相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第128話 盗まれた名刀

 投降したメンバーとその関係者たちが続々と拘束されて劇場のエントランスに集められる。

 縄で縛られ、引いていかれる彼らを目で追いながら右京は稗田邸から足を運んだ阿求に質問する。

 

「二家のほうはどうですか?」

 

「土田は風下家に見張ってもらっています。水瀬たちは火口家の方々に拘束の手伝いをしてもらってそのまま監視を頼みました。きっとボコボコにされていると思いますが――慧音さんがついているので殺しはしないでしょう。……たぶん」

 

 火龍会一派は代表の火口を慕っている者が多く、彼を殺された恨みは計り知れない。

 暴走しかねないが、慧音がついていれば死者がでることはないだろう。右京はこれ以上、気にかけることはなかった。

 今度は阿求が訊ねる。

 

「里の外に逃げたデモ隊はどうなりましたか?」

 

 爆発の衝撃で結社に何かあったと勘繰った一部のメンバーやデモ参加者が一目散に外へと逃げ出したのだ。

 彼らの中にも危険因子もしくはバルバトスが紛れている可能性もある。ひとりたりとも逃がせないが、この参謀がそれを考慮していない訳がなく。

 

「今ごろ、藤原さん、西行寺さん、射命丸さんたち追撃班に捕まえられているはずです。さぞかし怖い目にあって」

 

 したり顔で語る右京。

 阿求は白けながら「ご愁傷さま」と逃亡者たちを憐れんだ。

 三十分、逃亡者たちがゾロゾロと劇場に運ばれてきた。皆、何か怖いものでも見たかのようで「発火した人間に襲われた」「幽霊に気絶させられた」「突風に足元をすくわれた」などと震えながら零していた。

 続いて今度は黒い着物姿の女性が劇場の門を叩く。

 

「稗田はん、元気か?」

 

「風下さん!? ご無事で何よりです!」

 

 風下家代表が様子を見にやってきたのだ。

 近づく阿求に風下の口元が綻んだ。

 

「元気そうでよかったわ。追放されたって聞いたときは肝冷やしたで」

 

「ご心配をおかけしました」

 

「……で、このフードを被った連中は?」

 

「え、えーとそれは、その――」

 

 しどろもどろな態度に風下は「まぁ、察していたが……。何にせよ、助けてもらったことは感謝せならんわな」とそれ以上の追求を避けた。

 霊夢や魔理沙、早苗などの人間組はフードを外しているので妖怪ではないと理解できる。風下は忙しく動き回る有志たちを観察していた。その際、右京の存在が目に入る。

 

「ん? 見かけない顔やな」

 

「杉下さんです。少し前に表からやってきて里に滞在している方です」

 

「ほー。もしかしてアンタを庇った外来人っていう」

 

「そうです。この方がいなければ私も命はもちろん、作戦成功もあり得なかったでしょう」

 

「ほうほう。それは興味があるなぁ」

 

 視線を感じて振り向いた右京は風下の下に駆け寄って挨拶する。

 

「どうも、初めまして。杉下です」

 

「うちは風龍会代表の風下や。表からきたばかりでずいぶん活躍しよるなぁ、アンタ」

 

「大した活躍はしていません。皆さんのご尽力の賜物です」

 

「銃弾から人を庇うってだけで凄いと思うけどな」

 

「いえいえ、警察官ですから」

 

「さらっと言えちまう時点でアンタが只者じゃないってわかる。さすが殺人事件を解決しただけはあるわ」

 

「いえ、犯人に自殺を許してしまいましたから。それに――」

 

 三人の目は担架で運び出される布がかかった物体に向く。

 

「結社の代表どもか……」

 

「ええ」

 

「まさか自殺するなんて……」

 

 メンバーに確かめさせた結果、死体は田端と幹部ふたりのものだと結論が出た。

 またもや主犯を取り逃がしてしまった。参謀の責任である。

 

「けど、人質の薬男(抗うつ薬おじさん)は無事やったんやろ? それに里人もほとんど無傷や。成功といっていいんちゃうか?」

 

