相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第111話 情報分析

 咲夜は時の止まった世界、その上空を飛翔する。

 

「くっ……」

 

 短時間で能力を酷使した彼女の身体はすでに限界だった。呼吸が乱れ、激しい頭痛に身体の自由が奪われる。

 途中から飛翔すらままならず、物陰に着地してから徒歩で合流地点を目指す。

 ヨロヨロと言うことを聞かない身体を引きずり、生い茂る木々を掻き分けること三分。ついに目印となる大樹を視界に捉える。

 

「よ、ようやく……着いた――」

 

 気が緩んだ瞬間、咲夜は力尽きるように地面へ倒れ込み、同時に能力が解除された。

 時の止まった世界が動きだしたことでマミは咲夜の姿を認知する。

 

「ん? 十六夜どのか! どうしたんじゃ!?」

 

 倒れる自身を解放するマミ。咲夜は彼女の肩を掴んで訴える。

 

「ただの疲労です。それよりも私を永遠亭に」

 

「いや、しかし――」

 

「はやく!! アイツら……想像以上にヤバいの。だからお願い」

 

「わ、わかった」

 

 なんとなく状況を理解したマミは大きな鳥に変身して咲夜を連れ、永遠亭へと向かう。

 十分後、マミは咲夜と共に永遠亭へ帰還した。駆けつけた右京らに自身が見た全てを話し、参謀に指示した情報をまとめたメモを手渡してから彼女は、優曇華に支えられる形で医務室へと運ばれて行った。付き添いのためにレミリアも離席する。

 彼女と入れ違いになるように、冥界での交渉を終えて戻った幽々子と妖夢は何が起こったのかわからず困惑してしまう。

 

 

 広間にて右京は永遠亭にいる作業中のメンバー除く全てのメンバーを招集して咲夜の情報を全員と共有した。

 

「どうやら……田端というリーダーは想像以上に危険な人物のようですね」

 

 右京が漏らした言葉に誰も異を唱えることはなく、あまりの惨状に沈黙していた。

 

「なぁ、ヤバいんじゃないか……」

 

「俺もそう思う……」

 

 魔理沙と尊が発した一言を皮きりに各々が口を開き始める。

 

 

「どう考えてもヤバいわよ……」

 

「あれほど、里人には手を出すなと言ったのに……」

 

「お父さんたち――大丈夫なのかな……」

 

 同意する霊夢に約束を破られたことで怒りを顕わにする阿求と両親を案じて今にも泣き出しそうになる小鈴。

 他のメンバーも同様で、

 

 

「人間がここまで残酷な仕打ちをするなんて」と、文が零す。マミも「一昔前の表の日本を思い出す」と零す。

 

「私がしくじったばかりに……」

 

 責任を感じた慧音が胸に手を当てる。

 

「慧音のせいじゃない」

 

 親友の妹紅がフォローするも本人には届かない。これはしばらく時間がかかるな、と彼女は思った。

 

「秘密結社……。危険すぎるわね」

 

「なんだか寒気が……」

 

 口元を押さえて考え込む幽々子に信介への仕打ちを聞いて寒気を感じる妖夢。

 

「月の衛兵たちでもそこまではしない」

 

「魔界の連中でも人間に対してもう少し優しいわ」

 

 輝夜とアリスはかつて自身が所属していた勢力と比較しても結社のほうが酷いと言った。

 誰もが結社を『過激なテロリスト』だと再認識するに至り、彼らへの対応を協議する方向へと移行する。

 

「おじさん、どうすんだよ。このままじゃ、里人がいつ殺されてもおかしくないぞ!?」魔理沙が声を荒げ、霊夢が「同感です! すぐにでも突撃すべきです!!」と続ける。

 

 他のメンバーも黙ってはいるものの『何かしらの手を打つべき』だと目で訴えている。

 彼女らに応えるべく、参謀役の右京が舵取りを兼ねて自らの考察を披露する。

 

