相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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作者は刑事物の小説は初めてなので、拙い部分が多くなるかも知れません。
ご了承下さい。



第11話 杉下右京の実況見分

 殺人事件と聞いて霖之助は激しく動揺した。

 

「これは野犬による仕業ではないのですか……?」

 

「ええ。遺体には刃物を防いだとされる防御創がいくつか見られます」

 

「刃物……? 爪痕では?」

 

 霖之助は吐き気を催しながらも遺体に目を通す。

 遺体の左掌と両腕には鋭利な物で切り裂かれた痕が残っているが、それだけで断定出来る物ではないと霖之助は考える。

 右京は左掌の切り傷を指差す。

 

「よく見て下さい。刃の破片が残っています。恐らく、犯人と揉み合う最中、固い何かにぶつかった衝撃で刃こぼれを起こしたのでしょう」

 

 右京は左掌をスマホで撮影してからカバンの中に入っている手袋とピンセットを取り出し、遺体に余計な痕跡を付けないよう、破片を回収。小型のビニール袋に保管する。

 その手際のよさに霖之助は「さすが表の刑事だ……」と息を飲んだ。

 次に彼は鴉に啄まれた頭部を見やる。

 うつ伏せで倒れている敦の後頭部には出血した痕跡が見られた。

 遺体周辺を荒らさないよう、そっと頭部へと回り込む。

 後頭部の下には野球ボール程度のゴツゴツした石が半分埋まっており、血がベッタリ付着していた。

 

「直接的な死因は後頭部を殴打したことによる脳挫傷でしょうか」

 

「首や喉付近にも切り傷が付いてますが……?」と霖之助。

 

「確かに付いていますが、どれも浅く致命傷にはなりえないでしょう」

 

 霖之助の指摘通り、首筋や喉周辺にも切り傷らしい物が存在した。

 刑事の見立てでは傷は浅く、致命傷には至らないだろうとのことだ。

 霖之助は「なるほど……」と呟く。

 口元を抑える霖之助に右京がある頼みごとをする。

 

「霖之助君、至急、上白沢先生のところへ行き、ここに人の遺体があると伝えて人手を寄越すように言って下さい。できれば医療に携わる人も連れてきて貰えると助かります」

 

「僕がですか!?」

 

「他に誰かいますか?」

 

 厄介事に巻き込まれるのが嫌いな霖之助は自分から率先して動こうとはしない。

 右京はそれを見越して先手を打つ。

 

「彼は表の世界から来たとはいえ、人里で受け入れられ、酒場で働く明るい青年でした。交友関係も広く、顔見知りも多いと思われます。そんな彼が帰らぬ姿で見つかったのにも関わらず、遺体の第二発見者となった君が知らん顔だったなどと知れたら人間性が疑われますよ?」

 

「うっ!?」

 

「そういうことです。お願いします」

 

「……はい」

 

 右京は有無を言わさず、霖之助を慧音のところへ行くように仕向けた。

 ハーフの青年は軽くため息を吐くも正論過ぎて反論できない。

 クルリと背を翻して里に向かおうとする霖之助に刑事が更なる注文を付ける。

 

「それと、ついでに六十尺程度であまり太くない縄を持ってきて下さい」

 

「……わかりました」

 

 霖之助は損な役回りだと思いつつも、里へと急いだ。

 右京はその間、スマホで遺体の写真を撮っていた。

 かなりグロテスクな遺体だったが、顔色一つ変えずに作業を続ける。

 その目には敦への憐みと犯人への怒りが込められていた。

 

 ――十分後、話を聞いた慧音と複数の若者達が駆けつける。

 この惨状に慧音は言葉を失う。

 

「敦君……どうしてこんなことに――」

 

 慧音は悔しさを滲ませる。

 自分が助けた子がまさかこんな形で亡くなるとは思っていなかった。

 酒屋でいつも舞花と夫婦漫才をしていた彼はもう居ない――居ないのだ。

 彼女は右拳を近くにあった木に激しく叩きつける。

 荒れる慧音を尻目に右京は霖之助が持ってきたロープで遺体の周辺を囲むように木々に固定していく。

 

 慧音が絞り出すように訊ねる。

 

「杉下さん……敦君は……本当に……誰かに殺されたのですか……?」

 

「はい、誰かと争った形跡があり、かつ左掌から刃物の破片が出てきました。間違いないかと」

 

「そう、ですか……」

 

 慧音はショックを隠し切れない。

 気遣い程度に右京が「お気を確かに」と話しかけたが反応はない。

 その後、刑事は鑑識レベルとまでは行かないが、的確な手順で現場の調査と保存を行った上で若者たちに周囲を荒らさないように遺体を移動させ、麻袋で覆わせてから担架に乗せて、村の診療所まで運ばせる。

 残った霖之助と慧音に和製ホームズは遺体現場から発見した情報を伝える。

 

「お二人とも、よく聞いて下さい。敦君の死亡推定時刻は大体、深夜一時から二時の間だと推測できます」

 

「死亡した時間!? そんなのまでわかったんですか。この短時間で?」

 

 驚く霖之助に答える。

 

「大まかではありますが、死後硬直や死斑などで割り出しました」

 

 そう言って右京が続ける。

 

「僕たちと魔理沙さん、霊夢さんが酒場を出たのは二十三時頃です。その際、敦君は舞花さんと一緒に僕たちを見送りしてくれました。その後、三時間以内に敦君は殺されたとみていいでしょう。僕は舞花さんにお話を伺いに行きます。申し訳ないのですが上白沢さん――どこか空いている小部屋等を貸して頂けないでしょうか?」

 

「小部屋……ですか?」

 

「事件の考察をするにも外ではやり辛いので……。お願いできますか?」

 

「わかりました……。用意します」

 

「それと霖之助君」

 

「はい?」

 

「重ねて申し訳ないのですが、魔理沙さんと霊夢さんを呼んできて貰えませんか?」

 

「え?」

 

 霖之助は戸惑う。また自分なのか? と。

 

「今回の事件は里のすぐ近くで起きました。ですが、犯人が人間か妖怪かまでは判別しかねます。そこで対妖怪専門家である彼女たちの意見がどうしても聞きたい――ですので、呼んで来て下さい」

 

「え……あ……」

 

 霖之助は断ろうとも思ったが、落ち込んでいる慧音の姿が目に入り、断り辛くなって渋々了承する。

 

「わかりました……」

 

「どうもありがとう」

 

 礼を述べ、右京は舞花のところへ向かう。


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