相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第127話 幻想狂想曲 その14

 残すところは劇場のみ。

 田端とレミリアの舌戦も最終段階に入った。

 

「俺たちの行動に何の意味もないと言うのか!?」

 

「少なくともよい結果に終わることはないな。妖怪は君たちを潰すつもりだ。そう気づいたからこそ、私との密会に応じたのだろう?」

 

「……お見通しって訳か」

 

「じゃなきゃ、私と話なんてしないだろ?」

 

「……確かに俺たちは妖怪の山から攻撃予告を受けている。猶予はあと二日だ。攻撃が実行されれば里人は無傷じゃすまない」

 

「ならば取るべき行動はひとつじゃないか」

 

「何?」

 

「おとなしく諦めろ」

 

「馬鹿を言うな!」

 

 テーブルを叩き、大声で否定した。

 

「ここまでのことをやっておいて次があると思っているのか!? ここで結社の仲間たちは皆処刑もしくは追放だ!! この方法を選択した時点で戦う以外の選択肢はないんだよ!」

 

「妖怪と人間の戦力差は絶望的だ。結果は予想がつく。無駄死だよ。善良な里人も巻き込んで、無様に蹂躙されるのさ」

 

「犠牲は、つきものだ……」

 

「犠牲を払ってもあるのは君たち人間の死だけだ。幻想郷を揺るがすには至らない。精々、妖怪史にこんなことがあったと記述されるだけ。内容はそうだな……一ページ”くらいで軽く収まりそうだ。いや、ヘタすると()()かね。その程度なのだよ、今回の騒動の価値というものは」

 

「ッ――! わかってんだよ――だからアンタと話し合う決意を固めた!! 妖怪のアンタに!!」

 

「嫌いなヤツに頭を下げてまで、か」

 

「そうだよ。じゃなきゃ、こんな真似はしないッ――」

 

「そうかい……」

 

 苦しそうに訴える田端を真っ直ぐに見据えてレミリアは問うた。

 

「素朴な疑問なのだが、どうしてどこまで妖怪を憎むのだ? 若い衆が妖怪へ不満を持っているのは知っていたが、君の場合は少し異常だぞ」

 

「それは……母親を殺されたからさ」

 

「母親か……」

 

 田端は顔を背けながら、当時のことを語った。

 

「……十五年前くらいになる。まだ小さいころだった。父親が体調を崩して寝込んでしまってな。元気づけるため、母親が近くの野山へ山菜を取りに出て行った。俺は母親が恋しくなってこっそり後をつけた。山を登った俺は途中、姿を見失うも茂みの中に続く足跡を見つけた。大きさが母親と同じだったからそこにいると思って覗いてみると――ずぶ濡れになった籠がポカンと置いてあった。俺は怖くなって里に戻り、大人たちに事情を説明した。すぐに皆が武装して山中を捜索してくれたんだが、籠があった茂みから差ほど離れていないところで首を吊って死んでいた。

 当初は山童(やまわろ)の仕業が疑われたが『山童は比較的大人しい妖怪だから、その可能性は低いだろう』と先代稗田家当主が発言したことで妖怪の線が外れて捜査は難航。俺は妖怪の仕業を訴えたが聞き入れて貰えずに打ち切られた。

 それから少しして近所の連中に『あの母親は父親と不仲だったからそれが原因で首を吊ったに違いない』と陰でほざかれ、里中から白い目で見られた父親は四年後に自殺した……。そのとき、誓ったよ。俺は妖怪も稗田も許さない。必ず仇を取ってやるってな。アンタにはわからないかもしれないが、親が不幸な目にあって怒りを覚えない子供なんていないんだよ。ましてやそれが妖怪のせいなら、尚更だ」

 

「だから妖怪と稗田家を恨んでいたってわけか」

 

「あぁ、そうさッ――」

 

 本当に妖怪の仕業かすら怪しい話だが、田端は今まで見せたことのない悲痛な面持ちでレミリアを見た。その姿に彼女は初めて同情するような素振りを見せる。

 ここぞとばかりに田端が懇願する。

 

