里に戻った右京は舞花の元を訪ねる。
「舞花さん。いますか?」
閉まっている酒場の扉を何度かノックするも返事がない。
すると隣人が出てきて「舞花ちゃんなら診療所へ向かったよ」と教えてくれた。
右京は礼を言ってから診療所へ向かう。
診療所の正面に着いた右京は女性の泣き叫ぶ声を耳にして舞花が居ると確信。
呼吸を整えてから建物へと入って行った。
診療所先生に挨拶した右京は事情を話して遺体が置かれる部屋へと案内して貰う。
そこには敦の死体に涙を浮かべる舞花の姿があった。
「敦君! どうしてこんなことに……」
顔を手で覆い隠しながら呟く彼女に診療所の先生は残念そうに肩を落とす。
右京はそんな彼女を見てまだ話を聞ける段階ではないと判断し、先生と一緒に一旦部屋を出る。
その場所を離れた右京は先生に自身の素性を打ち明けて、遺体に何か変わったことがないか尋ねた。
先生も動揺しているのか、今までこんなことはなかったのでよくわからないと回答する。
有益な情報を得られないと判断し、会話を切り上げた右京が礼を言って外に出た。
診療所の外で彼は一人、思考を巡らせる。
「ここは平和な里だったのでしょうね」
妖怪に囲まれた閉鎖空間でありながらもこの里の中では殺人事件が発生したことがない。
それはきっと、慧音や霊夢のような里を守ろうとする者たちの働きによるものだと右京は思った。
数十分後、右京は再び診療所内へ入り、舞花と面会する。
「舞花さん、大丈夫ですか?」
「はい……何とか……」
右京の正面に座っている舞花は突然の出来事に茫然としている。酒場で笑っていた舞花とはまるで別人であり、小さな声で敦の名前を繰り返し言っていた。
右京は舞花に訊ねる。
「舞花さん。非常に申し訳ないのですが、昨日、僕達と別れた後の敦君についてわかる範囲で教えて頂けませんか?」
「え……? 敦君の……こと……?」
何故そんなことを聞くのか理解できない舞花はその赤くなった眼で正面の男をジッと見つめる。
右京は静かに告げた。
「落ち着いて聞いて下さい。敦君は何者かに殺害された可能性があります」
「え……」
舞花は開いた口が塞がらなかった。
「もちろん、野犬などの動物がやった訳ではありません。明らかに人並みの知性を持つ者の犯行です」
「そ、そんな……」
敦が死んだショックとその彼が意図的に殺されたという事実に舞花は両肩を抱き抱えながら震える。
説得するように右京が語り掛ける。
「僕は敦君を殺した犯人を必ず追い詰め、捕まえてみせます。そのためにはあなたの協力が必要です。お辛いかも知れませんが、どうか僕に力をお貸し下さい」
舞花はしばらく無言だったが、次第に状況を理解したのか、目線を下に落としながらもコクンと頷いた。
「僕たちが帰った後の敦君について教えて下さい」
「……はい」
舞花は敦との閉店後のやり取りを話す。
二人は後片付けをしていた。
――今日やって来た杉下さんって人、随分変わった人だったわね。
――そうっすね。俺もあんな人初めてっすよ。警察ってもっと怖い人達ばっかりだと思ってましたけど、あの人は違うって感じでした。
――どちらかって言ったら探偵よね?
――あー言われてみればそうかもっすね。なんか小説とかに出てくる探偵のイメージっす。
――ああ、それは私も思ったわ。
――舞花さんもですか!? 一味違う大人ってイメージっすよね~。俺もあんなカッコいい人になりたいっすわ。
――敦君、キャラ違うでしょ?
――えー、いいじゃないっすか~。憧れたって。
――敦君は今のままでも十分、魅力的だと思うけど?
――あ……そうっすか……。
――ちょっと、顔赤くしないでよ!? 私まで恥ずかしいじゃない!!
二人は初々しいカップルのような会話を楽しみながら掃除を終え、明日の作業内容を確認後、少量のお酒を飲む。それから間を置かず、敦は深夜一時に店を出て家へと戻った。
自分の知っている敦の行動を全て話した舞花は暗い表情で懇願する。
「杉下さん。どうか……敦君を殺した犯人を捕まえて下さい……お願いします」
右京は彼女の想いを受け止め「わかりました」と返して診療所を出て行く。
正面入り口の門を潜るとそこに魔理沙と霊夢が上空から滑り降りるように着地して、彼に詰め寄った。
「おじさん、香霖から聞いたぜ!? 酒場の店員が何者かに殺されたって本当か!?」
「僕はそうみています」
「犯人は誰なんですか!?」
「まだ、調査中で何とも言えませんが、知的能力がある者の犯行だと思います」
「「――ッ!」」
右京の話を聞いて動揺を隠せない魔理沙と憤る霊夢。
二人の反応を見た右京は協力を依頼する。
「僕は敦君を殺した犯人を捕まえたいと考えています。お二人とも、協力して貰えませんか?」
右京の要請に魔理沙は「わかった」と、霊夢は「はい」と承諾する。
同時に慧音が右京たちの目の前にやって来る。
「杉下さん、先ほど、仰っていた部屋ですが、寺子屋の近くに空き家があるらしく、所有者から使ってよいと許可を得られました」
「それはよかった。皆さん、詳しい話はそちらで致しましょう。上白沢さん、案内をよろしくお願いします」
「わかりました」
右京とその協力者たちは慧音に案内される形で空き家まで向かう。