相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第125話 幻想狂想曲 その12

 会場では話し合いが続いていた。

 パチュリーの予想通り、歴史問題についての話題が出た。

 レミリアは彼女の考えた模範解答をそのまま田端への返答とした。

 

「――以上のことから妖怪側が権利を持っていると判断できる。君たちの言い分を聞く道理はないのだよ」

 

「ッ――。アンタも同じ認識か」

 

 阿求や慧音と同じ理屈で人間を不当に扱うか。

 ただの人間である田端に到底納得できるものではなかった。

 

「その歴史は妖怪が作ったものだろ。人間側が関与できないのだからな!」

 

「稗田阿求は人間だろ?」

 

「アイツは妖怪の仲間……。もしくは閻魔の手先の――人外だ」

 

「人外?」

 

「そうだ、人間の癖に前世の記憶を持っている時点で化け物だ」

 

「となると閻魔が化け物を里に送り込んでいることになるが。あれは人間の味方だと思うが?」

 

「味方……。はッ、違う。幻想郷を存続させるために人間を犠牲にする閻魔など、妖怪と同類だ。俺は認めない」

 

「ついに閻魔にまで喧嘩を売るか……」

 

「あぁ、売ってやるとも! 人間が不当な目に遭わなくなるまでな!」

 

「それはどういった状況だ?」

 

「妖怪から干渉を受けず、安全に外を出歩けるようになるまでだ!」

 

「さっきも言ったが、ここは妖怪の勢力圏だ。干渉を受けないなんて不可能だよ」

 

「だとしても、里の周辺に妖怪が近づかないようにはできるはず」

 

「お前の言う周辺とは?」

 

「最低でも運河までは保障してもらう」

 

「数キロ以上あるな。狭い幻想郷でそれは無理だろうよ。妖怪にも生活があるからな」

 

「俺たちにも生活がある!」

 

「妖怪にもあるってもんさ。我儘言うんじゃない」

 

「我儘だと!? 妖怪に養分を供給してやっているのはどこの誰だと思っている!!」

 

「幻想郷の維持に尽力しているのはどこの誰だと思う? 我々、妖怪だよ」

 

「なんだと!?」

 

「お前だってわかっているはずだ。幻想郷の賢者が結界を貼らねば今ごろ、表の近代化に飲み込まれたってことを。その後、この里はどうなったと思う?」

 

「表の一部になった、とでも言いたいのか!?」

 

 レミリアは首を横に振った。

 

「第二次世界大戦で悲惨な目にあったと言いたいんだよ。お前だって授業で習ったはずだ。表の国々がどのような結末を迎えたのか」

 

「……」

 

 あれほど騒いでいた田端が無言になる。知っているのだ歴史を。

 

「結果的に博麗大結界は正しかった。あれがなければこの隠れ里は政府に発見されて表の一部となった。そして大勢の男どもが国のために戦わされて悲惨な最期を遂げた。それは、それは深い傷跡を残しただろうよ。回避できたのは妖怪のおかげだ。里の人間たちだって同意したと聞く。出て行く者は出て行ったともな。選択権は彼らにはあったのだよ。そうして今の幻想郷が形作られた。妖怪主導の世界――妖怪の国がな。これが成り立ちだ」

 

「本当に同意があったのか。若い俺たちには知る術はない。お前らと稗田の言い分は信用できないからな」

 

「ならば、彼女が嘘を吐いていると証明できるか?」

 

「調査中だ……。証拠は必ず掴む」

 

 妖怪への不満を漏らすも妖怪が外敵から人間を護ってきた事実を突きつけられて、劣勢を強いられる田端。

 吸血鬼との舌戦は続く。その間に有志たちの侵攻が進んでいるとも知らず。

 

 

「私は寺子屋へ向かう」

 

 見張りを茂みに隠し終えた魔理沙は次の任務へ移るべく相方へ指示を出すのだが、怒り露わにした霊夢が詰め寄る。

 

「それは妖夢の役割! 私とアンタは雑貨屋を解放してから稗田邸の奪還へ向かうの!」

 

「あいだだたたたた、やめ、やめろッ――」

 

 父親と会いたくない魔理沙はこの土壇場でも救助を拒んだ。いい加減にしろ、と鼻っ柱を思いっきり摘ままれ、苦しくなった魔女は「わかった、わかったから――」と根を上げる。

 最初からそう言え。霊夢は魔理沙の鼻から指を下ろした。

 

「雑貨屋に行くわよ」

 

「……おう」

 

 ふたりは先を急ぐ。

 

 

