展する。

 妖怪に物怖じせず、話を弾ませる右京を目撃した妹紅は知人の慧音を手招きして呼び寄せ、その耳元に手を当てる。

 

「なぁ、あの人間、一体何者だ? 表からきて間もないヤツが、気難しい妖怪どもとこうも打ち解けているなんてあり得ないんだが」

 

「あの方は特別なのですよ……」

 

 慧音はそのように答えるしかなかった。

 雑談を経て、アリスが有志への参加を正式に表明し、里人解放部隊の戦力がまたひとり増えた。

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