「お願いだ。妖怪の山の攻撃を止めて欲しい。その後は自力で何とかする!」

 

「どうやって?」

 

「二家の連中を説得して皆で外を行進する」

 

「里人を歩かせるのか?」

 

「それは……」

 

「盾にする気か?」

 

「……アンタが妖怪の山の攻撃を中止にしてくれるというなら里人は外に出さない。俺たち、里の夜明けだけで行う」

 

「本当か?」

 

「あぁ、約束するよ……」

 

「「「田端さん……」」」

 

 あれだけ怒りを振りまいた田端が妖怪相手に頭を下げた。その必死な姿に普段なら必ず反発する反妖怪思想を持ったメンバーたちも心を痛めた。

 それでもレミリアの攻めの手が緩むことはない。

 

「それだけじゃ信用できない。里人が解放されないことになは」

 

「里人の解放。それはできない」

 

「何故だ?」

 

「それを言わせるのか……」

 

「答えられないと?」

 

「わかっている癖に」

 

 妖怪の弱点をみすみす手放すわけにはいかない。捨てた瞬間、結社は終わりなのだから。

 

「じゃ、私は協力できないな――」

 

「……女、子供は解放する」

 

 人質を減らしてもいいから妖怪からの攻撃を止めて欲しい。そういう意味だった。

 

「これが俺たちのできる限界ギリギリのラインだ。解放したヤツの処遇はアンタに任せる。だから――攻撃を止めてくれ!」

 

 頭を下げ続ける田端にレミリアは動揺を隠せない。

 

「……本気なのか?」

 

「じゃなきゃ、こんなこと言ったりしない」

 

「ふむ、どうしたものか……」

 

 口元に手を当てて考え込むレミリアとそれを見守る田端と結社メンバー。

 しばしの間、静寂が会場を包み込んだ。

 一分、二分、三分、五分と時間だけがすぎていく。結社にとって数分の時間さえ惜しく、回答しないレミリアの態度に苛立ちを覚える者も多かった。それでも田端だけはすがりつくように彼女からの返事を待つ。やはり、この男も理解しているのだ。ここで彼女を説得する以外、結社の生き残る道はないと。

 しかしながらその希望は打ち砕かれることとなる。

 静寂を破るようにメンバーのひとりが場内へ飛び込んできた。

 

「大変です!! 里の見張りがやられています!!」

 

「なんだと!? どこの見張りだ!」

 

「東口と西口です!! それに主要施設の見張りも姿が見えませんでした!」

 

「どういうことだ!?」

 

 さらに血相を変えた別のメンバーが立て続けに入ってきた。

 

「田端さん、稗田邸が占拠されています!!」

 

「稗田邸が……妖怪か!?」

 

「いえ、稗田阿求です。ヤツが戻ってきました!! まもなく仲間を連れてこちらへやってきます!!」

 

「なッ、そんな馬鹿な!? 今すぐ人質を盾にして応戦しろ――」

 

「させる訳にはいかんな」

 

 レミリアは左腕から無数の蝙蝠を発生させた。一斉に飛び立った眷属は会場の入り口を占拠して人が通れないように妨害した。結社メンバーは室内に閉じ込められた形となってしまう。

 

「稗田邸を占拠したということは、ここ以外の制圧は終わったのだろう。チェックメイトだ」

 

 直後、田端は全てを察した。

 

「罠だったのか……。全て……」

 

「……」

 

 レミリアは無言のままだ。

 

「時間稼ぎだったのか……? 俺をここに押しとどめておくための……」

 

「……」

 

「最初からこうするつもりだったんだな……」

 

「……」

 

 無言を貫く。

 

「おい、何とか言えよ!!!! 俺たちを罠にハメたんだろ!! 時間を稼いでその隙に里を奪還するために!! おい、吸血鬼――答えろよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 心からの叫びだった。

 弄ばれた者の怒り。それは吸血鬼にもはっきりと伝わった。

 そこで彼女はこのように打診した。

 

「悪いことは言わない――投降しろ。このレミリア・スカーレットが君たちの助命を進言しよう。それが私からの回答だ」

 

