相棒~杉下右京の幻想怪奇録~   作:初代シロネコアイルー

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第133話 ホームズ&ワトソンの挑戦 その5

 午後十二時半。

 稗田邸の門前で三人が足を止める。

 

「で、私は何をすればいいんだ? 護衛か?」

 

「小鳥遊幸之助さんは長年、狩人をやっておられました。狩人仲間も多いはず。魔理沙さんにはそちらをあたってもらいたい」

 

「わかったよ」

 

 彼女は箒に飛び乗って空へ駆け出した。見送ったふたりは大通りを歩きながら会話する。

 

「意外と簡単なトリックでしたね。あんなできじゃよくて時間稼ぎだ」

 

 子供向けミステリーにも登場しないようなトリックに尊は苦笑した。

 

「時間稼ぎ、ですか」

 

「ま、杉下さんにかかれば時間稼ぎにもならなかったですけど」

 

「君でも同じだったと思いますよ。()()()()()()()()()()

 

「そ、それは……」

 

 つい言葉を詰まらせてしまう。死体がダメな警察官などもってのほか。いくらオフィスワークが専門といっても事件現場にいあわせないとも限らず、その際はきちんとした対応が求められるのだから。

 ばつが悪いので尊は話題を変えた。

 

「えっと、僕たち、これからどこへ向かうんです?」

 

「幸之助さんの助手のところです」

 

「あぁ、狩野宗次朗君のところか。場所はわかりますか?」

 

「会議が始まる前に上白沢さんから聞きました」

 

「ちゃっかりしてますね」

 

 必要になりそうな情報は事前に集める。杉下右京は抜け目がなかった。

 大通りから南に入り、五分ほど歩いてから左側の路地に進んで四件目。小さな庭のある家に着いた。庭は綺麗に清掃が行き届いており、奥にある小さい倉も綺麗に磨かれていて、家主が清潔好きなのは一目瞭然だった。

 敷地内に入った右京が引き戸を叩いた。

 

「ごめんください、杉下です」

 

 何度か叩いたが反応がない。尊は「まさかまた……」と身構えた。その後ろから。

 

「あの何か?」

 

 声をかけられる。

 尊は「うぉぁ!」と奇声をあげてしまうもすぐに冷静さを取り戻した。

 

「あぁ、狩野君」

 

「神戸さん。あのとき以来ですね」

 

 目的の人物、狩野宗次朗であった。

 

「どうかしましたか?」

 

「ちょっとお話がありまして」右京が尊に代わって前に出る。

 

「杉下さん! 元気になられたんですね!」

 

「お陰さまで無事退院できました」

 

「それはよかった!」

 

 喜ぶ宗次朗に対して右京が「ですが、よいことばかりではありません」と声のトーンを落とす。

 

「あぁ……」

 

 宗次朗は元気なく俯いた。

 

「……知り合いから話を聞いて診療所に行ってきました。正直、信じられません。幸之助さんたちが亡くなったなんて。今でも嘘だと思いたい」

 

「本当に残念です。少しだけお話をお聞かせ願えませんか?」

 

「いいですよ」

 

 宗次朗は承諾した上で特命係を自宅に招き入れた。室内は小鳥遊家よりも広く、部屋数は居間、台所、寝室を含めて五部屋はある。

 居間に案内されたふたりはお茶を出されるが、手をつけずに聞き込みを始める。

 

「失礼ですが、ご家族は?」

 

「俺以外にいません。皆、亡くなりましたから」

 

「おひとりでこの家に?」

 

「はい。寂しくはないんですけど、時々、親子連れが羨ましくなります。だからなのか幸之助さんたちは俺のことを気にかけてくれました」

 

「幸之助さんは宗次朗君のおじいさまと仲がよろしかったとお聞きしました。心配だったのでしょうね」

 

「祖父とは狩人仲間でした。たまに妖怪を撃退して自慢するようなやんちゃなふたり組でしたけどね」

 

「狙撃の腕も確かだったようですね」

 

「里で一番の狩人ですよ。罠も弓も銃もなんでも使えますね」

 

「このようなものも、ですか?」

 

 右京は自身のスマホを取り出して九九式狙撃銃の画像を拡大表示した状態で彼に本体ごと手渡した。受け取った宗次朗は指で画面をなぞりながらジッとその銃を見た。

 

「なんですか、この銃?」

 

「名前は九九式狙撃銃と言います。旧日本軍で使われていた銃です。これが小鳥遊家の自宅にありました」

 

「……俺は見かけたことないですけど。これがどうかしたんですか?」

 

「犯行に使われた銃だと思われます」

 

「え!? 犯行に使われた!? それって、つまり幸之助さんが……」

 

「まだ決まった訳ではありません。我々はそれを調査しています」

 

「そうだったんですか……。信じられない……」

 

 気落ちしているのか宗次朗は顔を俯かせた。

 

「真実を明らかにするためにも宗次朗君のご協力が必要不可欠です」

 

「俺に協力できること、ですか」

 

「ええ。つき合いのある宗次朗君の証言は真相解明に大きく役立ちます。どうでしょうか?」

 

「……わかりました。事件解決に協力します」

 

「ありがとうございます」

 

 右京はニッコリと笑って次の質問に移る。

 

「幸之助さんは稗田さんや妖怪を恨んでいる節はありましたか?」

 

「稗田さんのことは『若いのによくやってる』と褒めてました。妖怪は好きではなかったと思います。狩猟中に遭遇すると『アイツら、すぐ調子に乗りやがって』って何度か怒っていました」

 

「強い怒り。もっといえば憎しみのようなものは感じましたか?」

 

「そこまでの感じは受けなかったですね。舌打ち程度だったかと」

 

