相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第124話 幻想狂想曲 その11

 劇場ではレミリアと田端の話し合いが始まっていた。

 最初こそ出鼻を挫かれたが、徐々に調子を取り戻した田端が得意の持論を展開する。

 

「稗田阿求は妖怪と組んで里を支配してきた。妖怪三匹が肩を持っていたのが何よりの証拠だ」

 

「ひとりは半人半妖だ。どちらかといえばお前たちの立場に近いと思うが」

 

「あれは妖怪の手先だ。歴史に関する能力も里の支配に使っている」

 

「証拠は?」

 

「本人が能力を使っていると語っていた」

 

「悪用していないと聞いたが」

 

「妖怪の言い分は信用できない。こちらが確かめられないのをいいことに好き勝手やりだす。今回の件だって里の体制を変えさせないように他の妖怪が出張ってきた訳だしな。……お前を含めた妖怪全員が自己中心的な快楽主義者の集まりだよ」

 

「ほうー、快楽主義者とは。言ってくれる。だが自己中心的というのはお互いだろう? 目的のために同族を殺した時点で」

 

「稗田に協力する者は妖怪側だ。裏切り者は死んで当然」

 

「なら今、自由を奪われて苦しんでいる大勢の里人についてはどう思う?」

 

「必要な行為だ。里が独立するためのな」

 

「それが民主主義なのか?」

 

「革命が起きるときは必ずこうなるんだ。歴史を見ればわかる。平和的な交代が行われるなんて稀だ。戦いには血が伴う。未来はその先にしかない」

 

「歴史、か。……どこで知った?」

 

「……寺子屋だ」

 

「本当か?」

 

「どこでもいいだろ。気になるのか?」

 

「気になるさ。その情報と表のツールをどうやって入手したのかとな。写真やスマホ、それに表の知識――今回の革命にどれも欠かせない。戦い方も表のやり方そのものだ。参考ついでに教えて欲しいのだ」

 

「教えたら協力してくれるのか? だったらいいぞ」

 

 レミリアは首を横に振った。

 

「それは約束できんな」

 

「何故だ?」

 

「まだ信用するには至らない。もう少し話をしないことにはな」

 

「同感だな。俺もアンタがここきた理由がわからん。俺たちに理解を示すと言ったが、どの辺りに理解を示した?」

 

「弱い立場の者が強者へ挑んでいく姿、だろうか。実に人間らしい生き方だよ」

 

「前代表を殺されたからな。当然だろ。しかし理解を示した場所がそことはな。つくづく快楽主義者だな、お前は」

 

「どの辺りが?」

 

「俺たちが必死で行動している姿を見て楽しんでいるんだろ? 本当に妖怪らしいよ」

 

「伊達に吸血鬼と呼ばれていない」

 

「――ッ!? ふざけるなッ! お前らのせいでどれほど人間が不自由を強いられていると思っている!! 里から外に出れば妖怪に食われるリスクがつきまとう! 生活のために外に出て死んだ人間もいるんだぞ!! いくら他人ごとだからって言ってもなぁ、俺たちからすれば屈辱なんだよ!!」

 

「だから里から妖怪勢力を排除したのか?」

 

「そうだ! 人間が妖怪の食いものになるのは耐えられんからな!」

 

「里の中では妖怪は人間を襲わないが?」

 

「襲われないのは里の中だけだ。里の外におびき出せばいくらでもやりようがあるだろ」

 

「そのために巫女がいる。何でも屋の魔法使いだっている」

 

「妖怪と宴会するようなヤツを味方だと信用しろってか? 無理は話だ。アイツらこそ妖怪の手先だよ。もしくは裏切り者だ」

 

「裏切り者ねぇ……。あれもあれで結構、仕事をしてると思うが」

 

「お前が肩を持つ時点で怪しい。どうせ八百長さ。スペルカードなんて妖怪のお遊戯だろ? 幻想郷が壊れないように制限を設けているだけのな」

 

「お遊戯か。ふふっ、いい表現だ」

 

 図星を突かれて思わず笑ってしまうレミリア。田端は彼女を憎々しげに睨むも、吸血鬼は一切動じない。強者の余裕である。場の空気がより険悪になった。

 