「くぅぉぉぉぉ……」

 

 レミリアからすれば最大級の情けだった。

 田端からすれば最大級の屈辱だった。

 

「相手が悪かったのさ」

 

「この妖怪どもがぁ!! 自分たちの実力をひけらかして――」

 

 すかさずレミリアが否定する。

 

「少し違うな。今回の作戦を立てたのは人間――それも外来人さ」

 

「外来人……だと!?」

 

「あぁ、妖怪にもまるで動じないとびっきりの変人。シャーロック・ホームズのように推理を得意とし、相手の行動や手法、思考などを丸裸にする。そして名将ハンニバルのように心理戦に長けていて、全てを予測――大胆な作戦を立案してみせる。協力した私が心配になるくらいの奇策だったが、蓋を開けてみれば結果はこれだ。中々、見れるものではないな。ここまで計算された作戦というのは。そういう意味では人外級の人物かもな、彼も」

 

「もしかして……若い外来人を殺した犯人を見つけた男か!?」

 

「そうだとも。紛れもない天才だ。紳士的だが戦いになると容赦がない。ホームズとハンニバルを足して二で割ったような男。杉下右京とはそういうヤツさ。実のところ君たちにも勝算はあった。里は我々にとって大事な場所だからな。うまくいけば折れる勢力や協力する新興勢力が出ただろうよ。それを予め察知して各勢力へ根回しといくつかの工作によって状況をこちら側の有利な方向へ持っていったのだ。当然、君の持つ独立への強い意欲やリーダーシップを発揮することも織り込み済みだ」

 

 田端は言葉を失い、机に両手をついたまま動かなくなった。

 

「さらに彼はこうも言っていた『全ての策が想定通りに運べば田端は絶望する』とな」

 

 右京の宣言通り、深い絶望が彼を襲い、失意のどん底へと叩き込む。

 レミリアは両目を閉じて。

 

「だから言ったのだよ。『相手が悪かった』と」

 

 優れた作戦とは魔法と見分けがつかないものだ。

 右京の考えた策は決して難しくはない。

 

 相手の狙いがデモによる譲歩を引き出すことだと知り、各勢力に抗議と警告の手紙を書かせて、一斉に放出する。田端の話していた第一候補の妖怪の山には具体的な日時で攻撃を示唆させて脅し、次候補の紅魔館には密会の旨を記した手紙を送って交渉相手を絞らせる。

 二家のほうは閻魔と疫病神の手紙を送りつけて動揺したところを阿求の手紙で信用させて結社との足並みを乱して戦力を削いだ。

 後は交渉役兼制圧担当のレミリアが田端を惹きつけているうちに二家を含めた目標ポイントを制圧して結社を拘束する。それだけだ。

 劇場を包囲する前に気がつかれてしまったのが痛いが、それでも詰みには変わりない。少ない人員で行う奪還作戦としては見事な手際のよさだ。

 場内に残ったメンバーはレミリアが戦闘不能にすればよいのだから。

 田端は悔しそうに嘆いた。

 

「始めから掌の上だったってことかよ」

 

「どうするのだ。まだ抵抗するかね?」

 

 さすがにこれ以上、長引かせるなら容赦はせんよ。そう言いたげな彼女の表情に田端は交渉不可能と判断した。彼はため息を吐いてから。

 

「まだ……俺にはやるべきことが残っているッ!」

 

 両手でテーブルに引かれた布を引き抜いて裏返した。裏面には無数の博麗神社の札が貼られており、田端はそれをレミリアに被せるように放り投げて会場の裏口へと逃走した。

 

「小癪な――」

 

 対妖怪用の札に多少苦戦するも、数秒の内に真紅の爪で引き裂いたレミリアが田端を追おうとした。だが結社メンバーの発砲によって阻害される。

 

「これ以上、好きにやらせるかよ!」

 

「ったく、うっとおしいねぇ!!」

 

 弾丸が放たれるもレミリアは寸で回避しながら銃兵に高速で接近する。火縄銃を引き裂いてから黒翼を軽くしならせて空を叩き、生み出された衝撃波でなぎ倒す。完全なる手加減だった。

