大通りに出た右京たちは鈴奈庵へ向かうも店が閉まっていたので、警視庁特命係幻想郷支部に引き返す。
入口には魔理沙が立っていた。
「ここにいればくると思ったぜ……」
待ち合わせ場所を決めていなかったために特命係の本拠地で待っていたのだろう。
やたら退屈そうにしていたので二十分以上は経過している。
右京が「申し訳ない。中で紅茶をご馳走します」と申し出た。「毎回、毎回紅茶は飽きるけどな。一応もらっておくけどな」。彼女は口笛を吹いて室内にあがる。
十五分ほどかかり右京が三人分の紅茶を用意し、小休止を挟んで報告会が始まる。
まずは右京が宗次朗から聞いた話を魔理沙に伝えた。彼女は「なるほどなぁ」と納得しながら紅茶を啜り、飲み干したところで自分が得た情報を話した。
「私は言われた通り、おっちゃんの同業者のところへ行ってきた。名前は又吉とかいうジジイ――もとい同年代のおじさんだ。おっちゃんとは狩りに行くタイミングが合ったときはふたりで協力して獲物を追うこともあったんだと。その人が言うには『こーちゃんは凄い腕をしている』って話だ。凄腕だったらしい。性格はぶっきら棒だが、義理堅くて誰も悪く言う人はいない。今回の自殺も信じられないってビックリしてたぜ。
他殺の可能性があるとは喋ってないが『誰かに恨まれていないか?』とは聞いた。『心当たりない』と返された。『火縄銃以外の銃を持っているところを見たことがあるか?』と訊ねても首を横に振られたし、奥さんとの仲もよかったそうだ。それ以外の連中にも聞いて回ったが、結果は同じだったよ」
「他にはありませんでしたか?」
「他? 例えば?」
「助手の狩野くんについてとか」
「狩野か……何回が話に上がったな。『美男子だ』とか『大人びているとか』とか『運動神経いい』とか。『将来はきっとひいおじいさんを超えるだろう』って言うヤツもいたな」
「おじいさんではなく、ひいおじいさん……? その方も凄腕の狩人だったのですか?」
「あぁ、凄かったらしいぜ。何でも大分前に
その事実に右京が唸る。
「いえ、何も……。気になりますねえ。具体的にいつごろ、表から入ってきたのか伺いましたか?」
「いや、そこまでは聞いてない。おっちゃんのことだけを中心に聞いていたからな」
「なるほど、わかりました」
「どうするおつもりです?」尊が問う。
「犯人に繋がる確かな証拠を発見できなければ事件解決は困難です。少しでも手がかりをつきとめましょう。僕たちはもう一度、小鳥遊さんの狩猟仲間のところへ出向いて事件を違った角度から追います。魔理沙さん、今日のご予定は?」
「特にない」
「でしたら、田端の家を調べてきてもらえませんか? 証拠品があるかもしれないので。それと、終わったらでいいので、里中の空き家を捜索してください」
「空き家? どうしてだ?」
「犯人が潜んでいるもしくは何か証拠を隠している可能性があるので、念のため調べたほうがいいかと思いまして」
「結構、空き家も多いですからね、人里って」尊が相槌を打つ。
「家賃の安い長屋へ移ったりするからかねぇ。最近の里事情はしらんが。……まぁ、いいぜ。調べてきてやるよ。その代わり、阿求の許可が取れたらな。盗人と間違われて、村正を盗んだ犯人だと誤解されるのはゴメンだ」
「村正は盗まれたそうですねえ……。残念です」
「言っておくが私じゃないぞ? 私はマジックアイテムにしか興味がない。おまけにものを盗んだりはしない」
「おまけかよ」
尊が皮肉った。右京はニコリと微笑んで。
「信じます」
「ならいいや。何かあったら報告するよ」
背中を向けて右手を振った彼女は、箒で結社メンバーから訊きだした田端の自宅まで飛んだ。
☆
午後十五時十五分。特命係は又吉のいる家を訪れ、話を訊きたいと頼んだ。
頭部が寂しい白髪頭の小太り気味な又吉はそれに応じ、ふたりを居間に招き入れる。
「で、何を聞きたいんだい? 霧雨の娘さんと同じくこーちゃんの話か?」