「里の惨状に心を痛める方も多いと思われますが今後のため、ここで少し状況を整理しましょう。十六夜さんが調査してくれた情報により、田端率いる秘密結社は()()()()()()()()()()()()であると理解できます。彼らは劇場をアジトにして、稗田、火口邸などの要所を抑え、その中の人質にいつでも危害を加えられる状況を構築――妖怪の突入に備えている。全ては妖怪から干渉されない空間の形成――里の独立ために」

 

 彼の意見に尊が質問する。

 

「ぼくもそう思いますけど、いくら人間を人質に取ったって妖怪相手だとそこまで効果はないのでは?」

 

 もっともな意見であった。

 本来、絶対的な強者である妖怪が人間相手に配慮するとは思えない。普通ならばそう感じるだろう。が、幻想郷の住民たちは誰ひとり、頷かなかった。

 

 尊は周りの反応に首を傾げ、アイコンタクトで右京に説明を求めた。

 参謀は語る。

 

()()()()()()()()()()()が崩れるからです」

 

「パワーバランス……?」

 

「そうです。幻想郷は妖怪と人間の共生で成り立っている世界です。ですので人間の方々に何かあると困るのです。今はそう思って下さい」

 

「は、はぁ……」

 

 右京は具体的な説明を避け、尊を無理やり納得させるのだが、本人は納得がいっていないようだ。

 周囲の住民たちは補足するでもなく、ただ無言でそのやり取りを眺めているだけ。尊は「なんか事情がありそうだ」と察するも、これ以上の追求を避けて別の質問に移った。

 

「わかりました。じゃあ、次の質問なんですけど。結社はどうしてここまで妖怪を敵視しているのでしょうか? 奥村が殺されたからってのはわかるんですけど、それにしても異常ですよね」

 

「同じ里の連中を殺すんだからなぁ……。理解できん」と魔理沙が呟く。

 

「元々の秘密結社の目的は自分のルーツを明らかにすることです。そこが鍵だと思われます」

 

「ルーツ……。ってどういう意味なんだろう……?」

 

 霊夢の疑問に右京が答える。

 

「根源や起源とも訳されますが、この場合は()()でしょうねえ」

 

「歴史?」

 

「彼らは自分たちの歴史を自分たちの下に取り戻すべく戦っているのですよ」

 

「あん? 意味がわからんのだが……」

 

 魔理沙が肩を竦め、顔を顰める。阿求はため息まじりに説明した。

 

「彼らは私や慧音さんがまとめた歴史を否定しているのよ。それは『権力者が作った都合のよい歴史』だとね。何度説明しても聞く耳を持たず、路上演説と妖怪への特攻を繰り返してはトラブルを引き起こす。それだけでも困っていたというのに……」

 

「今回は大規模な反乱に打って出た」と、右京がつけ加える。

 

「そうとしか言えませんよね……」

 

 阿求は同意して肩を落とした。

 尊がいつものように意見する。

 

「お言葉ですが、歴史を取り戻すためとはいえ、さすがに同じ里人へここまでの仕打ちを行うってのはちょっと信じられないんですが……」

 

「結社メンバーの行動や発言を聞くに『妖怪によって歴史を隠ぺいされていて、連中を倒さなければ歴史は取り戻せない』とでも力説されたのではありませんかねえ。中心メンバーには弁の立つ奥村や強い統率力を持つ田端がいるのですから。言いくるめられたとしても不思議ではない」

 

「確かにあのふたりは他とは違うって感じでしたね。ひとりは悪知恵の働く演説家、もうひとりは民主主義を道具に使う独裁者。なんか、このふたりを足すとまんまヒトラーですよね」

 

「田端の反妖怪思想もどこか彼の思想と共通点がある。君の言う通りかもしれません」

 

「だが、演説家のほうは死亡してるぜ? 残っているのは独裁者だ」と、魔理沙が言った。

 

「そして現状、誰も田端には逆らおうとはしない。余程のリーダーシップなんだろうな」

 

「恐怖や大義という鎖で縛りつけているのかもしれませんね。小田原信介を毒殺した理由も見せしめとしての面もあったのでしょう」

 

「連中、里をまとめたら大人数で里の外を行進するって言ってましたよね。――ぼくの勝手な想像ですけど、妖怪対策の意味もあるんじゃないかって」

 

「ええ、ほぼ間違いなく」

 