 鈴奈庵の警備はふたりから三人に増えていた。増加分はデモ隊の選抜メンバーだろう。

 彼らは玄関入口にひとりと居間の正面、貸し本屋のバックヤードの三か所にいる。

 担当のアリスは早苗と共に物陰に隠れながら自慢の人形を操作して、敵の位置を正確に割り出した。

 

「アレは持っているわよね?」

 

「はい、ここに」

 

 とある物体をアリスに見せる早苗。人形師は笑みを浮かべながら、

 

「行くわよ」

 

 魔法の糸を走らせた。

 

 

 寺子屋を見張りふたり組は警護だけではなく、資料探しも担っているようで慧音の仕事部屋を漁っていた。

 ひとりが正面入り口、もうひとりは室内にいる。

 咲夜とマミが割り出した情報を基に死角に隠れた妖夢が仕かける機会を窺っていた。

 

「幽々子さまの言った方法で大丈夫なのかな」

 

 ――霊魂で驚かせた隙にみねうちすればいいのよ。

 

 主人にアドバイスを受けるも年齢に対して経験が乏しい妖夢は不安一杯だ。咲夜がいない穴を埋められるのは自分しかいない。やるしかない。彼女は覚悟を決めて、見張りをおびき出す。

 

 

「雑貨屋に着いたわね」

 

「あぁ」

 

 雑貨屋は完全に閉じられて室内が見えない。見張りは入口と裏口にひとりずつだ。裏口の見張りはデモ隊あがりなのか欠伸しながら地べたに座り込んでいる。緊張感の欠片もない。

 

「私が表の見張りを倒すからアンタは裏を頼む」

 

 魔理沙は首肯してから物陰から裏口へ回り、霊夢が正面に開いた空間の中に飛び込んだ。

 その瞬間、見張りの背後を取った霊夢が下へと落ちる重力を利用して後頭部をお祓い棒で殴打。地面に叩きつけて戦闘不能へ追い込んだ。

 ほぼ同時に裏口の魔理沙も座り込む見張りの背後に回って箒で思いっきり振り下ろし、見張りを気絶させた。

 その際、決して小さくない物音を出してしまった。ふたりは焦る。不審に思った家主が裏口付近にある窓をこっそりと開けた。

 

「ん? お前――」

 

「げっ――」

 

 彼女の父親である。魔理沙は固まってしまう。

 大層ばつの悪そうな娘の姿に父親は目を細めながらジッと眺めて訊ねる。

 

「――縄はあるのか?」

 

「……ある」

 

 魔理沙はボソボソと答えた。

 

「ちゃんと結べるのか?」

 

「結べる」

 

「……ここと正面入り口を開けとくから、縛り終わったら店の中へ押し込め。見張っといてやる」

 

「おう」

 

 短いやり取りの後、父親は入口を開けに向かった。

 魔理沙は縄で見張りの身体を厳重に縛り上げて裏口に突っ込み、正面の霊夢と合流する。

 入口では霊夢と父親が何やら会話をしていた。

 

「うちの娘が迷惑をかけるかもしれんがよろしく頼む」

 

「いえいえ、そんなことは」

 

「余計なお世話だ」

 

 会話を小耳に挟んだ魔理沙が即座に割り込んできた。不満を上まで表した態度にさすがの霊夢も引いた。

 父親はそんな娘に何を思ったのか。

 

「血は争えんな」と真顔のまま零した。

 

「んだと――」

 

「早く行け。結社のガキ共を倒すんだろ?」

 

「うぐ……」

 

「……気ぃつけてな」

 

 そう言い残し、彼は戸を閉めた。

 魔理沙は「心配される必要なんてない」とへそを曲げたように思えたが、少しだけ笑っていた。

 なんだかんだ言ってもやっぱり親子だ。霊夢は自分にない絆を持っている相棒を羨ましく思った。

 そこに早苗やアリス、妖夢といった有志メンバーが続々と集まってきた。

 

「そっちは終わった?」アリスが問う。

 

「終わったよ。そっちは?」

 

「鈴奈庵の見張りは片づけました。小鈴さんのご家族は無事です」

 

 早苗が答えると今度は妖夢も手を挙げた。

 

「寺子屋のほうも終わりました」

 

「後は火口家と稗田家だけか……」

 

「射命丸さん曰く、そちらもマミさんと優曇華さんが制圧したそうです」

 

 霊夢たちが見張りを片づける間にマミと優曇華のコンビが火口家の見張りを制圧した。

 

「残りは稗田邸と劇場ね」

 

 制圧ポイントは残り二か所。

 霊夢たちは急ぎ稗田邸を目指す。

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