「それもありますが、今回は狩野家についてお話をお聞きしたく思いまして」
「ん? そっちか……。どうしてなんだ?」
「幸之助さんが亡くなった理由を解明するためです。本人のためと思って是非」
それだけでは、はぐらかされているようでイマイチ納得がいかない様子の又吉だったが、阿求の知り合いとあっては無碍にもできないので渋々、頷いた。
「あぁ……。わかったよ」
「ありがとうございます。では早速ですが――狩野のひいおじいさまという方は表からきた方と伺ったのですが、本当でしょうか?」
「本当だよ。俺らのような昔からの知り合いしかしらんがね。表の日本の兵隊さんだったそうだ」
「日本の兵隊。それはいつごろの?」
「さぁな。だが、こっちに来たのは七十四年前だったよ」
「七十四年前。西暦――1945年ですね」と尊が計算した。
「終戦の年ですねえ。彼はそのときにやってきた――。彼は狙撃兵でしたか?」
「わからん。当時の話は一切しなかったからな。嫌な思い出があったんだと思う。風下の親父さんも表の話は口に出さなかったし。戦争ってのは壮絶だったんだなぁっと察したもんだよ。俺らは体験してないからさ」
「風下さんのお父さまも表の方なのですか?」
「堺とかっていう場所の生まれとは聞いたな。それ以外はしらん。聞きたいなら風下さんに聞いてくれ」
「そうします。ひいおじいさまの腕前は凄かったと聞きましたが、いかほどですか?」
「かなりだよ。こーちゃん以上かもな。狙撃も凄かったけど、格闘も強かった。空手で熊と戦ったり、雑魚妖怪相手にナイフで応戦したり、陶磁にガラス片と爆薬入れて手投げ爆弾を作って撃退したりと。まぁ、多彩だった。正義感も強くて俺ら同業者はあの人の背中を見て育ったもんさ。ただ、表からきたってのがあって関わりのないヤツらは距離を取っておったがな。ときには根も葉もない噂を立てられるなんてこともあって苦労していたけど、最期までこの里に残ったな」
「それは大変でしたね」
「どうして最期まで幻想郷に残ったのですか? 結界の外に出られなかったとか?」
尊が手を挙げて訊ねた。
「今みたく巫女が送ってくれるわけじゃねーからな。それに帰るつもりはなかったみたいだな。『俺は本国の土を踏めない、踏んじゃいけない。ひとりだけ死なずにのうのうと生きているヤツなんて』ってさ。俺らにはなんのこっちゃだけど、本人にとっては大きい問題だったんだな」
先の戦いを生き残った者は皆、心に深い傷を負った。幻想入りしてしまった彼もまた同じだったのだろう。
「……葛藤の日々をすごされたのですね」
「今でこそよそ者に寛容になったが、昔はほんと閉鎖的だったよ。食糧不足で大変な時期もあった」
「現在は?」
「ここ最近は苦労してないな。不作の年でも稗田さんが食糧を支給してくださるからな」
「阿求さんが食糧を」
「そうだよ。彼女が代表になってから飢えることはなくなったよ。だからこそ妖怪とつるんでいるなんて噂が立つんだが、俺には関係ない――いや、里の外に出るから関係なくはないか」
「妖怪に襲われたことは?」
「結構あるね。危うく食われそうになったこともあるが、
「そうですか。……ところで又吉さんは狩野宗次朗君をご存じですか?」
「知ってるさ。そーちゃん(宗次朗)のじいさんとも一緒に狩りに行ってたからな。こーちゃんほど仲はよくなったがね。だからか、こーちゃんはそーちゃんを可愛がっていた。早くに家族を亡くしてしまったからね。当然っちゃ当然だがな」
「ご家族の死因は?」
「ひいおじいさんは老衰で後は皆、病気さね」
「それはそれは……」
「だからなのか、そーちゃんはしっかりした人間に育ってなぁ。言葉づかいも態度もいい。狩りも若いころの俺らよりもずっと上手だ。この前なんか七寸先の茂みに隠れた野兎を一矢で仕留めたらしい。こーちゃんが驚いてたな『どこでそんな技術を身につけたんだ』って」
「七寸――二十メートルですか。それはすごい」