 吹き飛ばされた者たちが今度は刀に切り替えて襲いかかってくる。身体に痛みと恐怖が残っているが、妖怪してやられた悔しさをぶつけるように突撃してくる。さながら特攻であった。

 外交モードから普段の口調に戻したレミリアは舌打ちしてから怒鳴った。

 

「何で敵わないとわかっていながら戦うんだい!? 無駄と気づかないのか!!」

 

「ここで降伏しても元の生活には戻れない! だったら最後まで戦ってやる!」

 

「チッ、この馬鹿どもが!!」

 

 レミリアが場内で手こずっている間、右京たちは阿求、永琳、輝夜を稗田邸に残し、劇場正面に到着する。

 

「どうやら気づかれてしまったようですね」

 

「交代にやってきた見張りに勘づかれてしまったんだろうな」と魔理沙が零す。

 

「ならば隠れる必要はありません。各自、銃撃に警戒しつつ正面入り口を除いた四方から突入してください。最優先は人質となっている抗うつ薬おじさんの救出、次に田端の確保です。お願いします」

 

「「「了解!」」」

 

 有志たちは一斉に四方へと散った。

 その中で右京は尊、小町、魔理沙の三名を手元に残した。

 

「私らはどうするんだ?」と魔理沙が訊ねた。

 

「正面から突入します。魔理沙さん、魔法式の手投げ瓶は持ってますね?」

 

「あぁマジックボムのことだな。言われた通り持ってきたぞ、威力を落として殺傷力を無くしたヤツをな」

 

「それを入口正面に投げ込んでください。光に怯んでいる隙に小野塚さんに距離を詰めてもらいます」

 

「その後は制圧するんだな?」

 

「その通りです」

 

「はん、了解――おい死神、コントロールミスは許さんからな!」

 

「それはこっちの台詞だ。暴投すんじゃないよ!」

 

「わかってる」

 

 指示通り、魔理沙はポケットからマジックボム(閃光弾)を取り出して放り投げた。

 ボムは正面入り口手前に落下後、強烈な光を伴った爆発を起こす。

 

「なんだこれは――」

 

 見張りが驚いてパニック状態に陥っている。

 右京はタイミングを見極めた。

 

「小野塚さん、今です」

 

「あいよ!」

 

 能力を起動後、瞬時にワープした右京たち四人は見張りの制圧に乗り出す。

 魔理沙と小町は箒や包帯で包んだ大鎌で敵をなぎ倒し、尊は納刀状態の刀で敵を組み伏せる。

 様子を右京が後方から眺めていると背後から結社のメンバーが襲いかかってきた。

 

「こいつーーー!!」

 

「おっさん、危ない――」

 

 完全な奇襲に右京は成す術なくやられると誰もが思った……が。

 刹那、身を捩って右拳を回避し、再び殴りかかってきたところを左手一本で捌き、隙ができたところで相手の利き腕を掴み、合気道の技を駆使して難なく組み伏せた。この間、わずか十二秒である。

 

「「「つよ……」」」

 

 銃撃を受け、右腕が使えないにも関わらずこの強さなのか。

 三人は呆れるしかなかった。

 

 

 一方そのころ、レミリアから逃れた田端は倉庫に隠れていた。

 地下倉庫とは別の小さい倉庫ではあるが、そこには火口家から運び込まれた“大量の爆薬”があった。量にして打ち上げ花火約一個分である。

 田端はポケットのスマホを確認して地面へ放り投げ、同じく忍ばせていた火打石を手に取る。

 

「自分の最期は自分で決める」

 

 火薬箱の蓋を開けて火打石にて点火しようとする田端に、後ろから仲間たちが声をかける。

 

「逝くつもりか?」

 

 幹部と思わしき二名の結社メンバーだった。

 

「あぁ。もう無理だからな。お前らは投降しろ。レミリア・スカーレットが何とかしてくれるかもしれない」

 

 肩を落とし力なく項垂れる田端。幹部たちは笑顔で彼に近寄った。

 

「妖怪に屈するのはゴメンだ」

 