「人を馬鹿にして! 所詮、俺たちは弱い生き物だからな。食糧くらいにしか思っていないんだろ!」

 

「私は血を飲めればいいがね」

 

「血を飲まなきゃ生きていけない化け物が!」

 

「格下の動物の肉を好んで食う君たち人間に言われたくないな。美味しいだろ()()()は?」

 

 したり顔で言い返され、田端の怒りのボルテージが上がっていく。

 

「この人外どもがぁ!!」

 

 田端は身を乗り出して叫び散らした。

 その態度が気に障ったレミリアが、

 

「わめくな、人間」

 

 ほんの一瞬だけ、殺気をばら撒いた。それは会場にいる全ての人間の心臓を串刺すような、するどく尖った槍そのもの――かつて串刺し死体の山を見せられ、恐怖に怯えた敵兵のように田端は震える。

 

「くっ――」

 

 椅子を後方へ蹴飛ばしたことも気づかず、後ずさりする田端。客席にて警備するメンバーたちも同様に恐怖している。

 レミリアは周囲を一瞥してから、田端を視界に捉えて手招きする。

 

「座りたまえよ。話を続ける気があるなら」

 

 挑発的な態度と共に格の差を見せつけるレミリアに再び田端の反骨精神が刺激された。

 

「わかっているッ!!」

 

「よろしい」

 

 負けず嫌いなのか独立へのこだわりなのか、彼は脅されながらも必死に食い下がる。反対にレミリアはどこか愉快げであった。

 

 

 密会開始から十五分。水瀬は使者の指示通り、子分を招集終える。

 集まった子分たちを確認しながら、水瀬は訊ねる。

 

「おい、全員集まったか? 戸締りはしたか?」

 

「はい、集まりました。戸締りもしました」

 

「誰にも気づかれてないか?」

 

「里中の見張りの数が少なかったので、特に気づかれはしませんでした」

 

「ほーう。そうかそうか。それはよかったわ。難癖つけられると面倒だからな」

 

 全ては自分の思い通りに運んでいる。

 やらしい算段と共に水瀬の口元が綻ぶ。

 子分どもは首を傾げるも考えるのは面倒なのでただ指示に従うことにした。

 

「お前ら、俺はちょっと書斎に行ってくる。ここで待っとけよ」

 

 点けっぱなしの書斎の明かりを消しに広間を離れる。

 歩いて一分で扉を開けた水瀬は窓を少しだけ開き、使者から光の点滅がよく見えるように気を回した。

 

「消すぞ。ちゃんと確認しろよ」

 

 水瀬が明かりを消した。

 暗い空間の中、五秒というのは精神的に堪えるが、これも自分の身の安全のため。

 

「1……2……3……4……5っと――」

 

 口に出して秒数を数え、再び蝋燭に火を灯した。

 明かりが点いて部屋の中が光で照らされる。

 それを物陰から見ていた使者が鼻を鳴らしながらこう言った。

 

「はい、ご苦労さま」

 

 目元を押さえながら、紅い魔眼を滾らせて彼女は周囲の波長を操った。

 

「狂気に狂うがいいわ――」

 

 すると、邸内にいる水瀬を含めた全員が一斉にその場に崩れ落ちる。

 彼らは目まいを感じた訳でも恐怖した訳でもない。ただ――。

 

「「「あーやる気でねぇー」」」

 

 やる気を喪失しただけ。

 しかしその場から動けないほどの脱力感で思考すら奪う。

 こんな芸当が可能なのは有志内にただひとり。

 

「月の兎にかかれば楽勝よ」

 

 優曇華だ。波長を操る力で水龍会戦力の無力化に成功したのだ。

 たった一瞬でこの制圧力。実に見事である。

 

「さて、次の仕事っと」

 

 彼女は闇にまぎれて消えた。

 

 

 時開けず、風下家の玄関がドンドンと叩かれた。

 

「儂じゃ、開けてくれー!」

 

 聞き覚えのある声に見張りが慌てて扉を開ける。

 

「親方!? どうしてここに?」

 

 土田家の当主が風下家を訪れたのである。

 