「やっぱりか……」

 

 尊は口元に手を当てながらため息を吐く。

 

「どういうことです?」

 

 不安に思った霊夢が訊ねると尊は説明を行った。

 

「今、妖怪が人間に手を出せない状況にあるよね? それを利用して里人を盾にする可能性が高いんだよ」

 

「なんですって!?」

 

「少なくとも田端は里人を有効なカードとして使っていますので、自分たちの主張を通すためならば、やりかねませんねえ」と、右京も同意する。

 

「最悪、里人に爆弾とか巻きつけて行進させるなんてことも……」

 

「あり得ない――とは言えないのがなんとも」

 

「ば、爆弾!? さすがにそんなこと――」

 

「ない――とは言えないわ」

 

 霊夢が否定しようとするのを阿求が遮った。阿求もまた、その可能性を考えていた。

 周囲の有志たちも激しく動揺しており、小鈴や慧音はもちろんのことながら妹紅、アリスといった里に近い人外たちも「まさかここまで深刻な状態に陥っているとは」と、口元を抑える。そんな中、幽々子が口を開いた。

 

「このままだと里人が里外に連れ出されて危険な目に遭うわね。少し離れれば妖怪なんてあちこちにいる。こちらの言うことを聞く妖怪たちばかりじゃないからね。人を見かけたら襲って食うヤツもいる。特定の勢力に属さない野良妖怪なんてストッパーがいないぶん、すぐ襲いかかるわ。アイツら、猛獣と一緒だし」

 

「そうなれば、結社と交戦するよな……」呟く魔理沙。

 

「その際、盾にされるわね、きっと」

 

 ふたりの会話に霊夢の怒りが限界に達する。

 

「じゃあ、外に出す訳に行かないじゃない!! 今すぐに助けるべきよ!!」

 

「おいおい、人質を取られてんだぞ!? 簡単に言うんじゃねぇよ! 場合によっては家族が犠牲になるヤツもいるんだ。少しは冷静になれってんだ!」

 

「う……」

 

 珍しく真面目に怒鳴る魔理沙に皆の注目が集まる。彼女は同情されていると感じ「別に私の親父のことじゃない小鈴んとこの両親だ」と、否定して帽子を深く被った。

 拗れた関係ではあるが、親を案じているのだろう。その姿に普段、強気な霊夢も「ご、ごめん……」と謝ってから大人しくなった。

 周囲の空気が気まずくなり、無言のまま一分ほどの時間が過ぎる。

 ここで議論を止めると行動に支障をきたす。誰もが理解していたが、言葉が出せなかった。しかしながら、参謀の右京だけはプランを練っていたようで、

 

「稗田さん、里の地図をわかる限りでいいので書いて頂けませんか?」

 

「地図ですか……?」

 

「ええ()()()()()()()上で必要ですから」

 

 突入を視野に入れた計画を進めるつもりでいる。

 その言葉に阿求は息を飲みつつ、

 

「一時間ほど……お時間を下さい。詳細な地図を書き上げます」

 

「ありがとうございます」

 

「突入すんのか……?」

 

 不安げな魔理沙。右京は首肯する。

 

「結社がいつ暴走するかわかりませんからねえ。それに水瀬と土田の子分がいつまでも結社の指示に従うとは限りません。荒くれたちの集まりですからね。分裂して暴動を起こす可能性だってあり得ます。このような状況を考慮すると、今のうちから突入計画を立てておかなければ間に合わなくなる。そう判断しました」

 

「……」

 

 失敗すれば自身の家族が犠牲になる。魔理沙は咄嗟に目を背け、拳に力を込める。そんな彼女に右京はそっと微笑む。

 

「大丈夫ですよ。無茶な突入はしません。皆さんを安全に解放するための計画です。お約束します」

 

「そうか……。なんか――すまないな、その、色々と」

 

 またもや珍しく感謝を表す魔理沙に霊夢とアリスは目を見張って「珍しいこともあるものね」と、感嘆する。気まずくなった本人は再度、帽子で顔を隠した。

 それから右京はこの場を相棒に任せ「十六夜さんの様子を見てきます」と広間を離れ、医務室へと向かった。

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