相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第123話 幻想狂想曲 その10

 レミリアと結社の話し合いが始まったのと同じ時刻。

 一匹の蝙蝠が大通りをレースでもするかのように駆け抜ける。

 結社のメンバーたちは身構えるも「なんだ、ただの蝙蝠か」と、特に関心を寄せなかった。

 それを裏路地で確認した工作員のマミが「作戦開始じゃな。皆、上手くやろうぞ」と笑みを浮かべながら姿を消した。

 

 

 日没後、水瀬は自室でひとり阿求の助けを待っていた。

 

「早ければ二日後には攻めてくるんだよな……あー、ご当主ぅ。早く助けに来てくださいよー」

 

 そのタイミングで窓が不自然に震える。

 

 ――コンコン。

 

「ひぃ――」

 

 まさか妖怪が攻めてきたのか? パニックになった水瀬は言葉を失う。

 しかし、それは妖怪ではなく、

 

 ――稗田の使いの者です。水瀬さまにご当主から言伝を賜ってまいりました。

 

「へ……?」

 

 まさかの使者に唖然とするが続けて。

 

 ――緊急の報告です。どうか開けてください。

 

 緊急。その言葉で背中に悪寒が走った彼は恐怖しながらもソロソロと窓を開けた。

 外から入ってきたのは外套に身を包み、顔を唐笠で隠した使者だった。

 使者はすぐさま用件を伝える。

 

「ご無事ですか?」

 

「ん? あぁ、それなりには……。で、緊急の報告って?」

 

「心して聞いてください。今日の夜、妖怪が里を襲撃します」

 

「な――」

 

「お静かに」

 

 声を上げようとする水瀬の口を使者が抑える。

 

「ん、ん――(わかった)」

 

「ですが、稗田さまが知り合いのツテを頼りに妖怪勢力と交渉した末、特定の施設だけは襲わないという合意がなさました。もちろん水龍会も含まれています」

 

「んん、ん(ホント!?)」

 

「ですから、ここに水龍会の構成員を集めてください。できるだけ静かにそして迅速に」

 

「んん(わかった)」

 

 口をふさがれたまま、水瀬はウンウンと頷く。

 

「皆さんを呼び出す際は今後について話し合うための会議とでも称するのがいいでしょう。念のため、集め終わったら合図を出してください」

 

「ん~ん?(合図?)」

 

「はい。ご当主が水瀬さまのことを大層、心配なさっていたので。合図はこの部屋の明かりを五秒ほど消してからつけ直す。で、どうでしょう?」

 

「ん……んんっ(わかった)」

 

「よかった。水瀬の構成員が全員無事ならご当主も喜ぶでしょう。それではよろしくお願います」

 

 水瀬が了承すると使者はすばやく窓から出て行った。

 ようやく口を開けるようになった水瀬は深呼吸した後、

 

「あー、しんどかった……。しかっし妖怪がくるとはなぁ……。ご当主が報せてくれんかったらヤバかったかもな」

 

 特に疑うこともなく彼は会議の名目で水龍会構成員を自宅に集めるために指示を出した。

 

 

 土田邸には自室に引き籠る土田と彼を警護すると数名の見張りがいた。

 

「心細いなぁ。とはいえ、風下の見張りを減らすのも危険だしな。でもこのままだと代表が戻ってきた際に風下のババアが告げ口するだろうし。天狗の襲撃時のどさくさに紛れて……」

 

 消しておくか。奪った日本刀を鑑賞しながら、ろくでもないことを考える土田だったが、自らの手で殺すとなると面倒なので、妖怪辺りの攻撃で死んでくれればいいなと願うにとどめた。

 そこにも同様に。

 

 ――コンコン。

 

「な、なんだ!?」

 

 音に驚いて咄嗟に刀を構えるが、

 

 ――土田さま、いらっしゃいますか? 稗田の使いの者です。

 

「あぁん……つ、使いの者?」

 

 ――ことは緊急を要します。どうか中にいれてください。

 

 なんだ、稗田の使いか。刀を部屋の隅に立てかけ、顔の見えない相手の言葉を信じて扉を開ける。

 先ほど同様、外套と纏った使者だった。

 使者は土田に招かれるように書斎へ入る。

 

「ご当主が心配しておりました。お体のほうは大丈夫ですか?」

 

「おう、大丈夫だ。ところでその緊急とは一体なんだ?」

 