「しかも首を射抜いたんだよ。本人曰く『狙ったら当たった』らしいが。すごいよなぁ。それだけの腕があれば苦労はせんな」
「兎って臆病だから警戒心が強いはず。それを離れた距離から弓で仕留める。かなり動体視力も優れている。才能があるな」
尊が納得する。同時に又吉のお腹がぐぅーと鳴った。
「そろそろ、飯をもらいに配給に行ってもいいか? めまいがしてきた」
「申し訳ない。あぁ、最後に一つだけ。幸之助さんは火縄銃を撃つ際、どちらの腕を使いますか?」
「あん? そりゃあ、左だよ。利き手だしな」
「右で撃ったところを見たことは?」
「ないね。一度も」
「わかりました。また何かありましたら、お話をお聞かせください」
「あいよ」
☆
午前十六時、又吉の家を出た右京らはその足で風下家を訪れた。風下は「掃除中だけどいいかい?」と訊き返してから右京たちを客間に招き入れた。
席に着くのと同時に風下が喋り出す。
「どんな用件だい?」
「狙撃犯を追っていたところ三名の遺体を発見してしまいまして。原因究明のためにお話をと」
「確か奥村の母親と小鳥遊夫妻だったな。聞いたときはショックやったで……。村正どころじゃなくなったわ……」
村正大好きなんだな。尊が少し呆れた。
「お父さまの形見だったのですよね? 早く見つかるとよいですね」
「他にも形見はあるんやがなぁ。あの刀は綺麗なんや。刃文かきっちり揃っていてな。魅力があるんやで。たまに振るうと心が滾って若いころを思い出せる。とーちゃんは正宗っつう刀のほうが価値はあるとも言っていたが、私はあれでええんやで」
「実際に使ったことはあるんですか?」
尊がさり気無く聞いてみた。風下は右手をパタパタと振って否定する。
「ないない。名刀は穢すもんやない。美しいまま残しておくもんや。護身用と言っても実質、観賞用なんや。口が悪かったな、若いにーちゃん」
「アハハ、いえいえ」
若者扱いに若干の不満はあるが風下相手には余計なことを言わないでおこうと考えた。
「失礼を承知でお聞きしますが、お父さまは表ではどのようなご職業を?」
「別に失礼でもないが――言ってしまえば
「なるほど。堺――つまり大阪を拠点としていた」
「そうやね。老舗ヤクザの次男坊やった。長男は徴兵されたけど身体が弱いとーちゃんは連れて行かれずにすんだ。そんとき空襲にあって、家の宝物を持って山へ逃げている最中にひとり幻想郷へ飛ばされたそうや。それから里でお世話になった人の娘とデキてウチが生まれた。家族ができたのもあってとーちゃんは表には帰らず、最期まで里に尽くした」
「表のご家族への未練などは……」
「あったよ。けど戻ってこれる保障はないし戦後、外がどうなっているかここからじゃわからん。せやから迷い込んだ外来人から表の現状を聞かされたときは泣き崩れたで。そんでもって『ウチは非国民や。表には帰れん』って小さいウチに零してたわ。今でも思い出す」
「辛い話を聞いてしまいましたね」
「けど知りたかったんやろ? そんなでへこたれる風龍会代表やない。死んだ三人の原因究明に何が役に立つのがわからんけど、それで解決するなら協力するで」
「非常に頼もしい。風下さんは奥村や田端と面識がありましたか?」
「ほとんどないな。アイツら問題児やけど、暴力沙汰とか起こしてないからな。関わることはない。最近は買いものも部下任せやしな」
「奥村さんの奥さんのことは?」
「奥村の八百屋は利用せんからな。だが、奥村が結社に入ってから子分らが『アイツは今までは違う』と影で言っておった。何が違うんか訊ねると『すごく弁が立つ』っていうんや。口論では負けなしだったようやな。ヤツが土田や水瀬の家に出入りしているって聞いて警戒しておったから稗田の嬢ちゃんとふたりっきりで話したとき『やらかす前にとっととしょっ引け』と助言したんやが、結果はこうなってしもうた。まぁ、アンタが解決してくれたからよしとするがな」
「そう言ってもらえると頑張った甲斐がありますね。部下の方から田端の話などは?」
