相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第122話 幻想狂想曲 その9

 十七時。日没まで残りわずか。

 

 里を監視する優曇華がソワソワしだす。

 

「そろそろ私の出番か」

 

「頑張ってくださいね!」

 

 真剣な眼差しで優曇華の両手を握る文。

 優曇華は心底めんどくさそうに。

 

「アーハイハイ、ガンバリマス」

 

 失敗したら後がないのは理解しているが、小狡い記者から熱血系にジョブチェンジとかマジ勘弁。

 そう思いつつも居場所を失うリスクを理解している優曇華は何だかんだで突き離さず、文の愚痴につき合ったりと面倒見のよさを垣間見せた。

右京に与えられた任務の一つは彼女の役割は波長を操って敵の見張りから仲間を隠すことだった。そして、もう一つは――。

 

「行ってくる」

 

 優曇華は波長を操り周囲に紛れ、いずこかへ姿を消した。

 

 

 ――カァカァ。

 

 咲夜たちが待機する場所に一羽の鴉が舞い降りる。

 足にまきついた紙を妖夢が解く。

 

「優曇華さんが動いたようです」

 

「なら私も動かないと」

 

 懐中時計を取り出して能力を発動させようとする咲夜を妖夢が心配する。

 

「大丈夫ですか? まだ身体が……」

 

「お嬢さまが頑張るというのにメイドの私がサボる訳にはいかないの。ここはあなたに任せます。いい?」

 

「えぇ、わかっていますよ」

 

 妖夢が喋り終わるのと同時に彼女は空間制止能力を発動させる。

 辺りの空間から次第に動きが失われ、数秒後には完全に世界が止まった。

 

「特に問題ないみたいね」

 

 身体にかかる負担もなく、いつものように動かせる。

 月の賢者の力がなせる技だ。

 ふと、隣を見ると不安げな表情の妖夢の姿が目に映る。

 

「心配してくれてありがとう」

 

 感謝を述べた彼女は静かに歩き出した。

 

 

 夕暮れ時とあって司令部にも有志たちが続々と集結する。

 阿求、小鈴、慧音、永琳、輝夜はもちろん、レミリアとパチュリーの姿もあった。

 監視役と工作員以外の全戦力が集まる中、右京は彼女らに向かって宣言する。

 

「作戦を次の段階に移行します。今日で勝負が決まるでしょう」

 

「いよいよですか……」緊張で胸を押さえる阿求。

 

「これでお父さんたちが」落ち着かない小鈴。

 

「皆、待っていてくれ」里を案じる慧音。

 

「指定された薬は全て持ってきたわ。できる限り使わなくて済むことを祈る」永琳が言った。

 

「私のカリスマを世に知らしめる」余裕のレミリア。

 

「間違ってもペースを乱されないでね」パチュリーは念を押す。

 

「私はお外で頑張るから中は任せたわよ」幽々子が口元を可愛く押さえる。

 

「泣いても笑っても勝負は一回っきりね」と輝夜が零す。

 

「力んでも仕方ない。気楽にいこうか」割り切った言い方をする妹紅。

 

「今日のあたしは船頭ならぬ運び屋さ。こうなったらどこへでも運んでやる」小町は開き直った態度と共に夕日を眺めた。

 

 作戦実行に必要な条件は整った。最後は皆のチームワークそして運にかかっている。

 数分後、夕日が沈み始め、里周辺が一気にうす暗くなる。

 尊が言った。

 

「もうちょっとで日没です」

 

「ええ」

 

 右京は真顔でその時を静かに待つ。

 そして、夕日が沈む。日没は間近。ここまでくれば問題ない。

 レミリアは黒翼を大きく広げた。

 

「本物の妖怪というものを見せてくる」

 

 瞬間、無数の蝙蝠に分裂したレミリアが漆黒の空へと飛び立った。

 

 

 密会場所となる劇場。そのホールの檀上にはテーブルと椅子が用意されており、田端が席に着いてレミリアを待っていた。

 彼は近くにいた部下に訊ねる。

 

「配置は?」

 

「劇場に十二名の武装したメンバーを配置しました。残りは重要施設の見張りを担当しています」

 