「そんなことはいいから、早くこの屋敷内の見張りを集めろ。緊急で伝えることがある」

 

「は? それって一体――」

 

「いいから早くしろ! 間に合わなくなる! 緊急なんだよ!」

 

 人の話を聞かず、自分の意見だけを喋る。いつもの当主だ。

 嫌々ながらも玄関の見張りが「下の奴らに集めさせます」と、答えて部下を動かした。

 土田は玄関からそのまま邸宅へ上がり込む。

 

「早く集まらんかい!」

 

 周囲を急かしながら部下が集まるまで騒ぎ続ける土田を皆、睨みつけるが仕方なく従った。

 十分後、息子を含め総勢二十名の人員が集まった。

 小太りの親父に比べ、筋肉質で体格のよい息子が首を傾げた。

 

「親父、いきなりなんだってんだよ? 俺まで呼び出してさ。こっちは指示通り動いていたんだぞ」

 

 当主の息子は人質役にも関わらず、土田の命令で影から子分たちを監視する役目を担っていた。

 そんな息子の言い分を跳ね除けながら土田は訊ねた。

 

「ここにいる人間で全員か? 他にいないヤツはいないか?」

 

「あぁ? いねぇよ! 言われた通り、集めたっての!」

 

「ほう。そうか、そうか」

 

「で、緊急の話ってなんだ? まさか、今から妖怪が攻めてくるのか?」

 

「そうだ、よくわかったな!」

 

「はぁ!? もうちょっと先じゃねぇのかよ! こうしちゃいられねぇ!」

 

「待たんかい」

 

 急いで部下に指示を出そうとする息子を土田が制止した。

 

「はぁ? なんでだよ、ここに妖怪が来たら終わりじゃねぇか!? その前に対策を考えないと――」

 

「いや、もう遅い――」

 

 直後、土田の顔がドロドロと溶けだした。

 

「おい、どうしたんだよ、親父ぃぃ!! その顔ぉぉ!!」

 

「ん、これか……これはな」

 

 溶けだした一部を右手で払うと、そこには女の顔とおなじみの眼鏡が姿を現した。

 

「変化の術じゃよ」

 

 マミが正体を現した。

 誰もが動揺して動けない中、マミは合図が出す。

 

「メイドどの、今じゃ――」

 

 その瞬間、この場にいた全ての子分たちが糸の切れた人形のように倒れ込み、ピクリとも動かなくなった。

 こちらも咲夜がみねうちして気絶させたのである。

 作業を終えた時を彼女はマミの隣に出現したのと同時に手に持った縄を渡す。

 

「病み上がりだから手伝って」

 

「うむ……」

 

 この拘束作業は地味に面倒だ。まずはボディチェックを行い、丸腰にして両手と両足、口、場合によっては腕と胴体まで縛る。意外と疲れるのでマミとしてはやりたくないが、咲夜がサボらせてくれそうもないので渋々、つき合った。

 拘束を終えたマミが野鳥に変身して外へ状況を報せに行き、咲夜は子分たちの監視を行う。

 五分後、司令部に着いたマミが右京に報告する。

 

「土龍会の制圧が完了した。水龍会のほうは?」

 

「そちらも優曇華さんが無事無力化してくれました」

 

「ならば、次は……」

 

「えぇ」

 

 右京は鴉や狸たちを呼び寄せて文字の書かれた紙を撒きつけた。

 

『二家無力化成功。すみやかに見張りを倒して侵入を開始。指定した主要施設を制圧せよ』

 

 鴉と狸は指令を受け取るとすぐさま駆け出す。

 参謀は笑う。

 

「さて、僕たちの出番も近いですね」

 

「はい」

 

 返事をした尊は右京から預かった日本刀を左腰に据えた。

 他の有志たちもすでに準備を終えている。後は霊夢たちが里入口と稗田邸周辺の見張りを倒して条件を整えるだけ。

 マミが彼女たちの様子を見に司令部を離れる。

 数分後、戻ったマミが「霊夢たちが周囲の見張りを無力化したぞ」と報せを入れる。

 右京がメンバーをほうを向いて告げた。

 

「皆さん――準備が整い次第、突入します」

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