 土田は気丈に振る舞って質問する。

 

「静かに聞いてください。今夜、里を妖怪が襲撃します」

 

「な、何じゃ――」

 

 すかさず、土田の口元が抑えられた。

 

「ご安心を。土田家は狙われません」

 

「もご!?(本当か!?)」

 

「ご当主が妖怪勢力と話し合った結果、そのようになりました。なので、ここに構成員を集めて頂きたいのですが……。見たところ数が少ないですね。どちらにいるのですか?」

 

 質問後、使者が口元から手を引くと、土田が早口で答えた。

 

「そ、それは皆、自宅で待機しているんだ。こんな状況だしな。当然だろ」

 

 残りの子分を風下家の監視にあてているとはいえず、上手く誤魔化した。

 

「ここにいる見張りの方の人数はいかほど?」

 

「む? そんなことを聞いてどうする?」

 

「ご当主に訊いてこいと言われました。案じていらっしゃるのでしょう。土田さまは里に必要な方ですから」

 

 里に必要な方。その一言に気をよくした土田は顔をニッコリさせた。

 

「ほうほう、そういうことか。えーと、確か五人くらいだったな」

 

「外のふたりを含めてですか?」

 

「そうだ。中の連中は広間で待機しているはずだ」

 

「いざというとき、隠れるところも必要ですね。この家にそういったスペースはありますか?」

 

「スペース? あぁ、使っていない押し入れがある。最近、掃除したばかりだから綺麗だぞ。人間なら五人~六人くらい入るぞ」

 

「……構成員の数は二十人程度でしたよね?」

 

「おう、そんなところだが」

 

「その名簿はありますか?」

 

「あるぞ、ここに」

 

 土田はトントンと机の引き出しを叩いた。

 

「住所も記載されていますね?」

 

「そうだが?」

 

「見せて貰っても」

 

「構わんが、そこまで確かめるように言われたのか?」

 

「はい。心配なので」

 

 些か、不満に思うが阿求の頼みとあっては従うのが一番。彼は使者に名簿を見せる。

 紙に書かれた内容に目を通すと、独り言のように。

 

「名簿数は代表を含めて二十二人。うち五人がここにいる。体調を崩してお休みになれている方はいますか?」

 

「一人だけ風邪をこじらせて寝込んでいるな」

 

「自宅ですか?」

 

「恐らくな」

 

「ちなみにお名前と自宅の場所は」

 

「えーと、向井っていう若造だ。自宅は寺子屋の真裏に立ち並ぶ貸家の真ん中だ」

 

「貸家の特徴は?」

 

「並ぶ貸家で一番小さい。見ればわかる」

 

「なるほど」

 

 考え込む使者を見てさすがの土田も怪しさを覚えた。

 

「なぁ、細かく聞きすぎじゃないのか? いくら心配だからって――」

 

「現在、風下家にいる人数が十五人で寝ている子分がひとり。代表を合わせて二十二人――ちょうどですね?」

 

「あぁ、風下には残りの奴らが見張りに行っているからな。その計算で合っている……。ん、お前、どうしてそれ――」

 

 刹那。

 

 ――ドカッ!

 

 目の前から使者の姿が消え、土田の後頭部が何かで殴打された。

 土田は一瞬で意識を失い、その場に音を立てて倒れた。

 本来なら音に気づいた見張りがやってくるはずだが、駆け込んでくるような足音は聞こえない。

 使者は誰もいない扉に視線を投げる。

 

「そっちも終わっていたみたいですね?」

 

「気づいておったか」

 

 マミが書斎の扉を開けて入ってきた。

 

「屋敷の連中は皆、気絶しておるわい」

 

「ふふ、さすがですね」

 

 もう不必要といわんばかりに頭を覆うローブを取ると、美しい銀髪の髪が宙に舞った。

 

「そっちも調子がよさそうで何よりじゃ。メイドどの」

 

 土田を騙した使者は咲夜であった。

 

「土龍会の構成員は寝込んでいるひとりを除いてここと風下家に集まっています。私は気絶した連中を拘束して押し入れに閉じ込めます。手伝ってください」

 

「わかった。それが終わったら手筈通り、風下家へ行くぞ」

 

「はい」

 

 ふたりは手際よく土田と子分を拘束し、押し入れに放り込んでから土田家を後にした。

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