相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第126話 幻想狂想曲 その13

 田端とレミリア。ふたりの舌戦は止まらない。

 

「里の独立、それだけは譲れない。俺たちはそのためにここまでやってきた。奥村の理想は潰えさせない」

 

「奥村君の主張――民主主義だったかな?」

 

「そうだ。誰もが自由で平等な世界だ。独立と共に里は民主化する。妖怪がいない新たな空間が誕生する。そして俺たちの新しい歴史が始まる」

 

「ずいぶんとキラキラしているのだな。君たちの夢は」

 

 独立、民主化、歴史。結社の目的は右京の想像通りだ。予め聞かされていたとしてもついつい笑みがこぼれてしまう。

 馬鹿にされたと考えた田端が彼女を睨む。

 

「アンタはどう思っている?」

 

「どう、というと?」

 

「俺たちの理想をだよ」

 

「私には民主主義などいうものはわからん」

 

「内容は説明したはずだが?」

 

「誰もが自由に平等に。それは妖怪の世界においてもっともあり得ない考え方だ」

 

「何故だ?」

 

「妖怪の世界とは()()()()だからだよ。強者が法であり……国なのだ。故に()()()()()。つまり、私は紅魔館だけでなく霧の湖周辺を束ねる王なのだよ。弱者は妖怪であれ、人間であれ従うほかないのだ。だから私に民主主義など不要である」

 

 力を基準とする妖怪の理屈を説いたレミリアに田端は心底、嫌悪する。

 

「実に妖怪的なもの考え方だな。それによって里人が狭い思いをしているというのに。本当に勝手な連中だ……。こんなヤツらに囲まれて生活せねばならんとは――あまりに不幸だ!」

 

「幸福の間違いではないかな?」

 

「幸福!? ふざけたことを!」

 

「ふざけてはいない。表の世界だって猛獣に囲まれた死と隣り合わせの空間に住んでいる人間たちもいる。獣と話はできないが妖怪は話ができる。里の中に入ってこないのも言葉を理解できるからだ。これを幸福と考えられんかね?」

 

「無理だな。妖怪は猛獣よりもずっとタチが悪い。人を騙す術などいくらでも持っている。お前ら妖怪はもっとも信頼から遠い生き物だ。人間を弱者と呼ぶのだからな。心の中では餌として見ていない。里人に対しても同じだろ?」

 

「私は里に足を運ばないから何とも言えんな」

 

「お前の部下はどうだ? ここ最近、あの銀髪メイドは買いものだけじゃなく、喫茶に紅茶を売りにきているぞ。手紙には妖怪が里にちょっかいを出すのを快く思っていないと書いておきながら、部下は里の経済活動に介入している。都合よく利用してくれているな」

 

「そうか。知らなかったよ。部下のプライベートには口を挟まん主義だが、それはいかんな。控えるように伝えておくよ」

 

「ふん、本当はわかっていた癖に!」

 

 ここでもしらばっくれるのか。怒りを込めても田端の言葉はレミリアには届かない。

 無言で彼女を凝視しても同じことだ。田端との睨めっこに飽きたレミリアが言った。

 

「そんなに妖怪が嫌いか?」

 

「嫌いさ。存在自体が許せないほどにな」

 

「だったら、いっそ幻想郷を出て行ったらどうだ? そうすれば妖怪の顔を見なくて済むぞ?」

 

「表の世界に俺たちの居場所はない」

 

「作ればいいさ。私のように」

 

「表は機械に支配されている。ありとあらゆる場所が監視され、競争を強いられた世界だ。文明レベルのかけ離れた俺たちじゃいずれ淘汰されて路頭に迷う」

 

 ついに田端から本音が零れ落ちた。

 

「よくわかってるじゃないか。どこからその知識を手に入れたんだか」

 

「協力してくれたら教えるぞ?」

 

「またそれか。しつこいな。だけど、協力の内容くらいなら聞いてやってもいい」

 

「相変わらず、上から目線なのが気に入らんが――俺たちが要求するのは里の独立の援助と妖怪への仲介と説得だ」

 

「独立支援と口利き役はわかるが説得とはなんだ?」

 

「それは……協力を約束してくれたら教える」

 

「それじゃあダメだ。教えられん限りは同意できん」

 

「できないものはできない!」

 