「最近の幸之助さんに変わったところは?」

 

「特にないですね。普段通りでした」

 

「最後に幸之助さんと会ったのはいつですか?」

 

「恵理子さんに買い物を頼まれ、食糧を持って行ったときだから演説の前日ですね」

 

「奥村さんとは仲がよかったとお聞きましたが、実際のところは?」

 

「恵理子さん繋がりでしたけど、仲はよかったと思います。狩猟で捕った動物の肉を切り分けて、おすそ分けしてましたから」

 

「奥村君とはどうでした?」

 

「『アイツは大丈夫か?』とおばさんに訊ねていたので、気にかけていたとは思います」

 

「本人とお話ししたりすることは?」

 

「ありましたけど、他愛もない会話をする程度でしたね。『今日の野菜は新鮮か?』とか。奥村さんも返事するけどなんか、めんどくさそうにしてました」

 

 質問は続く。

 

「ほうほう。ーーところで君は奥村君が秘密結社のリーダーだったと知っていましたか?」

 

「噂でちらっと耳にしたことがある程度です」

 

「最近、奥村君と会ったことは?」

 

「演説が始まる少し前、大体二日前だったかな。八百屋の店頭で」

 

「どんな会話を?」

 

「普通の会話ですよ。『元気ですか?』と聞いたら『あぁ』みたいな」

 

「ご様子は?」

 

「いつもよりも元気がないなとは思いましたけど、いつもあんな感じなので」

 

「演説時のアグレッシブな印象と大分変っていますね。普段はおとなしい人物って感じがします」

 

 そのように尊がコメントする。

 

「俺も意外でした。あんな演説をする人とは思えなかったので」

 

「二面性のある人物だったのかもしれませんねえ」

 

 少しの間、静寂が生まれる。

 次は尊が訊ねた。

 

「君は助手だったよね? 具体的にはどんな仕事をしているの?」

 

「荷物運びや罠を設置、後片づけですね。それ以外だと罠にかかった動物をしめたりするくらいかな。たまにですけど」

 

「火縄銃とか使ったことは?」

 

「弓ならありますが、銃は教えられてないですね。近いうち、稗田さんに許可が取れたら撃ち方を教えてやると言われましたけど。叶うことはありませんでした」

 

「辛いよね……。なんかごめんね、こんな重い話ばっかりで」

 

「仕方ないですよ。里がこんなことになったんですから。普段通りの生活に戻れるなら喜んで協力します」

 

「頼もしい限りですね。杉下さん」

 

「ええ全くです」と右京が頷く。

 

「大したことないですって」

 

「いえいえ。年の割に落ち着いていて、我々の質問にはっきり答えられる。とても十五歳の少年とは思えませんねえ」

 

「こっちでは十五歳で成人ですから。俺も一応、大人なんですよ? お酒だって飲めますし」

 

 宗次朗は里の中では立派な成人である。表の感覚で子供と同じように接するのは無礼な節もある。理解した右京が謝罪した。

 

「それは失礼。では、もう少々質問におつき合いしてもらいます。幸之助さんは火縄銃の熟練者――九九式狙撃銃はボルトアクションが採用された狙撃銃で1940代の日本で製造されました。当然、火縄銃とは勝手が違ってスコープ越しの狙撃は訓練しないとターゲットに当てることは難しい。幸之助さんには狙撃銃を扱えるだけの技術があったと思いますか?」

 

 首を傾げながら宗次朗が唸る。

 

「うーん、わからないですね、俺には。かなりの腕前だから撃てるかもしれないし、撃てないかもしれない」

 

「幸之助さんは左腕で銃を撃っていましたか?」

 

「はい。撃ってました。左利きですからね。けど……左手を怪我した際は右手で火縄銃を撃ったこともあったかな……?」

 

「命中しましたか?」

 

「したと思いますね。確か……夜雀に」

 

「妖怪に当てたのですか?」

 

「ええ。そこらの動物より、的が大きいから当てやすいって言ってました」

 

「さすが里一番の狩人ですね」

 

「もっと狩りのやり方……聞いて置けばよかった」

 

「残念ですね」

 

 その後、三十分ほど雑談したが目ぼしい情報は得られず、時刻が十四時を回った。そのころになると宗次朗も空腹感を覚えたため配給に行くと言い出した。

 そこまで着いて行くのもアレなので聞き取りを終えることになり、特命係は宗次朗と共に狩野家の外へ出た。その際、右京は「後一つだけ」とお決まりのポーズを決めた。

 呆れる尊を余所に彼は宗次朗に問う。

 

「君は僕のような表の方から来た方とよくお話ししたりしますか?」

 

「……まぁ一応」

 

「やはり、表の世界に興味はありますか?」

 

「そりゃあ、多少なりとも。お隣の世界ですから」

 

 笑顔でそう語りながら宗次朗は特命係から離れて行った。

 若くて落ち着きのあるイケメンの後ろ姿を眺めながら尊は感想を語る。

 

「しっかりとしたいい子でしたね。大人びているってああいう子のことを言うんでしょうね」

 

 年齢が比較的近い、霊夢や魔理沙、小鈴とは明らかに違った印象を受けた。記憶を保持する阿求は例外だが、精神年齢は高いと思われる。右京もその点は認めるが――。

 

「ほかの子供たちより遥かに落ち着いていました。言葉も選んでいる。大人と喋っている印象を受けました」

 

「ですけど結局、事件解決に繋がるものはでませんでしたね。また振り出しか。……いつまで続くんだろうか」

 

「それはどうでしょうね」

 

「へ?」

 

 戸惑う尊を他所に右京は、遠のく宗次朗の背中から目を外すことはなく、消えるまでジッと眺め続けた。

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