「どうせ都合よく利用されるだけ。だったらやることは一つだ」

 

「お前ら……」

 

 彼らは持っていたスマホを床に投げた。

 

「これでスマホは全部だ」

 

「ヤツらに証拠は渡さない、だろ?」と、自身を指さして言った。

 

 証拠。それはものだけではない。人の証言や記憶も含まれる。彼らはそう言いたいのだ。

 

「ははっ、馬鹿なヤツらだな!」

 

「お前ほど馬鹿なやつもいないだろ。稗田家と妖怪に喧嘩、売ったんだしな」

 

「失敗したがここまでやれたんだ。夢、見れたよ。十分すぎるほどにな」

 

 元は皆、稗田や妖怪――もっといえば里の体制に不満を持つあぶれ者である。

 何か意見するたび、まともな里人からは白い目で見られながら生活してきた。ある者は妖怪に親を殺され、ある者は稗田を批判した本を書いてバッシングを受け、ある者は妖怪の力を研究して失職した。落伍者たちのレジスタンス。それが現在の結社なのだ。奥村が集め、田端が統制した最高の組織だ。彼らに悔いはなかった。

 田端は「そうか」と頷いてから両手に持った火打石を火薬の側に持っていった。

 

 

 場内に突入した霊夢がメンバーたちを蹂躙しながら会場の扉を蹴り破った。

 

「レミリア、アンタ大丈夫!?」

 

「問題ない。ただ加減がわからなくてね。苦労したよ」

 

 そこらかしこに腕や脚を押さえて蹲るメンバーたちの姿があった。

 痛がり具合からしてヒビ、もしくは骨折しているのだろう。

 

「しつこいからこんな目に遭うんだよ。まったく」

 

 腹を立てつつも手加減してくれたのだな。霊夢は安堵の表情を浮かべる。

 続いて右京たちが場内入りする。

 

「レミリアさん、ご無事でしたか」

 

「無事よ。遅れを取ったりしないわ。だけど、田端を取り逃がした」

 

「なんですって!?」

 

「アンタのところの札が貼りつけられた布を被せられてね。その隙にどこかへ逃亡したわ」

 

「そ、そう……」

 

 こんなところでも自分の札が悪用されたのか。霊夢は軽く落ち込む。

 

「どこに逃げたか、見当は?」

 

「入口は塞いでいたから、逃げたなら奥のほうからだろうね」

 

 彼女はバックヤードに視線を投げた。

 

「僕たちも行ってみましょう――」

 

 そのときだった。

 

 ――ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!

 

 劇場全体を揺るがす振動が有志たちを襲う。

 

「な、なんなの――!?」

 

 一瞬にして巻き起こった衝撃が白煙を伴って壁やガラスを突き破り、柱は歪み、天井の一部が崩れ、床へと落下する。敵味方問わず、この状況に驚いて戦闘を中断する。

 衝撃が襲ってきたほうに顔を向ける。

 纏わりつく白煙の独特のにおいに蒸せる一行。右京はこのにおいに嗅ぎ覚えがあった。

 

「これは火薬のにおいですね。となれば何かが爆発した。方向はバックヤードの奥――」

 

 何か嫌な予感がする。右京は尊に部隊の指揮を任せ、ひとり舞台の裏側へ煙を掻き分けながら進んでいく。

 ハンカチで口元を押さえながら痛みの残る右手で煙を払う。

 奥へ進むにつれ、瓦礫の量が増え、行く手を塞ぐ。

 間違いないこの先だ。確信を得た右京は瓦礫を退かして前へ前へと前進を続ける。

 やがて倉庫付近に到達した。目の前に大量の血痕が飛び散った跡を発見し、足元に転がる物体に目をやった。

 焼けただれ、歪な楕円の形をした何かだった。右京はその物体をじっと見つめた。

 

「人の頭――」

 

 無残な姿となった田端の頭であった。

 右京は何が起こったのか全てを理解して嘆いた。

 

「……遅かったようですね」

 

 それから有志たちと結社メンバーたちの小競り合いが続くが、代表たちを失った彼らは戦意を喪失し、敗北を認めて投降した。

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