「私もそう思いますが……」

 

 右京はそれを否定する。

 

「犯人たちの死亡を許した上、証拠となるスマホまで爆発で粉々に破壊されてしまいました。黒幕に繋がる有力な手がかりを失った――これは僕のミスです」

 

 そう言われてしまえば何ともフォローしずらい。阿求と風下は互いに顔を見合わせた。

 暗くなってしまった雰囲気を変えるべく風下が話題を変える。

 

「そういえば、土田のヤツはいるか? アイツが家から盗んだ刀のありかを聞き出さんと、腹が立って夜も眠れんわい」

 

「刀……。確か、土田家の書斎にあったと聞きましたが。……その刀ってもしかしてアレですか?」

 

「そう、アレや。うちのとーちゃんが表から持ち込んだ名刀。護身用として肌身離さず持っていたから。雑な扱いされてないか心配で、心配で」

 

 頭を悩ます風下に興味を惹かれた右京が訊ねた。

 

「その刀。どのような名前なのでしょうか?」

 

「ん? 名前か。千子村正が作りし名刀〝村正〟。その打刀や」

 

「おやおや、それはそれは!」

 

 村正は千子派が作った刀である。その切れ味は他の刀とは比較にならないと有名で侍たちがこぞって欲しがったとされる。その性能ととある不幸が重なり、天下人徳川家康にこそ嫌われるがその評判は落ちることはなく、幕末にも使用された。

 しかし、第二次世界大戦時の空襲やGHQによって数多くの刀が失われる。村正も例外ではなかった。それ故、戦後日本において村正は貴重品である。現存品も多いとはいえず打刀が残っていること自体珍しい。もし綺麗な状態で残っており、なおかつ初代村正の作品なら一千万円はくだらない。

 この事実に右京が反応しない訳がなく。

 

「今の日本で村正は貴重品です。綺麗な状態で残っていれば高価な値段がつきますね」

 

「たぶん、本物やと思うで。とーちゃんが『刃文がここまで綺麗に揃うのは村正以外ない』と言ってたしな」

 

「確かにそれは村正の特徴ですねえ~。発見なさったら是非、拝見させて頂けないでしょうか?」

 

「えぇで。見せるだけならな」

 

「ありがとうございます」

 

 事件を解決した後のお楽しみを得た右京はほんの少しだけ元気を取り戻した。

 何があったのだ、と手の空いた尊が阿求へ訊ねるとすぐさま納得した。

 

「まさか幻想郷に村正の打刀があるなんて。博物館に飾れますよ」

 

「それを直に拝めるとはなんともありがたいものです。さて取り調べに参加しましょうか。稗田さん、風下さん。僕はこの辺りで一旦、失礼します。おふたりはお疲れでしょうから休息をお取りください」

 

「わかりました」

 

「ウチは村正が帰ってくるまで寝ない」

 

 村正への愛が強い風下は眠れない様子だが、阿求は連日の疲れから少しだけ休息を取ることにした。

 

 

 土田邸ではフードに身を包んだ咲夜が十人ほどの里人を連れて、押し入れへの中に閉じ込めた不届き者五人を引きずり出した。

 風下にいた連中は全て拘束したと伝えられても「嘘だ。そんなの嘘だ」と、固くないに認めようとしない土田だったが「これ以上、騒ぐと閻魔さまに地獄の一番底へ落とされますよ?」と脅されて泣く泣く観念する。

 五人を里人に任せて見送った彼女は風下が気にしていた刀を取りに書斎を訪れた。

 

「部屋の片隅にかけてあったわよね。……あら?」

 

 扉を開けて刀のあった場所を確認するもそこには何もなかった。

 

「どういうこと!?」

 

 まさかマミや魔理沙が持っていったのか? そんなわけはないはず。

 そのとき、咲夜は床にガラス片が落ちているのを発見する。

 

「まさか」

 

 急いでガラス戸のほうを見やると外側からガラスが破られた形跡が残っていた。咲夜は目を点にして。

 

「誰が刀を盗んでいった……」

 

 驚くほかなかった。

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