「特にないな。影薄かったんちゃうか」
「かもしれません。小鳥遊さんとおつき合いは?」
「たまに挨拶するくらいやな。あの人、真面目やから賭博場にこうへんし。奥さんとも挨拶するくらいやった」
「では狩野家とおつき合いは?」
「全くないな。狩野のひいおじいさんが表の軍人やったから、互いに避けてたわ。片や徴兵されなかった男子。片やこっちへ迷い込んだ軍人。ほぼ同時期にやってきた外来仲間やのにな。たぶん、何を話したらよいかわからんかったんやな。その関係でウチもつき合いがない。見えない壁ってヤツやで」
「それは複雑ですね」
「戦争やからなぁ……。ウチも外来人から聞いたけど悲惨やったわ。とーちゃんが帰れん訳や。人も建物もみな燃えたんやからな。生き残った者の苦悩やね」
「皆、深い傷を負いましたが、それをバネに復興を遂げ、今では立派になりました」
「先進国やっけ? すごいなぁ~」
「この人里もすごいと思いますよ。衣食住が保障されてますし」
「稗田家の采配の賜物やな。嬢ちゃんが代表になってから食糧不足がほぼ解決したな。最近なんか、食べ物が余り気味になって問題になるくらいや」
食品が余るせいで食品ロス問題が起きることもある。里は見た目以上に豊なのだ。
「そんなに食糧を生産できるんですか!?」尊が驚いた。
「できとるんやねぇ~。農家が多い訳ではないんやけど。肥料がええんかな?」
「その肥料は誰がお作りに?」
「稗田のお嬢ちゃんが配合したと聞いておるな。成分まではしらんが、毒を混ぜたりはせえへんやろ」
「とても興味深いのですね。ですが、もう少しだけ質問を。この銃に心当たりは?」
右京はスマホの銃の画像を見せるべく操作する。スマホが目に入った風下が「スマホか。外来人は皆、もっとるよなぁ」と呟き、映された画像をまじまじと眺める。
「うちは見たことない。火縄銃とはだいぶ形が違うな。察するにアンタを撃ったヤツか?」
「そうではないかと睨んでおります」
スマホの画像を見る彼女は銃の左側にマウントされた黒い筒に首を傾げる。
「この黒い筒はなんや?」
「スコープと呼ばれる照準器です。望遠鏡の類だと思って頂ければ」
「これで狙いをつけるんか?」
「はい。ですが、この手のタイプは倍率の変更ができないので、最新型と比較すると些か取り回しが悪く、照準が合わないとスコープを使った狙い撃ちはできません」
「そうなると、三十メートルや七十メートルの距離で狙撃できたこと自体、すごいですよね。調整によっては照準が合わなそうだ」と尊が感心したように頷く。
「確かに。もしかすると狙撃のときは使わなかったのかもしれませんね。相当、視力がよいのでしょう。里に視力のよい方はおりますか?」
右京の質問に風下が「狩人は皆、視力がええでと聞くが、それ以外は――ん、そういえば、狩野の倅の奴は目もいいと子分が言ってた気がするな」と答えた。
「狩野君ですか。彼、評判がよいですよね」
「顔がよくて運動神経もよくて勉強もできる。非の打ちどころのない優等生やね。若い世代にはモテる。女には苦労せんやろね。別の意味では苦労しそうやけど」
「ホッとかれませんもんね。そういう人物って」
まるでかつてを思い出すように尊は語った。
「せやなぁ。ーーおっと、もう十七時か。賭博場の様子を見てきたいんやけど」
「わかりました。この辺りで失礼します。ありがとうございました」
「どう致しまして。暇になったら遊びにおいでな」
☆
十七時十五分。
風下家を出たふたりは特命部屋へと帰宅。情報の整理を行う。
手紙のメモを元に尊がまとめる。
「小鳥遊さんはベテランと言われるだけあって恥じないほどの腕前のようですね。左右どちらの腕でも火縄銃を扱える。さらに彼以上の狙撃のセンスを持った狩野君の曽祖父は現在のベテラン狩人たちの先生にあたる人物であり、表からやってきた旧日本兵だった。その際、九九式狙撃銃と銃弾を持っていたとしても不思議ではない。銃を何らかの方法で手に入れた小鳥遊さんが稗田さんと奥村を狙撃。その後、邪魔になった奥村の母親を殺害。最期は事件の黒幕に口封じ目的で始末された。このように考えるとしっくりするんですが、杉下さんはどう思います?」