「そうか――仕方ないな。しかし、大よその見当はつくぞ。『近いうち起こる妖怪の攻撃を止めて欲しい』だろ?」

 

「!!」

 

 動揺して目が泳ぐ田端をレミリアが笑う。

 

「ははっ、図星だったようだな」

 

「くッ――」

 

 足元見やがって。やり場のない怒りを必死に堪えるも、度重なる屈辱に我慢が限界を迎える。

 

「そんなに俺たちを見下して楽しいのかよ!! 自分たちが強いからって、人間を下に見てさ――強ければ何でも許されると思ってんのか!!」

 

「強き者は尊大に振る舞い、弱き者は頭を低くして生きていく。どこの世界でも同じだよ。物理的な力か経済に影響を及ぼせる金かってだけでね」

 

「金だと……」

 

「表の世界は金がモノをいう世界だからな。あらゆる行動に金が伴う。片や里は経済の格差は一部有力者を除いて皆、ほぼ同じだろう? 生活できない人間なんていないのだから」

 

 里は稗田家の采配によって住んでいる人間が路頭に迷うケースはほぼ存在しない。何かやらかして村八分にされた人間でも四家という就職先があるのだから。四家でも面倒を見きれない場合もしくは妖怪に関する何かに関与した際は最悪、追放となるが、能力的な面で仕事がこなせないときは別の仕事をあてがわれ、食糧も配給される。

 外来人も同様だ。里の外へ行く自由こそ乏しいが、衣食住が保障されている点は評価できる。淳也や裕美はこの措置に深く感謝しており、その辺りも里に住む要因となったそうだ。

 田端もそこは理解しているらしく反論しなかった。

 

「全てが平等で自由な世界なんてここ幻想郷でも実現不可能な幻想だ。その裏には権力者や支配者が必ず存在しているからな。世の中は連中の意に沿って動くものだ。歴史を知る君にならわかるだろ?」

 

「……」

 

「『ほんの少しの妥協がよい結果を生むこともある』。これは私の持論だが、君たちにも当てはまる言葉だと思う」

 

「というと?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()。そう言いたいのだよ」

 

「なんだとッ」

 

 この言葉を皮きりにいよいよ舌戦は終盤戦に突入する。

 

 

 そのころ、稗田邸では。

 

「お、お前らどこから――」

 

 ――ドカッ! バキッ!

 

 人間組の霊夢、魔理沙、早苗、妖夢の四人が妖怪組のアリスとマミが邸内を囲む見張りを気絶させて戦闘不能へと追い込んだ。

 

「外は倒した。中は任せる」

 

「わかった(おう)」

 

 続いて霊夢、魔理沙、早苗人間三人組が塀を飛び越えて庭に侵入した。警備隊を背後から襲って音もなく無力化する。

 外周り、塀内合わせて六人の人員を一分足らずで倒してしまう。稗田家邸内は特にお札が多く、妖怪が侵入すれば妖気に反応して内包された神気が飛び散ってしまい、侵入がバレる可能性があった。迂闊な突入はできない。ならば――。

 お札の影響を受けない人間の魔理沙が塀の外にマミに向かって小声で言った。

 

「庭園を押さえて札も剥がした。おっさんに合図を出せ」

 

「了解じゃ」

 

 マミは鴉に化けて夜空へ舞い上がり、そのまま右京のところまで飛ぶ。

 一分後、司令部手前までたどり着いたマミは即座に変身を解除して着地してから参謀に告げた。

 

「稗田家の外周と庭を制圧した。後は内部だけじゃ」

 

「わかりました。小町さんお願いします」

 

「はいよ、待ってました。突入組は私の近くに集まんな!」

 

 かけ声と共にフードで姿を隠した右京、尊、永琳、輝夜、慧音、マミそして阿求たち六人が小町の周囲を囲む。そして――。

 

「跳ぶよ!」

 

 能力使用後、一瞬で司令部から姿を消し、稗田邸の庭へとワープした。

 音もなく到着した彼らは事前の打ち合わせ通り、一斉に行動を開始する。

 阿求が所持していた合鍵を使って慧音が裏口の鍵を開錠した。突入組は人質救出班と制圧班に分かれて室内へ進行。わずか五分足らずで内部の制圧に成功し、無事、稗田邸を解放した。

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