「もし、妖怪が攻めてくるようなことがあれば人質を盾にしろ。場合によっては殺してもいい」

 

「よろしいんですか……あんなに慎重だったでしたのに」

 

「構わん。密会が罠だったということだからな」

 

 この状況で妖怪が攻めてくるなら密会を含めて罠だったということになる。

 ならば見せしめとして稗田派閥の人間を殺すほかない。これは不満がたまっている部下への配慮でもあった。

 

「見張りに伝えます」

 

 指示を受け取ったメンバーが外へ出て行く。

 

「吸血鬼はまだか?」

 

 里は日没を迎えた。吸血鬼は何をしている。

 まさか手紙は嘘だったのか。など、色々なケースを想定する。

 

「罠の可能性も捨てきれんか――」

 

 ――何が罠だって?

 

 田端の呟きをかき消して会場に謎の声が響く。

 驚きのあまり椅子を飛ばしながら立ち上がるが。

 

「蝙蝠!?」

 

 メンバーのひとりがどこからともなく会場に侵入してきた無数の蝙蝠に驚く。

 その黒い塊は空中を縄のように泳ぎ、田端の向かい側の椅子を覆い隠すように取り囲む。

 何が起きているのかわからない田端とメンバーたちはただ茫然としている。

 数秒後、黒い渦の中心に紅い眼を持った吸血鬼が姿を現す。

 

「結社の代表か?」

 

 ピンクのドレスにお洒落なナイトキャップ、身体に見合わぬ漆黒の大翼に緋色の蛇眼。レミリア・スカーレット本人のお出ましである。

 

「きゅ、吸血鬼ッ――」

 

 圧倒的威圧。

 彼女は自身の周りに紅い霧や稲妻とも思えるオーラを火花のように弾けさせていた。

 紅魔館で右京と対面したときのような生易しいものではなく、交戦も辞さないとの意思表示に取れる禍々しい風貌である。

ひとりのメンバーが火縄銃に弾を装填しようと腰に手を伸ばすも。

 

「止めておけ。それじゃ私は倒せんよ」

 

 顔を向けずとも相手の行動を把握して言葉で牽制されたことで彼はビクついて弾を落としてしまうが、誰もそれを咎めようとはしなかった。いや、できなかった。その圧力が凄すぎて。

 

 そんな彼女を一言で言い表すならば絶対強者が相応しいだろう。

 田端は本物の最上級妖怪の登場に息を飲む。弁論なら何とかなる、口論で負かしてやろうなど無謀もまた無謀だったのだ。

 人間と妖怪の差を理解した田端は奥歯をギリギリと噛み締めながら心底、悔しがった。

 そんな人間の様子に満足したのか軽く鼻を鳴らしたレミリアが挨拶した。

 

「初めまして、私が紅魔館の主、レミリア・スカーレットである。人は私を緋色の悪魔と呼ぶ。さて、今一度問おう――君が結社の代表かね?」

 

 口調をより紳士的にした外交モードのレミリア・スカーレットのカリスマはいつも以上に際立っていた。

 

「あ……ぁ――人里の、夜明け――代表の……田端直樹だ……」

 

 負けじと返すも、その歯切れ悪さに自分が情けなくなった。

 実力差がありすぎた。わかっていたことだが、喋るだけでここまで気圧されるなど、想定外だった。

 気の利いた言葉を使って対等感を出したいが、言葉が詰まって何もできない。

 相手の状態を見透かしたレミリアが言った。

 

「無理をするな。私と対峙して逃げ出さない時点で見どころがある。落ち着くまで待ってやろう」

 

「くッ――」

 

 傲慢なレミリアの態度に田端の反骨精神が触発された。

 

「その必要はない! 準備はできている!」

 

 自らを奮い立たせるような言い方だったが、それが部下たちにも伝播し「そうだ、そうだ」と、コールがちらほらと出てくる。

 敵が息を吹き返してもレミリアはどこ吹く風で、

 

「ふむ。妖怪に挑もうとするその心意気――気に入った」

 

 優雅に脚を組んでから不敵に笑った。

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