右京は間をおいてから見解を述べる。
「ないとはいえませんね。黒幕が知識や文明の利器を与えたのだとしたら里の人間にも犯行は可能。元々、技術を教えられる人間がいて、狙撃できる武器があっても不思議ではないのですから」
高い狙撃技術を持つ狩人がいて、狙撃可能な銃と弾丸が持ち込まれた可能性がある。狙撃犯は里の人間かもしれない。しかし、その有力候補は死んだ。
右京が続ける。
「ですが、どうにも解せない。何故、小鳥遊さんが稗田、奥村両名への狙撃を行ったのか。動機がまったくわからない」
「突発的に、というのは?」
「そのような行動を起こすようには見えませんでした。ぶっきら棒でしたが、気さくな方で、話しやすい印象を受けた。殺人など考えないかと」
「じゃあ、彼以外里人の誰に狙撃を行えるんです? ベテラン組も狙撃銃を見たことないと証言しています。嘘の可能性もありますが、狙撃技術は一日二日で身につくものじゃないですし、手ほどきを受ける必要がある。里で狙撃を教えられるのは狩野さんのひいおじいさんだけです。となれば昔から知り合いであるベテラン猟師の小鳥遊幸之助さん以外に該当者は見当たらない」
「本当にそうでしょうか?」
「はい?」
「もうひとりいるではありませんか?」
「え、まさか、それってーー」
「狩野宗次朗」
十五歳の男が狙撃犯。尊が即座に反論する。
「お言葉ですが、彼は十五歳の見習い狩人ですよ? いくら、弓の腕がいいからって狙撃の技術を習得できるとは思えません。火縄銃だって触らせてもらえないのに」
「しかし習得の条件は揃っている。日本兵の曽祖父に抜群の運動神経と動体視力、頭のよさ、冷静な性格。これ以上ないほどの環境と適性です」
「いやいや、才能はあるかもしれないけど、さすがにあの歳では無理ですって。第一、その動機は? 彼は妖怪を恨む素振りさえ見せなかった。怪しい所なんてなかったじゃないですか」
右京は首を横に振った。
「いいえ、いくつかありました。自宅の入り口で僕が聞いていないのに小鳥遊さんたちの話をした。僕は『よいことだけではなかった』と喋っただけです。それを小鳥遊さんのことを言ったように解釈した。まるでその件で訪ねてくることを知っていたかのように」
「ただ察しただけじゃないですか? 自宅に僕たちが来た理由を」
「それにしても受け答えがスムーズでした。実の家族ように親しくしてくれた方が突然、亡くなったにも関わらず、あの対応は不自然すぎる。精神的ダメージをあまり感じられなかった」
「まぁ、そうかもしれませんけど……」
「まだありますよ。僕はスマホの銃の画像を見せました。あのとき、
「は? あえて?」
素っ頓狂な声をあげる尊。右京が説明する。
「すると彼はスマホを指でなぞって画像を動かした。使い慣れているようにスラスラと」
「そうだったんですか。僕からは見えませんでした――ってワザとやったんですか!?」
あの段階で鎌なんてかけるのかよ!? 容赦なく打って出る元上司に元部下がドン引きした。
「最初の段階で怪しいと思ったので思いつき程度の小細工を仕かけただけです。そのおかげ彼がスマホを使ったことがあるとわかりました。阿求さんが調査した結社のメンバー表にはなかったので、メンバーではない。が、操作技術はある。デモ参加者でもないと思われる。では彼はどこでその知識を学んだのか。気になるところですね。淳也さんや裕美さんにも結社へ情報を与えたのか訊いてみるとして――実はもっと怪しかった点があります」
「それは?」
「何故、彼は僕が
「確かに。そこは気になりますね」
「疑う価値はある。ーー僕は彼を探ります。君も協力してください」
「了解です。それで杉下さんの気がすむのなら」
特命係の考察は続く。